――――誰にも憚れる事の無い世界が欲しい。何度そう思ったかも、少年自身にも分からない。
少年は何処にでもいる活発な子供だった。仲の良い友達と遊び、家に帰れば温かい食事を作っている母と、家族の為に毎日汗を流して仕事をする父と、一つ下の妹と笑い合う日々。不幸の反対は派手な幸せではなく、不変の平穏であることを少年は幼いながらも漠然と感じていた。
明日が待ち遠しい日々が、何時までも続けばいい。未来を疑う事も無く、平穏を守りながら生きていくことを信じていた。
だが終わりは呆気なく訪れる。
ある日の事だった。妹や友人たちと子供の冒険心から近所の山を探索していた時の事。不運にもその山にはイノシシが生息しており、少年たちを見て襲い掛かってきた。子供の足でイノシシの疾走を振りきれる筈もない。イノシシの視線が妹に注がれることを理解した時、少年の感情は爆発した。恐怖に泣き叫ぶ妹と、妹に向かって突進するイノシシ。
気が付けば、イノシシの体は車に退かれたカエルのようにペシャンコになっていた。
何が何なのか、少年にもわからない。確かな事は、少年の人生は激流に流される木の葉の如く、世間の目と恐怖心に呑みこまれていったという事。
周囲は少年に恐怖し、家族さえも少年を拒絶した。幾つかの施設を渡り歩き、幾度となく拒絶され、何が悪かったのかも分からない後悔の日々。約束されていた筈の日常はこんなにも簡単に崩れ去ってしまう事を少年は初めて知った。
得体の知れない自身の力と、周囲の目に怯える毎日を過ごす少年の傍に居たのは、一人の老研究者だけだった。老人は少年に説いた。
『分からないなら、分かればいい。その方がスッキリする』
そんな簡素な言葉でも、老人は少年の目を真っ直ぐ見据えてくれた。たったそれだけで、少年の心は少しだけ救われた。再び始まる平穏な日常には、老人が居てくれた。学校にも通えるようになった。
―――その天命が尽きるまで、老人は少年の傍にいた。
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「スーパーの卵がーフフフーン♪1パック100円でハハハーン♪」
学校から自宅に帰った後、黒い安物のコートを羽織って即興の歌を口遊みながらスーパーへと練り歩く。手には近所のスーパーの特売のチラシ。朝、昼、夕の食事を作るため、特売日には纏め買いをするのは縁の習慣だった。
真上からは冬の太陽が燦々と陽光を降り注ぐ土曜日の13時。縁が通う高等学校では午前中で授業が終わる嬉しい日。多くの生徒は友人と遊んでいるが、生憎友人のいない縁には無縁の話。バイトと家と学校を往復し、一人で出来る娯楽を繰り返す日々だ。
「こうやって安い食材に狙いをつけて金を溜められる特売日感謝♡貯蓄が溜まってきた」
縁には小さな目標があった。月末に発売される業界最大手が発売するゲーム媒体だ。学生という身分ではまだ金銭の実入りは少ないが、いつか娯楽に囲まれた悠々自適の生活をするのが彼のささやかな夢だ。
―――そう、
「なんだ……?」
そんな縁の行く手を遮るように、何処からか白い封書が不自然な軌道を描き、掌にそっと落ちてきた。住所も切手も無い。ただそれには達筆な文字で『獅子尾縁殿へ』と書かれていた。
「お、俺宛て?」
なぜ自分に宛てられた手紙がヒラヒラと空から落ちてきたのか?誰か同姓同名の人物に宛てられた物がたまたま落ちていたのかと思ったが、縁は自分の名前が珍しい部類にあるという事を自覚している。不穏に思いつつも、傷がつかないように丁寧にシールを剥がして中に入っている手紙を見る。そこにはこう書かれていた。
『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。
その才能を試すことを望むのならば、
己の家族と、友人と、財産を、
世界の全てを捨て、我らの“箱庭”に来られたし』
この時、縁は鼻で笑った。『どうせ誰かの悪戯だろ、しょうも無いことしやがって』的な感じで。丁度近くにあるコンビニの前にあるゴミ箱に捨てる為、その封書を握り潰した瞬間――――
「――――――――――――――――――……へ?」
縁の視界は開けた。
周囲を確認する余裕などない、落下に伴う圧力。彼は今、上空4000メートルに放り出されていた。
「どぉわあああああああああああああああああああああああああっ!!!?」
この時、縁にとって要らない
上空に放り出され、その落下地点には湖があった。その途中には衝撃を和らげる為に薄い水の膜が幾重にも張り巡らされるという色んな意味で間違ったフォローが施されていたのだが、一陣の風が縁の体を攫っていた。
「え!!?嘘!!?」
下が湖だと分かって僅かながら安心したのも束の間、風に攫われた縁の落下地点は湖から土の地面に変更されたのだ。薄い水の膜を通過しながら落ちて行く誰かも分からない、人間と思われる3名を横目に、無意味に手足をバタつかせながら地面に落ちて行く縁。地面まで残り100メートルを切った時点で、彼は覚悟を決めた。
「ぉおおおおおおおっ!!!」
地面に直撃する瞬間、縁の体は
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ボチャンと、湖に着水した縁を除く3人と1匹は当然の如く無傷だった。だがいきなり上空4000メートル地点に放り出されて怒らない筈がない。短い茶髪の幼くも端正な顔立ちの少女は共に落ちてきた三毛猫を湖から引き揚げながら、気品と気の強さを持ち合わせたかのような雰囲気の令嬢の様な少女は艶のある黒髪に付着した水滴を払いながら、炎を模った模様のヘッドホンを身に付けた金髪の青年は学ランを絞りながら罵詈雑言を吐きだす。
「し、信じられないわ! まさか問答無用で引きずり込んだあげく、空に放り出すなんて!」
「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」
「……いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」
「いや、俺は問題ない」
「まあ、それなら俺も大丈夫だな」
「そう。随分ずいぶん身勝手ね」
金髪の青年と黒髪の少女は互いにフンと鼻を鳴らす。その後ろの続く形で茶髪の少女は三毛猫を抱えたまま、辺りを見渡しながら小首を傾げて呟いた。
「……何処どこだろう?」
「さあな。まあ世界の果てみたいなものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」
そう金髪の青年が答える。なんにせよ、全く未知の場所に来たことは確かだった。ある程度服を絞り終えた金髪の青年は軽く癖のある髪を掻き上げ3人に問う。
「まず間違いないだろうけど、一応確認しておくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」
「そうだけど、まずはその“オマエ”って呼び方を訂正して。──私は久遠飛鳥よ。以降は気をつけて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女とちゃっかり地面に着地した貴方は?」
「……春日部耀。以下同文」
「獅子尾縁、どーぞヨロシク。……ていうか、あの手紙マジだったのか。完璧悪戯かと思った」
縁からすればとんだ迷惑である。ここが何処なのかは分からないが、ここに来る理由を謂れも縁には無いのだ。
「そう。よろしく春日部さんに獅子尾君。それで、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」
気の強そうな少女──もとい久遠飛鳥は、次いで金髪の青年に問いかけた。その明らかに失礼な物言いだが、青年は特に気にした様子も無く軽薄そうな笑みで応える。
「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃ったダメ人間なので、用法と用量を守った上で適切な対処で接してくれよお嬢様」
「そう。では取り扱い説明書をくれたら考えあげるわ、十六夜君」
「ハハッ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」
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そう言って心からケラケラと笑う逆廻十六夜。
傲慢そうに顔を背ける久遠飛鳥。
我関せず無関心を装う春日部耀。
改めて周りの状況を確認してほげーと間の抜けた声を漏らす獅子尾縁。
そんな彼らを物陰から眺める一人の少女が居た。
ミニスカートとガーターベルトという扇情的な服装の15,6歳に見える非常に整った顔立ちの少女。だがその頭からはウサギの耳が生えているという摩訶不思議な少女だ。彼女こそが、縁達4人をこの世界に招いた張本人である。
(うわぁ……一人を除いて、皆問題児ばっかりみたいですねぇ……)
召喚しておいてなんだが、彼らが協力する姿は想像できそうにない。灰色の髪の青年は状況がいまいち呑みこめていない様で御しやすそうではあったが、他の3人は見るからに我が強そうだ。
だが少女には少女の譲れない目的の為に4人をこの世界に召喚したのだ。その為には4人を騙してでも協力させなければならない。そう思うと、少女は重い溜息を吐いた。
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十六夜は苛立ち気に言う。
「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」
「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」
「……。この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」
(まったくです)
黒ウサギはこっそりツッコミを入れた。場がもっと混乱していると思っていたのに、想像以上に皆落ち着いていて出ていくタイミングを失ってしまったのだ。そんな時、ふと縁が呟いた。
「別にそんなん待つ必要ないっしょ。誰が呼び出したか知らねぇけど、雲の上に放り出すような奴をわざわざ待つのもなんか癪だし」
(えっ!!?)
ピーンと、ウサミミを逆立てて驚く少女。彼女からすれば、今他の場所に行かれるのは非常に困るのだ。
「……確かにな。チュートリアル待ちってのも面倒だ」
「そうね。落ちてくるときに街らしきものも見えたし、まずはそこに行って自分の足で情報を集めようかしら」
「……賛成」
そう言って十六夜、飛鳥、耀の3人は少女が潜んでいる物陰に視線を向けながら呟く。
(気付いてますよね!?こっちに気付いててそう言っていらっしゃいますよね!?)
このまま物陰に潜んでいては、最早この問題児たちを止める手段は無い。少女は覚悟を決めて飛び出した。
「ん?何だテメェ!?」
一方、少女の存在を全く感知できなかった縁は謎のウサミミ少女の存在に純粋に驚いていた。四人は理不尽な招集を受けた腹いせに、殺気を込めた冷ややかな視線を伸ばす。ビクゥ! と身体を震わせた少女は、慌てて爽やかな笑顔を取り繕いつつ、ひょこっと草むらから姿を見せる。
「や、やだなあ御四人様。そんな狼みたいに恐い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ? ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じて、ここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいのでございますヨ?」
黒ウサギ、そう名乗った彼女に対する縁達の解答は以下の通りだった。
「断る」
「却下」
「お断りします」
「……」
「あっは、取りつくシマもないですね♪」
バンザーイ、と降参のポーズをとる黒ウサギ。しかしその眼は冷静に彼らを値踏みしていた。
(肝っ玉は及第点。この状況でNOと言える勝ち気は買いです。まあ、あの灰色の髪の御方は状況が呑み込めていないようですけど……)
黒ウサギはおどけつつも、縁をある意味で過小評価しつつあった。だがそれは大きな間違いでもあった。
「……おい。お前があの手紙の送り主か?」
「はい、そうでございますが?」
各々の世界でも屈指の問題児たちが呼び寄せられた此度の召喚。縁は傍から見れば普通の高校生。だがそれは決して例外という意味にはならない。
「何だこのウサミミは?」
「……ゑ?」
グワシ、と黒ウサギの両ウサミミを根っこから片手で握る縁。彩られる憤怒の表情、必然的に引き攣る黒ウサギの顔。
「何なんだよこのウサミミはよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ふぎゃああっ!!?」
グイグイと黒ウサギの青いウサミミを引っ張り始める縁。上空4000メートルに放り出された挙句、自分だけ地面に落とされそうになった怒りが黒ウサギを見て爆発した。
「ふざけた場所から放り出しやがって!!お前の名前は何だ!?言え!!!」
「く、黒ウサギでございます!!」
「ふざけてんのか!!そんな名前の奴が何処にいる!!?」
「正真正銘此処にって、痛い!?痛いです!!離してください!!」
「なら何故お前のウサミミは青い!?黒を名乗るならウサミミも黒に染めるべきだろうがぁぁぁぁ!!!」
「そ、そんな事を言われましても……って、取れちゃう!!黒ウサギのウサミミが取れちゃいますぅ~~!!」
言っている事はまるで意味不明だが、とにかく怒っている事だけはヒシヒシと伝わっている。とにかく落ち着いて貰おうと声を掛けようとした瞬間―――
「……ずるい」
突如背後から忍び寄る声。
嫌な予感を感じて振り返る前に、何時の間にやら移動した耀にウサミミの先端部分を強めの力で掴まれた。
「私も触りたい。獅子尾ばっかりずるい」
「いいや、このウサミミは既に俺の物だ。だから俺が引っこ抜く」
「違う。このウサミミは皆のモノ」
「黒ウサギの物ですっ!!」
勝手に他人のウサミミの争奪戦を始める問題児2名。黒ウサギは縁の事を『普通そうだ』と判断した少し前の自分を呪っていた。蓋を開けてみればとんでもない問題児である。
「何だ? これって本物なのか?」
「……。じゃあ、私も」
「ちょ、ちょっと待っ──────」
更に追加される問題児2名。
問答無用とばかりに総勢四人によるウサミミ争奪戦を開始される。あっちへこっちへ引き抜かんばかりの力でウサミミを引っ張られるされる痛みもはや涙目だ。その後黒ウサギの悲痛な叫びが、近隣の森に木霊することとなる。
――――――――――――――――――
「あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いて貰うために小一時間も時間を費やしてしまうとは。学級崩壊とはこのような状況に違いないのデス」
「おかげでスッキリした」
「いいからさっさと進めろ」
凄く良い顔で親指を立てる縁。どうやらあらかた怒りを吐きだしたようだ。尤もその代償として、黒ウサギの自称素敵耳は乱れるに乱れる事となったのだが。
だがその甲斐あって、話を聞くだけ聞こうという体制を問題児たちはとった。黒ウサギはコホンと咳払いを一つして気を取り直す。
「それでは皆様、定例文で言いますよ? 言いますよ? さあ言います! ようこそ、〝箱庭の世界〟へ! 我々は貴方がたにギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと思いまして、この世界にご招待いたしました!」
「ギフトゲーム?」
「………この、世界?」
召喚された他の三人がギフトゲームについて強い興味を示し、黒ウサギはここぞとばかりに説明と〝箱庭〟のアピールをしている時、縁のある事に気が付き、思考をグルグルと回転させていた。
(こいつ今、『この世界』って言ったよな……?それじゃあまるで……んー?)
縁は割と足りない脳みそをフル回転させている間に、〝箱庭〟についてあらかた説明し終わった黒ウサギは安堵したようにふう、と息を突いた。
「――――――と、ここまで箱庭、及びギフトゲームなどについて説明をさせていただきましたが、何かご質問がお有りでしょうか?」
嫌な予感はする、だが聞かない事に始まらない。縁は静かに手を挙げた。
「はい! 何でしょうか? 何なりと質問をどうぞ!」
「……さっき『この世界』って言ったけどさ、それって――――」
「はい! ここは貴方様達がいた世界とは全く異なる〝異世界〟でございますよ!」
ピシリッという擬音と共にか固まる縁。容姿端麗という言葉がよく似合う、万人が見惚れるほどのとびっきりの笑顔の黒ウサギが、この時ばかりは地獄の使者にも見えた。
「……?」
まるで石にでもなってしまったかのようにピクリとも動かない縁。とにかく話を進めようと声を掛けようとした瞬間、黒ウサギのウサミミが縁の手によって再び鷲掴みにされた。
「あ、あのー……すごく嫌な予感がするんですけど、もしかしてこれって……」
ウサミミを掴んだまま離さない灰色の髪の少年。寄せくる
「ふざけんなアホォォォォォオオ!!今すぐ元の世界に帰しやがれ!!」
「きゃあああああああっ!!?」
ウサミミを掴み、そのまま黒ウサギを叩きつけるように湖へ投げ飛ばす縁。更に追撃とばかりに、水が器官に入ってゲホゲホと咽る黒ウサギの背中に圧し掛かり、とんでもない力で両ウサミミをグイグイと引っ張り始めて逃げるに逃げられない。他の問題児は見てるだけ、十六夜にいたっては『ヤハハ』と面白そうに笑っているだけである。このままでは毎日丁寧に手入れをしてきた自慢のウサミミが今度こそ引っこ抜かれかねないので、黒ウサギは全力で待ったをかけた。
「ちょ、ちょっとお待ちを!少し落ち着いてください!!」
「これが落ち着いてられるかぁ!!こちとら普通に単位気にする高校生じゃ!!新作ゲームに想いを馳せる高校生じゃ!!それをいきなり異世界とか、ふざけんなマジで!!」
元の世界に残してきた未練はいたって普通ではあるが、実際のその通りである。学校の単位は気になるし、新作ゲームは楽しみだし、それを問答無用に帰り方も分からない、電波も届かない場所に連れてこられては堪ったものではない。
「ほ、本当にお待ちください!!今そのことについて説明いたしますのでっ!!痛たたたたっ!!は、離してくださぁい!!」
「いいからとっとと俺を元の世界に帰せ!!俺には向こうでやり残してきたことが―――」
―――何をやり残したんだ?
そんな考えがふと頭をよぎる。学校を卒業する、新作ゲームをプレイする、確かにその通りの筈なのに、それ以外にやりたいことが見つからない事に茫然とした。その様子に疑問を持ったのか、黒ウサギは恐る恐る声を掛けた。
「あ、あの……どうかなさいました?」
「っ!?…何でもねえよ!とっとと元の世界に帰せ、馬鹿ウサギ!!」
「あいた!?ば、馬鹿ウサギ……!?」
拳骨と共に馬鹿ウサギ呼ばわりされた黒ウサギだが、今その事は頭に入りきらなかった。
ここに自分を呼ぶことができたのだから、帰すこともできるのだろう、だから返せという話だ。いかなる事情があろうとも、縁には異世界に来る理由は無いと。しかし黒ウサギにも黒ウサギの事情があるのだ。
(マ、マジなのでございますかっ!?来て早々帰りたいと仰られちゃうんですか!?あの手紙を受け取った以上、この世界に来る理由はあると思ってましたのに……!で、ですが〝主催者〟の話では『人類で最高級のギフトの持ち主』だとのこと。……凄く乱暴な方ですが、ここでお帰りになられてしまっては黒ウサギの計画が水の泡に……それだけは阻止しなくては……!)
自分の計画がご破算になったとしたら被害を被るのは
黒ウサギは自分が背負うモノの為に、鬼にも悪魔にもなる覚悟だ。ここは騙してでも引き返せない状況に追い込まなくては。黒ウサギは意を決する。
「だ、大丈夫デスヨ!元の世界に戻る方法についてもこれから説明させていただきますので、まずは黒ウサギのコミュニティのリーダーのところへ参りましょう! 話はそれからです!」
「本当だろうな?テメー嘘ついてたらマジぶっ殺すからな、覚悟しとけよ?」
「…うぅ……」
とんでもなく鋭い眼光で睨んでくる縁にすっかり苦手意識を覚えてしまった黒ウサギ。嘘がばれた時の報復を考えて、ばれない様に深く溜息を吐いた。
ご感想お待ちしております。