我が道を往くいじめられっ子は人生を変えたい 作:名無しのなな
(今日も学校だぁ~)
菜々は憂鬱になりながらも校門をくぐり昇降口で上履きに履き替えて教室に入ると朝早いからかまだ誰もいなかった。
席につき鞄の中から荷物を出していると教室の入り口に見覚えのある人物がいた。
(うわぁ・・・・・)
その人物は一昨日お試し転入してきたばかりの元同級生である長谷川佐保とその取り巻きの姿であった。長谷川たちが教室に入ってくるや否や教室内はシンっと静まりかえった。
長谷川たちは菜々の席の方へと向かって来る。
そして長谷川たちに気づいたクラスメイトたちがひそひそと話し出す。菜々はその様子を見て居心地が悪くなった。
長谷川たちの視線は鋭く敵意に満ち溢れており今すぐにでも襲われそうな雰囲気である。
長谷川は菜々の顔を見るなり舌打ちをして、菜々を取り囲むようにして立つ。
菜々は嫌な予感を感じながらも平静を装っていると案の定と言うべきか予想通りの出来事が起きようとしていた。
取り巻きが一歩踏み出した瞬間、机を蹴り飛ばしその上に乗っていた筆箱や教科書などが床に散乱する。その音を聞いたクラスメイトたちが一斉にこちらに視線を向ける。そして全員がギョッとした表情で固まっている。
(うっわ・・・ついにやっちゃったね~!)
菜々は初めての直接的な攻撃に動揺しつつも冷静に考えていた。
「え~?なによ~?長谷川さんと愉快な仲間さんったら何の用よ~」
菜々は長谷川と目を合わせないまま無表情で抑揚のない声で淡々と問いかける。
相変わらず態度だけはデカい女だと思いつつ内心苛立ちを募らせる。
長谷川と菜々のやりとりを見ていた周りの生徒達からはヒソヒソ声が聞こえる。
「お前のせいで佐保が迷惑してんだよ!早く海常からも出てけよ!クソキモオタク女!」
「そうだよ~!東京女子高でも空気読めないうざいことして嫌われてたくせにうちの学校に来ても問題起こすつもり!迷惑なんだよ!」
「調子乗んなよ!」
口々に罵声を浴びせられたが菜々は特に意に介さない様子であった。むしろどこか楽しそうですらあった。
「・・・良かった~!やっと長谷川さんが私に対しての不満を口にだしてきた~!取り巻きさん使っての苦情申し立てみたいだけどこうして今までとは違って不機嫌な態度や嫌み繰り返すだけじゃなくてきちんと言語化して伝えてくれないと~!私、わかんないもん!」
菜々は満面の笑みで言い放った。
(この子達、次から次へと本当にめんどくさ~い)
菜々は今までの鬱憤が爆発したかのごとく饒舌に語りだす。
いつものおどおどした様子とは打って変わり堂々としており冷静沈着かつ流暢であった。
菜々は小学生の頃からいじめや嫌がらせにあっていてる自称いじめられっ子エリートだった。
いじめを受けていてもなんとか耐えられて今こうして冷静に言い返せるのは過去にいじめられた経験があって、こうして一人で戦ってきた経験があるからである。
「長谷川さんの取り巻きさんたちは長谷川さんのことが本当に大好きなんだね!長谷川さんのために長谷川さんの代わりに私に苦情をいうなんて!それって愛、だよね!感激しちゃう~!」
菜々は手でハートを作ってウィンクして喜びを表現した。
その反応を見て長谷川たちは一瞬ひるむがすぐに我に返ると怒鳴り声をあげる。
「うっせーよ!!お前マジで黙れよ!!」
「ふざけんな!!!」
「ぶっ殺すぞ!!!??」
菜々は彼らの罵声を聞きながらも全く動じにぽか~んとした顔をみせるだけだった。
(え~?この人たちなに~?)
菜々は猛犬が吠えているような迫力がある罵詈雑言の数々を聞きながら心底あきれ果てていた。
(これは友達のために一致団結して悪人を倒す青春友情ドラマなの~??)
菜々はあまりにも幼稚すぎて子供っぽくてしょうもない連中だと思った。
というかそれ以前に彼らは本当の意味で高校生なのか疑わしくなるレベルである。
正直いって彼らと同世代であることを恥ずかしく感じるレベルである。
騒ぎを聞き付けて隣のクラスの人間や他学年の生徒まで集まりだし野次馬ができはじめる。
(ま、騒ぎ続けて彼女たちが停学にでもなってくれたらラッキーだよね~)
すると、菜々と同じく東京女子高からお試し編入してきていた女子バスケ部の島倉美香子が長谷川の取り巻きたちのなかにいた菜々に激昂している今宮に近づく。
「なになに~!も~、今宮!あんた、なにこんな騒ぎ起こしてんのさ~!停学になって試合出れなくなるよ~?!」
「うるさっ!てか、あたしがレギュラー落ちしたの知っててそれ言うの!」
菜々に暴言を吐いてきた女子バスケ部の今宮は島倉にキレて叫んだ。
今宮の言っていることは確かに事実であるが本人的には不服なようだらしい。
「こいつが海常になんて来るからあたしがレギュラー落ちしたの!佐保にも言われたもん!」
「はぁ?七海さんはバスケ部には関係ないでしょ?」
島倉は今宮が名前を責めることがわからず困惑気味に聞き返す。
「だって・・・!せっかくバスケ強豪校の共学の海常で同じくバスケしてる男子といい感じになれると思ったのに・・・!なのに七海さんはバスケのことなんにもわかんないくせにバスケ部のイケメンの森山先輩と仲良くしてずるいんだもん!私のほうがバスケ部でこんな男みたいな髪型にして女捨てて頑張ってるのに髪の毛伸ばしてツインテールになんかして好き勝手自由に生きてるこいつがバスケ部のイケメンかっさらってくなんて納得いかないんだもん!」
今宮の本音を聞いて名前は思った。
(うん、つまりただの現状への不満と自由に生きている私への嫉妬ってこと?くっだらない)
菜々は思わずため息をつきそうになった。
そんなことでここまで喧嘩腰になっていたのかと逆に呆れてしまうほどだ。
今宮は自分で決めたことでも女子バスケ部の練習や厳しい頭髪ルールに従って生きているのに報われない理不尽さを感じてしまって感情のままに吐き出してしまったんだろうと思った。
(まあ、この人の気持ちもわからないでもないけどね~)
菜々としては女子バスケ部の理不尽なルールに縛られて貴重なJK時代を楽しく過ごせなくて苦しむ今宮のことも理解はできる気がした。
ただ、だからと言って今宮のしたことを擁護するつもりもないし許すつもりはない。
「はぁ・・・?今宮、あんた男がどうたらとかは東京女子高にバスケ部推薦で入学した時点で受け入れたでしょう?今さらなに言ってんのさ」
島倉は呆れたような目で今宮を見つめる。
「そうだけど・・・・・・!東京女子高は閉校して、うちら女子バスケ部は共学の海常に来ることになるじゃん!女子校なら男みたいな格好してバスケ一本なことに耐えられたけど・・・共学で同じバスケやってるかっこいい男の子がいたら女の子として期待しちゃうじゃん!それなのに・・・それなのに、そのかっこいい男の子たちをバスケのことなんにもわかんない髪の毛のばしておしゃれしてる女の子にかっさらわれるなんて我慢ならないんだもん・・・・・・!」
今宮は涙目になりながら訴えかける。
そして菜々を睨みつける。
(あぁ、なるほどね~、この人はこういう理由で怒ってるんだ~)
菜々は理解した。
今宮はバスケでもうまくいかず、さらには見下していた菜々に女としても負けてアイデンティティーが揺らいで心が弱くなっているときに長谷川にその心の隙間に付け込まれて唆されて今に至るわけだ。
菜々は自分がされたことを思い出してつい同情してしまいそうになるが今はそれよりも自分の身を守るほうが先決だと思い直す。
菜々はこの機に乗じて一気に畳み掛ける。
「今宮さん。確かに私はバスケのことわかんないのに3年生の森山さんとよく話したりしてるけど森山さんは誰にでも優しいよ?私だけじゃないよ。だから私にだけ当たるのはお門違いだよ」
きっぱりと言い切った。それはまるで別人のように凛々しくてハキハキとしていた。
それを聞いた今宮はしばらく黙り込んでいたがやがてぽつりと呟くように言った。
「そんなの・・・そんなの・・・」
その言葉には少し恨みつらみや妬みや嫉みが含まれていた。
どうやら彼女は本気で怒っているようだった。
しかし、今宮の口から出た言葉は意外なものであった。
「森山先輩、あたしと話してるときは全然楽しそうじゃなかったのにあんたが来ると楽しそうに笑ってて気を許してるみたいで・・・・・・。それにあんたには森山先輩はあたしに見せたことがないような優しい笑顔をむけてるし」
「え?」
菜々はその言葉が信じられず戸惑いを見せる。
するとさらに追い打ちをかけるように今宮は言う。
「東京女子高ではいっつも正論ばっかりで嫌われてた癖に、海常に来たらイメチェンして注目集めてチヤホヤされてるなんて生意気なんだよ!」
今宮は泣きながら吐き捨てるように言った。
それを聞いて菜々は思った。
(なるほど・・・・・・そういう事だったのか・・・・・・)
今宮の言い分を聞いてようやく合点がいったのだ。
今宮の言いたいことは大体把握できた。
彼女が何故こんなにも怒っていたのか。
その気持ちを理解すると同時に腑に落ちた部分もあった。
もしかしたら自分が彼女を追い詰めてしまっていたのかもしれないとも思うようになった。
ここで謝るべきだろうか。
いや、謝るべきではないと思う。自分は間違ったことは何一つしていないから謝ることはない。
すると、ずっと黙っていた長谷川が口を開く。
「今宮のことこんなんになるまで追い詰めるなんてお前、マジで最低だな!海常から消えろよ!あたしらの視界から消えて東京女子高に戻って嫌われものとして嫌われ続けてろよ、バーカ!」
長谷川は感極まった今宮を慰めるように頭をポンポン叩くと菜々に向かってそう告げた。
そして、長谷川の言葉を聞いてますます泣き崩れていく今宮。
(は…なにそれ…なんで、そうなるの?)
菜々は泣いている今宮を慰める長谷川の様子を見ながら自分が悪役にされている理不尽な状況に怒るよりも先に、暴走した被害者である今宮を慈愛に満ちた聖女のように優しい言葉や態度で慰めながら菜々に正義の鉄槌をくだす正義の味方のように振る舞って菜々に暴言を吐いて悪役にして陥れる長谷川の悪辣さに怒るよりもゾッとしていた。
(どうしよう…なにか言い返したいけど…身体が動かない…声がでない…)
「おい!自分の人生がうまく行かないことが全部、七海さんのせいみたいに言ってるけど全部言いがかりと八つ当たりだろ!七海さんのこと悪役にして二人で友情に浸ってるところ悪いけど、あんたらの方がよっぽど性悪だぞ!そもそもお前らみたいな奴らは七海さんに勝ってないし人として格下だから偉そうに言える権利すらないからな」
声の主は荻原シゲヒロだった。
「え?荻原くん?!どうして海常に?!」
名前は源光男子高校の生徒で東京女子高にお試し編入していたはずの荻原がここにいることに驚いた。
荻原は菜々の問いに答える。
その声は穏やかだがはっきりとしたものを感じることができた。
きっと荻原は何か考えがあってこの場に現れてくれたのだろう。
何にせよ、まさか荻原に海常で会うとは思わなかった。
一体どんな事情があったのか?
「はぁ?!なんだよ!お前!」
長谷川は菜々への嫉妬で菜々を攻撃した今宮を慰めるようにすることで自分達が正しくて被害者であるように見せようとしてこの場を終わらせようとしたのに水をさされたような気がして不機嫌そうな顔をして怒鳴る。
それに対して荻原は全く臆することなく平然とした態度でさらりと答えた。
「あんたらは自分のやり場のない感情を自分でなんとかしようとせず他人になんとかしてもらおうと依存的な思考をしてるからイライラをぶつけられてるほうからしたら溜まったもんじゃないです」
荻原は鋭い目つきで睨み付けているが口調は比較的落ち着いている。
普段の穏やかな印象とは違い意志の強さを感じさせるしっかりとした話し方をしていた。
その姿は頼もしくてまさにヒーローと呼ぶに相応しいものだった。
長谷川たちは突然現れた知らない男に反論されてしまい自分たちのペースを乱されて苛立っている様子だ。菜々はその様子を呆然と眺めていた。
今まで誰も味方してくれなかったのに初めて味方が現れたと思ったら予想外の出来事過ぎて思考が追いつかなかったのだ。
もちろん嬉しさもあるが戸惑いもある。
現に今もこの状況についていけていない状態だ。
「おーい。荻原~!なんで、2年生の教室にいるんだ?・・・ってなんだこりゃ?!」
海常高校の教諭で海常バスケ部の監督の武内は名前たちのクラスにひとだかりができていて、さらには菜々の机が倒れて中身がちらばっていて、さらには泣いている今宮とその傍らで荻原と名前に敵意を向ける長谷川というあきらかに一触即発なトラブルがあったかのような状況に驚き戸惑っている。
しかし、状況を把握して冷静な対応をとる。
「とりあえず荻原は職員室に来い。長谷川と今宮も後から話聞くから」
長谷川は先生が来たことによってビクッと身体を震わせたが何も言わずに黙っている。それを見た荻原は安心したような表情をした。そして、荻原は先生に訴えるように言う。
「あの女子二人が七海さんに言いがかりをつけて暴言を吐いて悪人扱いをしていたので止めに入りました。先生はご存知の通り俺はお試し編入制度で一週間ほど東京女子高にお試し編入していました。その時の様子は先生もご存知だと思います。それで今日登校したんですが・・・・・・」