我が道を往くいじめられっ子は人生を変えたい 作:名無しのなな
「あれ?菜々ってばなんで体操着なの?」
次の日、体操着姿で登校して来た名前を見て驚くクラスメイト達。
不思議そうな表情をしているクラスメイト達に菜々は事情を話す。
「ちょっと大幅に汚れちゃって~」
「え~?そうなの?菜々、東京女子高の制服気に入ってたじゃん」
菜々の友人が残念そうにいう。
「う~ん・・・まぁ、しょうがないから~」
菜々は警察沙汰になって何かあった時に長谷川の手下に暴行された証拠として昨日着ていた東京女子高の制服をビニール袋に入れて自宅に保管していたため体操着しか着られなかったのだ。
菜々はまだ担任からの事情聴取は終わっておらず菜々は事件の概要も何も聞かされていない。
菜々自身も昨夜はほとんど眠れておらず寝不足状態のため頭が働いていなかった。
普段であればすぐに気づけることにも気づかないほど疲れ切っている様子の菜々を見た友人たちは慌てて名前を労わる。
菜々はどこかぼんやりとしながらも授業を受けていた。
時折机に突っ伏して寝てしまっていることもあった。
授業中はずっと寝ている状態だ。
たまに起きていても上の空状態でぼーっとしていることが多くノートすら取っていない状態だった。
(なんでだろう・・・・?ちゃんと撃退したし自分で解決したし軽傷だったのに・・・・・)
菜々は昨日のことを思い出していた。
昨日は校内で起こった事件なので警察沙汰になるかならないかわからず菜々も暴行されていた被害者であることから事情はひとまず後日聞かれることとなり解放されたのである。
(今日はまだ何も聞かれてないし・・・まだ何かあるのかな・・・?)
菜々は欠伸をしながら頬杖をつく。
昨日の出来事を思い出すだけで憂鬱になってきた。
**
「ちがいますぅ・・・・私は指示なんてしてませぇん・・・。ただ七海さんって悪い噂があるみたいよって彼に話しただけなんですぅ・・・」
長谷川は事情聴取を受けながら自分は無実であることを主張し続ける。
「為谷(ためや)くんはあなたに言われて正義感に駆られて七海さんに学校を辞めるように言ってその際に暴行したと供述していますがどうなのですか?」
校長と教頭同席のもとで行われる事情聴取は保護者代理としてやってきた教師たちも居合わせて行われていた。
「違いますぅ・・・うぅっ・・・グスングスンっ」
長谷川は涙を浮かべながら鼻水を啜りながら答える。
その姿を見る限り明らかに嘘泣きであるが本人は本気で泣いているつもりらしく周囲から疑いの目で見られているが本人だけが気付いていない様子である。
一方、犯人の男子生徒たちの方は菜々に男性器にホッチキスされた主犯の柔道部の為谷五郎(ためや・ごろう)は大した怪我ではなかったようだ。
ホチキスは男性器にはついておらずにパンツとズボンにだけ止めてあったようで治療は必要なかったため直ぐに退院出来たのだ。
「え~?たいした怪我がなくてよかったです~」
菜々は為谷が退院したことを担任から知らされてにっこりと笑って安堵を示す。
実際のところ菜々自身も軽い打撲程度で済んだことは奇跡的とも言えるほどの幸運であるのだが誰もそれを知るよしもない。
「あんな風に言われる七海さんに問題あるんじゃないですか?」
「そうですよ。俺ら七海さんが海常高校に来なかったらこんなことしませんでしたし」
加害者達は菜々にしたことを棚に上げて自分たちは正義の為で菜々に原因があるので自分たちは悪くないと主張し続けた。
彼等は自分たちはかわいそうな正しくて美しい長谷川佐保のために動いていると言う認識でそんな自分に酔っていた。
話を聞いていた教師たちはもうお手上げ状態だった。
「七海さん被害届、出す?」
「もち!」
菜々は親指を立てて元気良く答えた。
菜々は担任から加害者達の供述や反省しない態度にどうしようもない救えなさを感じて彼らに法的措置をとることにしたのだった。
***
数日後、無事警察から聞き取り調査が終わって菜々は解放された。
そして今に至る。
(はぁ~…股間にホチキスはやりすぎだったかな~。もうちょっと他に対処しようがあったかな?)
しかし、菜々はこうして日常に戻るとやっぱり自分のとった行動は間違いだったのかなとも思うようになってきた。
あの時はああするしかなかったと思ってやったのだけど、今になって考えてしまうこともある。
やっぱりやりすぎだったのかもしれない。
あの時は本当に必死で余裕が無かったけど冷静になって考えるとやり過ぎたような気がする。
反省点も多いが、それでも間違ったことをしたとは思ってはいない。
結果良ければ全て良し、という言葉もあることだし、今回はこれでいいことにしようと、考えることにしたのだった。
そして犯人たちは停学処分を受けたあと自主退学することになったらしい。
(元々素行不良だったみたいだし自業自得だよね。これで一件落着ってことで終わりにしよう)
「あの、七海さん。この間の退学した人たちの件と七海さんが毎日、体操着で学校に来てることが関係してるって言われてるけど本当?」
荻原が恐る恐る聞いてくる。
「うん」
菜々がこくりとうなずくと
荻原は目を見開いて驚いた表情を浮かべる。どうやら菜々が肯定するとは思っていなかったらしい。
「なんかね~。ちょっと色々あってね~。でも悪いことした人たちはいなくなったから~」
「なるほど・・・」
荻原は納得しているのかいないのかわからない表情で返事をした。
彼もいろいろ言いたいことはあるだろうが口に出せないようだった。
彼なりに菜々の立場を理解してくれているからこそあえて聞かないでいるのだろう。
「制服もね~。今度、新しいのを悪いことし人の親御さんが用意してくれるって~。海常高校のなんだよ~。これで海常高校の正式な一員だね~」
菜々は嬉しそうである。
それを聞いて安心する荻原。
確かにこのままじゃあいけないだろうなとは思っていたけど杞憂だったようだ。
荻原は安堵の息を吐く。
なんだかんだ言って気になるものは気になるのだ。
そりゃそうだろう。あんなにあからさまに嫌がらせを受けていれば誰だって気にするに決まっている。ましてや、菜々の性格を考えれば尚更だ。
そして、荻原は思う。
この子は自分を責め過ぎているのだ。もっと自分に自信を持って良いはずだ。なのにどうしてこの子はいつも自分を卑下して否定するんだろうか。荻原には理解できなかった。
きっと菜々にとって自分は取るに足りない存在だと思っているのだろう。
だから必要以上に距離を置いて接してくるし、助けられて感謝はするが決して見返りを求めようとしない。
謙虚と言えば聞こえはいいがこれは強迫観念に近いものがあるのではないだろうか。
自分の存在は価値がないと思っているのかもしくは自分には何もないと思っているのかはわからないが今の彼女の生活は彼女にとって良くない方向に進んでいるのは間違いないだろう。
このままではいつか取り返しのつかないことになりそうな気がした。
菜々は自分のせいで誰かが傷つくことや迷惑をかけることを極端に恐れているようだった。
そしてそれを許さないとばかりに過剰なまでに自分自身を卑下して否定しているように感じられる。
菜々を見ていると痛々しい気持ちになる。
そんな姿を見ているのが辛くなってどうにかしてあげたいと思うようになってきていた。
菜々の力になりたいと思った瞬間だった。
**
放課後に名前が下校しようとしたら校門前付近に、コーンロウヘアのいかつい他校の男子生徒がいた。
菜々は自分の知り合いではないのでスルーしようと通り過ぎようとしたら
「おい。お前が七海菜々っていう奴か?」
「え?」
(誰だ?この人?)
突然話しかけられたと思ったらなぜか自分の名前を知っている見知らぬ他校の生徒に菜々は困惑する。
しかもいきなり呼び捨てで呼ばれて不愉快な気分になる。
制服を見る限りでこの辺の高校のではないみたいだ。
背が高くてスタイルも良いイケメン系男子なのだが目つきが鋭くて怖い感じの印象を受ける人だ。
眉毛もかなり薄く見える。
ピアスも開けており服装に関してはかなり派手目の部類に入る感じだ。
どこからどう見ても不良にしか見えない風貌の男を前にして名前は怯える。
(えぇ~~なにこの人~~~?どう見ても不良だし~。それになぜか私のこと知ってるし何者なのよ~~~~。もしかしてまた、長谷川さんの刺客~?)
菜々が警戒していると
「あれ・・・?もしかして、祥吾くんスか?!」
黄瀬涼太が現れてその男に近寄る。
その反応からしてやはり顔見知りのようだ。
その男は眉をピクリと動かして黄瀬の方を見る。
その視線は明らかに喧嘩腰で険悪な雰囲気を漂わせていた。
相手は見るからに不良そうで威圧感があって怖かったので萎縮してしまいそうになる。
「あの…あなたは…」
だがここで引いてはいけないと思ったので勇気を出して話しかけた。
しかし、男は話しかけてきた菜々の声が聞こえなかったのか黄瀬に話しかけた。
「久しぶりだなぁ、涼太。」
「なんスか?俺に用っスか?」
「ちげーよ。佐保に用があって来たんだよ」
菜々は初対面の不良男の口から長谷川の名前が出てきて那奈はビクッと反応する。
(え?この人、長谷川さんの知り合い?何?どういう関係?)
「まさか佐保がお前と同じ高校に編入来るなんてお前も驚いたろ?」
男は黄瀬に向かって問いかける。
しかし黄瀬は興味なさそうに相槌を打つだけである。
まるで興味がないようだ。
「あぁ~そっすか。まぁ俺には関係ないんでどうでもいいッスわ」
黄瀬はそう言ってその場を立ち去る。
(そうだよね~。長谷川さんなんて関わらないほうが吉だよ~)
菜々はそう思いながらコーンロウヘアの黄瀬に祥吾と呼ばれていた男の方を見ながら思う。
「あの、私に何か用ですか?」
菜々は再度、不良男に思い切って話しかけてみる。
すると 菜々の目を見ながら低い声で問い返す。
「佐保からお前(菜々)は今の涼太の本命の女で、最低な女だから軽く遊んでやって捨ててやれって命令されて、そんでここまで来た」
「えぇっ?!」
菜々は予想外の回答に驚く。
(ど、どういうこと?!この人、悪い人なの?!)
菜々は不良男が何を言っているのか理解できなくて混乱する。
とりあえず、わかることだけをまとめようと試みた。
(この人は長谷川さん知り合いで黄瀬くんのことが嫌いでそれなら黄瀬くんの彼女である私を寝取って弄んで捨ててやれって命令?されたってこと?マジで??意味わかんないんだけど??どういうこと??て)
頭の中で状況を整理しようとするがうまくまとまらない。
というか状況が複雑すぎて処理できないというのが正直なところだ。
「佐保の言うことだからどうせ嘘だろうって思って来てみたけど、やっぱり嘘だったんだな。案の定、黄瀬の奴は自分一人だけ逃げて行ったしお前も特にそれを非難するわけでもなく受け入れてるしな」
彼はため息混じりにつぶやく。
「え・・・それで長谷川さんから言われて私のことを暴行しに・・・」
「ちげーよ。バカなのかお前。俺がそんなめんどくせーことするかよ。佐保に直接問い正そうかと思ったけどお前の方に警告したほうが早いかと思ってわざわざここまで来てやったんだ」
呆れたように言われた言葉に菜々は一瞬ムッとする。
だがそれも束の間、すぐに落ち着きを取り戻す。
(なんかすごく上から目線なんですけど~)
思わず言い返しそうになったがぐっと堪えて喉元で飲み込むことにする。
そんなことを言ったらさらに面倒なことになるのは目に見えていたからだ。
ここは我慢することにした。
彼は続けた。
「俺は福田総合学園高校1年の灰崎祥吾。俺は佐保とは中学時代、付き合ってたんだよ」
「えっ?!長谷川さんの元彼?!」
まさかこんなところで長谷川の元彼が出てくるとは思わなかった菜々は驚きの声を上げる。
すると灰崎は不機嫌そうに眉をひそめる。
「佐保から久しぶりに連絡来て何かと思ったけどやっぱあいつろくでもない女だったな。お前が今、佐保が一番嫌ってる奴なんだな。佐保の奴、気にくわねー奴いたら自分以外の他人に攻撃してもらおうとするところ全然変わってねえな」
灰崎は大きく舌打ちをした。
「え?あなたは長谷川さんの性質のこと知ってるの?」
菜々は長谷川の質の悪さを間近で見て知っていたため疑問を口にする。
すると灰崎は答えた。
「佐保の奴にそそのかされて人生壊してく奴を何人も見てきたからな。俺もそうならないためにお前に忠告しておく」
その言葉はとても真剣みを帯びていた。
その表情から察する灰崎は長谷川佐保と関わったことでそれなりにつらい経験をしたのだろうということが伺える。
菜々は唾を飲み込む。
(この人、マジな眼して怒ってる。本気だ)
(この人は真剣に佐保さんの危険性について語っているんだ)
そして灰崎の話は続く。
「あいつは自分のことちやほやしねー奴は男女問わず潰して痛めつけないと気がすまねえし気に入らない奴がいると周りを使って潰したりイジメたりして追い込んだりして苦しめないと満足できねえ性分なんだ。そのくせ自分が常に正しいと思い込んでるからタチが悪い。」
灰崎は舌打ちをしながら言葉を吐き捨てるように言う。
口調は冷静そのものだが相当頭にきている様子が見て取れる。
そして最後に吐き捨てるようにして言い放つ。
「それとあいつの言ったこと真に受けるなよ。それは全部嘘だから忘れろ。俺を巻き込むんじゃねえぞ。これ以上面倒ごとを増やしてくれるな。わかったか?」
そういって名前をひと睨みしてから去って行った。
名前は冷や汗をかきながら遠ざかる背中を見送っていた。
彼は菜々が予想していたよりも遥かに親切に忠告をしてくれた。
彼は本当にただの不良ではないと確信した。
今まで出会ってきた中では長谷川佐保の本性に気付いていてまともな部類の人間だった気がする。
「あ、ありがとう!長谷川さんとは大して話したこともないのに嫌われてるから直接、嘘とか言われることなんてないから大丈夫だよ」
菜々は微笑みながら礼を言った。
すると灰崎は一瞬照れたように顔を赤く染めたがぷいっとそっぽを向き足早に立ち去っていった。
去り際の灰崎の表情が可愛らしく見えた。
なんというか弟っぽい感じがする人だった。
ああいう一面もあるのかと少し好印象を抱く。
――
「七海さん」
するとそこへ森山が現れ菜々に声をかけた。
森山はいつも通り爽やかスマイルを浮かべていたが目は怒っていた。
「さっき話してた灰崎祥吾ってやつ、誰?どこで知り合ったの?いつ知り合った?」
矢継ぎ早に質問されて困惑しつつも菜々は答える。
「えっと・・・ついさっき会って話したばかりですが・・・」
それを聞いた途端、森山の顔は真っ青になった。
森山は何かを言おうと口を開いて止めるという動作を繰り返した後、額に掌を当てて深いため息をつく。
そして呆れた口調でこう言った。
「あのさ......いい加減にしてくれないかな?君の非常識な行いのせいでどれだけ周りの人に迷惑をかけているのか分かっているのかい?大体君は他人を思いやる心がなさすぎるんじゃないかな?僕は君が心配だよ。だからこれからは気をつけなさい。分かったかい?」
「え?今の人、忠告してくれただけですよ。それに聞いてなくて逃げてたら危なかったし・・・」
「そういうことじゃない!そういう話はもっと早くしなさいって言ってるだろ?君も少しは危機感を持ちなさいよ!僕が来なかったらどうするつもりだったんだい?」
「う~ん・・・・」
(言われてみれば確かにそうだけどあの人は助けてくれたし危ないときは助けてくれるって言ってたし・・・別に大丈夫だと思うんだよなぁ・・・。
それにあんな怖そうな顔してたのに意外と優しい人だったしね。
あの人なら私のこと裏切ることはないだろうし信用できると思う。
ていうかそもそもの話だけど私とあの人そんなに接点ないのになんでこんなこというのになんのかしら。
それとも私が思うよりも心配してくれているのかな?
うーん・・・わからない。
多分どっちでもいいんだろうけど)
なんにせよ菜々は森山も彼なりに心配してくれていることだけは分かるし素直に嬉しいと思った。
「心配してくれてありがとうございます。これからどうなるかわからないけど・・・もしも、これから私についてのよくわからない噂とか聞いても信じないでほしいです」
菜々は申し訳なさそうに頭を下げた。
その様子を見た森山は苦笑気味に笑う。
「ごめん、言い過ぎたかも。とにかく僕の前では二度と危ないことはしないこと。いいね?」
森山の言葉に菜々はコクリと頷く。
森山は満足したような表情を浮かべてその場を去った。
残された菜々はため息をつく。
(それにしても私って、今、そんなに危ない立場なのかな?)
名前は灰崎と森山から言われたことを気にしして不安になりつつも深く考えることはせず教室に戻った。
**
その日を境に灰崎祥吾という人物は菜々の前に頻繁に現れるようになった。
週に4回は現れて毎度のごとく黄瀬の悪口を言いまくって去っていく。
その都度、菜々は内心、困惑しながらも顔には出さずにいた。
そして、裏表がない灰崎と菜々はいつの間にか仲良くなっていた。
と言っても世間話をする程度であるが。
「黄瀬くんのこと嫌いだけどなんか気になるんだね~」
菜々は笑いながら語る。
「あー、そうだな。まあ、いい奴じゃねーとは思うけどな」
「そうなんだ~」
「あぁ。あいつ、見下した相手と身内以外に対してはすげー冷たい態度をとるしな」
灰崎は少し遠くを見るような目で言う。
昔は仲が良かったみたいな雰囲気を出しているが実際どうなんだろうと菜々は考える。
「それって黄瀬くんも長谷川さんみたいな感じってこと?自分の気にくわない人を他人に攻撃させるみたいな」
「涼太はむしろ逆だな。あいつは仲間内以外には無関心過ぎるし冷血漢で敵味方関係なく能力主義で使える使えないか判断基準だからな。使えねーヤツと判断した相手には一切関わらなくなるし」
「へ~」
菜々は感心するように声を上げた。
灰崎の話を聞いてますますよくわからなくなってくる。
要するに黄瀬は他人を信用しないと言うことなのだろうか?
それとも人と関わりたくないということでいいのだろうか?
どちらにせよ面倒くさい性格であることは間違いなさそうだ。
「黄瀬くんってまぁ、性格がよろしくないかもしれないけどそのままでも周囲から愛されて許されてるからそのまんまなんだろうね~。いるよね~そういう子って。それでも長谷川さんよりはマシだと思うけど」
菜々の言葉に灰崎は心底嫌そうな顔をした。
「黄瀬のしたことも相当やべーけどな」
「そうなの?」
菜々は首を傾げた。
「黄瀬の奴、中3の時の全中の大会で同じチームの奴らと一緒に勝ちすぎてつまんねーからって決勝でわざと自殺点入れてまで点数ぞろ目にして、優勝をかっさらったんだ。その後、チームはバラバラになってそいつらはそれぞれ別の強豪校に行ってる。ちなみにそいつらは「キセキの世代」って言われての実力が評価されてそれぞれ強いチームにいる。当然レギュラー入りで今も活躍してるらしい」
「へ~・・・点数ぞろ目・・・それってだめなんだ・・・」
菜々はスポーツの経験がないのでそれがスポーツマンシップに反する行為でどれだけ失礼なことなのか想像がつかない。
「それって・・・なんだろう?あれか?もうギブアップしてるのに死体蹴りみたいに攻撃し続ける感じか・・・・?それとも勝てる事柄で延々とマウントとってくるみたいな・・・・」
菜々は自分の経験してきたことで例えて言う。
すると灰崎が食いついてきた。
「そうそう。そんな感じじゃね?」
どうやら話が弾んでいるようだ。
2人は意気投合していた。
菜々にはバスケの知識も灰崎とは共通点は無いもののお互いの話を熱心に聞き合っていた。
主に灰崎が話す帝光中学時代のことや今の福田総合学園高校バスケ部での事ばかりだったがそれでも楽しかった。
話題のきっかけはいつも灰崎の方が提供していた。
灰崎はよくバスケについてできるだけ専門用語を使わず丁寧に解説してくれていたので菜々は理解することができた。
逆に菜々の方から質問することも増えた。
お互いの世界が違うはずなのに不思議と馬が合うような感覚を覚える。
灰崎もまた菜々の世界に興味を持っていた。
それは恋愛感情ではなく好奇心であった。
お互いに惹かれ合いつつも相手の世界には干渉せず、それぞれの世界で生きることを選んだ。
なぜなら、その方がお互いの為だからだ。
互いのことを知りすぎれば未練が残るかもしれないと考えたからである。
二人は互いに尊重しながら接することにした。
灰崎祥吾との出会いは菜々にとって貴重な体験となり、今後に大きく影響を与える出来事になると菜々は確信していた。
灰崎との交流をきっかけに菜々の生活は大きく変わっていくことになるのであった。