我が道を往くいじめられっ子は人生を変えたい 作:名無しのなな
「佐保って本当に美人だよね~!」
「でっしょぉ~!」
「ホントホント!うちのミスコンにもエントリーしてほしい~!」
「でっしょぉ~!」
海常高校の2年B組では東京女子高からお試し編入してきた長谷川佐保の美貌を称賛する会話が盛り上がっていた。
長谷川は調子に乗りやすく褒められると喜ぶタイプでもあり周囲の賞賛を浴びて有頂天になっていた。
そこに一人の女子高生がやってきて声をかける。
「そういえばさ~、隣のクラスに佐保とおなじく東京女子高からお試し編入してきた子の中にツインテールの子がいてさ~!東京女子高の制服って有名な魔法少女アニメの主人公が着てた制服のモデルになった制服じゃん?!ツインテールにして魔法少女気取りで痛って思っちゃったよ~」
そう言ってバカにした笑い声をあげた女子生徒がいた。
それを聞いて一部の女子生徒たちは顔をしかめた。
「え~!誰そいつ~!」
「確かA組に編入してきた七海菜々って子だよ~!」
「はぁ?!あいつ、海常にあたしと同じく海常に編入してきてるわけ?!最悪なんだけど!」
長谷川はわめき散らすようにいった。
「その子は髪型で悪目立ちしてるだけだからさ~!顔は断然、佐保のほうが圧勝してるから~!そんなにイラつかないでよ~」
取り巻きの女子は長谷川を宥めるように言った。
長谷川は気に入らないことがあると直ぐにキレる傾向があって腕を組んで仁王立ちしたまま黙っていた。
その姿はとてもじゃないが品の良さは感じられずふてぶてしい態度にしか見えなかった。
「はぁっ・・・!」
長谷川は不機嫌な態度のまま教室を出ていき取り巻きの女子たちも追うように続く。
「なんか、長谷川さん来てから長谷川さんと仲良くなった女子みんな、口悪くなったよね・・・」
長谷川と同じクラスの女子がポツリと呟いた。
「そうだね~。長谷川さん、美人でモテるのに何を毎日イライラしてるんだろうね~」
「それな!恵まれてるのに不満タラタラなんて贅沢すぎなんだよ!」
一緒にいた女子はうんうんと激しくうなずいた。
**
「これ、おいし~ね~」
同じ海常高校内で隣のクラスで菜々は長谷川に悪口を言われていることなど知らずのほほんと海常高校2年A組のクラスの女子とお菓子談義に花を咲かせていた。
菜々は見た目こそ転校初日にツインテールヘアで来たくらい度胸がある癖が強そうに見える風貌だが中身は普通の平凡な女子高生なのだ。
そのため、人の悪意に敏感ではないというか鈍感で天然で空気が読めないところがあった。
海常高校に来てからはいじめのない平穏な日常を送っていた菜々であったがまた新たな嵐が巻き起ころうとしていた。
**
「菜々~。今日、うちのバスケ部が他校と練習試合するんだって~観に行こ~」
「そうなんだ~いいよ~行く行く~」
海常にお試し編入してきた名前はクラスメイトの吉沢華乃美(よしざわ・かのみ)に誘われて海常の男子バスケ部の試合を観に行くことなったのだ。
体育館には練習試合とは思えないほど人がたくさんいて盛り上がっていた。
中にはカメラを構えて写真を撮っている人もいるくらいだ。
「なんでこんなに人がいるの?」
「黄瀬くんが出るからだよ~!」
「キセくん?」
菜々は吉沢の言葉を繰り返すように言った。
「うちのバスケ部の1年生の黄瀬涼太くんだよ~!キセリョのこと知らないの?」
「うん、知らない」
菜々はさらっと答えた。
「うちのバスケ部のエースでモデルもやっててバスケの天才集団のキセキの世代のうちの一人なんだよ~!とにかくめちゃくちゃかっこいいから見たらわかるよ~!」
「へ~、そんなにカッコいいんだね~。じゃあみてみようかな~」
「ほら、あそこにいる金髪の男の子がそうだよ」
菜々はそう言われて指さされた方向を見るとそこには明るい金色の髪色で顔の整ったすらっとしたスタイルの良い少年が汗を流しながらバスケットボールを追いかけまわしていた。
彼は軽々とダンクシュートを決めると観客の女性陣からの黄色い歓声が上がった。
「はぇ~・・・なんかすっごいね~」
菜々が関心しながら見ていると海常バスケ部のレギュラーとして出ている選手陣の中に見知った顔があることに気づいた。
「ん・・・あれって・・・」
菜々は試合に以前、知り合って助けてもらった森山がいることに驚いた。
菜々に気がついた森山は少し照れくさそうな顔をして手を振った。菜々もそれに応えて手を振り返した。
「あれ~?名前、森山先輩と知り合いだったの?」
「う~ん、まぁ」
菜々は吉沢に曖昧に答える。
(あれ?そういえば森山さんたらよく私だって気づいたよね?!イメチェンしたのによく気づいたね?!)
菜々はそんなことを考えて不思議に思っていた。
(まぁ、人間の顔なんて簡単には変わんないからわかったんだよね、きっと)
菜々は考え終えると再び試合に集中して観戦することにした。
試合は終始、海常高校が優勢で終わりベンチに戻ると部員達は疲れた様子を見せていたが達成感のある顔をしていた。
試合終了後、観客たちから拍手が起こった。
「海常のバスケ部は強いね~」
菜々は感嘆の声を上げた。
試合の熱気に当てられたのか菜々のテンションは上がっていた。
試合が終わってから吉沢と共に会場を出ようとした時に長谷川が森山と会話している様子が体育館ギャラリーから見えた。
(長谷川さん、また森山さんに近づいてるの?長谷川さんから縁を切ったのに・・・)
菜々は長谷川の行動に不安を感じて早くこの場を離れたくて急いで校舎に向かって歩き出した。
するとその時、不意に声をかけられた。
「七海さんっ」
振り向くとそこにいたのは森山の姿があった。
「あ、森山さん。お久しぶりです」
菜々はペコリとお辞儀をすると森山も同じようにお辞儀をする。
それに続いて吉沢も挨拶をする。
森山はなぜか複雑そうな表情で口を開く。
「七海さん、うちの学校に東京女子高からお試し編入してきてたんだね」
「あ、はい。実はそうだったんですよ~」
菜々はあっけらかんと軽い調子で答えた。
名前の答えを聞いて一瞬、森山の顔が強張る。
しかしすぐに気を取り直したように笑顔を見せた。
森山が心配しているのは長谷川佐保のことだった。
長谷川は菜々と同じく海常にお試し編入でやってきて再び名前を攻撃してくる可能性が高いからだ。
森山の表情を見て察することは出来たが菜々は特に表情を変えることはなかった。
森山は言葉を選ぼうとしているようだったが決心したように口を開いた。
「七海さん、大丈夫・・・・・?君のことを傷つけるような酷いことを言う人たちばかりじゃないよ。俺のことも頼ってほしいし何かあったら遠慮しないで俺に相談してくれてもいいからね」
森山は真剣な表情をしていた。
そんな森山の様子を見て菜々は思う。
(私のこと心配してくれてるんだ)
菜々は少し嬉しくなって自然と顔が綻んだ。
森山が優しく接してくれているのは嬉しかったがそれよりも森山が自分に対して気を遣わせてしまったことに申し訳なさを感じた。
「ありがとうございます。そう言ってもらえたら心強いです」
菜々は素直に感謝の気持ちを伝えた。
森山は少し安堵したような表情を浮かべて微笑んだ。
それを見て菜々はホッとした気持ちになった。
そこで森山は話を切り替えて別の話題を振ってきた。
「そういえば七海さん、どうしてうちの学校に転校したんだい?俺としては君がうちに来てくれたことが嬉しいけど・・・・・」
森山が申し訳なさそうに聞いてきた。
菜々は森山に言われて考える素振りを見せた後、口を開いた。
「あ~・・・人間関係とかリセットしたかったんですよ。色々あって」
菜々は少し困ったような表情を浮かべて困ったように笑いながら答えた。
それを聞いた森山は納得したような表情で言った。
「なるほど・・・・・大変だったね・・・・・」
森山は菜々に同情するような視線を向けてきた。
菜々は苦笑交じりに笑って見せた。
菜々の態度を見て察した森山はさらに質問を続ける。
「前の学校だとどんなことがあったんだい?」
「え~っと・・・」
森山の質問に菜々は即答できなかった。
(色々ありすぎて何から話したらいいのやら・・・)
どう答えようか迷っていると遠くから声が聞こえてくる。
「森山さぁ~ん!」
(うわ・・・長谷川さんだ・・・)
菜々はあからさまに嫌な顔をした。
それを見た森山は困惑したような表情を見せる。
案の定、長谷川が不機嫌そうに眉間にシワを寄せながら近づいてき。
「はぁ・・・?なんでお前がいんの?」
鋭い眼光で睨みつけて来た。
その姿を見た森山は嫌悪感に満ちた表情を浮かべる。
そして森山は菜々の肩に手を置いて守るようにして引き寄せる。
それに対し長谷川は苛立ったように舌打ちをした。
しかし、すぐに表情を変えて言う。
「ダメですよ~!森山さんったら~!七海さん耐性ないから気軽に話かけたりしたら勘違いしちゃいますよ~?!」
ヘラヘラとした様子で煽るように言ってきて森山は不快そうな顔を見せる。
「君、何様のつもり?悪いけど彼女が嫌がってるからやめてくれないか?」
森山が低い声で言うと長谷川は怯むことなく不遜な態度をとる。
その顔には相手を挑発するような笑みをたたえており、いかにも挑発的だった。
「えっ・・・なんでですかぁ~?私は名字さんのためを思って言ってあげてるだけですよ~?」
長谷川佐保は相変わらず語尾を伸ばして喋る口調だった。
しかし今回は語尾を伸ばすだけではなく馬鹿にしたような言い方でもあった。
森山が口を開こうとした時、間に割って入るものがいた。
それは早川だった。
「長谷川ー!いっつも人のことバカにしてう(る)けどお前の方がよっぽどバカだし人のこともわう(悪)く言うし最低なことばっかしてう(る)じゃねえかー!いくら良い顔してても本性はバレてう(る)んだからなぁー!!」
早川が突然、大きな声を出した。
早川は怒っているというよりも悲しそうな表情をしていた。
その言葉に反応したものは多かった。
早川の言葉に同調する者も多くいたようで周囲がざわつく。
「はぁ・・・?!あたしは別に・・・てか、あんたなんなの?!」
長谷川は不機嫌そうに自身のウェーブヘアを指先でくるくるしながら早川を横目でにらむ。
早川はまっすぐ長谷川を見据えたまま言葉を続ける。
「お前はいつも他人のわう(悪)口ばっかり言って楽しそうにしてるけど人のこと言えないじゃんかー!俺は知ってんぞー!お前の本当の姿は性格のわう(悪)いいじめっこだってなー!!」
早川の言葉を聞いた周囲はざわついた。
実は早川以外のにもなんとなく長谷川佐保の本性や思惑に気付いていた人間がちらほらいた。
だが、それを長谷川に直接言う勇気や話題に出す勇気がある者もいなかったので、内心では早川の言葉に驚きつつもよくぞ言ってくれたと早川を称賛していた。
長谷川は不機嫌オーラマシマシで顔を歪めた。
「はぁ・・・うっざ!まじでうざっ!何様のつもり!?信っじらんないんだけどっ!」
吐き捨てるように呟くと長谷川は踵を返してどこかへ行ってしまった。
「あ、あの、ありがとうございます・・・二人とも・・・」
菜々は森山と初対面の早川に助けられたことと二人に礼を言った。
早川と森山は突然のことで驚いたように顔を見合わせてお互いに首を傾げた。
それから森山は照れたように頭をかいて笑った。
早川は胸を張って得意げな顔をしている。
そんな二人の様子に菜々は自然と頬が緩んだ。
(まさか私の人生で男子に助けられることがあるとは・・・)
菜々は東京女子高に入学する前に住んでいたど田舎でもいじめられっ子で孤立無援で小・中学校時代からいじめっ子を男女関係なく自分で倒そうと戦っていたので男女問わず他人を助けたり誰かを救おうとした経験はあるが異性に最後まで助けられたのは初めてだった。
今まで助けてくれようとした男もいたが、土壇場で逃げたり敵側に寝返ったりしたのでずっと同性にしか期待していなかった。
それなのに急に現れた男が助けてくれたので戸惑っていた。
(世の中には悪い人もたくさんいるけど、本当に信頼できる人もいるのかしら?私と同じように困っていたり傷ついている人がいたら私が手を差し伸べられる立場だったらいいなあ)
菜々はそう思った。
**
帰り道、菜々は森山と一緒に向かっていた。
森山と一緒に帰っている吉沢の提案によるものだった。
曰く、森山に恩を感じているなら色々話してみたらいいとのことだ。
最初こそ乗り気ではなかった菜々だったが吉沢と森山がノリノリだったためしぶしぶ森山と二人で話すことになったのである。
「森山さん、どうしてすぐに私のことわかったんですか?私、結構外見変えたんですけど」
そういうと菜々は自身のツインテールの毛先を少し引っ張るようにして話す。
「ああ、七海さんは前とは違うけどまた前みたいに特徴ある髪型してるからすぐわかったよ」
森山は微笑みながら答えた。
「たしかに・・・前も三つ編みにメガネで特徴的っちゃ特徴的だったからな~」
菜々は森山の発言に納得しつつ頷く。
「なんか、私、イメチェンしても記号的な、キャラクター的になっちゃうんですよね。おしゃれというよりもアニメとか漫画とか好きだからそのキャラクター意識したみたいな仕上がりになるんですよ。好きでやってるからなに言われても気にしてないんですけどね~」
菜々は飄々とした態度でいう。
服装にしても髪形にしてもキャラクターを意識した結果のものになるのは菜々の中では自然なことだった。
この容姿のおかげで自分に絡んでくる奴らをいなすことには成功しているわけだし周りを不快にすることもないのであればそれでいいと思っていた。
森山は苦笑しながら返事をする。
「そうなんだね。でも、俺は好きだよ。そういうところも含めて個性的で素敵だと思うよ」
森山の言葉に菜々は一瞬ドキッとしたが表情に出さないように努めた。
「え~、ありがとうございます~!やった~ほめられちゃった~」
菜々は照れ隠しに明るくお茶らけた感じで返事を返した。
その様子をみて森山は笑う。
森山に褒められて菜々は満更でもない気分だった。
(森山さん、いい人だなー。なんで私に絡んでくるかわかんないけどー。私が女だからやさしーのかな~?女好きっぽいし)
そんなことを心の中でつぶやきながら菜々は思った。
それにしてもやっぱりわからない。なぜ森山は自分に構ってくれるのだろう。
それとも、これも何か打算があって接触してきたのだろうか。
(よくわかんないけど優しくしてくれるなら好き~。人間として~)
菜々はそんな風に考えながら歩いていると、ふと立ち止まり空を見上げた。空は曇っており今にも雨が降り出しそうだった。
雲の流れが早いなとぼんやりと考えていると隣を歩いていた森山が言った。
「雨降りそうだし、そろそろ傘さした方がいいんじゃない?」
森山に言われて思い出したかのように菜々は手に持っていた傘を開き肩にかけた。
森山もカバンの中に折り畳み式の傘が入っていることを思い出したようで同じようにカバンの中の折りたたみ傘を取り出して広げた。
**
一方その頃、海常高校近くのカフェレストランにて長谷川佐保とその取り巻き達が集まって夕食をとっていた。
彼女達は窓際の席で外を眺めていた。
窓の外に広がる風景の中には部活帰りの生徒や帰宅途中の生徒達が多く見受けられた。
そんな中で一際目立つ存在があった。
「げっ・・・!あいつ(菜々)!性懲りもなくあたしのお古(森山)に近づきやがって・・・!最悪なんだけど!」
長谷川は窓の外を見ながら忌々しげに呟きテーブルの上に置いてあるオレンジジュースが入ったグラスを強く握りしめたせいで中身が零れそうになる。
菜々と森山の様子を少し離れたところから見ていた長谷川とその仲間達は慌てて席に戻る。
長谷川が怒りに任せてテーブルを叩いた音で店内にいる客が一斉に注目している。
しかも、長谷川は派手な容姿のせいで人目を引く存在だったこともあり他の客まで長谷川に注目し始める。
店内の人達の視線が痛かったのか長谷川の取り巻きたちの一部はトイレに行くふりをして自分たちの会計だけ済ませて、長谷川を残っている他の取り巻き立ちに任せて仕方なくそそくさとお店を出て行ったが長谷川はそれに気づかずに菜々への憎悪を募らせていた。