十六夜と縁を探しに行ってから一向に戻ってこない黒ウサギを心配し始めた時、当の黒ウサギが問題児2人を連れて戻ってきた時は誰もが少なからず驚いた。
「どうしたの、黒ウサギ?その頭」
「痛そう」
なぜなら独断で動いていた十六夜と縁に有難い説教を聞きに行かせたはずの黒ウサギが何故か泣きながら帰ってきたのだ。ウサミミはヨレヨレになり、頭には大きなタンコブ。そして不機嫌そうに鼻を鳴らす縁と、にやにやと笑う十六夜。
「うぅ……酷いのですよ、縁さん。黒ウサギの大事な大事なウサミミをこんなになるまで……これ元に戻るでしょうか……?」
えぐえぐと嗚咽を漏らしながらウサミミを撫でる。これには流石に可哀そうと思ったのか、飛鳥も縁に苦言を呈す。
「獅子尾君、あんまり黒ウサギを苛めては可哀そうよ。幾ら彼女が可愛いからって」
「可愛くねーよ、こんな駄目ウサギ!!」
「だ、駄目ウサギ!?あ、あの……縁さん?黒ウサギにはちゃんと、黒ウサギっていう名前が……」
「あぁ?」
「……いえ……何でもないデス……」
鬼のように鋭い眼光で睨まれ、完全に怯んでしまう黒ウサギ。帝釈天の眷属であり、並みの修羅神仏では手におえない力を秘めた黒ウサギが肉食獣を前にしたか弱い野兎の様である。
「黒ウサギ。実は言わなきゃならない事があるんだ」
「あ、はい。何でしょう、ジン坊ちゃん」
そんな彼女に声を掛けたのは、〝ノーネーム〟のリーダーである少年、ジン=ラッセルだ。彼は少し言い難そうにしつつも、口を開いて事情を告げた。
「実は、〝フォレス・ガロ〟とギフトゲームをすることになったんだ」
「………………へ?」
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「な、なんであの短時間に“フォレス・ガロ”のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」「準備している時間もお金もありません!」「一体どういう心算があってのことです!」「聞いているのですか三人とも!!」
「「ムシャクシャして何も考えずに喧嘩売った。反省も後悔もしていない」」
「このお馬鹿様×2!!!」
まるで口裏を合わせたかのような言い訳をする飛鳥と耀に激怒した黒ウサギのハリセンが炸裂する。
話を要約すると、縁達が“世界の果て”にいる間に“フォレス・ガロ”とかいうコミュニティとギフトゲームをすることになった、ということだ。そのコミュニティのリーダーはかなりの外道であり、飛鳥が言うには、『奴が私の活動範囲内に居るのが許せない』、とのことだ。
「別にいいじゃねえか。見境なく選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」
「済んだこと何時までもグチグチ言ってても仕方ねーだろ、今はこの後どうするかだ」
「確かにそうですけど、このゲームで得られるものは自己満足なんですよ?この〝契約書類〟を見てください」
黒ウサギが見せた一枚の羊皮紙……ギフトゲームのルールや報酬が記された〝契約書類〟にはこう書かれていた。
『〝参加者〟が勝利した場合、〝主催者〟は〝参加者〟の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散させる』
ちなみに飛鳥達にチップは『罪を黙認する』という事だ。
箱庭の世界にも犯してはならない法律というものがある。今回〝フォレス・ガロ〟が犯した事をそれであり、時間が立てばいずれ裁かれるだろう。それをわざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮しようというのだ。
「僕もガルドを逃がしたくないとは思っている。彼の様な悪人を野放しにしちゃいけない」
リーダーであるジンまで同調の姿勢を見せては、黒ウサギも反論する事は出来ない。
「はぁ〜………。仕方がないです。まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。〝フォレス・ガロ〟程度なら縁さんか十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう」
「何言ってんだ?俺達は参加しねえぞ?」
「当たり前よ。貴方達なんて参加させないわ」
十六夜と飛鳥の言葉に黒ウサギは慌てて食ってかかる。
「だ、駄目ですよ!御二人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」
「そういうことじゃねえよ黒ウサギ」
十六夜が真剣な顔で黒ウサギを右手で制する。
「いいか?この喧嘩は、コイツらが売った。そしてヤツらが買った。なのに俺達が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」
「あら、分かってるじゃない」
「え、縁さんは?縁さんは参加してくださいますよね?」
極僅か、本当に小さな一縷の希望を掛けて縁に視線を向ける。瞳に薄らと涙を浮かべ、上目遣いで縁を見上げる箱庭の愛玩動物、黒ウサギ。『これで断れる奴は人間じゃない』と言わんばかりの庇護欲を煽る姿を無自覚にとる黒ウサギだが―――
「やらねえよ、この駄目ウサギ!」
「あいたっ!?」
相手は比喩的な意味で人間じゃなかった。チョップと共に彼女の願いを真っ二つにする縁。
「…………。ああもう、好きにしてください」
丸一日振り回されて疲弊した黒ウサギにはもはや言い返す気力も残っていない。負けても失うものも無いゲーム、もうどうにでもなれとやけになる黒ウサギであった。
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その後、ジンと別れた縁達5人は箱庭の東西南北に支店を構える超大型商業コミュニティ〝サウザンドアイズ〟へと足を運んでいた。その理由は、ギフトの『鑑定』である。
明日に〝フォレス・ガロ〟とのギフトゲームが差し迫った飛鳥達は、その勝負に向けてという意味合いも兼ねて自身のギフトを鑑定してもらうこととしたのだ。鑑定とは文字通りの意味であり、自分のギフトがいったいどのようなものか、また自分のギフトがいったいどこから由来して出てきた物なのかを調べるのだ。それによって自身のギフトについてよりよく知り、今後の戦闘に役立てるのだという。
そんな風にみんなで他愛のない雑談をしながら、商店へと続くペリベッド通りを歩く。ペリベッド通りは石造で舗装されており、脇を埋める街路樹は綺麗な桃色の花が咲いていた。
「桜……じゃないわよね。真夏に咲くわけがないし」
「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合の入った桜が残っていてもおかしくないだろ」
「……? 今は秋の筈だけど」
「今週の最低気温、2℃の真冬だぜ?花なんか咲かねーだろ」
ん?と4人と一緒に首をかしげる。黒ウサギは笑って説明した。
「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化など様々な相違点があるはずですよ」
「へぇ? パラレルワールドってやつか?」
「正しくは立体交差並行世界論というのですが……あ、着きましたよ」
そう言って、黒ウサギは話を打ち切った。視線の先では青い布地に互いが向かい合う女神像が記された看板があった。あの看板の店が”サウザンドアイズ”だろう。もう店じまいをするのか、割烹着姿の女性が看板を下げようとしていた。黒ウサギは滑り込みでストップを―――
「まっ」
「待ったは無しですお客様。当店は時間外営業をしておりません」
掛けようとしたが、瞬殺された。コンマ1秒もかからない電光石火の入店拒否に飛鳥は目を丸くする。
「なんて商売っ気のない店なのかしら」
「ま、全くです! 閉店の五分前に客を締め出すなんて!」
「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」
「出禁!? これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ!?」
黒ウサギは店員の前でキャーキャー喚いているわけなのだが、そんな彼女を店員は冷めたような目と侮蔑を込めた声で対応する。
「なるほど、〝箱庭の貴族〟たるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしい
でしょうか?」
「…………う」
一転して言葉に詰まる黒ウサギ。それを見かねた縁が黒ウサギのウサミミを掴んで後ろへ下がらせた。
「みぎゃっ!?え、縁さん!?そう何度も黒ウサギのウサミミを掴まれては・・・!」
「黙ってろ、駄目ウサギ。もう閉店っつったら閉店なんだろ。向こうに迷惑かけてまで押し入ろうとか、お前は何処のマナー違反客だ。これだからお前は駄目ウサギなんだ。この駄目ウサギが!!」
「さ、3回も言われました!?あの……もしかして黒ウサギの呼び名をそれで固定してません……?」
「とりあえず、また開店時間に来ればいいだろ。今日のところは――――」
「いぃぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ! 久しぶりだな黒ウサギィィィィ!」
その時、店の奥から雄叫びをあげながら黒ウサギめがけて跳びかかってくる白いものが現れた。それは着物風の服を着た真っ白い髪の少女で、黒ウサギはその少女に抱きつかれ(もしくはフライングボディーアタック)、クルクルクルクと空中四回転半ひねりして街道の向こうにある浅い水路にまで吹き飛んだ。
「きゃあ――――…………!」
ポチャン。そして遠くなる悲鳴。十六夜達は目を丸くし、店員は痛そうな頭を抱えていた。
「おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか? なら俺も別バージョンで是非」
「ありません」
「なんなら有料でも」
「やりません」
真剣な表情の十六夜と、真剣にキッパリと断る女性店員。水路では黒ウサギに強襲した銀髪の和装幼女が彼女の豊満な胸に顔を埋め、さながら変態オヤジのように匂いを嗅ぎながらその感触を堪能していた。
「し、白夜叉様!? どうしてあなたがこんな下層に!?」
「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるからだろに! フフ、フホホフホホ! やっぱりウサギは触り心地が違うのう
!ほれ、ここが良いかここが良いか!」
「し、白夜叉様! ちょ、ちょっといい加減離れてください!」
すると黒ウサギは白夜叉と呼ばれた少女を無理やり引き剥がし、頭を掴んで店に向かって投げつける。くるくると縦回転した少女を、十六夜が足で蹴り飛ばした。
「そーれ縁、そっちに行ったぞ」
「ゴバァ!」
「え……おぉわっ!?どりゃあ!!」
「どぅべっ!?」
まさか幼女をキラーパスされるとは思いもよらず、驚いた縁は重力場を発生させ幼女を地面に叩き付けた。結果顔面から地面に減り込む銀髪幼女。だが少女は毛ほどのダメージも受けていない様子で立ち上がった。
「おんしら!飛んできた美少女を蹴り飛ばした挙句、地面に叩き落とすとは何様じゃ!?」
「あぁ、悪い。つい」
「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」
ヤハハ、と笑いながら自己紹介する十六夜と素直に謝る縁。一連の流れの中で呆気にとられていた飛鳥は、思い出したように少女に話しかける。
「あなたはこの店の人?」
「おお、そうだとも。この〝サウザンドアイズ〟の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」
「オーナー。それでは売り上げが伸びません。ボスが怒ります」
どこまでも冷静な声で女性店員が釘を刺す。濡れた服やミニスカートを絞りながら水路から上がってきた黒ウサギは複雑そうにつぶやく。
「うう…………まさか私まで濡れることになるなんて」
「因果応報…………かな」
『にゃーん』
「俺達をあんな手荒い方法で呼び出したんだからな」
「あう……それは黒ウサギの管轄外なのですよ……って、縁さんは既に黒ウサギを湖に放り投げたじゃないですか!?」
「それはそれ、これはこれだ、駄目ウサギ。後管轄外だなんて、呼び出した本人が言っても言い訳にもならないからな?」
あんまりな言い分に陰鬱な顔で黒ウサギはその場にへたり込んだ。……その姿は実に哀れであった。
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「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている〝サウザンドアイズ〟幹部の白夜叉だ。黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女だと認識しておいてくれ」
「はいはい、お世話になっております本当に」
白夜叉の自己紹介に、黒ウサギは投げやり言葉で受け流す。
縁達は店の中にある個室にしてはやや広い和室に連れてこられ、上座に座る白夜叉は軽く姿勢を正してから縁達と向き合った。
「その外門って、なに?」
「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に巨大な力を持つ者達が住んでいるのです」
箱庭では上層から下層までの7つの支配権で分かれている。それに伴ってそれぞれを区切る門には番号が振り分けられている。黒ウサギが描く上空から見た箱庭の図は外門によって幾重もの階層に分かれていた。
「…………超巨大タマネギ?」
「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」
「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」
身もふたもない感想を言い合う3人に、黒ウサギはがっくりと肩を落とした。黒ウサギとは対照的に、白夜叉は呵々と哄笑をあげて二度三度頷いた。
「ふふ、うまいこと例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。さらに説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は〝世界の果て〟と向かい合う場所になる。あそこにはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持った者達が棲んでおるぞ――――その水樹の持ち主などな」
白夜叉は薄く笑って、黒ウサギの持つ水樹の苗に視線を向ける。白夜叉が示すのは、トリトニスの滝に生息していた蛇神のことだろう。
「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ? 知恵比べか? 勇気を試したのか?」
「いえいえ、この水樹は十六夜さんと縁さんがここに来る前に、蛇神様を叩きのめしてきたのですよ」
自慢げに黒ウサギが言うと、白夜叉は声をあげて驚いた。
「なんと!? クリアではなく直接的に倒したとな!?ではその童達は神格持ちの神童か?」
「いえ、黒ウサギはそう思えません。神格ならば一目見ればわかるはずですし」
「む、それもそうか。しかし神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種族によほど崩れたパワーバランスがあるときだけのはず。種族でいうなら蛇と人ではドングリの背比べだぞ」
そこでチラリ、と白夜叉は縁の方を見た。
「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」
「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」
小さな胸を張り、呵々と豪快に笑う白夜叉。だがそれを聞いた十六夜は物騒に瞳を光らせて問いただす。
「へえ? じゃあオマエはあのヘビより強いのか?」
「ふふん、当然だ。あたしは東側の〝階層支配者フロアマスター〟だぞ。この東側の四桁以下のコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者ホストなのだからの」
〝最強の主催者〟――――その言葉に、十六夜・飛鳥・耀の3人は一斉に瞳を輝かせた。
「そう……ふふ。ではつまり、あなたのゲームをクリアできれば、私たちのコミュニティは最強のコミュニティということになるのかしら?」
「無論、そうなるのう」
「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」
3人はむき出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。白夜叉はそれに気付いたように高らかに笑い声をあげた。
「抜け目ない童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」
「え? ちょ、ちょっと御3人様!?」
慌てる黒ウサギを、白夜叉は右手で制する。
「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」
「ノリがいいわね。そういうの好きよ」
「ふふ、そうか。――――しかし、ゲームの前に一つ確認しておくことがある」
「なんだ?」
白夜叉は着物の裾から〝サウザンドアイズ〟の旗印――――向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、壮絶な笑みで一言、
「おんしらが望むものは、〝挑戦〟か――――もしくは〝決闘〟か?」
刹那、視界に爆発的な変化が起きた。
四人の視覚は意味を無くし、様々な情景が脳裏で回転し始める。脳裏を掠めたのは、黄金色の穂波が揺れる草原。白い地平線を覗く丘。森林の湖畔。記憶にない場所が流転を繰り返し、足元から三人を呑みこんでいく。四人が投げ出されたのは、白い雪原と凍る湖畔――――そして水平に太陽が廻る世界だった。
「……なっ…………!?」
余りの異常さに、十六夜達は同時に息を呑んだ。箱庭に招待された時とはまるで違うその間隔は、もはや言葉で表現できる御技ではない。薄く薄明の空にある星はただ一つ。緩やかに世界を水平に廻る、白い太陽のみ。まるで星を一つ、世界を一つ創り出したかのような奇跡の顕現。唖然と立ちすくむ三人に、今一度、白夜叉は問いかける。
「今一度名乗り直し、問おうかの。私は〝白き夜の魔王〟――――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への〝挑戦〟か? それとも対等な〝決闘〟か?」
魔王・白夜叉。少女の笑みとは思えぬ凄みに、三人は息を呑んだ。十六夜は背中に心地いい冷汗を感じ取りながら、白夜叉を睨んで笑う。星霊とは惑星級以上の星に存在する主精霊を指し、妖精や鬼・悪魔など最上級種である。十六夜は背中に心地良い冷や汗をかきながら問いかける。
「水平に廻る太陽と…………そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽やこの土地は、オマエを表現してるってことか」
「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」
「これだけ莫大な土地が、ただのゲーム盤……!?」
「如何にも。して、おんしらの返答は? 〝挑戦〟であるならば、手慰み程度に遊んでやる。――だがしかし〝決闘〟を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り戦おうではないか」
「…………っ」
飛鳥と耀、そして自信家である十六夜でさえ即答できずに返答を躊躇った。白夜叉が如何なるギフトを持つのか、それは定かではない。しかし三人が挑んだところで勝ち目がないことだけは一目瞭然だ。これほどの威圧感、そしてその実力の高さを示すかのような、この広大で威厳のあるゲーム盤。相手にしてしまえば、勝ち目はない。
しかし、自分たちが売った喧嘩を、このような形で取り下げるにはプライドが邪魔だ。しばしの静寂の後――――諦めたように笑う十六夜が、ゆっくりと両手を挙げた。
「まいった。やられたよ白夜叉。降参だ」
「ふむ? それは決闘ではなく、試練を受けるということかの?」
「ああ。これだけのゲーム盤を用意できるんだからな。アンタには資格がある。――――いいぜ。今回は黙って試されてやるよ」
苦笑とともに吐き捨てるような物言いをした十六夜を、白夜叉は堪え切れず高らかに笑い飛ばした。プライドの高い十六夜にしては最大限の譲歩なのだろうが、『試されてやる』とはずいぶん可愛らしい意地の張り方だと、白夜叉は腹を抱えて哄笑をあげた。一頻り笑った白夜叉は笑いをかみ殺して、他の2人にも問う。
「く、くく……して、他の童達も同じか?」
「…………ええ。私も、試されてあげていいわ」
「右に同じ」
苦笑をかみ殺したような表情で返事をあげる二人。満足そうに声を上げる白夜叉。余裕の笑みを浮かべたまま、残り問題児に目を向けたところで―――
「……すー……すかー……」
「………」
縁は眠っていた。座布団の上で胡坐をかきながら器用に眠っていた。そう言えばさっきから一言も喋らないとは思っていたが、まさか眠っているとは誰も思わなかった。
折角色々と威厳を見せつけたのに、折角色々と説明してたのに。それらを全てスルーして眠っている縁に白夜叉は青筋を立て、黒ウサギの堪忍袋の緒はブチ切れた。
「起きぬか、この戯けっ!!」
「何を寝ていらっしゃいますかっ!!」
「おわたっ!?」
扇子とハリセンが同時に頭に炸裂する。今回は眠っていた縁が悪い。ツッコミを入れても問題は無いだろう。黒ウサギは血の上った頭でどこか冷静に判断していた。
「おいこら。駄目ウサギ、テメー何しやがる……?」
「へ?……ひゃああっ!?」
だがそれは間違いだった。発生させた引力で黒ウサギを引き寄せ、そのまま頭を鷲掴みにする縁。そのまま流れるような動きでうつ伏せにし、背中に乗って足の裏に指を添える。
「人を起こすにしちゃ随分手荒いじゃねえか、この駄目ウサギがあああああああああああ!!!」
「ちょ、ちょっとお待ちを!いくらなんでも理不尽――――あ痛たたたたたたたっ!!?い、痛い痛い!?足裏マッサージですか!?なのにすごく痛ッ――――――!?」
黒ウサギの足の裏を全力でグリグリする縁。悶えまくって悲鳴を上げる黒ウサギ。足の裏を押されていたいときは、本人の疲労が溜まって臓器などに少なからず不調している時だという。その観点からして言えば黒ウサギの苦労は想像を超える物があるが、今それよりも気になる事。それは残された4人が奇跡的に、同時に浮かんだ疑問である。
―――獅子尾縁は、何故か黒ウサギに対してだけ異様に厳しい。
次回、オリ主が黒ウサギに対してだけ厳しい理由が明らかになる!!(あくまで予定、場合によっては変更になるのでご了承ください)