我が道を往くいじめられっ子は人生を変えたい 作:名無しのなな
「あ、森山さ~ん。聞きたいことがあるんですけど~」
菜々は森山に昼休みに遭遇したときに森山に話しかける。
森山は同じバスケ部の主将の笠松幸男と副主将の小堀浩志と共にいて、菜々が近づくと笠松と小堀も近づいてきた。
三人とも仲がいいらしい。
笠松幸男は眉毛が太くてりりしい顔をしていて、小堀浩志は森山と同じく黒髪の短髪だがチャラい感じの森山とは違って穏やかそうな安心感を与えるような印象の人物に見えた。
菜々は二人のことを森山や荻原から聞く話の中でしか知らず、今回初めて会話することなったが、自分の話を森山と一緒に聞いてくれようとしてくれる様子を見てとても面倒見がいい人たちなのだろうと思った。
「あの~・・・」
(あれ?部外者の私があんな立ち入ったこと聞いていいのか?)
菜々は灰崎から聞いた中学時代に黄瀬とそのチームメイトが起こしたぞろ目事件でのことがどれだけよくないことなのか聞こうとしたが躊躇した。
知らないとはいえ気軽に聞いていいことではないだろうと思ったのだ。
灰崎から聞いた話だけでも相当酷い話だと感じている。
それなのに自分から聞いても大丈夫なのだろうか。
もしかしたら地雷を踏む可能性もあるのではないだろうか。
そう考えると聞くべきかどうか悩んでしまう。
おそらく悪気がなくても踏み込んではいけない領域というのは存在するということだ。
他人の事情に首を突っ込むことは失礼にあたるしその人にとってもよくないことなのだろうとなんとなく察しがつく。
ならば聞かない方がいいのだろう。
そう思って口を開こうとしたとき、森山が口を開いた。
「もしかして黄瀬のことか?灰崎から何か話を聞いたんだろ?」
灰崎の名前があがったので驚いて菜々は目を見開く。
図星だったようだ。
森山は苦笑しながら言う。
「君は灰崎から黄瀬の過去のことを聞いたんだろう?そのことについてはまだ俺たちも詳しいことは把握してないんだ。でも帝光中出身の子から聞いたら黄瀬のしたことはとんでもないことだと言っていたよ」
その言葉に同意するように他の3人も口を開く。
「まあ、噂で流れてることは確かにあったんだろうなって思ってるよ」
そういったのは小堀だった。
森山と笠松も黙ってはいるが頷いた。
「そうですか・・・。出過ぎたこと無遠慮に聞こうとしてすいません。無関係なのに」
菜々はしゅんとなる。
すると森山達は慌てて訂正する。
「いや!そんなことはないよ!俺たちは君に何も話せないくせにこっちばっかりお願いしてばかりで申し訳ないんだよ!」
森山はそう言って慌てる。
そしてさらに続ける。
「黄瀬のことについては俺たちもどうにかしたいと思ってるんだ。だけど今はまだ何もできずじまいで。でも君には関係のない事なのにこうして気を遣わせて申し訳ない」
そういうと森山は那奈に頭を下てきた。
小堀たちも同様に頭を下げて謝罪の意を示した。
「えぇっ?!どうしたんですか?!謝るほどのことじゃないですよ?!
菜々は慌てて首を振った。
彼らが謝ることなど何もないのだから。
むしろ自分のようなバスケ部に関係ない外部の人間が無礼に当たるような質問をしてこようとしたのに、排除すること無く対応してくれて感謝の気持ちしかない。
彼らはこんな自分にも親切に接してくれているのだ。
どうして謝られているのかわからず戸惑うぐらいだ。
菜々は慌てて3人と同様に頭を下げる。
「むしろ、私のほうこそ・・・ごめんなさいっ・・・」
すると今度は早川と中村がやってくる。
「おっ、どうしたんだ?」
早川が問うと菜々が事情を話す。
すると早川も中村も驚いた顔をする。
やはり彼らの耳にも黄瀬のしたことが伝わっているようだった。
早川が続けて尋ねる。
「なんであやまい(り)合ってう(る)んだ~?仲いいな!」
その言葉に一同沈黙してしまった。
微妙な空気が流れる中、森山が答えた。
「七海さんは優しいから黄瀬や俺達のことが心配なんだろうけど、七海さんがなんとかしようとがんばらなくてもいいんだよ。だけど、七海さんが何か困るようなことや辛いことがあったらすぐに教えてほしい。七海さんには海常で楽しく過ごしてほしいからさ」
森山はそう言って笑った。
他の四人も同じ気持ちのようで頷き合っている。
なんて温かい人達なんだろうと菜々は思った。
同時に嬉しかった。
こんなふうに気にかけてくれる人がいるだけで幸せだと思った。
菜々は笑顔を浮かべながら礼を言う。
「ありがとうございます…!」
それからしばらくして昼休み終了を知らせるチャイムが鳴る。
菜々たちはそれぞれ教室に戻ることにした。
帰り際、森山は手を振ってくれた。
菜々も笑顔で手を振り返した。
**
「ねぇねぇ、黄瀬くんの噂聞いた~?」
「あ~あれでしょう?中学時代の全中の決勝戦でのわざと点数ぞろ目にしたことでしょ~?」
菜々のクラスでも黄瀬のことが噂になっているようでその件に関して話していた。
「強いからって試合で遊ぶ感じで相手の心折っちゃうのは良くないよねぇ」
黄瀬が去年の全中の決勝戦での試合でつまらないからとチームメイトたちとわざと点数をぞろ目にした件は女子の間でもかなりの物議を醸していた。
(こんな噂流れて黄瀬くんやバスケ部のみんなは大丈夫なのかな?)
菜々は不安に駆られていた。
そんな時だった。
菜々のクラスの教室内に渦中の黄瀬が現れて皆の視線を集める。
黄瀬の登場によってざわつく教室内。
教室内は緊張した雰囲気に包まれていた。
しかし当の本人は周囲の様子を気にすることなど堂々と歩いていた。
そして菜々の机の近くに来て立ち止まり声をかけてきた。
「七海菜々ってアンタっスか?」
「え?あ、はい」
急に声をかけられて驚いている菜々ををよそに黄瀬は言葉を続ける。
「俺、アンタに聞きたいことあるんス。ちょっと来てくれないスか?」
有無を言わさぬ態度でそう言われると断れない菜々はそのまま黄瀬の後をついていく。
着いた場所は人気のない場所だった。そこで黄瀬は唐突に話し始めた。
「単刀直入に言わせてもらうけど、アンタさぁ、俺のこと好きだったりするんスか?」
菜々は突然の質問に驚く。
あまりにも唐突だったので頭が追いつかなかった。
だが返答に困る質問であることは間違いないので慎重に答えなければいけない。
もしここで迂闊なことを言ってしまえば厄介なことになるのは間違いない。
菜々は慎重に言葉を選びつつ慎重に答えることにした。
「好き?それは・・・ライクとラブどちらの意味での問いかけ?」
「え、ライクって何スか?」
即答した黄瀬の発言に一瞬きょとんとするも直ぐに我を取り戻し考える素振りを見せてから質問をする。
菜々は心の中で頭を抱える。
(私の質問の方が悪かった?ていうか、かみ合ってない?ちょっとお互いにずれてる?それとも黄瀬くんってもしかしてあまり学力が・・・ってそこについて今はどうでもいいか)
菜々は色々思うところあったが言わなかった。
その代わり菜々の口から出た言葉は
「私は黄瀬くんに対して恋愛感情はないよ。だってこうして会話したの初めてでしょう?」
そう答えられていた。
確かにその通りである。
黄瀬にとっては菜々は、同じバスケ部の荻原と仲が良くて顔や名前はなんとなく知っていたが今回、初めて会話した人間である。
もちろん菜々にとっても黄瀬は顔や名前は知っていたが今回、初めてまともに会話した人間である。
黄瀬はしばらく考えてから納得したような顔をして見せた。
どうやらわかってくれたらしい。
しかし問題はここからである。
次にどんな言葉が飛んでくるのか身構えていると意外な台詞が出てきた。
それは意外なものだった。
「じゃあ、俺、あの女にまんまと騙されたってことッスか!!??」
黄瀬はあらん限りの声で叫び散らすようにして叫ぶ。
あまりの大声にビックリする。
黄瀬の声はよく通るから耳を塞いでしまいたくなるほどの音量だった。
その声は校舎中に響き渡り周りの生徒たちが何だ何だと言わんばかりに視線を向けてくる。
(黄瀬くん、声大きい・・・!めっちゃ注目集まってるじゃない・・・!どうしよう・・・)
菜々は困ったように眉を下げておろおろとしている。
黄瀬の声に釣られて野次馬が集まってきたらしくどんどん人数が増えていき今では20~30人を超えるギャラリーになっていた。
「騙されたってなんのこと?それにあの女って・・・・?」
「俺、佐保・・・長谷川さんから俺の過去のことに関する噂流してるのはうち(海常)の2年の七海菜々さんと祥吾くんだって聞いて今日ここに呼びだしたんス」
なるほど、そういうことだったのか。
納得できたが正直余計なお世話だとも思った。
彼女は黄瀬に嫌がらせするために裏で色々工作をしていたようだ。
「私が今、校内で流れている黄瀬くんに関する噂を聞いたときには既に海常でもう一部には流れてたよ。それに灰崎くんとは最近遭遇してないからね~」
菜々は苦笑して黄瀬の顔を見る。
「あぁ、たぶん長谷川さんから黄瀬くんの噂流してるのは私で、それは私が黄瀬くんに相手にされないはらいせでやってるとか灰崎くんと共謀してやってるとか言われたんでしょ?黄瀬くんが噂のせいで心弱ってるときに味方の振りして懐に入り込んで黄瀬くんから信頼を得た上で黄瀬くんの憎しみが私に来るように仕向けて私を海常にいづらくさせる・・・長谷川さんの考えそうなことだよ」
菜々は淡々と語りだす。
黄瀬はその話を聞いて絶句している。
その顔からは血の気が引いているようだ。
菜々はさらに続ける。
「黄瀬くんは長谷川さんに嘘で利用されそうになっていたんだよ。理性を保ちつつ私に直接真実を聞いて来たのは賢明な判断だよ」
黄瀬は菜々にそう言われて信じられないと言う顔をする。
黄瀬は顔面蒼白になりながらぶつぶつと呟き始める。
「そ・・・んな・・・・嘘だったなんて・・・・・・・・俺は騙されんスか・・・・」
黄瀬はショックを受けているようだった。
無理もないだろう。信じていた人間に裏切られていたのだから。
しかしそれ以上に許せなかったのは自分自身でもある。
菜々がいなければ自分は今頃どうなっていたのか想像するだけで恐ろしいことだった。