我が道を往くいじめられっ子は人生を変えたい 作:名無しのなな
「暑いな~」
予備校帰りに菜々は首から下げた扇風機を顔に当てながら歩いていた。
梅雨が終わり蒸し暑い季節がやってきた。
これからどんどん暑くなってゆくのだと思うと憂鬱であった。
すると、キッチンカーの立ちならぶエリアで騒いでいる東京女子高校の女子生徒二人の姿が目に入った。
「おね~さ~んさ~!もっと声だしなよ~!」
「そうそう!そんなんじゃ隣のジュース屋さんにいつまでも勝てないよ~?揚げパンなんて微妙なもの売ってんだから宣伝くらい大きい声でしなきゃ~!ぎゃはははは!」
キッチンカーの呼び込みをしている女性に上から目線で説教してウザがらみしていたのは菜々の学年の普通科の問題児の美間散代と乗山在江だった。
(あの二人またやってる・・・!)
菜々はげんなりした表情になるとそのまま気付かれないようにしてその場を去ろうとしたがあまりにもひどいので注意するために声をかけた。
「美間さん、乗山さん。マジでやめて。東女(東京女子高)の恥さらしだから」
名前は二人に声をかける。美間と法山はこっちを見るとあからさまに嫌そうな顔をした。
「はぁ~?!なにおまえ?!うちらになんか文句あんのか?!あぁん?!」
「いてこますぞ、ワレェ!」
美間と乗山はチンピラのように舌を回した口調で恫喝してきた。
(うっわぁ・・・だめだ。私が注意しても聞かないんだから・・・・も~!)
「普通に営業妨害だから」
「はぁぁぁ?!なにいっちゃってんのおまえさぁ?!底辺のくせに生意気だし~!」
二人は激昂して突っかかってきた。
「美間さんも乗山さんもさ~、二人とも小心者なのにチンピラ口調使って強く見せようとしてるの滑稽だから。余計に弱く見えるからやめな~」
菜々は疲弊した調子でため息をつく。
それを聞いた美間と乗山は顔を真っ赤にして怒鳴り散らしす。
周囲には人だかりができていて3人の様子を眺めている。
菜々は再びため息をついた。
(ああ、最悪。どうしてこんなめんどくさいのとクラスメイトになっちゃったんだろう・・・)
「なんか、あそこ、騒いでるッスね」
近くを通りがかった黄瀬が不思議そうに呟いた。
「気にしないでさっさと行くぞ」
笠松は呆れてため息をついて言った。
二人は森山と小堀と早川と中村の海常高校のメンバーとその場を足早に離れようと歩みを進める。
菜々が美間と乗山に怒鳴り付けられて頭が真っ白になっていると、うざ絡みされていた女性が働く揚げパン屋の店主の男性が菜々たちに近づいてきた。
「君たち、友達同士?喧嘩ならほかでやってくれないかな?」
「す、すいません!ご迷惑かけてすいません!ほら、美間さんも乗山さんも謝りなよ!」
菜々は美間と乘山が営業妨害していたのを注意しに来ただけなのに喧嘩していたというレッテルを貼られて同類扱いされたことが悲しくて悔しくてたまらなかったが謝らなければなるまいと思って謝罪の言葉を口にする。
「ぎゃははははは!謝ってやんのー!うける!」
「うちらが、騒いだせいで代わり謝る羽目になるとかマジでみじめ~!こんな底辺人間になるなら死んだほうがましだし~!」
「てか、うちらは揚げパン屋さんのために有益なアドゥヴァイスしてただけなのにさ~。うちら悪くなくな~い?!」
「そうだよ~!空気読まずにうちらのこと悪者扱いしてくるとかサイテーだし!頭悪い底辺はさすがだわ~!ぎゃははははは!」
美間と乗山の言い分を聞いて菜々はこいつらは本当に救いようがないと思うと同時になにかがぷつんと切れた。
(あー。もう、こいつらいーらない)
菜々は美間と乗山と縁を切る覚悟を決めて冷めた目で見つめ返した。
そんな態度をされたことで怒り狂った様子の二人は更にヒートアップしていった。
「ふーん・・・ほんと二人とも上の口がうるさいわ~。大きく開いてさ~」
「う、え、の、く、ち!ぎゃははははは!めっちゃ下品じゃん!そんな単語口に出すとかやっぱ人間として終わってる底辺はちがうわ~!」
「・・・」
菜々は二人と汚い言葉で口喧嘩しようと思ったが柄にもないことをしたことをしていると気づいて何も言わずに沈黙を貫き通すことにする。
「バーカ!バーカ!」
「底辺!底辺!ギャハハハハハハ!」
二人の罵倒が続くが菜々は沈黙を貫いた。
「・・・・」
(こいつら本当に人間なの?)
菜々は美間と乗山の自分を罵倒する言葉に何か言い返したかったが自分が何を言っても二人は聞き入れないだろうということと恐怖からその場から動けなくなっていた。
通行人たちは菜々を罵倒する美間と乗山を頭がおかしい人間だと見てから罵倒されている菜々を見てかわいそうに思うが、菜々と美馬と乗山が同じ学校に制服を着た女子高生だとわかるとよくある10代の友達同士のいざこざだと関わりたくないから処理して通り過ぎて行く。
もしも、美間と乗山が外見が派手なギャルや不良系だったならばギャル・不良にいじめられている・絡まれている地味な女子高生(菜々)という構図として見て通報されたり止めに入る人もいたかもしれない。
だけど、美間と乗山はチンピラの様なしゃべり方で公衆の面前や教室で菜々を罵倒するという行動をしていても外見は菜々と同じくらい地味で印象に残らない外見だった。
髪も染めていないし派手な化粧もしていなくてスカートも校則の規定通りの長さの女子高生なので周囲も友達同士の喧嘩にも見えるので誰も止めに入ることも通報されることもなかったのである。
美間も乗山もそれを理解しているので長谷川のような一軍のイケている女子の憧れつつも、どう着飾っても生まれつき美人の長谷川のようになれないということと、地味な真面目な女子高生の外見で生きたほうがどれだけ騒ぎや問題を起こしても普段から問題児ではなくてたまたま少し騒いで注意されてしまった普通の女子高生に擬態できると考えてあえて校則の規定通りの恰好をしているのだ。
(周囲の人はただの子供のいじめだとか騒いでいる女子高生にしか見えないんだろうけど明らかにこいつら(美間・乗山)は異常でしょ?なのにどうして学校の先生も周囲の大人も元気が有り余っている子供とか女子同士のよくあるトラブルとして見て見ぬふりするの?)
菜々は誰も助けてくれない孤独感と美間と乗山の罵倒に心が俺そうだったが頭はどこか冷静で、美間と乗山の自分を客観的に自分が周囲からどう見られているのか考えられずに、楽しそうに公衆の面前で菜々を罵倒している姿を病気の人を見るような目で見ていた。
そんな菜々の態度が気に障ったのか美間が掴みかかる勢いで近づいて菜々に怒鳴った。
「なんとか、いえよ!ゴラァ!」
しかし、その瞬間、突然現れた第三者によって阻まれた。
「やめろ!」
そう言って美間と乗山の腕を掴んで止めに入ったのは森山由孝だった。
森山の登場によって周囲の人々はざわついた。
「いったーい!何すんだてめぇ!!」
乗山が叫ぶと美間は森山を睨みつけた。
(え?この人、海常の森山さん?!)
「痛いんですけど?!あんた誰ですかー?!邪魔しないでくださいよー!」
「お前らこそこんなことやめろ!迷惑だろ!」
森山は二人を叱責したが二人は聞く耳を持とうとはしなかった。
「うるせぇ!部外者はひっこんどけ!」
「そうだよ!うぜぇんだよ!」
美間と乗山は噛みつくように叫んだ。すると森山は眉間にしわを寄せた険しい顔つきになった。
美間と乗山もびくりと身体を震わせると怯む。
今まで経験したことのない激しい怒気を孕んだ視線を向けられて二人は思わず黙りこむ。
森山の表情はまさに鬼の形相をしていた。それはまるで夜叉のようだった。
(やばいかも・・・怖すぎ・・・!)
「おまえらいい加減にしろ!」
「ひっ・・・!」
森山が怒鳴ると二人は小さな悲鳴を上げて怯え始めた。
すると、乗山はなにか思い付いたような顔になり気持ち悪いくらいに目尻を下げて胡散臭い笑顔で森山に近づく。
「いやぁ~すいやせんねぇ!あたしたちこの子(菜々)が騒ぐから思わず大きい声出しちゃいまして~!いやぁ、本当にすいやせんね~!菜々ちゃんもこの人に迷惑かけちゃだめだよ~?ねぇ~」
乗山は騒いだことを謝罪しているがそれはこの場を都合よく乗り切る目的なだけでふざけたような口調で、さらには自分たちが最初に騒いでそれを注意されたにもかかわらず菜々が騒いだのでそれを注意したことで騒ぎになったと被害者と加害者を入れ換えるような嘘の発言をしたのでその場はしんと静まり返る。
その場にいる全員があまりの自分勝手さに呆れかえって唖然とした表情で固まる。
森山は相変わらず厳しい表情で黙っている。
「ほら~、菜々ちゃん、みんなに謝りな~。ね?」
乗山はあくまで自分は菜々を注意するために大声を出していたという体にするために菜々に窘める風に優しい口調で周囲に謝罪を促す。
しかし、周囲は完全にドン引きしており白い目で見られておりその視線に耐えられなくなった菜々は俯く。
「・・・乗山さん、立場のすり替えはやめてよ」
「えっ?立場のすり替えなんて・・・そんな!私はそんなことしてないわよ・・・。ひどい・・・!」
乗山はチンピラ口調で菜々に恫喝していた傲慢な態度から豹変して弱々しい被害者のような態度へと変わり乗山自身はうまくやっているように思っているがその演技はわざとらしくて嘘臭いと菜々は感じていた。
乗山の本性を知っている人が見れば一目瞭然で乗山の狡猾さがバレてしまうほど露骨すぎた。
「もう美間さんと乗山さんにはなにも話すことない。醜い。醜悪。餓鬼。醜い。醜い。本当に無理」
菜々は吐き捨てるようにそういうと、森山に絞り出すような小さな声で「すいません…ありがとうございました」と礼をいうとその場から立ち去った。
森山は複雑な表情をした後、美間と乗山のほうを向く。
その表情には静かな怒りが感じられた。
森山はゆっくり近づいてくる。菜々を馬鹿にしていた二人が怯えた様子で震え上がり身構えて
「バーカ!バーカバーカバーカ!」
「べぇーーーだ!一昨日来やがれ!」
美間と乗山は大声でそういうと脱兎のごとく逃げ出した。
それを見ていた森山はやれやれというように首を横に振る。
「もいやませんぱ~い!」
早川が美間と乗山に絡まれていた菜々を助けるために割って入った森山に感銘を受けて尊敬の眼差しで話しかける。
「もいやませんぱい、すごいッスね!」
その目はキラキラと輝いており喜びを隠しきれていない様子である。
「おい、森山。お前、なんであんなヤバそうな奴らの近づいたんだよ」
笠松が少し呆れたような声で指摘する。
「そうッスよ。あんな大声でわめき散らす頭おかしい子達に近づくなんて危険ッスよ!もし、刃物とか持ってたらどうするつもりだったんスか?」
黄瀬も少し怒ったように森山に注意した。
その言葉に森山は苦笑混じりに反論する。
「絡まれてた子が知ってる子だったからつい・・・あの状況で放っておくわけにはいかなかったんだよ」
「もしかして、絡まれてたあの子(菜々)って前に森山が好きな子(長谷川)と連絡とれなくなって動向が知りたくて声かけた東京女子高校の子か?」
小堀はふと疑問に思ったように尋ねた。
その言葉を聞いた瞬間、森山の顔色が変わる。
「確かにそのレベルの知り合いで、あの子(菜々)に声をかけたのも長谷川さんのことを知るために同じ東京女子高校の制服着てたからって理由だけで声をかけただけなんだけど・・・・」
森山が何か言い淀むような仕草をしていたので森山は菜々のことが好きなのだろうと黄瀬達は察しがついた。
森山はそのままぽつりぽつりと語りだす。
「タイプというわけではなかったんだけど・・・・彼女は小さくていつも一生懸命で真っ直ぐな性格の子で・・・・なんていうか放っておけなくて・・・・守りたくなるっていうか・・・・」
森山は照れ臭そうに語る。
普段の森山からは想像できないような表情だったため黄瀬達は森山の意外な一面を見て衝撃を受けていた。
森山の表情が普段よりやわらかく見えたからである。
「へぇ、じゃあやっぱりあの子は森山さんのお気に入りなんスね」
黄瀬はそう言ってにやりと笑った。
その言葉を聞いて森山は顔を赤くする。
「ちっ!ちげーよ!!なんなんだよお前達さっきから!」
森山は焦った様子で否定した。
こうして森山は菜々との出会いをきっかけにとんでもない彼女に振り回される