無銘の湖光 ~ランスロットとして目覚めた俺は、名を失っても世界を紡ぐ~ 作:カノープス・ギア
夕暮れの衛宮邸。
長い時を越え、思いがけない再会を果たしたアルトリアとランスロット。
士郎の招きで屋敷に入ったランスロットとバゼットは、十年前の聖杯戦争について話を聞くことになる。
かつてバーサーカーとして召喚された、もう一人のランスロット。
聖杯からあふれた謎の黒い泥。
そして、今なお解き明かされていない彼の現界。
数々の疑問が浮かび上がるなか、アルトリアはランスロットへ、ずっと胸に抱えていた問いを投げかける。
「なぜ、帰らなかったのですか?」
帰りたかった。最後の最後まで。
そう答えたランスロットは、あの日の戦いで命を落としたことを告げた。
帰らなかった騎士と、帰りを待ち続けた王。
二人の再会は、まだ終わっていない。
それでは、第11話をお楽しみください!
居間の灯りの下で、アルトリアはすぐには何も言わなかった。
膝の上で揃えていた手を重ね、視線を落とす。
ランスロットは言葉を足さず、彼女が顔を上げるのを待った。
壁の時計が秒を刻んでいる。
「……そうですか」
顔を上げたアルトリアの声は、王の声として整っていた。整えたのだと分かる程度には。
「帰るつもり、だったのですね」
「ええ。そのつもりでした」
彼女は小さく息を吐いた。
「それでも、あなたは帰ってこなかった」
責める響きではなかった。事実を一つ、卓の上へ置くような声だった。
「待っていた者たちがいました。なぜ戻らないのか、誰も知らなかった。……私も」
ランスロットは頷いた。
「あなたの口から、聞きたかった」
「……遅くなりました」
「ええ。とても」
そこで、彼女の目がわずかに遠くなった。
「十年前、あの黒い騎士にも、聞きたいことがありました。……今も、分からないままです」
黒い鎧。王へ向けられた剣。ランスロットの覚えている人生には、どこにもない場面だ。
「今夜、あなたの答えを聞いて」
彼女は言葉を選ぶように、一度唇を閉じた。
「あの時の問いにまで答えてもらえた気になりかけました。……それは、違いますね」
「違うと思います」
ランスロットは言った。
「あの騎士が何を考えていたのか、俺には分かりません。分からないところを、俺の話で埋めたくありません」
「分かっています」
返事は早かった。けれど、その先の言葉は少し遅れた。
「分かっているのです。あなたはあの場にいなかった。あなたの語る生涯と、あの剣は重ならない。……それでも、私に向けられたことは消えません」
「ええ。俺がここにいるからって、その夜まで変わりはしません」
彼女はしばらく彼を見ていた。やがて、ほんのわずかに肩の線が緩んだ。
「……では、あの問いは、あの騎士の分として残しておきます。あなたに答えさせるものではない」
静かに口を開いたのはバゼットだった。右手を膝に置いたまま、首を動かした時だけ左肩をかばうようにしていた。
「お二人の話が食い違う理由も、泥の正体も、まだ分かりません。今ある証言を手掛かりに、確かめていきましょう」
「ええ。お願いします」
アルトリアは頷き、隣の士郎へ目を向けた。
「シロウ。切嗣は、あの夜のことを何か話していましたか?」
士郎は脇へ寄せた湯呑みから顔を上げた。
「……戦争のことは、セイバーから聞いたこと以上は知らない。なんで聖杯を壊させたのかも。だから、あの人は正しかったとか、そういうことは言えない」
そこで一度、言葉を切った。
「でも、あの火事の中から俺を引っぱり出したのは切嗣だ。それから何年も一緒に暮らした。家事はからっきしで、ふらっといなくなって……それでも帰ってくると、ちゃんと笑う人だった」
それだけだ、と士郎は言った。
アルトリアはすぐには答えなかった。
「私の知る切嗣は」
やがて彼女は言った。
「私と、ほとんど言葉を交わしませんでした。最後に聞いたのは、令呪による命令です」
声が、そこで一度硬くなった。
「あれを許したとは言えません。なぜあんなことをしたのか、今も分からない。……ですが」
彼女は士郎を見た。
「私が見ていたのは、あの男の一面だけだったのかもしれない。あなたの知る切嗣も、確かにいたのですね」
「……ああ」
「……その話も、覚えておきます。ありがとう、シロウ」
士郎が小さく頷く。アルトリアは一つ息をつき、それから、もう一度ランスロットへ目を戻した。
ランスロットはその目を見返した。
「我が王。……俺がいなくなった後の国を、聞かせてもらえますか?」
アルトリアは頷き、言葉を選ぶように視線を卓へ落とした。
「あの災いが去った後も、国は続きました。翌年も麦は播かれ、市は立ち、子が生まれた。……あなたが守った後の時間を、私たちは確かに生きたのです」
その言葉が胸の奥へ落ちるまで、少しかかった。
あの戦いの最後に考えていたのは、帰り道のことだった。
その先に何が残るのかは、確かめようがなかった。確かめる前に終わったのだから。
ランスロットは息を吐いた。
笑ったのか、力が抜けたのか、自分でもよく分からなかった。
「ガウェインは?」
「よく働いてくれました。兵たちの前では、相変わらず大きな声を出して」
「ベディヴィエールは?」
「私を支え続けてくれました。残った皆で仕事を引き受けて、国を保とうとしたのです」
名前を一つ尋ねるたびに、答えが一つ返ってくる。誰がどこで何を続けたのか。見知った顔が、自分の知らない年月の中で動いている。
「ギネヴィアも、民の前に立ち続けました。宮廷を保ったのは、私一人ではありません」
「……そうでしょうね」
それは、よく知っていることだった。王の後ろにいたのは、自分だけではない。
アルトリアはそこで、一度言葉を止めた。
「それでも」
声の温度が、少し下がった。
「国は、保てませんでした」
ランスロットは黙って続きを待った。
「理由を一つにはできません。土地をめぐる争いがあり、諸侯の思惑があった。国の形そのものに無理があったところもある。円卓の中にも、言葉が届かなくなった者たちがいた。……私の決めたことが、裂け目を広げたこともあったでしょう」
淡々とした声だった。何度も自分の中で並べ直してきた順番なのだろうと、ランスロットは思った。
「最後には反乱が起きた。そして、私たちはそれを止められなかった」
居間が静かになった。
士郎が小さく身じろぎし、何か言いかけて口を閉じた。バゼットはアルトリアから視線を外さず、黙って聞いていた。
ランスロットは、すぐには何も言えなかった。
帰ろうとしていた場所。城の廊下、軍議の卓、訓練場の土の匂い。あれは自分が死んだ後もしばらく在って、そしてなくなった。頭では当たり前のことなのに、こうして聞いて初めて、本当に終わったのだと分かった。
寂しかった。それと同じくらい、なぜか安堵もしていた。すぐに終わったのではなかったから。
「……俺がいれば、止められたんでしょうか?」
問いは、思ったより静かに出た。
「それは、私にも分かりません。ただ、あなたがいなくなって、困ったことはあります」
まっすぐに彼を見る。
「あなたは、人と人の間にいました。軍議がこじれればほどき、誰かと誰かが口をきかなくなれば、いつの間にかその間に座っていた。戦場で穴が開けば、そこにいた。……あなたがいなくなって、繋ぎにくくなったものは確かにあります」
ランスロットは続きを待った。
「けれど、あの国が終わったのは、あなた一人がいなかったからではない。そこまで一人で背負われては、残って選んだ私たちの立つ瀬がありません」
最後の一言には、わずかに王らしくない響きが混じっていた。
ランスロットは、ゆっくりと息を吐いた。
「……分かりました」
それから、少しだけ口元を緩めた。
「みんな、生きたんですね。俺がいなくなった後も」
「ええ」
アルトリアは頷いた。
「生きました」
アルトリアは、まだ彼から目を離さなかった。
「国のことだけではありません。あなたがいなくなって困ったのは、私も同じです」
「王が迷いを口にすれば、臣下は揺れます。だから私は、答えの形になるまで迷いを外に出さないようにしていた。……けれど、あなたには、答えになる前から話せた」
「考えがまとまっていなくても、あなたは最後まで聞きました。知らないことは知らないと言って、何が足りないのかを一緒に確かめた。……そして、決めることは必ず私に返した」
懐かしむというより、一つずつ確かめるような口調だった。
「戦場では、私が示した先へ、皆が実際に進める道を開いた。王が指さしただけでは、人は進めません。そこを、あなたは形にしていた」
ランスロットはしばらく黙っていた。
「……そんなに頼られてました?」
アルトリアの眉がわずかに動いた。
「自覚がなかったのですか?」
「話を聞いていたのは覚えてますけど、答えられないこともあったでしょう?」
「答えがほしい時ばかりではありませんでした」
ランスロットは口を閉じた。
「一緒に考えてくれるだけでも、助かったのです」
ランスロットは卓の木目へ目を落とし、それから顔を上げた。
「じゃあ、俺からも一つ」
「どうぞ」
「我が王は、真面目すぎるんですよ」
士郎が小さくむせた。
アルトリアは瞬きを一つしただけだった。
「……それは、褒めているのですか?」
「半分は。王だからじゃなくて、根っこから真面目なんです。引き受けたことは投げないし、自分にだけやたら厳しいし、一度決めたら、こっちがどれだけ言っても曲げない時がある。正直、面倒だなと思ったことも何度かあります」
「何度か」
「……何度も」
アルトリアが目を細めた。反論しかけて、やめたらしかった。
「でも」
ランスロットは続けた。
「その一本通った芯があったから、みんなついていったんだと思います。守るとか、誓うとか、弱い者の前に立つとか。騎士道と言うなら、俺にとっては、あなたがそうやって生きていたことですよ」
アルトリアは何も言わなかった。
「俺があなたに仕えたのは、命令されたからじゃありません。支えないと倒れそうだったからでもない。あなたが示す道なら、俺も一緒に歩きたいと思った。だから歩いたんです。あなたが前を指して、俺はその道を塞ぐものを斬って、ついでに裏で詰まってるところをつついてた。……それだけのことです」
「それだけ、ですか?」
「俺の側から見れば」
ランスロットは少し笑った。
「俺たちだけでもありませんでしたしね。ギネヴィアも、ガウェインも、ベディヴィエールも。名前の残らない騎士も、畑を耕してた人たちも、みんな自分の場所にいた。あの時代は、そういうもので繋がってたんだと思います」
「……ええ」
「だから、我が王」
声が少しだけ改まった。
「後悔するなとは言いません。失ったものはあったし、間違えたこともあったんでしょう。俺だって、帰れなかった。でも、終わり方だけで、あの時代全部を失敗だったことにはしないでほしい。守れた人がいた。続いた年月があった。あいつらが生きた明日が、ちゃんとあったんです」
アルトリアは、長く黙っていた。
「……守れたものがあったことは、分かっています」
やがて、静かにそう言った。
「あなたがそう覚えていてくれたことは、嬉しく思います。けれど、守れなかったものを悔やむ気持ちは消えません。それを抱えたまま、私はここにいます」
「それでも、俺が見ていたことは、伝えておきたかったんです」
「ええ。……聞けて、よかった」
それから彼女は、膝の上の手をほどいた。
「ランスロット」
名を呼ばれ、ランスロットは顔を上げた。
「あなたが選んだことには、意味がありました。あなたが切り開いたから、私たちはその先を生きられた。それは本当です」
「……はい」
「ですが」
彼女の声が、そこでわずかに揺れた。王の声ではなかった。
「それでも私は、あなた自身にも帰ってきてほしかった。国を守った騎士としてではなく。……あなたに、帰ってきてほしかったのです」
ランスロットは、返す言葉を探した。
仕方なかった、と言うのは簡単だった。あの時はああするしかなかった。それも本当だ。けれど今それを口にすれば、彼女がずっと抱えてきたものを、手で払いのけることになる気がした。
喉のところで、いくつかの言葉が引っかかっては消えた。
「……すみません」
やっと出たのは、それだけだった。
少し間を置いて、もう一言。
「ちゃんと、聞きました」
アルトリアは小さく頷いた。それ以上は、何も求めなかった。
しばらく、誰も口を開かなかった。
時計の音が戻ってくる。庭のほうで、風が雨戸を小さく鳴らした。
最初に動いたのは士郎だった。
「……お茶、淹れ直すよ。すっかり冷めてる」
卓の湯呑みを盆へ集めはじめる。ランスロットも自分の湯呑みを渡した。
アルトリアがはっとしたように顔を上げた。
「シロウ、すみません。夕食の支度を、すっかり止めてしまいました」
「いいって。こっちが先だろ、どう考えても」
「ですが、あなたは帰ってから何も――」
「セイバー、それ言ったらセイバーも食べてないぞ」
アルトリアが言葉に詰まる。ランスロットは堪えきれず、小さく吹き出した。
「……何ですか?」
「いえ。さっき言ったばかりだなと思って」
「何を?」
「真面目すぎるって」
アルトリアの目が、じとりと細くなった。
「今のは、家主への当然の配慮です」
「はい、それはもう」
バゼットが右手を座卓について、姿勢を直した。左肩をかばうように体の向きを変え、座布団の位置を片手でずらす。ランスロットが手を出しかけると、彼女は小さく首を振った。
「肩、張ってきました?」
「少し。座り方を変えれば問題ありません」
それ以上は言わず、彼女は楽な角度を自分で見つけて落ち着いた。ランスロットも頷くだけにした。
台所から湯の沸く音がしはじめたころ、アルトリアがぽつりと言った。
「ガウェインが見たら、呆れるでしょうね。王と騎士がいつまでも膝を突き合わせて、茶も淹れずに」
「呆れるより先に、自分も混ざりに来ますよ。話の輪があると、絶対入ってくるんだから」
「……そうでした」
「で、声がでかいから、結局あいつの話になる」
アルトリアの口元が、ほんのわずかに動いた。
「ベディヴィエールは、そういう時いつも黙って席を詰めていましたね」
「そうそう。で、ベディは後で俺のところに来て、『さっきの件ですが』って本題を持ってくるんです。その場で言えばいいのに」
「あなたになら、話が通じると思ったのでしょう」
「いや、俺はただ聞いてただけですよ。相談役なんて役職、なかったんですから」
「役職はありませんでした」
アルトリアはあっさり認めた。
「ですが、皆あなたのところへ話をしに行っていました」
「皆って?」
「ベディも、ガレスも。トリスタンは……あれは話をしに行っていたのか、竪琴を聞かせに行っていたのか分かりませんが」
「あいつは竪琴です。絶対竪琴です。こっちが報告を読んでる横で、ポロロンって」
言ってから、ランスロットは自分で笑った。
「あのポロロンは、夜中にも来ましたからね。眠れないからって」
「知っています。翌朝、あなたの目の下が黒かったので」
「見てたんですか?」
「王ですから」
アルトリアの声に、はっきりと笑いが混じった。
「ガレスは」
ランスロットの声が少しやわらいだ。
「あの子は、ちゃんと相談しに来てましたね。まっすぐな顔して、自分の何が足りないのかって」
「あの子は、あなたに懐いていましたから」
「懐いてたかな。……まあ、可愛い後輩でしたよ」
「ガウェインは、相談には来なかったでしょう」
「来ませんでした。来ないくせに、俺が誰かの話を聞いてると、横から『ランスロット、明日の朝の稽古だが』って割り込んでくる。あの太陽馬鹿」
「……昔からそう呼んでいましたね」
「本人の前でも呼んでました」
「知っています。そのたびに、稽古が長引いていましたから」
「長引いたのは、あのゴリ――」
ランスロットは口を閉じた。
「……ガウェインが負けず嫌いだったからです」
アルトリアが手を口元へやって、肩を小さく震わせた。
「あなたも、人のことは言えません。毎回、最後まで付き合っていたでしょう」
「……それは、まあ。あいつと打ち合うの、楽しかったので」
盆を手に戻ってきた士郎が、座卓に湯呑みを並べながら、アルトリアの横顔をちらりと見た。
「セイバーがそういう笑い方するの、初めて見たかもしれない」
アルトリアが瞬きをした。
「……そうでしょうか?」
「うん。……で、ポロロンって誰?」
「トリスタンです」
アルトリアが即答した。
士郎が、湯呑みを置いた手のまま固まった。
「トリスタンって、あの……?」
「竪琴の名手でした。腕は確かです」
「腕は確かなんだな……」
バゼットが、新しい湯呑みを右手で引き寄せながら口を開いた。
「……『ポロロン』というのは、ご本人の前でも?」
「前でも」
ランスロットは頷いた。
「本人も、悲しげに竪琴を鳴らして返してきましたよ」
「応戦するのですね」
「そういう奴だったんです」
バゼットは小さく息をついた。呆れたのか笑ったのか、どちらとも取れる息だった。
「……あなたにも、そういう時代があったのですね」
「ありましたよ。長いこと」
ランスロットは湯呑みを持ち上げた。熱い茶の湯気が、指先を撫でた。
「聞きます? あいつらの話なら、いくらでもありますけど」
バゼットは少しだけ考えて、頷いた。
「では、ガウェイン卿が負けた話を」
「最初からそこですか」
アルトリアが、今度ははっきりと声を立てて笑った。
「負けた、というほどでもないんですよ」
ランスロットは湯呑みを置いた。
「あいつ、昼間はやたら強いんです。真っ向から打ち合うと、そう簡単には崩れない。だから、その日は夕方まで粘った」
「粘った?」
「粘りました。躱して、下がって、また躱して。そのうち日が傾いてくる。で、ガウェインが『卑怯だぞ』って言うから、『日が沈むのは俺のせいじゃない』って返して」
バゼットが瞬きをした。
「……それは、勝ったと言えるのですか?」
「言えないでしょうね」
ランスロットはあっさり認めた。
「本人も認めませんでしたし」
「補足しますと」
アルトリアが、茶を一口含んでから言った。
「その後、あなたが夕方の稽古を勧めることが増えましたね。昼は暑いので騎士たちの体に障る、と進言して」
ランスロットは黙った。
士郎が、ランスロットとアルトリアを交互に見た。
「……それって」
「俺じゃないです」
「あなたです」
「……俺でした」
士郎が吹き出した。バゼットは湯呑みを口元に運びかけた手を止め、肩を少しだけ揺らした。
「真面目な進言だったんですよ。実際、あの季節は暑かったし」
「理由の半分は、そうでしょうね」
アルトリアの声には、まだ笑いが残っていた。
「もう半分を、私が知らなかったと思っていたのですか?」
「知ってて通したんですか?」
「騎士たちの体に障るのは本当でしたから」
「……ずるくないですか、それ?」
「王ですから」
二度目の同じ答えに、今度はランスロットのほうが笑った。
こういう話を、もう一度できるとは思っていなかった。国の行く末でも、戦の段取りでもない。誰が誰に稽古で意地を張ったとか、誰が夜中に竪琴を抱えて来たとか、そんな話を。
「そういえば」
アルトリアが、自分から湯呑みを置いた。
「パーシも、あの稽古に混ざりたがっていましたね」
「ありました、ありました。あいつまで来ると、なかなか終わらなくて」
「終わらせる気がなかったのは、あなたたちも同じでしょう」
「……あと一本って、つい言っちゃうんですよ」
「結局、皆で張り合っていたのですね」とバゼットが言った。
「稽古になると、どうもね」
士郎が、湯呑みを両手で包んだまま、感心したような呆れたような顔をしていた。
「なんか、思ってたのと全然違うな。円卓の騎士って」
「どう思っていたのですか、シロウ?」
「もっとこう……静かで、重々しい感じ」
アルトリアとランスロットは顔を見合わせた。
「ベディなら、そうかもしれません」
「ベディだけですね」
士郎がまた笑い、アルトリアが何か言い返そうと口を開いた、その時だった。
表で、戸を叩く音がした。
士郎が玄関のほうへ顔を向け、腰を浮かせかける。ランスロットもそちらへ視線を向けた。
廊下の向こうから、よく通る声がした。
「衛宮君ー。いる?」
第11話、いかがでしたでしょうか?
今回は、ランスロットが知らなかったブリテンのその後、そしてアルトリアが胸に抱えていた思いを中心に描きました。
ランスロットが命を懸けて守った国。
彼がいなくなった後も、人々は生き、笑い、働き、それぞれの明日を紡いでいました。
けれど、王が本当に望んでいたのは、国を守った英雄の功績だけではありませんでした。
「あなた自身にも帰ってきてほしかった」
この言葉を、ランスロットがどう受け止めていくのか。
それも、これから描いていきたい部分です。
さて、後半は少し雰囲気を変えて、円卓の思い出話をお届けしました!
ガウェインとの稽古、ベディヴィエールの相談、そして夜中に竪琴を持ってくるトリスタン。
英雄として語り継がれる円卓の騎士たちにも、こんな賑やかな日常があったのかもしれません。
個人的には、ガウェイン相手に張り合うランスロットと、それを全部分かっていたアルトリアのやり取りがお気に入りです(笑)
そして最後には、新たな訪問者が……?
続きは次回のお楽しみということで!
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