異世界おじさん、原神の世界へ 全面改稿版   作:ところてんの

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第29話「それぞれの旅」

 モンドを離れる日が来た。

 

 旅の荷物は、ほとんど整っている。

 

 食料。

 

 水。

 

 薬。

 

 道具。

 

 これまでの旅で使ってきた装備。

 

 そして、リサさんからもらった本。

 

 俺は最後に荷物を確認すると、宿の部屋を見回した。

 

「……本当に出るんだな」

 

「そうだな」

 

 おじさんは荷物を背負う。

 

「忘れ物はないか?」

 

「たぶん」

 

「たぶんでは困る」

 

「分かってるよ」

 

 俺は苦笑しながら、もう一度部屋を見回した。

 

 机の上。

 

 ベッドの横。

 

 荷物の中。

 

 特に忘れているものはない。

 

「よし」

 

「行くか」

 

「うん」

 

 二人で宿を出た。

 

     ◆

 

 モンドの街を歩く。

 

 いつもと変わらない景色。

 

 風車が回り、街には人々の声が響いている。

 

 けれど、俺には少し違って見えた。

 

 今日で、この景色とも一度離れる。

 

 そう思うだけで、妙に意識してしまう。

 

「……なんか変な感じだな」

 

「何がだ?」

 

「毎日見てた街なのに、今日だけ特別に見える」

 

「そうか?」

 

「そうだよ」

 

 おじさんは特に気にした様子もなく歩いている。

 

 その時だった。

 

「おーい!」

 

 聞き慣れた声がした。

 

「……パイモン?」

 

 振り向く。

 

 そこには蛍とパイモンがいた。

 

「やっぱりここにいた!」

 

 パイモンが俺たちのところまで飛んでくる。

 

「おじさん! たかふみ!」

 

「久しぶり」

 

 俺は笑った。

 

「久しぶりじゃないぞ!」

 

「そうだっけ?」

 

「そうだぞ!」

 

 パイモンが頬を膨らませる。

 

 蛍も俺たちの前で足を止めた。

 

「旅の準備?」

 

「うん」

 

 俺は荷物を見せる。

 

「もうほとんど終わったよ」

 

「そう」

 

 蛍が頷く。

 

 俺は蛍を見る。

 

 これからどこへ向かうのかは知っている。

 

 ゲームで見た流れも、頭の中には残っている。

 

 だから――。

 

 璃月という言葉を聞いても、驚きはしなかった。

 

 ただ、目の前にいる蛍はゲームのキャラクターじゃない。

 

 ここで実際に出会って、一緒に戦ってきた旅人だ。

 

「私たちも、璃月へ向かう」

 

「そっか」

 

 俺は頷いた。

 

 やっぱりそうなる。

 

 けれど、実際に本人から聞くと少し不思議な気分だった。

 

「モンドでの用事が、終わってから」

 

 蛍がそう続けた。

 

「……そっか。じゃあ、俺たちと同じ璃月なんだ」

 

「うん」

 

 パイモンが嬉しそうにする。

 

「じゃあ、また会えるかもしれないな!」

 

「そうだね」

 

「璃月で一緒に飯を食おうぜ!」

 

「いいよ」

 

「約束だからな!」

 

「分かったって」

 

 俺は笑った。

 

 おじさんは蛍を見る。

 

「お前たちは、これからも旅を続けるのか?」

 

「うん」

 

「目的は?」

 

「兄を探す」

 

 蛍の答えは短かった。

 

 けれど、その言葉には迷いがない。

 

 俺も知っている。

 

 蛍が兄を探して旅をしていること。

 

 その旅が、これからも続いていくこと。

 

「俺たちも帰る方法を探す」

 

 俺が言った。

 

「日本へ」

 

「分かってる」

 

 蛍が頷く。

 

「目的は違うけど、旅をすることは同じ」

 

「そうだな」

 

 おじさんが答えた。

 

     ◆

 

 四人はそのまま街の一角で話を続けた。

 

 モンドで起きたこと。

 

 これから向かう場所。

 

 それぞれの目的。

 

 俺は蛍たちと話しながら、これまでのことを思い返していた。

 

 最初に会った時。

 

 まだ、この世界に来たばかりだった。

 

 何も分からなかった。

 

 文字も。

 

 モラも。

 

 この世界の常識も。

 

 それでも、蛍やパイモンと出会ったことで、少しずつこの世界を知っていった。

 

 そしてトワリンとの戦い。

 

 あの時も、四人で同じ場所に立っていた。

 

「一緒に戦ったこと、結構あったよな」

 

 俺が言う。

 

「うん」

 

 蛍が頷く。

 

「トワリンの時も」

 

「そうそう」

 

 パイモンが割り込む。

 

「おじさん、すごかったよな!」

 

「そうか?」

 

「そうだぞ!」

 

「普通だ」

 

「普通じゃないって!」

 

 俺は笑った。

 

「おじさんの普通は基準がおかしいんだよ」

 

「そうなのか?」

 

「そうだよ」

 

 蛍が小さく笑った。

 

 その笑顔を見て、俺も少し嬉しくなる。

 

 ゲームの中で見ていた場面とは違う。

 

 今、この瞬間は現実だ。

 

 自分たちが実際にここで出会い、一緒に戦い、そして別れようとしている。

 

「なんだか寂しいな」

 

 パイモンが言った。

 

「パイモンも?」

 

「当たり前だろ!」

 

「そっか」

 

「一緒に戦った仲間なんだからな!」

 

 パイモンが胸を張る。

 

「忘れるなよ!」

 

「忘れないって」

 

 俺が答える。

 

 おじさんも頷いた。

 

「忘れない」

 

「おじさんも?」

 

「ああ」

 

「ならいい!」

 

 パイモンは満足そうに笑った。

 

     ◆

 

 やがて、別れの時間が来た。

 

 蛍が俺たちを見る。

 

「じゃあ、行くね」

 

「ああ」

 

 おじさんが答える。

 

「気をつけて」

 

 俺も言った。

 

「二人も」

 

「うん」

 

 蛍とパイモンが歩き出す。

 

 数歩進んだところで、パイモンが振り返った。

 

「おーい!」

 

「ん?」

 

「璃月で会ったら、また一緒に飯食おうな!」

 

「分かった!」

 

 俺が手を振る。

 

 おじさんも小さく手を上げる。

 

「絶対だぞー!」

 

「分かった!」

 

 パイモンの声が街に響く。

 

 蛍も振り返って手を振った。

 

 二人の姿が少しずつ遠ざかっていく。

 

 俺は、しばらくその背中を見ていた。

 

「……行っちゃったな」

 

「ああ」

 

「なんか、変な感じ」

 

「何がだ?」

 

「ゲームの仲間と別れるみたいな」

 

 おじさんが黙る。

 

 俺は自分で言ってから、少しだけ苦笑した。

 

「いや……違うか」

 

「何がだ?」

 

「ここはゲームじゃないから」

 

「そうだな」

 

「蛍もパイモンも、自分で旅をしてる」

 

「その通りだ」

 

 俺は遠ざかっていく二人を見る。

 

 原作を知っている。

 

 これから起きることも、ある程度は知っている。

 

 それでも、全部が同じになるとは限らない。

 

 ここで出会った人たちは、ゲームの登場人物ではない。

 

 自分の意思で笑い、自分の意思で怒り、自分の意思で旅をしている。

 

 だからこそ――。

 

 また会えるかどうかも分からない。

 

 けれど。

 

「……また会えるといいな」

 

「会える」

 

 おじさんが即答した。

 

「そうかな」

 

「ああ」

 

 その言葉に、俺は少しだけ笑った。

 

「じゃあ、そういうことにしよう」

 

     ◆

 

 二人で歩き出す。

 

 モンドの街を抜ける。

 

 振り返る。

 

 風車が見えた。

 

 見慣れた街並み。

 

 何度も歩いた道。

 

 そして、そこで出会った人々。

 

 アンバー。

 

 ジンさん。

 

 ガイアさん。

 

 リサさん。

 

 ノエルさん。

 

 ディルックさん。

 

 クレー。

 

 ベネット。

 

 モナ。

 

 フィッシュル。

 

 オズ。

 

 ディオナ。

 

 ウェンティ。

 

 レザー。

 

 そして――蛍とパイモン。

 

 俺は一人ずつ思い浮かべる。

 

「……結構、知り合い増えたな」

 

「そうだな」

 

「最初は誰も知らなかったのに」

 

「ああ」

 

「今じゃ、別れるのが寂しいくらいだ」

 

 おじさんは何も言わず、モンドを振り返った。

 

 そして、短く言う。

 

「世話になった」

 

「うん」

 

 俺も頷く。

 

 日本へ帰る。

 

 その目的は変わらない。

 

 だから、ここで立ち止まるわけにはいかない。

 

 それでも――。

 

 モンドで過ごした時間は、俺たちにとって確かなものになっていた。

 

「行こう」

 

「ああ」

 

 二人で前を向く。

 

 蛍とパイモンとは、別の道へ。

 

 俺たちは、日本へ帰るための道へ。

 

 目的は違う。

 

 それでも、一緒に戦った時間は消えない。

 

 いつかまた、どこかで会う。

 

 そんな可能性を残して――。

 

 二人だけの旅が、再び始まった。

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