我が道を往くいじめられっ子は人生を変えたい 作:名無しのなな
ありていに言えばその時の私は暇だったのだ。普段なら見知らぬ男に話しかけられたら警戒するのだがその時の私はちょうど新しい刺激が欲しかったのだ。自分の煮詰まっていた状況が一変するようなそんな劇的な出来事を。
まさか、あの時、彼に声をかけられて応じたことによってその後の人生が変化するとは当時は思いもしなかった。
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「あの、君、東京女子高校の子だよね?」
予備校の談話室にいた時に私は見知らぬ男に話しかけられた。
短髪の涼し気な目元のイケメンだ。私の人生にはほとんど関わりのないタイプだがこういう人と少しでも会話するの面白いかもしれないと思った。
「はい・・そうですけど何か?」
私の通っている東京女子高は東京と神奈川の境目にある女子高で、制服がメインキャラが全員ツインテールヘアのご長寿アニメの魔法少女シリーズの主人公が通う中学校のセーラー服のモデルになったくらいかわいいと評判で有名だった。
なので制服で歩いているとですぐに学校名が特定される。
私のような眼鏡の三つ編み地味陰キャ女でもこの制服のかわいさ込みで女子高生というブランドと若さ補正で高く見積もられてP活おじさんに声をかけられるくらいなので、今このタイミングでナンパされても不思議ではないと思って返事をする。
「俺、海常高校3年の森山由孝っていうんだけど・・・」
「はぁ・・・」
3年生ということは受験生なのか。あまり予備校内で見かけない人なのでおそらく単発の受験対策講座の為だけにうちの予備校に来ている人なのだろうとは思った。
「ここの予備校に通っていた君と同じ東京女子高校の長谷川佐保さんって子と連絡先交換して仲良くしてたんだけど急にここの予備校に来なくなって連絡もつかなくなって心配なんだよ」
「あ~・・・長谷川さんですか・・・」
長谷川佐保とは同じ学年で同じクラスだが私は彼女のことが苦手・・・というよりも彼女からいじめられているので苦手なタイプの人間だ。
女優の石原景子にそっくりな大人っぽい美人でミスコンにもエントリーされたくらいの子で私とは違うところしかない子なのになぜか私のことを毛嫌いして意地悪をしてくるのである。
私が教室内で美少女がたくさん出てくるアニメやハーレムアニメや萌え系イラストの話を平然としたりするのが嫌なのかもしれないがそれならはっきりと言って来るか距離をとってくればいいのにわざわざ私に聞こえるように嫌味を言ってくるので本当に迷惑なのである。
そんな存在でもある彼女は私と同じ予備校なのが嫌で予備校を辞めたのである。どうして知っているのかというと教室内で大声で「あいつと同じ予備校なんて最悪だからやめてやったの!」とクラスの全員の前で暴露したからである。
最初は私に予備校を辞めさせようとしたらしいが予備校に通うのはレベルの高い高校の子ばかりで自分のことで忙しいようで長谷川さんのご機嫌取りやいじめの誘導に乗ったりすることが不利益だと判断したらしく長谷川さんの私を予備校から追い出そう作戦は失敗して自分から予備校を辞めて行ったのだ。
(まぁ~詳しく言わなくていいか)
彼女の名誉のためでもなくこれ以上余計な恨みを買いたくないので言わないことにする。
それに彼女がこの予備校を出て行ってからもしばらくは長谷川さんに散々嫌がらせを受けたし今も嫌がらせを受けている被害者なのだ。
せっかくできた心の拠り所を失いたくはないので余計なことは言いたくなかった。
森山さんは真剣な顔でじっと私のことを見つめていた。
なんだか圧を感じて怖い。
「長谷川さんはつい先日、うちの予備校辞めたんですよね~。だからここに来てももう彼女には会えないと思います」
私は淡々と事実だけを述べることにした。
本当はもう少し言葉を濁したかったが彼は真剣に彼女を気にかけているようなのでオブラートに包んだ言い方をしたほうがいいのかなと思ったが正直に言うことにした。
たぶんこの人は悪い人じゃないと思ったのだ。だってさっきから話している感じで誠実な感じが伝わってくるからだ。
この人なら長谷川さんと会って話をしたほうが良い方向に行くような気がしたのだ。もちろんそれは私には関係ないことなのだがそれでももし彼と長谷川さんが関わることでなにかが変わるきっかけができるのであればそれで私の人生もちょっと良くなるような予感がしたのだ。
ただそれだけのこと・・・。
それだけの小さな親切心が私を動かしたのだ。
「それじゃあ、私はこれで・・・」
私はそれだけ言ってこの場を離れることにした。
(あの人けっこうイケメンだったな~。長谷川さんも美女に生まれてあんなイケメンに好かれるのに人生おもしろくなくてわたしのこといじめてるなんてかわいそうな脳みそだよな~)
そんなことを考えながら足早に立ち去ろうとしたときのことだった。
ぎゅっと腕を掴まれる感覚がした。驚いて後ろを振り返ると森山さんが私の腕を掴んでいたのだ。
私は混乱して頭が真っ白になった。
「なにごと?!」
「ごめん!いきなりびっくりしたよな。さっき言ってたことは本当かどうしても確かめたかっただけなんだ。でも君が嘘をついてるようには見えなかったし俺の勘が正しいのならきっと本当のことなんだろうなって思ってそれで確認っていうか何というか・・・」
森山さんは申し訳なさそうな顔をしてしゅんっとしてしまった。
どうやら私がその場を去ろうとする行動を見て焦って引き留めただけのようだ。
私から見てみれば森山さんが必死すぎて私の方がびっくりしてしまった。
「長谷川さんが予備校を辞めたのは本当ですよ~。信じられないなら、ほら、彼女のインフルエンサー活動用のSNSアカウント。元気にショート動画や自撮り載せてるじゃないですか?長谷川さんは生きてて普通に学校来てますから安心してください」
私は自分のスマホでSNSを開いて彼女に投稿された写真を見せながらそう言った。長谷川さんはインフルエンサー兼モデル(キャンギャルみたいな?)をしているようでSNSを頻繁に更新していて仲良くないクラスメイトたちにもフォローやイイねをするように圧をかけて来るので長谷川さんにいじめられている私でさえも長谷川さんのSNSを知っていて定期的に見るようになっていてしょうがないとも思う。
森山さんは安堵したような顔で画面を見ていた。そして次に少し残念そうな顔をした。
なんだろう?なにか心残りなことでもあるのだろうか。
とりあえず話は済んだので今度こそ帰ろうとしたらまた呼び止められた。
「あのさ・・・名前教えてくれないか?俺はさっきも言ったけど海常高校の森山由孝って言うんだ」
「あ、はい。私は東京女子高校2年の七海菜々といいます~。以後お見知りおきを~」
今後会うかもわからないが一応名乗っておく。礼儀だと思うからだ。
すると彼は嬉しそうな顔をして私の手をつかんできた。しかも両手で包み込むようにして。
一瞬の出来事でびっくりしてしまう。
「え?!」
あまりにも突然過ぎて反応できなかったのもあるがいきなり手を握られるという行動をされて私は固まってしまったのだ。
男の人に手を握られるなんて生まれて初めての経験だったからだ。
しかも相手は超絶イケメンである。こんなイケメンにこんな風にされたらどんな女子でも緊張してしまうだろう。
私は心臓がバクバクして顔が熱くなった。
「なんですか?!」
「なんか君の笑顔に救われた気がするよ」
彼はそう言って微笑んで見せた。
まるで物語に出てくる王子様のようにキラキラ輝いて見えた。まぶしくて直視できない。
「え、笑顔・・・」
笑顔と言っても社交辞令用の引きつったぎこちない笑顔だったような気がするのだがいかんせん私はそのときの自分の顔がわからない。
私の笑顔が彼を勇気づけるようなものだったとは思えないのだけれどそう言われてもよくわからなかった。
それよりも彼が私の手をまだ握ったままであるということがとても気になる。
手が熱くて心臓が爆発しそうなくらいドキドキしているのだ。これがもしかして恋なのだろうか。
いやいや違う、絶対に違うと思い直す。これは緊張のせいだ。
「おほほほほほ~・・・・」
私はよくわからず森山さんから距離を取ろうと後ろに下がるが森山さんはさらに距離を詰めてきた。
なんでこうなったのか意味がわからなかった。どうしてこんなことになったのだろう。
もうわけがわからないので帰りたい。帰って一人で好きなことをしたい。
そう思うのだが森山さんはどんどん近づいてくる。
やばい。このままでは追い詰められてしまう。
そう思った瞬間、長身で優しそうな男性が現れて森山さんの肩を掴む。
「森山。そんなに強引に迫られたら彼女怖がってるだろ。あとその手離せ」
すると森山さんは慌てて私から手を離して謝罪してきた。どうやら森山さんの知り合いのようだ。助けてもらったのでお礼を言った。
「ありがとうございます~」
「あぁ。うちの森山が迷惑かけたみたいですまんな」
すると彼はにこりと笑って返事をした。笑うと目が細くなってますます優しそうに見える。
「それじゃあ私はこれで~」
私はそう言うと横断歩道を渡ってそのまま立ち去った。
しばらく歩いて後ろから彼の声が聞こえて来た気がしたけれど気のせいだと思い無視することにした。
(今日は色々あったな。早く家に帰ろう)
**
「元気出せよ、森山。今回は縁がなかったんだよ」
小堀は長谷川佐保に音信不通にされて沈んでいる森山を慰める。
小堀からすればいつものことなのだが何度経験しても落ち込んでしまうのは仕方ないと思うところもある。
「昨日声かけてたあの予備校に通ってた長谷川さんと同じ学校の女子からもはっきり長谷川さんは予備校辞めたけど元気に学校通ってるって教えてもらえたんだろう?なら良かったじゃないか」
森山はかなり凹んでいるようだがそこまで落ち込んでいるというわけでもなさそうだとは思ったが一応そういうフォローを入れてみる。
しかしそんな言葉で癒せるほど今回の案件は軽いものではないようだ。森山は深くため息をつく。
「今回は連絡先交換してから2か月も続いたのに・・・それが全部嘘だったなんて信じられるか!?あの子俺にずっと優しかったんだぞ!最後はなんであんなに冷たいんだよー!!」
森山はそう言って机に突っ伏した。
さすがに森山の気持ちもわからないわけではない。
「これから受験もあるしIHもあるんだから恋愛に入れ込むよりも今はそっちに集中しないとダメだぞ」
小堀はそう言い聞かせてみたものの森山にとっては納得できないことだらけであった。
むしろ余計に落ちこんでしまい小堀はどうしたものかと考える。
「あれ?森山先輩どうしたんスか~?」
同じバスケ部の後輩の黄瀬涼太が話しかけてきた。
「森山がまた女の子にフラれたんだよ。今回は二ヵ月も続いてたからショックが大きいんだと思う」
「へ~相変わらず森山先輩は女運悪そうッスね~」
黄瀬は少し同情しながら森山を見た。
森山はまだぐでんとしている。ここまで落ち込む森山を見るのは初めてなので黄瀬としても驚いたのである。
森山はモテているが基本的に女慣れしていないのでいつもすぐフラれることが多い。
今回に限ってこんなにも落ち込んでいるのは珍しい。
それほど彼女のことが好きだったということだろう。
(こりゃ重症だな~)
黄瀬も同情しつつ様子を見守る。
すると黄瀬の目に机に突っ伏していた森山の近くにある森山のスマホに目が入る。画面には長谷川佐保のインスタの自撮り画像が映っていた。
「森山先輩の彼女?ってもしかしてこの子っスか?」
「そうだ」
黄瀬は森山のスマホの画面を覗きこみながら言った。
「あ~・・・そうなんスね~」
黄瀬は歯切れ悪く返事をした。
「なんだよ。黄瀬、言いたいことがあるならはっきり言え」
黄瀬の様子が少しおかしいことに気づいた森山は怪訝そうな顔で黄瀬を見た。
黄瀬は慌てて首を横に振る。
「いや、なんでもないッス!全然大したことじゃないんで気にしないでくださいっス!」
「そうか?」
森山は不思議そうに首をかしげた。
そして森山は決意するかのように拳を握る。
「やっぱ俺、もう一度頑張る!」
「え?そうっスか?」
「今度は新たに出会ったあの子と付き合うんだ!」
森山は勢いよく立ち上がりガッツポーズをしながら宣言する。
「え?この子のことはもういいんスか?」
黄瀬は森山のスマホを手に取って表示された長谷川のインスタを見せながら聞いた。
すると森山はちょっと考えた後にこう言った。
「確かにこの子は可愛かったけど他にももっとかわいい子はたくさんいるはずなんだ!今思えば昨日、声をかけた子が運命の人だったんだな」
そう言いながら遠くを見つめる森山を見て黄瀬は呆れた顔をした。
(それってつまり誰でもよかったってことじゃ・・・)
黄瀬はどう返していいのか分からず困った顔をしていると森山が口を開く。
「その子はまた後で探すことにする。お前の言う通り他の子に目を向けた方が効率的だからな。よしっ!そうと決まれば早速ナンパだ!」
森山は意気揚々とカバンを持って立ち上がって廊下に向かって歩き出した。
突然の宣言に黄瀬はぽかんとした顔で森山の背中を見送っていた。
取り残された黄瀬はポツリとつぶやく。
「・・・マジで大丈夫なんスカこれ?」
しかし今の黄瀬にとって森山を止めるすべはなかった。