夕刻の朱い光が、南ゲヘナ駅の古い駅務室に長い影を落としていた。
ホームを吹き抜ける風には、未だかすかに硝煙と鉄の焦げた匂いが残っている。先ほどまで繰り広げられていた、風紀委員長・空崎ヒナと治安維持長・士方リョウによる死闘の余韻は、粉砕されたコンクリートの破片や凹んだ鉄骨のあちこちに、戦痕として刻み込まれていた。
しかし、駅務室の中には、どこか呆気ないほどの静寂と、和やかな空気が漂っていた。
「ふぅ……美味いお茶ですね、維持長」
パイプ椅子に腰掛けた野上ヒヨコが、湯気の立ち上る湯呑みを両手で包み込みながら、心底ほっとしたような息を吐いた。その隣では、先生が穏やかな笑みを浮かべ、同じように温かいお茶をすすっている。
「激しい戦いの後の温かいお茶は、五臓六腑に染み渡るよ。リョウくん、お茶の淹れ方までプロ級だね」
「恐縮です、先生。茶葉の蒸らし時間と湯温の管理は、業務の合間の効率的なリフレッシュにおいて極めて重要な要素ですから」
デスクの脇に立つ士方リョウは、自分の分のお茶を一口飲むと、手元の腕時計に視線をやった。
【 17時15分00秒 】
本来であれば、17時00分00秒にタイムカードを打刻し、駅を後にしているはずの時間であった。だが、今の彼に焦りや苛立ちはない。一度は17時の定時退勤を逃したものの、ゲヘナ学園風紀委員会最高責任者であるヒナとの「決闘」に勝利し、ゲヘナ線区の完全なる自主運行権と平和を勝ち取ったのだ。
このわずかなオーバータイムは、いわば勝利の凱旋に支払った名誉ある代償であった。
「ヒナ委員長が、正式な手続を完了させるために行政官室の印章を取りに戻られたとのこと。……戻られ次第、今回の協定文書にサインをしていただき、すべては終了です」
リョウは制服の袖口を整え、万年筆を胸ポケットに収めた。その表情には、激闘を制した者特有の静かな自信と、明日からの平穏な「17時定時退勤ライフ」に対する確かな希望が満ちあふれていた。
「これで、アコ行政官の理不尽な書類攻めや、現場への過剰な介入に怯える日々も終わりですね〜! 維持長、明日は17時ジャストに上がって、駅前のクレープ屋さんに行きましょうね!」
「ああ、ヒヨコ。約束しよう。明日はKP14地点の定期点検を15時までに終わらせ、完璧なスケジュールで定刻退勤を達成する」
二人が希望に満ちた会話を交わしていた、その時である。
ガラガラ……と、静かに駅務室の扉が開いた。
現れたのは、書類の入った革の鞄を抱えた空崎ヒナと、その後ろで未だ不満げに唇を噛みしめているアコであった。
「待たせたわね、リョウさん、先生」
ヒナは静かな足取りで室内へ歩みを進めると、中央のテーブルへと近づいた。その表情は、先ほどホームで見せた少女としての柔らかさを完全に覆い隠し、ゲヘナの頂点に立つ「風紀委員長」としての厳格な威厳に満ち溢れている。
後ろに控えるアコは、決闘の敗北による屈辱と納得のいかなさに顔を歪ませながらも、ヒナの後ろで深く頭を下げていた。
「ヒナ。足労をかけたね。お茶でも淹れようか?」
リョウが落ち着いた声で迎えると、ヒナは小さく首を横に振った。
「気持ちだけ受け取っておくわ、リョウさん。……今は公務中だから。これより、本日発生した一連の事案に関する、ゲヘナ学園風紀委員会としての正式な裁定を告げます」
その一言で、室内の空気が緊張で引き締まった。ヒヨコは背筋を伸ばし、先生も静かに姿勢を正す。
ヒナは鞄から一枚の重厚な羊皮紙風の公文書を取り出し、テーブルの上へ滑らせた。そこにはゲヘナ風紀委員会の紋章が刻印されている。
「風紀委員会行政官室、および救護担当監察班によるハイランダーゲヘナ線区への監査、並びにこれに伴う保線現場および駅務室での戦闘事案について。……本日、私と士方治安維持長との間で行われた裁定対決の結果に基づき、以下の通り決定する」
ヒナの小さくも通る声が、部屋の隅々にまで響き渡る。
「第一。ハイランダーゲヘナ線区における過剰防衛、無届での爆薬使用、および突貫工事に関する過去の全違反事例について。これらはすべて、ゲヘナ線区が置かれている極めて特殊かつ過酷な現場環境、日常的な地雷の自然発火、治安の悪化、過密ダイヤの維持等を考慮し——【風紀委員会の通常管轄外】として扱う」
「やったぁぁぁぁぁっ!!」
ヒヨコが思わず跳ね起き、万歳を叫んだ。
「特例措置! つまり、過去の怪しい工事も、アコさんが言っていた不備書類200通も、全部ナシってことです〜! 維持長、大勝利ですよ!」
「静かにしなさい、野上副長」
リョウはヒヨコを手で制しながらも、その口元には満足げな笑みを浮かべていた。
(よし……! これで過去の面倒な追及はすべて白紙撤回。アコ行政官が持ち込んできたあの200通の書類地獄も、完全に無力化された。俺たちの勝利だ……!)
アコは悔しそうに顔を背け、拳を固く握りしめていた。
「くっ……! 現場の横暴を特例として認めるなんて……! 風紀委員会の規律と法規が泣いています……! ですが、委員長のご決定である以上、私は従うしか……!」
「……まだ、話は終わっていないわ、アコ。リョウさん」
ヒナは静かに制すると、冷たさを帯びた紫の瞳でリョウを真っ直ぐに見つめた。
「第二。過去の事例を特例として免責する代わりに——今後の安全運行と透明性を確保するための【絶対条件】を提示する」
「……条件、ですか」
リョウの眉が、かすかにピクリと跳ねた。胸の中に、不吉な予感が波紋のように広がり始める。
ヒナは公文書の第二項を指先で叩いた。
「今後、ハイランダーゲヘナ線区内において発生するすべての事案——すなわち【突発的な戦闘行為】【無認可の爆薬使用】【レールの緊急修復および突貫保線】【特殊車両の運行】のすべてにおいて……事前、あるいは事後の【詳細な理由書および顛末報告書】の提出を義務付ける」
「……はい?」
ヒヨコが素頓狂な声を漏らした。
リョウの時が、完全に止まった。
ヒナは淡々と、完璧な論理と威厳をもって言葉を重ねていく。
「当然でしょう? 特例措置とは『法規の適用を免除する』という意味ではありません。『特例として認めるための根拠文書を提示させる』ということです。今後、現場で地雷が破裂してレールを直したなら、直した理由と使用した資材、かかった時間と安全確認のプロセスをすべて文章化して報告しなさい。敵と戦闘を行ったなら、交戦理由と消費弾薬数、相手の身元に関する報告書を提出しなさい。……提出期限は、事案発生から24時間以内とします」
「に……24時間以内……!?」
ヒヨコが顔を青ざめさせた。
だが、最も深刻なダメージを受けたのは、他ならぬ士方リョウであった。
彼の頭脳——超・事務処理モードが維持されているリョウの脳内CPUが、爆発的な速度で今後の「作業量」を計算し始めた。
(待て……。落ち着いて計算しろ。ゲヘナ線区における一日あたりの平均事案発生数は……)
* 地雷の自然発火および線路損壊:1日平均 24件
* 野良生徒およびならず者との突発的交戦:1日平均 12件
* 温泉開発部等の勝手な掘削に伴う保線補修:1日平均 5件
* 暴走列車の強制停止およびダイヤ調整:1日平均 3件
(合計……1日あたり約 44件 の突発事案。書類1通を作成するのに必要な平均時間は、いくら俺の超高速打字をもってしても約10分。44件 × 10分 = 440分。……【7時間20分】)
リョウの顔から、みるみるうちに血の気が引いていった。
(7時間20分……!? 通常業務と治安維持パトロールに加え、毎日【7時間20分】の書類作成作業が発生する……!? 定時退勤の17時から7時間20分残業した場合……退勤時刻は……【深夜0時20分】……!?)
「が……ッ!?」
リョウの口から、掠れた悲鳴のような漏れ声が出た。
毎日深夜まで残業。休日返上。17時退勤など夢のまた夢。永遠に終わらない書類の山と、締め切り24時間という恐怖のカウントダウンに追われ続ける日々——!
勝ったはずだった。
決闘に勝ち、現場の自由を手に入れたはずだった。
しかし、彼が手に入れたのは「自由」などではなく、「書類作成という名の永久残業牢獄」の鍵だったのだ。
「い、維持長ぉぉぉっ!? 顔色が土気色になってますよぉぉっ!?」
ヒヨコが悲鳴を上げながらリョウの肩を揺さぶる。
「……はは……ははは……」
リョウの口から、壊れた機械のような乾いた笑いが漏れた。
瞳からハイライトが完全に消え去り、漆黒の絶望がその眼球を覆い尽くしている。
「勝ち取った……。俺は勝ち取ったんだ……。毎日深夜0時過ぎまで残業する権利を……。17時退勤の夢が……砕け散った……」
「リョウくん、しっかりして! 臨死体験してるみたいになってるから!」
先生が慌ててリョウの背中を叩く。
しかし、リョウの危機管理本能が、土壇場で凄まじい反撃を開始した。
このままヒナの決定を受け入れれば、彼の人生から「定時退勤」という四文字が永久に消滅する。論理や法規での議論は、決闘の敗北と特例措置という完璧な正論によって封殺されている。
ならば——残された手段は、ただ一つ。
【感情と過去の絆による、なりふり構わぬ撤回工作】
「……ヒナ」
リョウの瞳に、突如として怪しい光が宿った。
「え……? 何、リョウさん……?」
ヒナが威厳を保ったまま首を傾げた、次の瞬間であった。
ガバッッ!!
「な……ッ!?」
リョウは超人的な踏み込みで間合いを詰めると、ヒナの華奢な身体を、正面から力強く抱きしめたのである。
「きゃあぁぁぁぁぁっ!?」
アコが駅務室の天井を突き破らんばかりの悲鳴を上げた。
「ななな何をしているのですか貴方はァァァッ!? 委員長から離れなさい! 今すぐ離れなさい無礼者ぉぉぉっ!」
しかし、リョウはアコの叫びなど完全に無視していた。
彼はヒナの背中に手を回し、まるで壊れ物を扱うかのように優しく、けれど絶対に逃がさない強さで抱きしめると、その顔をヒナの首元へと寄せた。
そして——大きな手のひらで、ヒナの銀色の髪と頭を、ぽんぽん、となで撫で回し始めたのだ。
「う……あ……っ……!?」
抱きしめられたヒナの身体が、一瞬でカチコチに凍りついた。
頭上に浮かぶ漆黒の巨大なヘイローが、パニックを起こしたように激しく明滅し、ピンク色に近い光を帯びて明滅を繰り返す。
「ヒナ……頼む……考え直してくれ……」
リョウの声は、いつもの冷徹なトーンではなかった。昔、幼いヒナを暗闇の中であやしていた頃のような、低く、甘く、心揺さぶるような優しさに満ち満ちていた。
「君の言うことは正しい。君が風紀委員長として筋を通さなければならないことも理解している。……だが、思い出してくれ。あの頃、古い廃棄車両の中で、僕たちは一緒に温かいスープを飲んだだろう? 僕が君の泥を拭い、君が僕の手を握って眠りについた、あの輝かしい日々を……」
リョウは撫でる手を緩めず、さらにヒナの髪に頬を寄せながら、囁くように乞うた。
「あの優しかったヒナが……僕に毎日7時間の残業を強いるような、そんな悪魔のような決定を下すはずがない。そうだろ? 報告書の提出義務なんて、なかったことにしよう。ね? ヒナなら分かってくれるはずだ……」
「あ……うぅ……っ……!」
ヒナの顔面が、瞬く間に耳の先まで真っ赤に染め上がった。
理性が、威厳が、風紀委員長としての誇りが、リョウの圧倒的な「甘やかし攻撃」とスキンシップの前にガラガラと崩れ去っていく。
首元に触れるリョウの息づかい、頭を撫で回す手のひらの温もり、そして耳元で囁かれる昔の思い出——。
「り……リョウさん……そんな……昔の話を…………っ」
リョウの胸の中にぽすんと顔を埋め、今にも「う、うん……報告書は……ナシでいいよ……」と言い出しそうな、危険極まりない状態。
「いいぞ維持長! そのまま落とし落とせです〜!」
ヒヨコが拳を握りしめて応援する。
「ちょっと! 先生、止めてください! 委員長が……委員長が懐柔されてしまいますわぁぁぁっ!」
アコが狂乱して先生の服の袖を引っ張る。
先生は「いやぁ、これはノーコメントで……」と苦笑いしながら汗を拭くしかなかった。
リョウは手応えを感じていた。ヒナの心が解けかけている。あと一押し、あと一度強くハグして頭を撫でれば、この悪夢のような「報告書提出義務」は撤回される——!
「さあ、ヒナ。撤回すると言ってくれ……」
しかし。
「……っ………………っ!!」
ヒナの身体が、極限の緊張でプルプルと震え出した。
彼女の脳内で、「リョウさんに甘えたい自分」と「ゲヘナ学園風紀委員長としての責任」が、熾烈な死闘を繰り広げていた。
(ダメ……ダメよヒナ! ここで流されたら……私は委員長として……アコや他の風紀委員たちに示しがつかなくなってしまう……! リョウさんの手はすごくあたたかくて、このまま抱きしめられていたいけれど……ダメぇぇぇっ!!)
「……っ……ダメなものは、ダメぇぇぇぇぇっっ!!!!」
ドッガァァァァンッ!!
「ぶふっ!?」
ヒナが超人的な力でリョウの胸を両手で押し返した!
爆風のような衝撃波とともに、リョウの巨躯が数メートル後方へ吹き飛び、駅務室の壁に背中から激突した!
「ぐはっ……!?」
リョウが壁からずるずると崩れ落ちる。
「はぁ……はぁ……はぁ……ッ!」
リョウの手から解放されたヒナは、真っ赤になった顔を両手で覆いながら、荒い息を吐いていた。ヘイローが狂ったように回転している。
「り……リョウさんのバカ! 卑怯者! 昔の思い出で私を釣ろうとするなんて……最低!」
「……不発……だと……!?」
壁に背をもたれさせたまま、リョウが絶望の声を漏らした。自慢の「ヒナあやし・スキンシップ作戦」が、彼女の委員長としての執念によって打ち砕かれたのだ。
ヒナは指の隙間から真っ赤な目でリョウを睨みつけると、怒りと照れくささが混ざり合った声で叫んだ。
「報告書提出の義務は……絶対に撤回しません! 事前事後の書類は、1通の漏れもなく提出しなさい! 提出が遅れたら……今度こそ、私が直接この駅を叩き潰しに来ますからねっ!」
ヒナはそれだけ言い捨てると、バッと踵を返し、真っ赤な顔のまま猛スピードで駅務室を飛び出していった。
「い、委員長っ! 待ってください〜〜っ!」
アコが慌ててその後を追いかけていく。
バタンッ! と扉が閉まり、静寂が再び駅務室を包み込んだ。
「……あ、あはは……。ダメだったね、リョウくん」
先生が苦笑いしながら、壁際で魂が抜けかけているリョウに歩み寄る。
「……終わった……。俺の……俺の17時定時退勤ライフが……完全に崩壊した……」
リョウは膝を抱え、遠い目をして天井を見つめていた。その瞳には、もはや生きる気力すら感じられない。
「維持長〜! 元気出してください〜! 書類作成なら、私も手伝いますから〜!」
ヒヨコが励まそうとするが、リョウは弱々しく首を横に振った。
「無理だ、ヒヨコ……。君の事務処理能力では、1通の報告書に1時間はかかる……。かえって残業時間が増えるだけだ……」
「ひどいです〜!?」
一方その頃。
南ゲヘナ駅を出て、風紀委員会の専用車両へ乗り込もうとしていたアコもまた、車内で重大な事実に直面していた。
「……あ、あの……アコ行政官殿……」
同行していた部下の風紀委員が、恐る恐る厚さ数十センチにも及ぶ新たな書類の山をアコに差し出した。
「何ですか、これは?」
アコが不機嫌そうに尋ねると、部下は引きつった笑みを浮かべた。
「ヒナ委員長が裁定された【特例措置】に伴う、風紀委員会側の内部処理書類です。……ハイランダーから提出される報告書を審査・照合し、万魔殿および行政官室へ提出するための【特例承認申請書】および【管轄外認定理由書】……約3000枚になります」
「……はい?」
アコの動きが止まった。
部下は冷や汗を流しながら続けた。
「ハイランダーから毎日約40件の報告書が上がってくるため、私たち行政官室も、それをすべて精査して特例として承認する手続きを、毎日24時間以内に完了させなければなりません。……さもなければ、風紀委員会側の『怠慢』として万魔殿から追撃を受けます」
「……え?」
アコの脳内でも、瞬時に恐ろしい計算が弾き出された。
ハイランダーから上がってくる膨大な量の突貫工事報告書。そのすべてに目を通し、法理的矛盾がないか確認し、特例承認のスタンプを押し、万魔殿への報告書を作成する作業——。
(毎日……3000枚の書類審査……? 提出期限24時間……? 私の睡眠時間が……行政官室の業務が……完全にパンクしますよ……!?)
「が……ッッ!!!!」
アコは衝撃のあまり、車のシートの上で頭を抱えて崩れ落ちた。
ハイランダーを追い詰めるために「手続きの網」を仕掛けたはずだった。
しかし、ヒナが提示した「特例措置と報告書義務」という完璧な裁定により、仕掛けた側であるアコ自身もまた、【無限の特例処理書類】という名の底なし沼へと引きずり込まれたのだ!
「何でなの……何でなのこれはぁぁぁっ! 私まで……私まで残業地獄に巻き込まれるなんて聞いていませんよぉぉぉっ!」
夕焼けに染まる南ゲヘナ駅の車内で、アコの悲痛な絶望の悲鳴が響き渡っていた。
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数分後。
南ゲヘナ駅の駅務室の窓際。
そこには、沈みゆく太陽を見つめながら、並んで「遠い目」をしている二人の姿があった。
一人は、駅務室のデスクに早くも第一号となる「KP14地点地雷自然発火に関する事後報告書」の用紙を広げ、絶望に暮れる士方リョウ。
そしてもう一人は、車の窓から身を乗り出し、夕空に向かって魂の抜けた顔を向けている羽沼アコ。
距離は離れていたが、二人が交わす視線には、言葉を超えた「同じ地獄を生きる者同士」の奇妙な共感と、果てしない虚無感が漂っていた。
「……勝ち取ったはずなのに、どうしてこうなったんだろうね、リョウくん」
先生が二人の間に割り込み、優しく肩を叩いた。
「……先生」
リョウはゆっくりと振り返り、死んだ魚のような瞳で先生を見つめた。
「ふふ……ふはは……。明日からの目標を変更します。17時定時退勤ではなく……【午前0時前の帰宅】を目指します……」
「目標が凄まじく後退してるよ!?」
夕闇がゲヘナの荒野を包み込み、街灯がぽつりぽつりと点灯し始める。
17時攻防戦を巡る過酷な戦いは、一応の「和解(?)」という結末を迎えた。しかし、ハイランダー治安維持部と風紀委員会行政官室の前に立ちはだかるのは、過去最大の敵——【提出書類の山】であった。
リョウ
「第二章……完結です。……ですが、俺たちの真の戦いは……ここから始まります……」
センセイ
「そうだね……。第三章も、前途多難になりそうだ……」
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サクシャ
「ちょっとのあいだ更新お休みしますネ」
「ネタが切れました」
「続編欲しかったら感想と評価をつけてk…『ブチッ』………………」
―――サクシャとの通信が途絶えました。