我が道を往くいじめられっ子は人生を変えたい 作:名無しのなな
するとそこへ笠松と森山と小堀がやってきた。
「おい、黄瀬!お前こんなところで何やってんだ!?」
三人は慌てた様子でやってきた。
おそらくさっきの叫び声を聞いて駆けつけてきたのであろう。
黄瀬はビクッと身体を震わせてから笠松たちの方を見た。
それと同時に笠松達も目を見開き驚いたように固まってしまった。
「ど、どうしたんだよ。黄瀬・・・」
笠松が戸惑ったように言う。
それもそのはず黄瀬の顔は怒りに満ちた表情をしていて目のハイライトが消えてしまっていたからだ。
いつもキラキラ輝いている目は淀みきっており濁った色に変化していた。
まるで暗く深い闇に囚われたような禍々しい色をしており狂気に満ちていた。
全身からはどす黒く重たい殺気が立ち込めておりその場を支配しているかのような威圧感を放っていた。
その目は瞳孔が開き切長になっておりギョロッとしており獲物を狙う肉食獣のような目つきをしている。
その表情からは激しい憎悪の念を感じることができた。
「黄瀬くん、長谷川さんの嘘にだまされて利用されて私を攻撃する駒にされそうになってたんですよ」
菜々は呆れたようにため息をついて肩をすくめた。
それを見た瞬間に黄瀬の表情はみるみるうちに変化していく。
先ほどまでの殺気立った空気感は一切なくなりいつものシャララとした雰囲気に戻っていた。
しかし表情は穏やかではない。
むしろ苛立ちを募らせている様子だった。
そしてようやく口を開いたかと思えば出てきた言葉がこれだ。
「クソクソクソっ!!あんな女に絆されるんじゃなかった......!!!!ふざけんな......!!俺が負ける訳ねーだろ!!!!」
完全にキレている黄瀬の姿を見て名前は思った。
(黄瀬くんも騙されてたのね......)
黄瀬のその瞳の奥には明らかに敵意がこもっているように見えた。
しかしそんなこと気にする様子もなく菜々は言った。
「落ち着いてね。今、感情のままに長谷川さんに突撃したら黄瀬くんが悪者になる可能性が高いし長谷川さんの取り巻きに撃退されちゃうよ」
菜々は諭すように言った。
それを聞いた黄瀬は一瞬面食らうような表情を浮かべていたがやがて険しい表情を浮かべた。
黄瀬はゆっくりと口を開くと言った。
「俺は負けるつもりはないッス」
きっぱりと言い放つ。
その目には自信の色が見える。
菜々は確信した。
黄瀬は長谷川に陥れられそうになったくらいで絶望しないのだと。
(意外と負けず嫌いで頼もしいね~)
その姿勢を見て菜々は思わず感嘆の声を漏らした。
「あら~・・・すごいね~。まぁでももう少し算段を立ててから動こうね。長谷川さんのために犠牲になれる覚悟のある人間は男女問わずいるから長谷川さん自身を撃破するにはそれなりに算段を立てるのがいいよ。それにもしかしたら長谷川さんに対しては全く意に返さずにスルーし続けて気にしてないように、長谷川さんの言動にいちいち影響されてないし動揺もしてないようなそぶりで生活し続けたほうが勝手に自爆するかもしれないし」
菜々の言葉に黄瀬思わず耳を傾けそうになる。
というかすでに半分程耳を傾けてしまっている。
菜々の言っている事は至極正論ではある。
菜々の言う通りに長谷川を放置して精神的に疲弊させることが一番効果的なのではないかと思わざるを得なかった。
仮に長谷川に対して反撃せずに無視し続ければ長谷川はこれから噂を流すことすらできなくなる。
そうなれば長谷川も打つ手がなくなるはずだ。
このまま何もしないほうがうまくいくかもしれないと思えるほどに菜々の発言は的を射ているように思えた。
「それでも許せなくて戦う場合はまぁ、こちらも情報戦になるね~。長谷川さんの言うこと信じたりしたら危険だって情報が多くの人の間での共通の認識になったり、長谷川さんの取り巻きに長谷川さんのために無茶するタイプがいなくなったら被害者は少なくなるかもね。長谷川さんもいま高2だけど来年高3になれば周囲の人たちも進路のこと考えて自分のことで忙しい人ばっかりになるからそこから大人しくならざる負えないかもしれないよ~」
菜々は顎に手を当てて考え込む仕草をしながら答えた。
まるで他人事のように飄々と話す姿は妙に達観しているように見えた。
そんな菜々の言葉を聞いて笠松たちも真剣に考える素振りを見せ始めた。
確かに菜々の言っていることが正しいように思えて来て、菜々を信じてみる価値はあると思った。
たとえ上手くいかなくても自分たちの大切な後輩を救うことができる可能性があるのならばやってみる価値はあるのかもしれない。
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「黄瀬くんが長谷川さんの本性と思惑に気付いたならこれから距離とったらいいよ。二人きりになりそうな場面を避けるために人がたくさんいるところに身を置くようにして何か聞かれてもすぐにその場から退散するの。思いっきり嫌いです!みたいな態度とったら長谷川さんはさらに大勢を巻き込んで追い詰めて来るだろうからやんわり避けてね~。そうしたら長谷川さん以外にも「私は何があっても黄瀬くんの味方だよ!」って支え希望の女子がポコポコ出て来るからその子達を少しずつ味方につけて行って長谷川さんよりも支持者を集めていったらもう黄瀬くんをターゲットから外してもう噂流したりしないと思うよ」
「マジすか......本当にそれでうまく行くもんなんスか......」
半信半疑といった様子の黄瀬だったがとりあえず試してみようという気持ちになったらしい。
「ざまぁみたいなこと期待しても世の中、面倒ごと嫌いな人が大多数で傍観者とか無関係で居たい人とか自己保身が強い人が多いからね~。私も長谷川さんと直接対決がしたくて何度も試みたけど本人は「え?私知らないです」みたいな感じで突然言いがかりをつけられた被害者気取りで取り巻きに「なんだてめぇ!」って吠えられて話にならなくてね~。東京女子高にいた頃も長谷川さんは担任が別室に呼んで話し合いする場でも黙秘を繰り返して小さい低い声で「くそがっ」とか「バカがっ」とか呟いて態度悪くてもうお手上げって感じだったよ~」
菜々は遠い目をしながら呟いた。
菜々の口から語られる菜々自身が経験した陰鬱な学園内の人間関係はとても複雑そうだった。
菜々がのほほんとしていて平和なイメージがあったせいか意外性が強かった。
ただ言えるのは長谷川には関わらないことが最善策なのだと思う。
不必要に深入りすればするほど危険な道に進む羽目になりそうで怖い。
だからできれば関わりたくない。
そもそもなんでこんな面倒なことに巻き込まれないといけないのかとさえ思ってしまうほどだ。
「黄瀬くんも長谷川さんの思い通りに動かなかった罪で悪い噂流されて孤立させられちゃったんだろうね~。黄瀬くん本人が悪いわけじゃなくて長谷川さん個人で悪人認定された結果だから。長谷川さんは自分が世界の中心で法律なんだよ~」
心底うんざりしたような口調で菜々は言う。
その様子を見ていた笠松たちが苦笑しているのが見えた。
「ま~、今まで長谷川さんは東京女子高の時は学科全体が治安悪かったから悪い仲間がたくさんいてみんなで悪事を隠蔽して知らんぷりしてたけど、ここは海常で雰囲気も違うからね~。長谷川さんが今度の海常の文化祭のミスコンで優勝できなかったときに感情爆発させて自滅することに私は賭けるかな~」
そう言ったあと少し間を置いて小さく頷く菜々の様子はまるで予言じみたものがあった。
根拠はないだろうが嫌な予感を感じてしまうほどだった。
菜々は無事に黄瀬と和解したことで長谷川佐保の付け入る隙はないものとなった。
これで一件落着といったところだろうか。
あとは長谷川本人に動きがないことを望むばかりだった。
だが、長谷川のことだ。何らかのアクションを起こしてもおかしくない。
現に今も何かしらの動きを見せていても不思議ではないのではないかと考えていたところでふと思いつく。
例えば、誰かを操っている可能性だって否定はできない。
もしくは別の手段を講じたり企てている可能性も捨てきれないであろう。
こうなってくると途端に疑わしくなる。
どちらにせよ警戒しておく必要がありそうである。
今回の菜々と黄瀬の話し合いは長谷川が油断できない相手だということを改めて再確認する良い機会になったといえるだろう。