自分を犠牲に世界を救った魔法少女は、死にかけの体でも魔法少女を続けたい 作:激重感情大好き侍
☆ ☆ ☆
結局、私はあの後屋上で気絶しているところを発見された。
アグレッサーが倒されたことを知った先生たちが、校舎内に取り残された生徒がいないか確認していたところ、見つかったらしい。
幸いにも、私が魔法少女であることはバレている様子はなかった。
と、倉田さんから聞かされた。
「……で、弁明は何かあるかい」
家に帰り、倉田さんは当然のごとく怒っている。
こういう時は正座するのがお決まりなんだろうけれど、今の私は起き上がることすら困難で、ベッドの上に寝っ転がりながらだ。
ベッドのすぐそばに椅子を持ってきて、倉田さんが座っている形になっている。
「ごめんなさい」
「それは、何に対してのごめんなさい?」
「…………」
とりあえず謝ったはいいものの。
確かに、何に対してなのだろうか。
倉田さんはきっと、私が二度と魔法少女にならないことを望んでいた。
にもかかわらず、私は魔法少女を続けたいと願っている。
この謝罪は酷く自分勝手なものだ。
「ごめんなさい。と、言ったの、ごめんなさい」
「はぁ、馬鹿だよ本当に。おバカ」
呆れられてしまった。
それもそうだ。
一度の変身、それも全力からは程遠い変身だったのにも関わらず。
私の体はピクリとも動かせない程、悲鳴を上げている。
たったあれだけの時間の変身で、三途の川を渡りかけていた自覚はある。
というよりも、ずっと私は三途の川のほとりに立っているようなものなのだ。
変身するということは、川へ向かって歩みを進めるようなもの。
「……結果的に、学内関係者に犠牲者はいなかった。それで満足かい?」
私以外には。と言いたげな声色だった。
良かった、と言いたい。
でも、言ったら倉田さんは悲しむだろう。
そのぐらいは、出来損ないの私にもわかる。わかってしまう。
大きくため息を吐かれた。
「政府が愛田美菜の生存を隠している理由を、覚えている?」
「――市井の混乱を避けるため」
「その通りだ」
政府の初期発表では、富士山山頂のゲートは無事に崩壊したとされている。
同時に、そのゲートを閉じるために一人の魔法少女が命を費やしたとも。
この時点で、この二つの情報はセットになっている。
魔法少女が犠牲になって、ゲートを破壊した。
ということは、犠牲になったはずの魔法少女が生きていたというのなら。
もしかしたら、ゲートが破壊されたというのも不確定情報なのではないか?
人々がそう思わないために、私という存在は秘匿されている。
「今回水上がしたことは、その根底を覆しかねない行為だって自覚はあった?」
「……考えて、なかったです」
「だろうね。そんな死にかけで帰ってくるぐらいなんだから、後の事なんて考えてるはずがない」
「うっ」
ちくちくと言葉で刺される。
けれども、これは受け入れるべきだ。
私は確実に、自分勝手な行動をとったんだから。
「……はぁ」
またため息。
倉田さんは本当に思い詰めている様子だ
「心配かけて、ごめんなさい」
「わかってるなら、ってのも意味ない言葉だね」
「ごめんなさい」
謝ってばっかりだ。
けれども、他にできることがないのだから仕方がない。
今の私にできることは、倉田さんへ申し訳ない気持ちがあることを表明することだけ。
「……そこまでして、魔法少女を続けたいのか?」
苦しそうな、辛そうな声色の問いかけだった。
「なあ、世界を救ったってのに、まだ救い足りないのか? 私たちはそんなに頼りないのか?」
「ちがっ」
「何が違うんだ?」
倉田さんの目には、昏い光が宿っている。
私が、こんな目をさせている。
「お前は世界を救ったさ。世界を救ったんだ。もう十分だろう」
「でも――」
「わかってる。お前がやらなきゃ、犠牲者が出てた。それは自明だ」
倉田さんは、何もかもをわかってくれている。
わかっている。だから、悲しんでいる。
――彼女は、魔法少女ではないから。
誰よりも、無力さをわかっている。私以上に。
「……人類を救った英雄様が、こんな惨めじゃあ救いがなさ過ぎるだろう」
ああ、きっと、これが彼女の本音なのだろう。
地獄の世界を生き抜いてきた人だからこそ。
今の平穏の時代を良く知っている人だからこそ。
彼女は、誰よりも私に幸せになってほしいと願ってくれている。
ありがたいことだとはわかっている。
わかっているのだけれど。
「ごめんなさい」
「いや、これは勝手な我儘だ。気にしないでほしい」
「でも、ごめんなさい」
「……」
再び、沈黙が場を支配する。
何を話していいのか、わからない。
魔法少女を続けたしことを話したいけれど。
話せば、きっとまた傷つけるから。
「……昔っから、魔法少女ってシステムが嫌いなんだ」
沈黙を破ってくれたのは、倉田さんの方だった。
「年端も行かぬ少女に戦えって言って、大人たちは後方で腕組みか? あーだこーだ、議論して、それが彼女たちの命を救ったことがあったか?」
「あったよ。きっと」
「誰が作ったのかは知らないが、もしも神様が作ったってんならそいつは邪神の類だ。傷つくのは大人でいいだろう。大人がやればいいだろう。何で子供にやらせる? なぁ」
ずっと、胸の奥に抱えていたであろう言葉。
倉田さんは、我慢できなくなって吐き出した言葉。
私には、この言葉を受け止める義務がある。
「私はもう大人ですよ」
「だが、当時は違った」
「……それは、そうですね」
私の面倒を全部見てくれていることからも、倉田さんはとてもいい人だと分かってる。
いい人だからこそ見過ごせない。
いい人だからこそ我慢できない。
悪い大人なら、私の事を利用してくれるのに。
なんて考えてしまう、私は本当にロクデナシだ。
「――すまない。愚痴を聞かせたな」
「いいえ。私が受け止めるべき言葉でした」
「そういうところが嫌なんだ。魔法少女は、子供を強制的に大人にしてしまう」
……倉田さんの経歴については詳しくは知らない。
けれど、きっと軍人だったんだろうな。と思う。
戦いたかったんだ。戦えなかったんだ。
倉田さんからは、その無念が感じられる。
「……はぁ。最終確認だ、水上は魔法少女を続けたいのか?」
これはなんかもう。
色々と諦めの入った言葉だなって。
ここに頷いてしまえば、私は倉田さんに受けた恩を仇で返すロクデナシになる。
否定すれば……きっと、恩を返せる。
「――はい。つづけたい、です」
でも、この気持ちに嘘はつけない。
私の居場所はここじゃない。ここじゃないんだって、魂が叫んでる。
どうしようもないんだ。
体が死んでも、魂は生きている。
私の心は、あの戦場に取り残されたままなんだ。
「一度だけ撤回の機会をやる。どうする」
「撤回、しませんっ!」
ベッドの上で動けなくなっていて。
倉田さんの支援無しでは全く生活できないような状況だけれど。
この我儘は通したい。通さなければならない。
私が、私であるために。
倉田さんは悲しそうに目を細めた。
その視線はどこまでも優しくて、辛そうで、苦しそうで。
一言では言い表せない程、様々な色を湛えていた。
「政府としては、お前が公に活動することを、認めることはできない」
「はい、わかってます」
「そのうえで魔法少女を続けたいというのなら――」
国家反逆罪とかで捕まるのだろうか。
牢屋送りにされても構わない。私は、この魂に嘘を吐かなかったと言い張ることができる。
最低限、生きていたと言い切れる。
「――まずは、体に負担をかけない程度の運動からだな」
「……え?」
倉田さんの口から出たのは、とても予想外な言葉。
私が魔法少女をやることを、肯定してくれたかのように聞こえた。
「一つだけ約束しろ」
「な、なんでしょうか」
「死ぬな」
端的な命令だった。
「死ぬな。死ねば終わりだ。命あっての物種だ。だから、意地を通すなら、何としても生きろ」
「……はいっ!」
体は動かないけれど。
魂に宿った熱が、再び火を噴き始めた。