異世界おじさん、原神の世界へ 全面改稿版   作:ところてんの

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第27話「モンドで出会った仲間たち」

 翌朝。

 

 モンドの街には、いつもと変わらない風が吹いていた。

 

 昨日のうちに、旅に必要な荷物はほとんどまとめ終わっている。

 

 だから今日は、まだ挨拶をしていない人たちに会う。

 

「今日は?」

 

 俺が尋ねる。

 

「まだ会っていない人に挨拶する」

 

「そうだね」

 

 昨日も何人かに別れを告げた。

 

 アンバー。

 

 ジンさん。

 

 ガイアさん。

 

 リサさん。

 

 ノエルさん。

 

 ディルックさん。

 

 クレー。

 

 どの人とも、モンドで過ごした時間を思い出す。

 

 そして今日は、これまでの冒険や依頼を通して知り合った人たちに会いに行く。

 

「なんか……本当に最後なんだな」

 

「まだ一日ある」

 

「そうだけど」

 

 俺は苦笑した。

 

 こうして一人ずつ会っていると、少しずつ実感してくる。

 

 俺たちは、もうすぐモンドを離れる。

 

 二人は宿を出た。

 

     ◆

 

「おじさん!」

 

 街の外へ向かう途中。

 

 聞き慣れた元気な声が飛んできた。

 

「ベネット」

 

 振り返ると、ベネットがこちらへ走ってくる。

 

「二人とも、旅に出るって本当か?」

 

「ああ」

 

「璃月へ行くんだろ?」

 

「そう」

 

「そっか!」

 

 ベネットは一瞬だけ寂しそうな顔をした。

 

 だが、すぐに笑顔へ戻る。

 

「いいな! 俺もいつか璃月まで冒険してみたいんだ!」

 

「ベネットなら、そのうち行きそうだけど」

 

 俺が言うと、ベネットは胸を張った。

 

「だろ?」

 

「冒険者だからな!」

 

「でも、璃月ってモンドから結構遠いよ」

 

「それくらいどうってことない!」

 

「……途中で何か起きそうだけど」

 

「それは……まあ!」

 

 ベネットが笑う。

 

「いつものことだ!」

 

「自覚あるんだ」

 

「ある!」

 

 即答だった。

 

 思わず笑ってしまう。

 

「本当にベネットらしいな」

 

「そうか?」

 

「ああ」

 

 おじさんもベネットを見る。

 

「お前なら大丈夫だろう」

 

「おじさん……」

 

 ベネットが少し驚いた。

 

「そう言ってもらえると嬉しいな!」

 

「ただし、無茶はするな」

 

「分かってる!」

 

「本当に?」

 

「……たぶん!」

 

「そこは『分かった』でいいんじゃない?」

 

「ははは!」

 

 ベネットは笑った。

 

 そして、少しだけ真剣な表情になる。

 

「二人とも、気をつけてな」

 

「ああ」

 

「璃月でも、困ってる人がいたら助けてやってくれよ」

 

「それはベネットに言われなくても――」

 

 俺が言いかけて、隣を見る。

 

 おじさんは黙っている。

 

「……まあ、おじさんの場合は別の意味で心配だけど」

 

「何だ?」

 

「何でもない」

 

 ベネットが笑った。

 

「じゃあ、またな!」

 

「ああ」

 

「またモンドで会おうぜ!」

 

「うん」

 

 ベネットは手を振りながら走っていった。

 

 その背中を見送る。

 

「元気だね」

 

「そうだな」

 

「ベネットとは、結構一緒に戦ったよな」

 

「ああ」

 

 俺は少しだけ振り返った。

 

「また会えるといいな」

 

「会える」

 

 おじさんは迷いなく答えた。

 

「……そうだね」

 

     ◆

 

 次に向かったのは、街の外れだった。

 

「ここにいるはずなんだけど……」

 

 周囲を見回していると、背後から声がした。

 

「誰を探しているの?」

 

「うわっ!」

 

 振り向く。

 

「モナ!」

 

「そんなに驚かなくてもいいでしょう」

 

 モナは少し呆れた顔をする。

 

「占星術師を驚かせるなんて、いい度胸ね」

 

「いや、普通に後ろから声をかけられたら驚くよ」

 

「ふふん」

 

 モナは二人を見る。

 

「旅立つのでしょう?」

 

「知ってたの?」

 

「あなたたちの星の動きを見れば……」

 

 そこでモナが少し黙った。

 

「……まあ、普通に聞いたわ」

 

「占星術じゃないんだ」

 

「何か問題でも?」

 

「ありません」

 

 俺は即答した。

 

「璃月へ向かうのね?」

 

「うん」

 

 モナの表情が少し真面目になる。

 

「なら、気をつけなさい」

 

「分かってる」

 

「璃月はモンドとは違う国よ。文化も、人々の考え方も、街の雰囲気も違う」

 

「それに――」

 

 モナはおじさんを見る。

 

「あなたたちが探している『帰る方法』が、簡単に見つかるとは限らないわ」

 

「……」

 

 俺は黙った。

 

「分かってるよ」

 

「そう」

 

 モナの表情が少し和らぐ。

 

「それでも探すのでしょう?」

 

「ああ」

 

 おじさんが答える。

 

「日本へ帰る」

 

「なら、探し続けることね」

 

 モナは腕を組む。

 

「あなたたちがどこから来たのか、私にはまだ完全には理解できない」

 

「俺たちも、この世界を全部理解してるわけじゃないよ」

 

「でしょうね」

 

 モナは小さく笑った。

 

「だから面白いのだけれど」

 

「モナらしいな」

 

「何かしら?」

 

「いや、なんでもない」

 

 俺は笑った。

 

「今までありがとう」

 

「こちらこそ」

 

「いろいろ教えてもらったし」

 

「私が教えたことなんて、ほんの一部でしょう」

 

「それでも助かったよ」

 

 モナは少しだけ視線を逸らした。

 

「……無事に旅を続けなさい」

 

「うん」

 

「そして、もし帰る方法が見つかったら――」

 

「見つかったら?」

 

「私にも教えてちょうだい」

 

「分かった」

 

 モナは満足そうに頷いた。

 

「それでは、また会いましょう」

 

「ああ」

 

 二人はモナと別れた。

 

「占星術師らしい別れ方だったな」

 

「そう?」

 

「うん」

 

 俺は笑った。

 

     ◆

 

 次に向かった場所には、見慣れた少女がいた。

 

「我が前に姿を現すとは……」

 

 フィッシュルがこちらを見る。

 

「異界の魔術師、そして異界の旅人よ」

 

「こんにちは、フィッシュル」

 

「ふっ」

 

 フィッシュルが腕を組む。

 

「そなたらがこの地を去ることは、すでに運命の星々が――」

 

「旅に出ると聞きました」

 

 オズが静かに口を挟んだ。

 

「やっぱりオズがいると話が早いな」

 

 俺が言う。

 

「お嬢様の言葉を理解していただけるだけでも助かります」

 

「余計なことを言うでない!」

 

「失礼しました」

 

 フィッシュルが胸を張る。

 

「異界の旅人よ!」

 

「はい」

 

「新たなる大地へ赴くのであれば、我が言葉を胸に刻むがいい!」

 

「うん」

 

「未知なる地には、未知なる試練が待ち受けている!」

 

「うん」

 

「そして――」

 

 フィッシュルが大きく腕を広げる。

 

「そのすべてを乗り越えた先に、新たなる運命が――」

 

「お嬢様」

 

 オズが静かに遮る。

 

「つまり、『気をつけて旅をしてください』とのことです」

 

「そういうこと!」

 

 フィッシュルが頷いた。

 

「最初からそう言えばいいのに」

 

「たかふみ」

 

 おじさんが小声で言う。

 

「聞こえてるよ」

 

 フィッシュルが頬を膨らませる。

 

「我の言葉には深遠なる意味があるのだ!」

 

「分かってるって」

 

 俺は笑った。

 

「でも、フィッシュルらしいよ」

 

「……ふん」

 

 フィッシュルは少しだけ嬉しそうだった。

 

 やがて、フィッシュルの表情が真剣になる。

 

「異界の魔術師」

 

「何だ?」

 

「そなたの力――」

 

 フィッシュルはおじさんを見る。

 

「精霊魔法、と言ったな」

 

「ああ」

 

「旅先でも、その力を己のためだけに使うな」

 

 おじさんは黙ってフィッシュルを見る。

 

「必要な時に使う」

 

「そうだ」

 

 フィッシュルは頷いた。

 

「力を持つ者には、その力をどう使うかという責務がある」

 

 俺は少し驚いた。

 

 いつものフィッシュルとは、少し違って見えた。

 

「……ありがと」

 

 おじさんが言う。

 

「うむ!」

 

 フィッシュルは満足そうに頷く。

 

「そして異界の旅人よ!」

 

「俺?」

 

「そなたもまた、我が友としてこの旅を生き抜くがよい!」

 

「友……」

 

 俺は少し笑った。

 

「分かった」

 

「ならばよい!」

 

 オズが頭を下げる。

 

「お二人とも、どうかお気をつけて」

 

「ありがとう、オズ」

 

「こちらこそ」

 

「また会おうね」

 

「はい」

 

 オズは穏やかに微笑んだ。

 

「きっと、また会えるでしょう」

 

 フィッシュルとオズに別れを告げ、二人は歩き出す。

 

「フィッシュルって、意外といいこと言うよね」

 

「そうだな」

 

「……でも、やっぱりオズがいないと大変だな」

 

「お嬢様、それはどういう意味ですか?」

 

「聞こえてた!」

 

 遠くから聞こえたオズの声に、俺は笑った。

 

     ◆

 

 昼を過ぎた頃。

 

 二人は酒場の近くを歩いていた。

 

「次は……」

 

 俺が言う。

 

「ディオナ」

 

「そうだ」

 

「どこにいるかな」

 

 探していると――。

 

「おじさん」

 

 小さな声がした。

 

 振り返る。

 

「ディオナ」

 

 ディオナがこちらを見ている。

 

「……旅に行くんだって?」

 

「ああ」

 

「璃月?」

 

「そう」

 

「ふーん」

 

 ディオナは腕を組んだ。

 

「別に、どうでもいいけど」

 

「そう?」

 

「そうよ」

 

 俺が笑う。

 

「じゃあ、別れの挨拶はなし?」

 

「……」

 

 ディオナは少し黙った。

 

「ちゃんと帰ってきなさいよ」

 

「うん」

 

「それだけ」

 

「ありがとう」

 

「だから、お礼なんて――」

 

 ディオナが言葉を止める。

 

「……まあ、いいけど」

 

 そして、おじさんを見る。

 

「あんた」

 

「何だ?」

 

「ちゃんとたかふみを守りなさいよ」

 

「分かっている」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「……ならいい」

 

 ディオナは少しだけ安心した顔をする。

 

「璃月でも、怪我したらちゃんと手当てするのよ」

 

「分かった」

 

「あと、変なもの食べない!」

 

「それはたかふみに言ったほうがいいんじゃない?」

 

「たかふみは大丈夫そうだから」

 

「俺は?」

 

「……あんたよりはマシ」

 

「ひどいな」

 

 俺は苦笑する。

 

 ディオナは少し笑った。

 

「……まあ」

 

 そして、二人を見る。

 

「悪い人じゃなかったし」

 

「ディオナ……」

 

「だから、ちゃんと帰ってきなさい」

 

「うん」

 

「モンドに戻ってきたら――」

 

 ディオナは少し迷う。

 

「……その時は、また話してあげる」

 

「ありがとう」

 

「別に、あんたたちのためじゃないから!」

 

 ディオナは顔を背けた。

 

「分かった分かった」

 

「笑うな!」

 

「ごめん」

 

 ディオナは最後に小さく手を振った。

 

「……じゃあね」

 

「またね」

 

「気をつけて」

 

「うん」

 

 二人も手を振る。

 

     ◆

 

 夕方。

 

 二人はモンドの街を歩いていた。

 

 昨日も、今日も。

 

 たくさんの人と話した。

 

 そして、まだ会っていない人もいる。

 

「……結構会ったな」

 

 俺が言う。

 

「ああ」

 

「一人ずつ話してると、いろんなこと思い出す」

 

「そうだな」

 

 俺は歩きながら街を見る。

 

 モンドに来たばかりの頃は、何も分からなかった。

 

 ただ帰りたかった。

 

 日本へ帰ることだけを考えていた。

 

 それは今も変わらない。

 

 けれど。

 

「みんな、また会おうって言ってくれたな」

 

「ああ」

 

「俺たちが異世界人でも」

 

「関係ない」

 

「……そうかもね」

 

 俺は笑った。

 

 最初は、ゲームのキャラクターだと思っていた。

 

 でも違った。

 

 アンバーも。

 

 ベネットも。

 

 モナも。

 

 フィッシュルも。

 

 ディオナも。

 

 みんな、ちゃんと生きている。

 

 笑って。

 

 怒って。

 

 悩んで。

 

 俺たちと話している。

 

「だから……また会いたいって思うんだろうな」

 

「そうだな」

 

 おじさんは前を向いた。

 

「帰る方法を探す」

 

「うん」

 

「それは変わらない」

 

「分かってる」

 

 おじさんは少しだけ間を置いた。

 

「だが」

 

「ん?」

 

「また戻ってきてもいい」

 

 俺は目を丸くする。

 

「……おじさんからそんなこと言う?」

 

「何がだ?」

 

「いや」

 

 俺は笑った。

 

「なんでもない」

 

 二人はそのまま歩き続けた。

 

 モンドの風が吹く。

 

 街の旗が揺れる。

 

 夕日が石造りの建物を照らしている。

 

「今日はここまでかな」

 

「ああ」

 

「明日は?」

 

「まだ別れを言ってない人がいる」

 

「そうだな」

 

 俺は頷いた。

 

「明日はモンド最後の日」

 

 その言葉を口にした瞬間。

 

 胸の奥が少しだけ締め付けられた。

 

 けれど、まだ旅立つわけではない。

 

 明日がある。

 

 そして明日には――。

 

 モンドで最後に会うべき人たちがいる。

 

「帰ろう」

 

「ああ」

 

 二人は宿へ向かって歩き出した。

 

 モンドの街に、夕暮れの風が吹いていた。

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