ゲヘナ線区はド畜生。   作:UMC OGASOU

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9.臨検とミリ単位の超安全走行

 

 

前日の「過剰コンプライアンス作戦」において、自らが仕掛けた法規の網に自ら絡め取られるという痛恨の敗北を喫した風紀委員会行政官、天羽アコ。

 

だが、彼女の辞書に「撤退」の二文字は存在しなかった。

 

「……ええ、認めましょう。前日のやり方は私の不覚でした。あのような理屈っぽい手抜き集団に対し、書類やマニュアルの手続きで挑んだのが間違いだったのです」

 

南ゲヘナ駅の第1ホーム。早朝の冷たい風が吹き抜ける中、アコは冷ややかな笑みを浮かべ、背後に控える「最悪の刺客」を振り払うように指差した。

 

「ですが、物理的な事実は誤魔化せません。彼らが日頃行っている『100km/hオーバーの暴走走行』および『過剰な速度超過』! これは明確な交通法規違反であり、言い逃れのできない犯罪行為です!」

 

アコが自信満々に呼び寄せたのは、風紀委員会の名だたる実動隊長——銀鏡イオリであった。

 

褐色の肌に白いツインテール、背中には黒い翼を羽ばたかせ、その手には愛用のスナイパーライフルが握られている。その鋭い瞳には、一切の妥協を許さない法執務者としての冷徹な光が宿っていた。

 

「任せろ、アコ」

 

イオリは不敵に笑い、自らの胸を叩いた。

 

「あのハイランダーの連中が、日頃どんな暴走運転をしているかは聞き及んでいる。今日の臨検には、私が直接運転室へ同乗する。奴らが規定速度を1km/hでも超えた瞬間、その場で運転士の頭に銃口を突きつけて、現行犯逮捕してやるよ!」

 

 

前回の「手続きの攻防」では負けたが、今回は単純明快な「スピード違反の取り締まり」だ。スピードメーターに表示される数値は客観的な数字であり、どんな弾丸トークであっても改ざんはできない。1km/hでもオーバーすれば即逮捕、即運休。これで勝負は決まったも同然であった。

 

 

 

「……ふむ。風紀委員会の実動隊長自らが臨検と同乗ですか」

 

ホームの脇で静かに温かいお茶を飲んでいた士方リョウが、淡々と時計に目をやった。

 

「構いませんよ、イオリ隊長。我がゲヘナ線区の運転士は、全員がハイランダー本校の最高峰のライセンスを保有するプロフェッショナルです。どうぞ、心ゆくまでその『安全運転』をご鑑賞ください」

 

「フン、口だけは達者だな! 泣き面を拝む準備をしておけ!」

 

イオリはフッと鼻を鳴らすと、手下の風紀委員数名を従え、すでにホームへ滑り込んでいたガスタービン機関車の最前部運転室へとズカズカと乗り込んでいった。

 

◆

 

重厚なアイドリング音を響かせる一号車運転室。

 

狭いキャビンの中には、運転士の藤原ヨドキが不機嫌そうに操縦桿(ノッチ)を握り、保線員の澤田トシが線路図面を広げて座っていた。

 

「ちッ……狭苦しい部屋に、物騒な客が乗ってきたもんだぜ」

 

ヨドキはタバコを吹かすマネをしながら、チラリとバックミラー越しにイオリを睨みつけた。

 

イオリは腕を組み、ヨドキのすぐ後ろに仁王立ちしてスピードメーターを穴があくほど見つめている。

 

「言い訳は無用。いい? この区間の最高規定速度は『時速80km/h』。80.1km/hになった瞬間に、あんたの手首に手錠をかけるからそのつもりでいなさい!」

 

「へいへい、おっかねぇことで。……だがなぁ、風紀委員のネエちゃん。うちの線路はちょっとばかり『癖』があるんだ。しっかり手すりに掴まっておいた方が身のためだぜ?」

 

「バカ言わないで! 列車が多少揺れたくらいで、どうこうなるわけないでしょう!」

 

イオリはフンとあざ笑い、手すりすら握ろうとしなかった。手下の風紀委員たちも同様に、高圧的な態度で腕を組んでいる。

 

「ヨドキ、準備完了だ」

 

助手席のトシが、多機能モニターの数値を調整しながら言った。

 

「KP1からKP15までの線路状態……昨夜の地殻変動と温泉開発部の無断掘削により、路面の『うねり』と『歪み』は過去最高レベルだ。標準のバラス打設じゃ追いついてねぇ。安全に走るなら……分かってるな?」

 

「おうよ」

 

ヨドキの瞳に、怪しい職人の光が宿った。

 

通常、ゲヘナ線の歪みまくった悪路を走行する場合、選択肢は二つしかない。

一つは、時速20km/h以下の「超・徐行」で慎重に進むこと。だが、それを行えば確実に2時間以上の遅延が発生し、17時退勤は永遠に失われる。

もう一つは、「時速120km/h以上の超高速で突っ込み、遠心力と慣性力で車体をねじ伏せて跳び越える」こと。彼らが普段行っているのは、まさにこれであった。

 

しかし、今は背後にイオリが立ち、80.1km/hを出した瞬間に逮捕すると脅している。

 

ならば、ヨドキが取るべき「第三の選択肢」は——。

 

規定制限速度【80.0km/h】を1km/hたりとも超えず、かつ1km/hたりとも落とさずに、歪んだ悪路を走破する【極限のミリ単位荷重制御走行】!!

 

「発車するぜ……風紀委員様ご一行!」

 

ガコンッ!!

 

ヨドキがガスタービンノッチを一気に引き絞った!

 

「っ!?」

 

重厚なGがキャビンを襲い、猛然と加速を開始した。

 

デジタル表示のスピードメーターが目まぐるしく跳ね上がる。

40……60……75……79.8……79.9km/h!!

 

「そこまでだ! これ以上加速したら——」

 

イオリが銃口を向けようとした、その瞬間であった。

 

ズシャアァァァァァンッッ!!!!**

 

「なっ……がはっ!?」

 

突如として、イオリの体に斜め下からの猛烈な衝撃が突き抜けた!

 

KP2地点。そこは、前日に温泉開発部が勝手に地下を掘ったせいで、右側のレールが3センチ低く沈下し、さらに左側へ6度傾斜しているという「悪魔のS字カーブ」であった!

 

通常の運転であれば、車体は大きく右へ傾き、乗客は悲鳴を上げる。

だが、ヨドキの運転は違った。

 

「トシ! 右荷重残し、ノッチ3分戻し! ブレーキ力0.2ミリ加圧!」

 

「合点だ! 左減衰ダンパー、最大絞り!」

 

ヨドキは旋回半径とレールの沈下率を頭の中で瞬時に計算し、制限速度79.9km/hを寸分狂わずに維持したまま、左右のブレーキを個別にミリ単位で細刻みに踏み分けたのだ!

 

結果どうなるか。

 

車体そのものは転覆しない。しかし、車内の空気と人間には、「時速80km/hの慣性」と「強引に抑え込まれた力学の歪み」が、エグいレベルの複合G(加速度)となってダイレクトに叩きつけられるのである!

 

「うぐっ……!? な、なにこれぇぇぇっ!?」

 

イオリの体が、まるで透明な巨人に殴られたかのように、右壁へ強烈に叩きつけられた!

 

「!?」

 

手下の風紀委員たちに至っては、手すりを握っていなかったため、天井と床の間をピンボールのように跳ね回り、ズザーッ! と床を転がっていく!

 

「くッ……! スピード……スピード違反!?」

 

イオリは壁に押し付けられたまま、必死にスピードメーターを仰ぎ見た。

 

【 79.9 km/h 】

 

「な……ッ!? 違反……してない……!?」

 

「当たり前だろ! 俺はプロだぜ!」

 

ヨドキは歪んだ笑みを浮かべ、猛烈な勢いで操縦桿とブレーキレバーをガチャガチャと操作し続けていた。

 

「制限速度80.0km/h! 現在79.9km/h! コンマ1キロのオーバーもねぇ! 完全な安全合法走行だぁぁぁっ!」

 

「じゃあ……じゃあなんでこんなに揺れるのよぉぉぉっ!?」

 

「線路が曲がって沈んで歪んでるからに決まってんだろ! トシ、KP5の『ジャンプ台連凸構造』に入るぞ!」

 

「おう! 上下旋回G、3G通過! 舌噛むなよ風紀委員ども!」

 

「へ……? ジャンプ……あがっ!?」

 

グワァァァァンッッ!!!!

 

次の瞬間、イオリの視界が垂直に跳ね上がった。

 

KP5地点。そこは保線が追いつかず、レールが波状にうねっている「縦揺れ地獄ゾーン」。

ヨドキはスピードを落とせば遅延が出ると判断し、79.9km/hのまま、車体前部を持ち上げるような過酷なピッチング制御を敢行!

 

機関車は跳ねない。しかし、車内のイオリたちの胃袋だけが、強烈な無重力(0G)と、直後の3G(体重の3倍の重力)の急降下によって、上下にグワングワンと激しく揺さぶられた!

 

「おえっ……!? ぐっ……あ……あたまが……胃がぁぁぁっ……!」

 

イオリは両手で口を押さえ、膝から崩れ落ちた。

 

「隊長! しっかりしてください!」

「無理です……私……もう三半器官が……目がまわっ……ぐへぇっ!」

 

後ろの風紀委員たちは、すでに壁に激突して卒倒しているか、泡を吹きながら床で悶絶していた。

 

「安全運転! 規定速度厳守! 指差し確認、スピードメーター79.9km/hよしッ!」

 

ヨドキの声が、地獄の讃美歌のように運転室に響き渡る。

 

「おいおいヨドキ! KP8の連続S字で路面崩落跡があるぞ! 右に18度ロールする!」

 

「任せとけ! 79.9km/hのまま、右ブレーキ片効かせで車体を滑らせる!」

 

ギュルルルルルルルッッ!!!!

 

「ひゃうんっ!?」

 

列車が、制限速度ピッタリのまま、線路の上でドリフト状態の慣性走行を敢行した。

 

キリキリと金属が擦れ合う悲鳴のような爆音が響き、車内は横G、縦G、そして斜め方向への剪断Gが目まぐるしく交差する「人間洗濯機」と化した。

 

イオリはもはや立ち上がることすらできない。

ツインテールはボサボサになり、褐色の肌は青ざめ、白目を剥きかけながら床をのたうち回っている。

 

「な……なによ……なによこの運転はぁぁぁっ! 法規を守ってるくせに……殺しにかかってきてるじゃないのよぉぉぉっ!!」

 

「失礼なことを言うな!」

 

ヨドキが真顔で叫び返す。

 

「俺はアンタの言った通り、1km/hもスピードオーバーしてねぇ! むしろコンマ1キロの狂いもなく80km/hをキープする、奇跡の精密神業走行だぞ! 感謝してほしいくらいだッ!」

 

「感謝なんてできるかぁぁぁっ! うっ……おえっ……!」

 

イオリは込み上げてくる胃液を必死に呑み込んだ。

 

この男は狂っている。

普通なら、これほど歪んだ悪路であれば、スピードを落として安全に進むか、あるいはスピードを出して遠心力で揺れを相殺させるのだ。

 

だが、ヨドキは「規定速度80km/h」という数字を死守するためだけに、歪んだ線路が物理的に生み出す最悪のGを、そのまま体へと叩きつけるという、狂気の「超・安全運転」を行っているのだ!

 

「トシ! KP12通過! 残り3区間、全線歪み率MAXだ!」

 

「よし! このまま行けば、16時58分に南ゲヘナ駅到着! 定時退勤確定だぞ!」

 

「よっしゃあぁぁっ! 79.9km/hキープ!」

 

ズグワァァァンッ! ガコンガコンッ!!

 

「ああぁぁぁぁっ! た……助けて……アコ……助けてぇぇぇっ……!」

 

イオリは床を這いずりながら、涙目で運転士の背中を見上げた。

 

視界がぐにゃぐにゃと歪む。頭の中で鐘が連打されているような激しい吐き気。このままあと10分この「79.9km/hの拷問」が続けば、風紀委員としての尊厳が完全に崩壊してしまう!

 

「た……頼むから……」

 

イオリは振り絞るような声で叫んだ。

 

「頼むから……揺れを止めろぉぉぉっ! こんなぐおんぐおん揺れるくらいなら……遠心力で安定させるために……いっそスピードを出せよぉぉぉっ!!」

 

「あぁ!?」

 

ヨドキがチラリとイオリを見下ろした。

 

「おいおい、風紀委員の隊長さんよ。今なんつった? スピードを出せだぁ?」

 

「ええい、出しなさい! スピードを出しなさいと言ってる! 100キロでも120キロでもいいから、さっさとこの悪路を通り抜けろぉぉぉっ!!」

 

「……言ったな?」

 

ヨドキの口元が、ニヤリと悪魔のように吊り上がった。

 

その時、操縦席の脇に置かれたヒヨコの多機能端末から、ピコンと小さく電子音が響いた。

 

『音声データ「速度出せ」録音(Rec)、完了しました〜♪』

 

「なッ……!?」

 

イオリがハッと息をのんだ時には、すでに遅かった。

 

「指示了解! 風紀委員会遊撃隊長・銀鏡イオリ殿の『直接命令』により、制限速度を解除! ガスタービン全開だぁぁぁっ!」

 

ブゥゥゥゥォォォォンッッ!!!!

 

ガスタービンエンジンが咆哮を上げ、一気に加速を開始した!

 

100km/h……110km/h……120km/h!

 

圧倒的な超高速域に達した瞬間、過酷な遠心力と慣性力が車体をガチリと固定し、あれほど地獄のようにぐおんぐおんと揺れていた車内が、まるで嘘のようにピタリと平穏を取り戻した。

 

静かで、滑らかな、滑るような爆走走行。

 

「は……はぁ……はぁ……」

 

床に倒れたイオリは、揺れが収まったことに安堵し、力なく荒い息を吐いた。

 

「た……助かっ……た……」

 

だが、彼女はまだ気づいていなかった。

自分が解き放ってしまった「最悪の罠」の存在に。

 

◆

 

16時58分。南ゲヘナ駅第1ホーム。

 

 

改札前で腕組みをし、懐懐時計を見つめるアコ。

 

「そろそろイオリが、あの暴走運転士を手錠で繋ぎ、連行してくる頃ですね。速度オーバーの証拠は十分。これでゲヘナ線区の運行は停止……我が風紀委員会の完全勝利です!」

 

その時、キィィィィィッ! という重厚なエアブレーキの音とともに、ガスタービン機関車が完璧な滑らかさでホームへと停車した。

 

「来ましたね。」

 

アコが勝利を確信して駆け寄る。

 

機関車の扉がプシューッと開き、中から出てきたのは——。

 

「うぐ……あぐ……」

 

髪はボサボサ、制服はシワだらけ、顔面は土気色になり、手下の風紀委員たちに担がれるようにして這い出てきた、ボロボロのイオリの姿であった。

 

「イ……イオリ!?」

 

アコが目を見開いて叫ぶ。

 

「どうしたのですかその無様は!? 事故ですか!? 暴行を受けたのですか!?」

 

「ア……アコ……」

 

イオリは震える指先でヨドキを指差した。

 

「あいつを……捕まえて……速……速度違反……最後……120キロ出……出した……」

 

「なんですって!?」

 

アコは憤怒の形相で、運転席から悠々と降りてきたヨドキと、待ち構えていた士方リョウへ詰め寄った。

 

「聞きましたか士方維持長! イオリの証言通り、最後の最後で120km/hの速度違反を犯しましたね! 現行犯で全員拘束し、この路線を即座に運行停止にします!」

 

アコが手錠を取り出そうとした、その瞬間。

 

「失礼、アコ行政官」

 

リョウが静かに胸ポケットから、小型のスピーカーを取り出した。

 

「逮捕の前に、こちらの音声データをご確認いただけますか?」

 

「音声データ……?」

 

リョウがボタンを押すと、スピーカーから鮮明なイオリの悲鳴と叫び声が響き渡った。

 

『ええい、出しなさい! スピードを出しなさいと言ってる! 100キロでも120キロでもいいから、さっさとこの悪路を通り抜けろぉぉぉっ!!

』

 

「「……」」

 

ホームに、気まずい沈黙が流れた。

 

アコがロボットのようなギチギチとした動作で、青ざめた顔のイオリへと視線を向ける。

 

「イ……イオリ……? これ……貴女の声……ですよね……?」

 

「あ……いや……あれは……その……」

 

イオリは滝のような汗を流しながら、必死に手を振った。

 

「ち、違うアコ! あの運転士、制限速度を守りながら私を殺しにかかってきたんだ!? ぐおんぐおん揺れて、胃が出そうになって……だから、安定させるために……!」

 

「理由はどうあれ」

 

リョウが氷のように冷たい声で、アコに突きつけた。

 

「ゲヘナ自治法第45条『公務員による過失および違法な指示の教唆』。現場の最高責任者である銀鏡イオリ隊長から、我が運転士に対し『速度を上げよ』という直接の違反命令が発出されました。我が方は、公的機関の指示に従ったに過ぎません」

 

「な……ッ!?」

 

「したがって、今回の120km/h走行は『公務員による正当な指示に基づく緊急回避措置』となり、我が方の速度違反手続はすべて無効。……むしろ、現場の安全運行を著しく害する違法指示を出したイオリ隊長に対し、我がハイランダーから風紀委員会へ抗議文書を提出させていただきます」

 

「そんなの……そんなの理不尽です…!」

 

アコが悲鳴のような叫びを上げた。

 

制限速度を守らせれば「人間洗濯機」のようなGで殺しかけ、耐えかねて速度を出せと言わせれば「不当な違反指示」として論破する!

どこまで行っても、彼らの手の中で踊らされているだけではないか!

 

「……さて」

 

リョウは一切の感情を挟まず、腕時計を見つめた。

 

【 16:59:50 】

 

「手続および抗議文の受領確認は、また明日にしましょう」

 

リョウは改札口のタイムレコーダーへと歩み寄り、タイムカードをスッと差し込んだ。

 

ピピッ、ピピッ。

 

ガチャンッ!!

 

【 16:59:59 打刻 】

 

「本日も、定時運行および定時退勤……完了です」

 

リョウは完璧な動作で敬礼し、カバンを手に取った。

 

「お疲れ様でした、アコ行政官。イオリ隊長。……お帰りの際は、どうぞ我がゲヘナ線の『安全で快適な普通列車』をご利用ください。……もっとも、速度制限は厳格に守りますので、お揺れにはご注意を」

 

「うぐぅぅぅぅッ……! 覚えていなさいよぉぉぉッ!」

 

悔しさに地面をダンダンと踏みつけるアコと、車酔いで完全にKOされ、ホームのベンチで横たわったままピクピクと震えるイオリ。

 

その横を、17時ピッタリに業務を終えたリョウ、ヒヨコ、トシ、ヨドキの4人が、満足げな笑顔で通り抜けていく。

 

「いや〜、今日も良い仕事したな! ヨドキ、お前のあの微小ブレーキ踏み分け、神がかってたぜ!」

「へへっ、風紀委員のネエちゃんが『スピード出せ』って言った瞬間の顔、最高だったな!」

「ヒヨコ、録音データの保存とバックアップ、怠るなよ」

「バッチリです、維持長! 本校の独立サーバーにも転送済みですよ〜!」

 

夕暮れの赤茶けた荒野に、彼らの軽やかな足音が響き渡る。

 

風紀委員会との不毛で、けれど熱すぎるバトル。

第一ラウンド「過剰コンプライアンス」、第二ラウンド「ミリ単位の超安全走行」——どちらもハイランダー治安維持部の完全勝利に終わった。

 

だが、風紀委員会の執念もまた、ここで潰えるようなものではない。

 

「……ハァ……ハァ……」

 

ベンチで横になりながら、イオリは去っていくリョウたちの背中を、殺気走った瞳で睨みつけていた。

 

「……許さないわよ……ハイランダー……! 次は……次は現場の『保線作業』と『救護』の現場で……絶対に尻尾を掴んでやる……!」

 

 





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