我が道を往くいじめられっ子は人生を変えたい 作:名無しのなな
「武内監督にスカウトされて海常高校に編入してきまた!1年の荻原シゲヒロです!よろしくお願いします!」
荻原は海常バスケ部のメンバーに元気に挨拶をした。
荻原は自己紹介を終えると早速練習に参加した。
荻原はすぐに実力を発揮してミニゲームでも活躍し始めた。
さらには、荻原は人柄もよく人懐っこいのですぐにみんなから受け入れられて先輩から可愛がられて同級生からも好かれていた。
そんな荻原を見て同じ1年生の黄瀬涼太は尊敬の念を抱くと同時にライバル意識を燃やしていた。
海常に入学したが初期の頃は自信過剰なところが見受けられたが最近はだいぶ落ち着いてきて謙虚さも身につけてきた。しかし、まだまだ未熟者であることは確かである。
「荻原くん」
「あ、君は・・・」
荻原は黄瀬の姿をみて驚く。
荻原が以前見たときと比べて顔つきが変わっていたからだ。
黄瀬は相変わらず愛想がよくニコニコしながら声をかける。
「俺、1年の黄瀬涼太ッス!よろしくッス!」
屈託のない笑顔はとても眩しいものがある。
荻原は若干引きながらも苦笑いをしながら返答する。
「荻原くんって海外から来たとかなんすか?」
「え?どうして?」
「だって、うちのバスケ部に入部するくらいなんだからそれなりに実績のあるところ出身なのかなと思って」
黄瀬の質問に荻原は苦笑いしながら答える。
「俺は元々、明光中学でバスケしてたんだけど事情があってやめてたんだけどもう一度始めてみようかと思ってこの学校に編入したんだ」
「ふーん」
荻原の言葉に黄瀬は納得した様子を見せる。
荻原のプレーを見ていると経験者であることは一目瞭然だった。
荻原は運動神経も良いだけでなく天性の身体能力を持っていた。
だが、黄瀬は荻原に一目置いてはいたものの中学時代に荻原が所属していたバスケ部のチームを111-11でゾロ目にする遊びをして圧倒的な実力差でもてあそんだことなど忘れていた。
荻原自身はそんな舐めプ試合をしてきた黄瀬と同じチームになるのは複雑だったが今の現状を変えたいと心から願っていたので気にせず受け入れることにしたのだ。
(俺はバスケをやめようと思ったこともあったけどやっぱりバスケが好きなんだな)
そう思うと自然と笑みが出る。荻原はこれからの自分の未来にワクワクしていると実感していたのだ。
――
「それで、荻原シゲヒロくんって子がうちのバスケ部に新しく入部して来たんスよ~」
黄瀬は黒子に荻原シゲヒロが海常に編入してきてバスケ部に入部して来たことをきいていた。
「え・・・荻原くんが・・・ですか?」
黒子は帝光中との試合で深い傷を負ってバスケをやめて連絡がとれなくなっていた荻原シゲヒロがバスケ部に入ったと聞いて驚きと同時に懐かしさと切なさが入り混じった気持ちになる。しかも、全中の試合でつまらないからなという理由で点数をゾロ目にする試合を最初に提案した疑惑がある黄瀬と同じ海常バスケ部に入部したことは黒子にとって信じられないことだった。
「黄瀬くんは・・・荻原くんのことを覚えていないんですか?」
「え?俺、荻原くんとどこかで会ったことあったっスか?」
黄瀬は本当に心当たりがないようできょとんとした表情を浮かべていた。
その瞬間黒子は目の前が真っ暗になるような感覚に陥る。
黒子にとっては忘れたくても忘れられない記憶だったはずなのにもう黄瀬の記憶からは完全に抹消されてしまったようであった。
黒子は自分の心の弱さに嫌気が差す。
黒子の表情を見て明らかにショックを受けていることを察した黄瀬は慌ててフォローを入れる。
「ごめんッス!もしかして黒子っちの友達だったりします?!」
黄瀬の謝罪の言葉を聞いた黒子は首を横に振りつつ答える。
その表情はいつもと変わらない無表情であったが内心では焦りを感じていた。
「いえ・・・黄瀬くんがもう忘れているなら僕には何も言うことがありません。それでは失礼します」
そう言って黒子は電話を切る。
「あっ!黒子っち…」
黄瀬はそれを引き止めようと慌てて声を掛けるが、黒子はこれ以上黄瀬と荻原について会話するのが苦痛だった。
実際、黄瀬は荻原のこと忘れていた。
ゾロ目試合で追い詰めた弱すぎるチームのことなど、そのチームにいた荻原のことなど黄瀬にとっては記憶に残らなかったのだ。
黒子の心が激しく乱れても仕方がないと言える。
しかし、今更そんなことを考えても後の祭りだと割り切るしかない。
(今の黄瀬くんはあの時のゾロ目試合を提案していた黄瀬くんから変化しているんだ。僕も今は誠凛バスケ部として、海常バスケ部の荻原くんと試合で当たることがあったらその時は正々堂々と戦います。絶対に負けないよう練習頑張ります)
**
本編 七海菜々視点
菜々は荻原が海常に編入してきたことに驚きながらも自分を助けるために長谷川と揉めたときに味方してくれた荻原に全幅の信頼をおくこととなった。
「荻原くん!」
菜々は部活に行く途中の荻原に駆け寄り話しかける。
明るい笑顔で元気よく話しかけられた荻原は少し戸惑った表情を見せつつも返事する。
「・・・はい?」
(あ、荻原くん、めちゃめちゃ驚いてる!どうしよう!)
「あ、あのね!わたし、吹っ切れちゃったの!荻原くんが味方になってくれたし荻原くんの存在が私を元気にしてくれたから・・・その、ありがとね!海常に来てくれて!」
菜々は照れ笑いしながらそう告げる。荻原は一瞬驚いた表情を見せた後、柔らかく微笑んだ。
荻原は少しだけ沈黙した後口を開いた。
「いいえ、こちらこそありがとうございます。俺の方こそ七海さんが元気になってくれて嬉しいです」
荻原は爽やかな笑みを浮かべてそう言った。
菜々はその言葉に勇気付けられた。
自分の存在を肯定してくれて認めてくれる人がいるというだけで心が軽くなるような気がした。
菜々が今まで体験してきたものは孤独との戦いだったのだ。
イジメを受けていた時も誰とも関わらず一人で乗り越えてきた。
だからだろうか、荻原のように勇気ある人間に懐いてしまうのだ。
そんな菜々と荻原のやり取りをみて森山は一言呟いた。
「おぉ・・・・・なんか青春って感じだな」
それに対して他の部員たちも口々に同意するように声をあげる。
「あれ、告白に近くないっスか?!」
黄瀬は菜々が荻原に言った元気が出る存在という言葉は恋愛的な意味合いを含んでいると感じたようだ。
その言葉に反応したのは早川だった。
早川は顔を赤くさせながら興奮した様子で声を上げる。
「そうなのかぁ?!あれ、告白なのかぁ?!」
早川は菜々が荻原に言った言葉が愛の告白に当たるのではないかという黄瀬の意見に衝撃を受けているようだ。
黄瀬は興奮気味に言葉を続ける。
「だって、一緒にいたら元気になれるとか言ったら普通そういう意味になっちゃうっすよ!」
黄瀬は目を輝かせながら前のめりになっている。その様子を見た早川は更に食いついてくる。
「そうなのかぁ?!そうなんだなぁ?!」
早川は動揺しつつ必死に確認を取るべく黄瀬に詰め寄る。
黄瀬は早川の反応を見ながらニヤニヤ笑っていた。
「あの二人がどうなるのか楽しみッスね~!」
黄瀬は面白そうに二人を眺めていた。
海常は今日も平和であった。
**
「菜々って1年の荻原くんのことが好きなの?」
「えっ?!どうして?!」
菜々は吉沢にそう言われたので驚いた表情をみせる。
「だって荻原くんの姿を見つけたら子犬みたいに駆け寄って行くじゃん?」
吉沢の言葉にその場に居合わせた生徒たちはうんうんと頷いている。
菜々は顔を真っ赤にさせワタワタとしている。
菜々は基本的に誰に対しても平等に接するがその中でも仲の良い子とそうでない子がいる。
特に仲のいい子の中でも男は荻原だけである。
「う~ん・・・確かに懐いちゃってるかも。え~恋なのかな~?よくわかんないかも~!」
菜々は照れ隠しをしながら笑った。
「う~ん・・・荻原くんと・・・」
菜々は頭のなかで荻原と恋愛関係になる妄想をしたがいまいちわからないというか、それをしてはいけないような気がして打ち消して考えるのを止めた。