我が道を往くいじめられっ子は人生を変えたい 作:名無しのなな
菜々が保健室で怪我の手当てをしてもらっていると、バスケ部の森山が入ってくる。
「失礼します。救急箱の消毒液なくなってたから補充するためにもらいにきたんですけ・・ど・・・」
「あ、森山さん」
菜々は保険医に怪我の手当をされながら森山の存在に気づく。
森山はいつものクールな雰囲気ではなく焦ったような表情になっていた。
彼は慌てながら菜々のもとへ駆け寄ってきた。
「どうしたの?!怪我?!大丈夫?!」
森山の問いかけに菜々はいつも通り冷静に返す。
彼の慌てっぷりをみるとよほど心配させてしまったのだろう。
菜々はちょっと申し訳ない気持ちになってしまっていたが、森山に事の顛末を説明することにした。
「なんか、校内で長谷川さんの手下?の屈強な男たちに絡まれてしまって・・・私が起死回生のために相手に反撃するために色々やっちゃって相手の方が重症で救急車で運ばれたんですけど」
菜々は淡々と説明する。
すると、森山の顔はどんどん青ざめていき最後には顔面蒼白になり膝から崩れ落ちた。そして四つん這いになったまま頭を抱えた。
その姿は絶望に打ちひしがれているように見える。
菜々は森山の隣にしゃがみこみ心配そうに声を掛けた。
「森山さん?!大丈夫ですか?!」
すると森山は突然顔を上げ今度は泣きそうな顔になる。
そして菜々の両肩を掴み激しく揺すりながら必死の形相で訴える。
「ど、どうした?!何があったの?!なんで君はそんな無茶なことしたの?!もう少しで死んじゃうとこだったじゃないか?!自殺行為だよ!」
森山のあまりの剣幕に菜々は目を丸くさせる。
菜々は森山がこんなにも声を荒げて怒るところを見るのは初めてだった。
菜々は戸惑いながらも返事をする。
森山は菜々の肩を掴んだまま叫ぶように言う。
「大体、君はなんでそんなに強いんだ?!一体どんな鍛え方したらそんなに強いんだ!?君、どう見ても普通の女子高生にしか見えないのに!」
森山の気迫に押されて菜々は何も言えず口を閉ざしたままだった。
菜々はどう対応していいのかわからず困ってしまう。
「どうって・・・なにも。ただ男の前で泣き崩れた演技しながら近づいて男のチンチンにホッチキスしただけで・・・・特に私は腕力とかは強くないですよ。ホッチキスが武器として優秀すぎただけです」
「うん、待ってちょっと待って」
森山は額に手を当て空を仰ぎだす。
どうやら理解不能のようだ。
いや、もしかしたら理解した上で理解出来なかったふりをしているだけかもしれないが・・・恐らく後者だろう。
菜々は首を傾げつつ言う。
「どうしたんですか?」
菜々は森山の心情がわからず首を傾げる。
森山は未だにパニック状態であり頭の中は整理できていない様子だ。
なぜ菜々がこんなに落ち着いていられるのか理解できず混乱している。
森山からすれば菜々の行動は異常でしかないからだ。
何故なら男子三人に囲まれていたのだから。
しかも体格のいい男達だ。
普通は怖くて動けなくなるだろう。
それなのに菜々は全く怖がらずに立ち向かっていったのだ。
しかも武器を持参して反撃しようとするなんて普通ではあり得ないことである。
森山はそのことに対して恐怖すら感じているようだが、逆に菜々は何でそんなに慌てる必要があるのかわからない様子だった。
菜々にとってはそもそも複数の攻撃的な男子に囲まれること事態は初めてではなかったのだからこれくらい大したことではないだろう認識だったからだ。
そして何よりも、どうやってあの場を乗り切るか考えていた方が重要だと判断した上での行動だったからだ。
「もうこの手は使えませんからもうしないです・・・・。あ、これからどうしよう・・・他に戦う方法あるかなぁ?」
菜々はポケットから武器として使ったホッチキスを取り出してきょとんとした表情で見つめる。
それを見てますます顔色が悪くなっていく森山。
「もう、ダメだ・・・色々とぶっ壊れてる」
「はぁ」
「はぁ、じゃないよ!なんなの?!なにやってるの?!馬鹿なの?!いや、馬鹿なのは知ってたけどさ!!!ほんとになにやってんの?!死ぬつもりだったの?!ねぇ、死ぬつもりだったの?!」
菜々は森山の激しい剣幕に圧倒されそうになるがなんとか踏みとどまって答える。
そもそも、なぜ怒られているのかよく分からなかった。
なぜなら菜々は特になにも考えていなかったからだ。
何も考えずに目の前の敵に立ち向かっただけなのだから当然の結果だと言えた。
むしろ死んだら困る。
「どうしたらいいのかわからなくて・・・昔、読んだ漫画で見たピンチのときの対処法を実際にしたら本当にできました」
菜々は平然と言う。
あまりにもあっけらかんとしている態度に森山は開いた口が塞がらない。
まさか本当にただ単に考えなしにやっただけだとは思わなかった。
つまりは偶然に過ぎなかったということだ。
菜々はいじめられることが多いが名前自身は自分で思っているよりもずっと運が良く幸運な方向に作用することもある。今回がまさにその典型例だ。
森山は頭痛を感じて頭が割れそうだと思いながら名前を見つめる。
その瞳には光が宿っていなかった。
菜々は不思議そうに首を傾げつつ尋ねる。
「どうかしましたか?」
菜々はどこまでも純粋無垢であり子供だった。
無邪気で単純明快な性格の持ち主なのだ。
そんな菜々に森山は呆れながらもなんだか憎めない気がしてきた。
森山は深い溜息をつくと改めて名前に向き合う。
菜々は相変わらず首を傾げて森山を見つめていた。
森山は意を決して口を開く。
「あの・・・七海さん、今度からは危なっかしいことはしないでね。約束してくれるかい?」
菜々は小さくこくりと頷く。
菜々が納得した様子を見て安心したのかホッと息をつく森山。
そして優しく微笑んで言った。
「良かった。それじゃあ気をつけて帰ってね。もしまた何かあったらいつでも連絡していいから」
そう言って森山は保健室を後にした。
菜々はそれを見送りながらしばらく呆けていたがやがて我に返ると慌てて体操着に着替えて暴行されたときの証拠の東京女子高の制服をビニール袋に詰めて
カバンに入れて帰る準備をしだした。
**
「今日、うちの学校に救急車来てたみたいなんスけど何があったんすスかね?」
黄瀬は部活後に部室で着替えながらバスケ部の部員たちに話しかける。
救急車が海常高校に来ていたのは菜々が撃退した男子生徒(長谷川の手下)が名前に撃退された際、名前にズボンの上から男性器をホッチキスで止められたからであるがそのことを知るのは部室内で菜々から直接そのことを聞いた森山以外誰もいない。
森山以外の部員たちはそろって首を傾げる。
そんなこと言われても分からないのである。
むしろ自分たちの方が聞きたいと思っていたところだ。
海常高校の近くに救急車が来ていたとなれば普通に事故か何かがあったのではないかと予想出来るものだが生憎誰も知らないようだった。
ちなみに菜々の犯行を目撃した者は多数居るが全員が口を噤んでいる。
菜々に弱みを握られたら大変なことになると本能的に察したようだ。
「なんだろうな?校内で事故とかじゃね?」
笠松の言葉に納得しかけた一同だったがその割には腑に落ちないようで首をかしげていた。
「俺ら部活中だったからな。まぁ、後で他の奴らに聞いてみるか」
そう言って笠松は制服に着替えていく。
唯一、真実を知る森山は複雑な心境のままであった。
だが、菜々はまだこの事実を知らず無邪気に海常で過ごす日々が続くのであった。