我が道を往くいじめられっ子は人生を変えたい   作:名無しのなな

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第2話 いじめられっ子の日常 森山との再会 

「おまえはさぁ~底辺なわけぇ~!て~いへん!て~いへん!て~いへん!て~いへん!て~いへん!て~いへん!」

今日も乗山在江と美間散代が私の机を取り囲むようにして大声で笑いながら叫んでいる。

彼女らの声は教室に響き渡るくらいに大きくうるさい。

そもそもよく先生に怒られないなと感心してしまうくらいである。

私はいつものように聞こえないふりをする。どうせ聞くだけ無駄なのだから時間の無駄だ。

それにしてもうるさい。イライラする。

私が暴言を吐かれて煽られている様子をクラスメイトはうざそうに見ているだけで助けてくれることはない。

 

「うわぁ…今日もやっば」

「でも、あれって七海さんが普通じゃないが悪いんじゃない?」

「言えてる~!自業自得だよね~」

「そうそう!七海さんが成績悪くて外見ださくてなんの取り柄もなくて空気も読めないのが悪いんだよね~!七海さんみたいになったら人間として終わりだよね~」

 

大して関わりがないクラスメイトたちは、私が美間さんと乗山さんの二人に至近距離で大声で暴言を吐かれている光景を見ながら口々に言う。

乗山さんと美間さんは長谷川さんや長谷川さんのいるグループの子達のように、校則違反になるような制服の着崩し方もしないし、長谷川さんのようにパーマや巻き髪もしない、髪を染めることもアレンジすることもしない黒髪でノーメイクのどこにでもいる地味な外見でどちらかというと自分の学力やテストの結果を自慢してマウントをとるようなタイプで長谷川さんほどの発言力を持つ立場ではなかった。

だけど、長谷川さんに取り入ることでクラス内での自分たちの立ち位置を確かなものにしようとしていた。

美間と乗山は今も外見は地味な女子高生のままで大きな変化はないが、二人は日頃から長谷川さんに「あいつがどれだけキモい趣味で無能なバカでクラスの足を引っ張っているか」「クラスのレベルを下げているのはあいつのせいだ」と吹き込み、さらには「あいつ(菜々)が長谷川の悪口を言っていた」などとありもしないことまで告げ口して長谷川さんの私への憎悪を煽っていた。

美間さんと乗山さんの得意分野であるが私が苦手な勉強やテストの結果も格好の材料にされた。

 

「あいつ(菜々)みたいにならないように」

「あいつ(菜々)みたいだといじめられるよ」

 

というのが二人の口癖で、それはやがてクラス全体に学力至上主義のようなピリピリとした空気を作り出していった。そうして生まれたストレスの捌け口として私へのいじめが利用され、しかもそれは「本人の自業自得」だという体裁が周到に作られているのだから始末に負えない。

 

「あ~あ、あいつがいなくなればうちのクラスの空気が良くなるのにな~」

長谷川さんは校則違反のパーマをかけた肩までの長さのウェーブヘアをかきあげて、身長170㎝ほどの長い足を組み替えながら私を見て言う。

長谷川さんは学校内で一番の美人として有名で、さらにはモデル事務所に所属していてインフルエンサーのような目立つ活動もしているようだった。

彼女に憧れる生徒も多くて、本人も自分が世界の中心で誰よりも素晴らしく称賛されるべき人間だと思っていた。

なので、自分を特別扱いしない私を異常者だと本気で思っていてクラスメイトもそれに同調して私をいじめることを正しいことだと認識している感じがあるので私を助けてくれる人は誰もいない。

長谷川さんは自分がどれだけ不機嫌をまき散らそうがいじめを扇動しようが、それに対して私が「あなたの機嫌を損ねてごめんなさい」「みなさんに私の無能さで迷惑をかけてごめんなさい」と弱々しく謝ってくることを当然のように期待していた。

それどころか自分の機嫌を取るために美貌を褒めてくることすら期待していて、それをせず、むしろ距離を置いて避けようとする私のことを本気で「頭がおかしい」のだと思っているようだった。

しかも長谷川さんたちは自分たちが正しいことをしているという認識なので自分たちを批判する者は許さないし間違っていることをしたら徹底的に排除しようとする過激派だ。

要するに自分たちの正義こそ絶対であり自分たち以外の存在が自分たちの邪魔をすることが許せないという考えを持っているということだ。

長谷川さん、乗山さん、美間さんたちは私へのいじめについて

「キモい趣味をしているのが悪い」

「外見がダサいのが悪い」

「動作がトロいのが悪い」

「話し方も話す内容もキモいのが悪い」

「成績が悪くてイライラする。馬鹿にされたくないなら勉強して成績を上げればいい」

などと口を揃えて言う。

容姿や生まれのような、本人にはどうしようもないところを理由にしているわけではないのだから自分たちは悪くない、という理屈のようだだ。

そう言い切られてしまうと周囲も強くは止めないし、それどころか「悪いのは本人だ」と納得して、自分に火の粉が飛んでこないように考えることをやめてしまう。

だから私がどんなに正論を述べたところで無駄であることを知っているからこそ諦めるしかほかならないのであった。

私は暴言を美間と乗山さんに吐かれながら意識を遠い世界に飛ばすことにした。

ただただ耐えるしかないのだ。我慢すればいつか終わるはずだからそれまで耐えればいいのだ。

そう自分に言い聞かせて私は心を落ち着かせた。

 

ーーー

ーー

 

「ねぇ、菜々。もう帰っちゃうの?」

「うん。予備校あるから」

「え~、そんなの休んじゃえばいいじゃん。君は真面目すぎるよ~」

食田ゆゆは予備校に行こうとする菜々をからかうようにそんなことを言ってきた。

食田ゆゆは一見どこにでもいる普通の女子高生のように見えるが、仲良くなった子をコントロールしようとしてくるし、依存心が強くて他人の人生を食い物にして得をしようとする性格の持ち主であるということを菜々は今までの付き合いで分かっていた。

菜々はゆゆとは入学初期のころは仲が良かったが、今は菜々にとって関わりたくない存在だった。

同年代よりも精神年齢が低くて、菜々の中にある「親が苦労して働いて稼いだお金で予備校に通わせてもらっているのだから、それに報いなければ」という意識がわからず、相容れない存在になっていた。

菜々にとっては邪魔で、正直、関わらないでほしいとさえ思っているくらいだ。

鬱陶しくて仕方がないというのが正直なところではあるが、下手に刺激したくないという気持ちもあった。

(前みたいに悪評流されたらたまったもんじゃないし)

今いじめられているほかに、菜々は過去にゆゆの不興を買ってしまい悪評を流されて、それが今のいじめの相乗効果となってしまって大変な思いをしているのだ。

菜々はしつこく引き留めようとするゆゆを振り払ってそそくさと逃げるように校舎を出る。

 

その時のことであった。

どん!と誰かとぶつかってしまったようだ。

「すいません!」

ぶつかった相手に謝るがその人物の顔を見て菜々は驚いて固まる。

そこにいたのは昨日、奈々が予備校前で会った森山由孝だった。

「あれ?あなたは昨日・・・長谷川さんのことを聞いて来た・・・」

「あ~・・・えっと確か君は・・・」

「はい。七海菜々と言います」

お互いに自己紹介をしてぺこりと頭を下げた。

それからお互い少し恥ずかしそうな顔になる。なぜならば森山のほうは予備校の外で会ってしまった上にナンパに失敗した相手に対して気まずい気持ちになっているのに対して菜々の方は塾外ということで普段と違う環境で男性と会話をする緊張感を覚えていてどきどきしていたからである。

しかし二人とも同じ予備校の生徒であれば今後も出会う可能性は十分にあったので気を取り直して本題に入ることにする。

「昨日はごめんね。いきなり話しかけたりしてさ」

「いえ・・・」

菜々は首を振る。

「長谷川さんに会いたいなら校舎の近く長時間うろうろしてたら危険ですよ。うち女子高だから警備とか厳しいんで通報されるかもしれないので」

「そうなの!?」

森山は驚いた様子で聞き返す。

菜々は静かにうなずいた。

「あの道路の向かいのお店とかで待ってた方がいいですよ」

菜々は道路の向かいのファーストフード店を指さして言った。あそこなら何度も通ったことがあるので道案内くらいならできる。

森山は納得したような顔をして頷いた。

「そっかありがとう」

森山の言葉に名前は首を横に振って謙遜した。

それから森山は思い出したように口を開いた。

「そういえば、長谷川さんがどこにいるかってわかったりするの?」

菜々は困ったように眉をハの字にして笑う。

「私、あんまり彼女と仲が良くないんですよ。だから私より他の人に聞いた方が早いかも」

森山はがっかりしたような顔をする。

「そうなんだ・・・」

森山は落胆しているようだがしょうがないだろう。

仮に知っていたとしても個人情報保護の観点から教えることはできないし教えたところで教えることができない場所に行った可能性がある以上どうしようもないと思った。

菜々としては彼女たちに関わるとろくなことがないことを知っているのでたとえ知っていても教えるつもりはなかった。

むしろさっさとここから立ち去ってほしいくらいである。

しかし森山には申し訳ないがここで一緒に居るところを目撃されるのは避けたかった。

なぜなら森山は見目がいいのでそんな森山と一緒にいるところをいじめっ子やその手先に見られたら何を言われるかわからない。

ただでさえいじめのことで鬱屈とした日々を過ごしているのだから平穏を乱されたくはなかった。

 

菜々はそう言うと早足でその場を後にした時、校舎から出たクラスメイトの島田友香と目が合う。友香は名前と森山が一緒にいるのを見てぎょっとしたような顔をした。菜々は気づかないふりをして通り過ぎようとするが背後から声をかけられた。振り返るとそこには菜々と同じ学科の友香がいた。

菜々は嫌な予感しかしなかった。

友香は思い込みが激しく夢見がちな性格で、常に自分の空想の世界に浸っているようなところがある子だった。自分の人生を劇的に変えてくれるような美男美女以外から話しかけられてもガン無視するくらいで、それもあってクラス内では孤立していた。そんな友香が唯一心酔しているのが長谷川だ。長谷川に気に入られさえすれば自分のスクールカーストも上がると信じ込んでいて、周囲や長谷川が悪者扱いしている菜々の情報を集めては長谷川に差し出すことに余念がなかった。だからこそ、いつも空想の世界に漂っているような友香の目が、今だけは異様なほど鋭く菜々と森山を捉えていた。

「ねえ、菜々、その人、誰?」

友香は明らかに不機嫌な態度で名前に詰め寄ってくる。

菜々は内心うんざりしながら答える。

「この人は・・・・まぁその辺にいた人だよ」

「・・・ふ~ん」

いつもは菜々をゴミを見るような目で見てくるか、視界にすら入っていないかのように無視するかのどちらかの友香が、このときばかりは不満げな表情でじっと菜々を睨んでいた。長谷川に報告できそうな「使えるネタ」を見つけた、という顔だった。

怖いのもあるが友香の視線は嫌悪を感じるほどの強烈な憎悪に満ちていたのでいたたまれなくなり逃げるように菜々はその場を早足で離れようと決意した。

友香はいつも空想がちでどこかぼんやりしているのだが時々さっきのようになってしまって豹変することがあり、そんな時は友香が別人になってしまったような感覚に陥って恐怖を感じずにはいられない。

 

菜々はその場を離れようと目の前にいたさっきまで会話していた森山に会釈してその場を早足で走り去った。

森山は呆然としたように立ち尽くしていた。

その場に残された森山は名前に言われたことを考えていた。

先ほどの会話で菜々は自分は長谷川とはあまり仲が良くないし自分も彼女の居場所は知らないと言っていたことを思い出したからだ。

先ほどの様子を見るからに明らかに何かあったに違いないのは明白であった。

もしかしたら菜々にとって聞いてほしくないことだったかもしれないしこれ以上問い詰めるのはよくないと思った。

それにいつまでもここに留まっていたら迷惑がかかるかもしれないとも思った。

名残惜しい気持ちは山々であるがここで去るしかなかった。

森山は踵を返してその場を去った。

菜々は息を切らせながら全力で走って逃げ切ったことに安堵しつつほっと胸を撫で下ろした。

幸いにも誰にも見られてはいなかったようだ。

ほっとしたせいか力が抜けてしまい近くの公園に座り込んで呼吸を整えることに専念した。

どっと疲れが出て立ち上がる気力もなかった。

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」

いくら疲れていようともこのまま座っていても何も始まらないので再び立ち上がる。

まずは移動しなければと思った。

予備校までの道のりを歩く。途中、コンビニに立ち寄って夕食を買おうと立ち寄って飲み物だけ買って予備校に急いで向かった。

 

**

 

「佐保!聞いてよ!菜々がイケメンと一緒にいたんだけど!」

島田友香は長谷川佐保に開口一番そう言った。

長谷川は面倒くさそうに舌打ちをした。

「あぁん・・・?!あいつがイケメンとぉ?!」

「ほら、これ見てよ!」

そういうと友香はスマホで撮影した菜々と森山が東京女子高校の校舎付近で会話していた時の写真を見せた。

それを見た長谷川は露骨に不機嫌になり舌打ちをした。

「はぁ・・・?!こいつあたしに言い寄ってた男じゃん?!バスケで負けてばっかりの負け組の!あたしに言い寄ってたくせにこんなくそ女に言い寄ってんの?!ありえないんだけど!」

長谷川は写真に写る森山の姿を見て激昂した。

森山の姿を見た瞬間キレ散らかす。

「え~?イケメンじゃ~ん?なんでダメなの~?」

「だってこいつ顔も頭もバスケもぜんぶそこそこで大したことないだもん!強豪校のレギュラーらしいけどなんかパッとしないしさ~。これなら中学時代に付き合ってた黄瀬くんのほうが断然カッコよかったし!」

長谷川はうっとりとした顔で語る。

「佐保ってば自分でフっておいて何言ってんのさ~」

取り巻きは呆れたように言う。

「常に強い男に惹かれるのは当然でしょ?世の中、敗者よりも勝者が偉いんだから!私は黄瀬くんよりも強い男を選んだだけだし!それに黄瀬くんよりも断然いい男がいるしね!」

そういうと長谷川は自身のスマホの画面を見る。そこには赤髪の男が映っていた。

「黄瀬くんと同じキセキの世代の赤司征十郎くん♡彼は負けるなんてかっこ悪いこと人生で一回もしたことない絶対的強者で勝者なの♡この人こそ勝ち組のあたしにぴったり♡」

そういって長谷川は目を輝かせた。

取り巻き立ちは

「佐保ならそれぐらいの男じゃないとね~!」

「確かに~!佐保くらい美人だったらどんなイケメンでもイチコロだよね~!」

などと口々に褒め称えていた。

「こんな男(森山)なんていらないけどぉ~!こいつ(名前)、あたしのお古に手出そうなんて100年早いんだよ!わからせてあげなきゃね~」

「きゃははは!佐保の言うとおりだよね~!こいつ(名前)には生涯負け組で一生いじめられて独身で人生終えてほしいよね~!」

取り巻き立ちは長谷川に賛成するように言う。

「さすが、人の男を略奪しようとした人は違うよね~!」

すると、バスケ部の北村香耶が長谷川とその取り巻きたちの会話に割ってはいる。

「え~?!なにそれ?!初めて知ったんだけど!七海ってそんなことしてたの?!」

長谷川とその取り巻きたちは名前に関しての新しい情報に興奮する。

菜々はバスケ部の北村の発言に動揺して北村の方を見る。

北村は口角をあげてニヤリとして菜々の様子を見ながら得意気に話を続ける。

 

「まぁ、ちょっとした筋から手に入れた情報なんだけどね~。ま、今度詳しく話すけど~。でも、本当だよ~」

 

北村の含みのある話しぶりにいじめに荷担する長谷川の手下たちは盛り上がる。

 

「そういえば、七海さんって中学時代にけっこー遊んでたらしいよ?」

 

すると、クラスメイトの川並矢杷子が便乗するように言う。

 

「はぁ?!なにそれ?!」

「マジで最低じゃん?!あいつ(菜々)屑じゃん?!」

 

(そんなことしてないし!)

川並の言う信憑性がない情報を菜々へのいじめを楽しむクラスメイトたちは信じて「七海菜々はいじめられて当然」という共通認識と仲間意識を強めていく。

菜々は北村と川並に言い返したかったが、今この場で言い返したらどうなるかわからないし、言い返しても「本当のことだから必死に否定しているんだ」て捉えられてまた新しいいじめの材料にされてしまう。

 

(なにも知らないで…!)

(ていうか、長谷川さんたちも北村さんも川並さんも私本人が教室にいること失念してない?わざとなのか?!わざとだよね…きっと)

名前は長谷川たちの自身への悪口を言っている声を聞いてそう思った。

 

(本当に頭が悪い・・・・醜悪だ)

 

菜々は偏差値や学力で人間の価値が決まるわけではないこと考えているがこの偏差値が大して高くないこの学校(東京女子高)で、外見がいいという理由だけで何をしても批判されずに周囲から宗教の教祖のように崇め奉られているいじめっ子の長谷川がカーストトップをとれてしまうモラルの低い集まりになっている惨状を見てしまうと差別意識が生まれてしまう。

ここにいる時点で菜々にとってはマイナスでしかないので一刻も早く抜け出したいと強く願っていた。

 

(やっぱり長谷川さんは苦手だなぁ・・・)

(卒業まであと1年半もこんな生活しなきゃいけないの?)

(勉強頑張って上位の大学に合格して…みたいなざまぁに憧れるけど、もしもそれが叶ってもいじめられた高校生活の思い出と楽しい高校生活を送れなかった悲しみやしこりは一生残り続けるんだよな・・・そんなの嫌だ!)

 

そう思いつつも菜々はいつものように教室でお弁当を食べていた。

「ねぇねぇ、菜々。この悪役令嬢ものの漫画なんだけど、最初に主人公が婚約破棄されるシーンのこの表情見てよ~!超、惨めじゃない?!」

ゆゆがスマホにお気に入りの悪役令嬢ものの漫画を表示させて菜々に見せる。

「なにそれ…?面白いの?」

菜々はゆゆの発言に共感できずにそっけなく答える。

「だぁってさ~!超惨めじゃん?!他の女に略奪されるとかマジでダサいよね~!ププブ~」

ゆゆは悪役令嬢ものや婚約破棄されたりするところから始まる作品が好きで名前に薦めてくることが日常だった。

「そんで最後に略奪した女がザマァされるシーンも最高だよね~!」

「悪役令嬢ものをそんな他人の不幸の高みの見物みたいに読む読者なんてゆゆくらいだよ」

「え~?そうかな~?」

名前はゆゆに対して突っ込むように言う。

「どんな楽しみ方をしてもいいじゃないか!これからは多様性の時代だぞ~」

近くでお弁当を食べていた小塚衣音が言う。

菜々は衣音の正論のようだがズレた言葉に呆れる。

ゆゆは衣音の言葉を都合よく解釈してニヤニヤしながら悪役令嬢ものの漫画をスマホで読む。

 

(1年の頃はゆゆと衣音と一緒にいるのが楽しかったけど今はなんか疲れる。なんでだろう)

 

菜々は1年の夏頃から予備校に通いだして毎日勉強して少しずつ成績が上がりだしてから菜々ほど真面目に勉強しないゆゆと衣音とノリが合わなくなっていた気がしていた。

さらに、菜々が長谷川、美間、乗山に聞こえるように誹謗中傷されている様子をただの日常として流して「そんなことくらいでくじけたらダメだよ」「言われないように努力しなよ」と菜々を保身のために仲間外れにしたり遠巻きにしたりしないが、菜々いじめられていることに関して他人事のような態度のゆゆと衣音に菜々は不信感が募っていた。

 

「菜々~」

「あ、まどか。ふみ」

隣のクラスから広井まどかと村田ふみが来た。

2人は菜々のことを心配していて毎日話しかけて来てくれる。いじめっ子に立ち向かったり解決しようと尽力してくれるわけではないが二人とも自分ができる精一杯で支えてくれる優しさを持つ子たちなのだ。

(いけないいけない。まどかは学力は低いけどいい子だし、ふみもそこまで高いわけじゃないけど私と仲良くしてくれいい子だし・・・学力で人間性が決まるわけじゃないんだから・・・・差別意識なんてもったらだめだよね)

(それに学力のこととかいじめのこととかは私の個人の事情だし・・・・)

そんなことを考えながら弁当を食べていると長谷川たちがこちらを睨みつけてきて気分が悪くなり教室を出る。

廊下のベンチ付近に集まって談笑していると話題は再来年度に閉校する予定のいま名前が通っているこの東京女子高校についての話題になる。

「ねぇ聞いた?もしかしたらうちの学校、閉校が早まるかもしれないんだって」

「え?そうなの?!」

ゆゆの発言に皆が驚いたような声を上げた。

「なんでも、うちの学校って前年度から問題が起こりまくじゃん?」

「あ~」

実は菜々が入学してから東京女子高校では大きな事件や問題が多数起きていた。

男性教師が生徒複数人の女生徒と関係持ってそのうち一人がその男性教師を刺してしまったりした。

そして、菜々の隣のクラスの女子には菜々の前にいじめられていて不登校になってしまった子がいた。

校内では未成年喫煙や飲酒行為が行われている事実が発覚したり、妊娠して退学した女生徒が出てしまったりといったことがあった。

この状態では閉校になるのは当たり前だよなぁ・・・と菜々はしみじみ思ったものである。

「それで行き先の学校が3つに絞られているんだって」

「え?どこどこ?!」

ゆゆの発言に衣音が驚く。

みんなも初耳だったようで興味津々だ。

「確かね~・・・丘の上女子高校と源光男子高校と海常高校だって聞いたよ」

「え~!源光って男子高校だよね?なんでまた・・・・」

ふみが驚きの声を上げる。

「なんでも来年から源光男子高校が共学になるからそれで今うちの学校にいる女子を受け入れようってことになったらしいのよ」

ゆゆが補足するように説明する。

菜々はなるほどと頷く。

「丘の上女子高校はうちよりも厳しいミッション系の女子高でうちのよりも偏差値が少し高くて真面目な子が多いからそこ行ったらうちの学校にいるギャルっぽい子達と対立するだろうね~」

「あ~・・・確かに」

ゆゆの言葉に誰もが納得する。

「源光男子高校はうちの学校と交換編入学?みたいな形で源光男子学校に女子が各クラスに何人か言ってこっちに何人か源光男子高校の生徒がくる形みたい」

「へ~、そうなんだ~」

菜々が感心したように言う。

「ね~ね~、みんなはどこの学校に行く~?」

ゆゆが尋ねるように言った。

しばらく考え込んだ後、衣音が言った。

「私は丘の上女子高に行くよ~!だって狙える女子が倍になるし~」

「あ~衣音はそう(レズビアン)だもんね~」

菜々は苦笑した。

「私も丘の上女子高にしようかな・・・男の子怖いし」

ふみが小さい声でボソッと言った。

「僕もみんなが丘の上女子高に行くならそこにしようかな~」

ゆゆは同調するように言った。

「まどかもそうするよね~?」

「え?えーっと・・・」

まどかはゆゆに聞かれて答えづらそうに目を泳がせた。

菜々はその様子を見てピンと来た。

(多分だけどゆゆと一緒っていうのが不安なんだろうな~)

まどかは一応は同じグループにいるので仲良しのように振る舞っているがゆゆに対してどのように接したらいいわからないのである。

まどかは菜々と同様にゆゆの時々出る図々しさや都合のいい虚言癖と記憶喪失癖に気付いていた。

なので、なるべくゆゆを刺激せずに穏便に済ませたいという気持ちがどこかにあるのだろう。

「あ、ねぇねぇあと一つの海常高校ってどうして候補のうちの一つに挙がってるの?」

菜々は話題を変えようと気になっていることを尋ねた。

「う~ん、確か主にうちの女子バスケ部の部員の受け入れ先らしいよ~?ほらうちの学校ってバスケ部に力入れてて部員全員スポーツ推薦で入学して来た子達ばっかりでしょ~?丘の上女子はバスケ部無いし、源光男子高校は男子校でしょ~?それで海常高校はスポーツ強豪校で特に男子バスケ部は専用の体育館があるくらい力入れててるけど女子バスケ部は無いからこれを機会に閉校するうちの学校の強い女子バスケ選手集めて女子バスケ部を創設しようってことで受け入れ先候補に挙がってるんだって~」

ゆゆの説明に納得したように一同うなずく。

「そっか~」

(そういえばこの間声かけて来た森山さんが海常高校だったような・・・)

菜々は海常高校の名前を聞いてこの間、長谷川佐保のことで声をかけて来た男子高校生の森山由孝が海常高校の生徒であることを思いだした。

「まぁ、海常高校は一番無いでしょ~?だってスポーツ強豪校だよ?スポーツやってない人間にはやっていくの無理でしょ~?一番ナイナイ」

ゆゆがおかしそうにけらけらと笑うとそれにつられてみな笑っていた。

(海常高校はわかんないけど・・・・私的にはアリだな!だって縁を切りたいゆゆや衣音が一番行かない可能性が高い学校なんだもん!それに美間も乗山も行かないだろうし!)

そう思って菜々は内心ガッツポーズを決めた。

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