ある少年は英雄となり、ある青年は王となり、またある少女は聖女となった。

『異世界転生』。それは多くの人達が望み、願い……僅かな一握りの者達だけが遭遇する世界の奇跡。

これはそんな奇跡に恵まれた彼ら、彼女らが未来を掴む物語……ではない。

これは、その奇跡を人の手で人為的に引き起こす。顔も名前も登場させないちょっとお茶目な運転手の物語。

彼の名は、異世界転生トラックの運転手。

略して、転トラの運ちゃんである!

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仕事で頭おかしくなった作者が現実逃避しながら書いた作品です。
頭を空っぽにして読んで下さい。


転トラの運ちゃん 前編

第零話 その名も転トラの運ちゃん

 

 物語において、影の立役者とはなくてはならない存在だ。

 

 例え登場しなかったとしても、名前すら用意されていないとしても、嫌われ役であったとしても、後々思い返されて「あれ? このキャラっていらなくない?」とか思われたとしても、それは欠けてはならない重要な欠片(パーツ)。

 

 主役や敵役のような心臓部でなく、脇役達のような手足でもない。小指の一本程度の価値しかなかったとしても、決して切り落としてはいけない存在。物語において、彼ら彼女らはそういう関係だ。

 

 中でも、異世界転生ものの作品において、恒例のように登場する影の立役者達がいる。

 

 鉄の獣を乗りこなす彼ら、もしくは彼女らは、唐突に現れ、正確に、そして一瞬で主役達を葬り去っていく。名はなく、顔も見せず、ただ淡々と己の役割を全うするその在り方は、まさに仕事人。

 

 やがて、作品の輪を越え、毎度の如く出演する彼らを読者達はこう呼んだ。

 

 ――〝転生トラックの運転手〟。即ち、転トラの運ちゃんと。

 

 

 

―◎―◎―

 

 

 

第一話 被害者① 一般高校生 

 

 

 

「おはようこんにちはそしてこんばんはァ! 俺は転生トラックの運転手! ぜひ転トラの運ちゃんと呼んでくれェ! 今日は俺の仕事を皆に紹介して行くぜェ!!」

 

 一人の大柄な男が大型トラックを運転しながら虚空へ向けて声をかける。どこからどう見ても精神異常者であるが、彼の精神状態は気にしなくて良い。転トラ業界に身を置いていれば、この程度の異常はいつものこと。些事である。

 

 そして当然、彼の名も『転生トラックの運転手』などというふざけた名ではない。というより、彼に名など無ければ、付ける必要もない。アニメ第一話の冒頭五分しか登場しないキャラクターの名前を知りたがる物好きなんて……まあ、いたとしても少ないはずだ。

 

 彼は役はそういったもの。故に、名は必要ない。

 

「さあ視聴者の皆、今日のお客様(ターゲット)はァ……コイツだァ! へっ、ガキのくせして異世界に行きたいとか生意気な小僧だぜ。だがこんなガキ相手でもきちんと仕事をしねーといけねぇのが、大人のつれぇとこだ?」

 

 ……はぁ(クソデカため息)。

 

 主語が足りない彼の代わりに説明しよう。

 

 彼の仕事はその名で分かる通りである。特定の人物をトラックで轢き飛ばし、異世界へと転生させる。免許さえ持っていれば誰でもできる簡単なお仕事だ。……犯罪だが。

 

 詳しい原理に関しては、そういう不思議パワーがあると認識して貰えればいい。アルテミアミストやら、ハモ・サピンスやら、モッツァレラ豆腐醤油味やら言われても、イメージできるはずもない。時には、理解不能を理解不能のままにしておく。これも大事なことだ。

 

 そして彼が手に握る紙切れ、それは本社から届いた依頼書であり、ある少年の個人情報が記載されている。

 

 依頼者の名は、佐藤太郎(さとう たろう)。平凡な名に相応しい特に秀でた才能も、恵まれた体格もない。容姿も崩壊してこそいないが、イケメンと呼べるほど整ってはいない。まさに〝普通〟の名がぴったり合う男子高校生だ。

 

 彼は将来、剣と魔法の世界で冒険者として名を上げ、いずれは『炎帝の勇者』と呼ばれるまでの英雄へと成長する……が、この作品においてはただの『被害者その①』でしかない。

 

 説明したように、佐藤太郎はごく普通の高校生だ。しかし彼は昨夜、【あなたも異世界転生してみない?】と狐耳の美少女が呟いているあからさまに詐欺感満載な広告をタップし、あまつさえ会員登録した上で、『異世界転生したいですか?』という問いに対し、『はい』を選択した。冗談半分であったとはいえ、きっと疲れていたのだろう。

 

 結果、彼の個人情報は異世界転生企業『TENTORA』へと送信され、運ちゃんが出動するに至ったのである。だからこその……お客様(被害者)だ。

 

 引っ掛かけた側もアレだが、引っかかった側も相当頭がアレである。

 

「おおっ……いたぜ! いたぜ! いたぜェェエ!! お客様だァア!!」

 

 どうやら説明してる間に、運ちゃんが佐藤太郎を見つけたらしい。さて、それでは事前にお悔やみ申し上げる準備でもして欲しい。

 

 佐藤太郎はまさか自分が大型トラックに狙われてるなど思ってもおらず、欠伸をしながら横断歩道を呑気に歩いている。隙だらけだ。

 

 だったら当然、

 

「今だ! アクセル全開ィ、フルスロットルッ!」

 

 ……こうなる。

 

 佐藤太郎は警戒してない。回避するという発想にすら至らない。そして気付いた時には全てが手遅れだった。

 

「……ぁ」

 

バンッッッ!!!

 

 悲鳴を上げる暇もなく、勢いよく吹き飛ばされる佐藤太郎。身体が100度折れ曲がり、折れた肋骨が皮膚を突き破って胸から生え、顔面は半分が潰れ脳味噌が漏れ出ている。ピクピクと体は痙攣こそしているが、そこにもう魂はない。その肉の塊は、やがて動きを緩やかにし、完全に停止する。

 

 熟練の転トラ運転手に担当されたことが唯一の幸運だっただろう。痛みなく、逝くことができたのだから。

 

「いやっほーっ! 今日も絶好調、DAZE!」

 

 運ちゃんはトラックを止め、サイドミラーで佐藤太郎の状態を確認してからガッツポーズを取る。彼からしてみれば本当に一仕事終えた感覚なのだろう。罪悪感などまるで感じていない。それもそのはず。これは殺人ではなく、転生なのだから。

 

 きっと今頃、転生した佐藤太郎は異世界NO.82、バルモスモスにて、チートスキルを持って転生していることだろう。これから彼の輝かしい第二の人生が幕を上げたのだ。つまり、魂という点だけで見れば、まだ彼は生きている。

 

 とはいえ、運ちゃんの頭のネジは15本くらい外れているだろうが。

 

「皆、分かってくれたか。これが俺の仕事だァ!」

 

 一応……念のため……したくはないが、この男の弁護をしておくとしよう。

 

 運ちゃんは『TENTORA』という異世界転生を商品として扱い、提供する企業に属している。そして彼の役職は一番下。そう、現場作業員だ。本部が詐欺感満載の広告をネットの海に放流し、それに釣られた可哀想な者達を顧客とした上で、運ちゃんのような者達が轢き飛ばす(転生させる)。

 

 冗談ではなく、本当に彼は仕事をしているだけなのだ。本人の意思を考慮しなければ、命令されているだけと言ってもいい。

 

「いいか、異世界転生は人類の夢、そして希望だ! こんな平和な世界じゃあドキドキもワクワクもしねェ。でもこの仕事は、そんな退屈にうんざりした奴らに刺激をプレゼントできる。要するにサービス業ってやつだなァ!」

 

 そう、あくまで本人の意思を無視する前提ならば。

 

「でも誰にでもできる仕事じゃあねェぞ。俺の同僚も何人も辞めていきやがった」

 

 ……ちなみに、転性トラックの運転手を辞めた社員達は軒並み、お亡くなり(転生)している。退職理由ナンバーワンは、『罪悪感に耐えられない』だ。

 

「俺はこの仕事に誇りを持ってる。誰かを助けるのが好きだ。誰かの幸せそうな顔を見るが好きだ。だから俺はぜってー辞めねぇぜ! 給料は少ねぇし、休みもほとんどないが、誰かのために頑張れるこの仕事が俺は大好きだ!」

 

 今すぐに辞めてしまえそんな職場。

 

 もうお分かりだろう。運ちゃんは善人だ。どうしようもないくらいの善人だ。……だが馬鹿だ。というか、転生トラックの運転手にまともな者なんていない。そういう業界だ。本人に悪意がないのだから、なお恐ろしい。

 

「だから皆も、俺と一緒に働こうぜェ!」

 

 やめろ勧誘するな。

 

 

 

 ……。

 ……。

 ……。

 

 

 

 ああ、そういえば一つ大切なことを言い忘れていた。

 

「警察だ! そこのトラック! 止まりなさい! 危険運転致死傷罪で逮捕する!!」

「はぁあああ!?!? 冤罪だァアアア!!」

 

 轢き逃げは、犯罪である。

 

 

 

―◎―◎―

 

 

 

第二話 被害者② 元オリンピアン

 

「よお、こないだぶりだな!」

 

 第一話を読んだ皆ならば、彼の説明はもう不要だろう。性懲りもなくまた現れ、虚空へと話しかける奇人――転生トラックの運転手。またの名を転トラの運ちゃんである。

 

 ひとまず、誰もが思う疑問。『こいつ、捕まってなかったのか?』について説明するとしよう。

 

 結論から言うと、運ちゃんは警察を撒いた。

 

 最終的にパトカー四台とヘリコプター一機に追い回されこそしたものの、勝利したのは運ちゃんの方だ。仕方がない。転生トラックは通常のトラックの最大25倍までスピードを出すことができ、透明化やトランスフォームも行う。通常のパトカー程度で追いつけるはずもなし。

 

 転トラ業界は、仕事柄、警察に追われることが多い。その為に会社が用意した特製のトラック。それこそが転生トラック。轢き逃げし放題である。

 

「今日もまた、俺の仕事ぶりを見せていこうと思うぜェ! なに、遠慮すんなよ。俺達の仲じゃねーか兄弟!」

 

 相変わらず、この男は一体誰に話しかけているのやら。とりあえず、死体が一つ増えることは確定したらしい。

 

「さてと、皆! 今日のお客様はコイツだァア!」

 

 運ちゃんは再び、今回の依頼者を虚空へ向けて掲げる。前回も言いたかったが、きちんと口で説明して欲しい。この作品はアニメでも漫画でもないのだから、わざわざこっちが解説しなくてはならない。

 

 ……まあ、やりますけど。

 

 コホンッ。今回の被害者……失礼。……転生希望者の名は福山誠一郎(ふくやま せいいちろう)。二年前まで、オリンピックでも活躍していたプロの陸上選手だ。驚くことに、100m走のタイムは5秒6。かつては、『速すぎる男』として世界中にその名を知らしめていた。

 

 しかし伝説は長く続かなかった。彼を妬んだ他選手の妨害により、彼は脚に大きな怪我を負ったのだ。その怪我はあまりに酷く、もう今まで通りに走ることはできず、福山誠一郎は陸上界からの引退を余儀なくされた。

 

 結果今では、一般企業で働き、怠惰な日々を送っている。だからだろう。絶望した彼がつい、ネットで見つけた『異世界転生しませんか?』の広告をタップし、会員登録をした上で転生の申し込みをしたのは。

 

 走れない人生なんて死んだも同じ。なら、さっさと来世に行きたい。そんなほぼ冗談みたいな感覚で行った申し込みが、今回運ちゃんを動かした。

 

 そして彼の最大の望みが――――。

 

「ヒャッハーッ! 見つけたぜ、お客さまー!」

 

 おいコラ。まだ説明してる途中。

 

 ……はあ(呆れ)。まあいい、どうせ今話限りの登場だ。皆もそこまで興味ないだろう。

 

 運ちゃんの視線の先にいるのは、スーツ姿の男性。言ってなかったが、時刻は深夜。福山誠一郎は会社からの帰宅途中らしい。見るからに疲労困憊、隙だらけだ。これを見逃す程、運ちゃんは甘くない。

 

「ご利用ありがとうございまーーす!!(死ねェエエエエッ!!)」

 

 アクセルをベタ踏みし、転生トラックが突っ込んでいく。……今、『死ね』って言わなかったか?

 

 完全に虚を突いた一撃だ。避けられるはずがない。

 

 プーーッ!!

 

「やっべェ、クラクション鳴らしちまった!?」

 

 運ちゃんがPONしなければ。

 

「な、なんだ!?」

 

 クラクションの音に反応した福山誠一郎の判断は早かった。いくら走れなくなったとはいえ、伝説を残した陸上選手。彼は咄嗟にその場からゲームの最強技『ローリング回避』で転トラの軌道上から外れる。第二話にして、早速依頼失敗か。

 

「まだだ、追うぜ相棒!」

 

 いいや、そんなことはない。福山誠一郎は転トラを甘く見ている。運ちゃんはハンドルを勢いよく回す。

 

 すると……。

 

「大型トラックが直角カーブだっ―――」

 

 バンッッッ!!!

 

 転トラは見事に90度曲がり、福山誠一郎を轢き飛ばした。どうやら、最近のトラックは小回りが利くらしい。

 

「シャアッ! ギリギリセーフ! ナイスカーブだったぜ、相棒! やっぱりお前は最高だ!!」

 

 弾き飛ばされた福山誠一郎は近くのビルの壁に衝突し、両腕両足がぐにゃぐにゃに折れ曲がり、首は裂け、皮一枚で胴体と頭部が繋がっている。頭部がプラプラとぶら下がり、断面からは血の噴水が湧き上がった。黒いスーツが暗い赤に染め上げられていく。

 

 即死だ。助かるわけがない。まあ、中途半端に生きてて二発目を食らうよりはいいだろう。

 

 流石にこのままでは可哀想なので、少し福山誠一郎のその後についても説明しておくとしよう。彼は異世界NO.54、モモモモーンにてチータの獣人に転生。その後に紆余曲折あって、『最速の獣王』として獣人達を束ねる王へと成長することとなる。彼なりに、満足した生涯を送れたようで何よりだ。

 

「トラブルはあったが、無事依頼達成だァ! 皆、俺の活躍、見ててくれたよな? …………おう、ありがとよ! いいか、転生希望者の中にはたまに、ああやって避けようとする奴もいるんだ。そういう時のために、転トラ(相棒)と心を通わせるのも俺達の仕事さ。そうすれば、転トラ(相棒)の方から勝手に動いてくれるぜ」

 

 そんなわけはない。今回の直角カーブは転トラのぶっ壊れ性能と、運ちゃんの反射神経によって引き起こされた超現象だ。

 

 それよりも、異世界転生トラックを『相棒』と呼ばないで欲しい。頭がおかしくなってくる。

 

「だよな、相棒!」

 

 だから止めてくれ。せめてルビ付けで言え。

 

 ……おっと、そうこうしている内に時間らしい。

 

「ん? ……こ、この音は!?」

 

 遠くの方からパトカーのサイレン音が響く。ついでにその奥から救急車の音も。物凄い衝突音だったし、きっと目撃者もいたはずだ。通報されたのだろう。

 

 以前も言った通り、轢き逃げは犯罪だ。それは異世界転生させるためと言っても変わらない。むしろ、そんな言い訳をしたら麻薬中毒者を疑われるだろう。

 

 運ちゃんの中に選択肢は二つ。大人しく捕まるか、逃げるか。

 

 いや、これでは一択だな。

 

「あの青服共! また濡れ衣を俺に着せるつもりだなァア!! 卑怯者めェ!』

 

 濡れ衣どころか現行犯である。さっさと捕まれ。

 

 運ちゃんは再びアクセルを踏み、転トラを発進させる。

 

「じゃあな、皆! 今日はここまでだぜ。次回もぜってぇ、見てくれよな!!」

 

 次回があるのか。……いや、あるよな。まだ二話だし。

 

 異世界転生させたらパトカーとのカーチェイス。これがいつも通りの日常。それが異世界転生トラックの運転手が行う仕事だ。当然、カーチェイスが長引けば、サービス残業は増える。かなりのブラック企業だ。

 

 分かっていると思うが、一応皆に忠告しておこう。

 

 転トラの運ちゃんみたいには、ならないように。

 

「アヒャヒャヒャ! バーカ! 俺がテメェらみたいな悪党に捕まるわけがねぇだろうがァア!!」

 

 ……本当に、心の底からお願い。

 

 

 

―◎―◎―

 

 

 

第三話 被害者③ 陰キャ系女子高生

 

「デレデレデレッデンデンデデンデン〜。デレデレデレッデンデンデデンデン〜」

 

 陽気な鼻歌を歌いながら男はトラックを走らせる。

 

「デデデデ、デデンデン……俺ダァア!!」

 

 よし、帰れ。

 

「おはこんばんちわァア! 久しぶりだな、皆! 俺こそが、転トラの運ちゃんだ! 今日もこの俺の仕事ぶりをよ〜く、目に焼き付けてくれよな!」

 

 もう三度目だ。さくっと行こう。彼は異世界転生モノでよく見かける転生トラックの運転手。ぜひ、転トラの運ちゃんと呼んでやってほしい。彼の仕事は人を轢き飛ばし、異世界に送ること。……以上(異常)だ。

 

 あいも変わらず、運ちゃんは運転中だというのに窓を全開にし、そこにいる何かに声をかけている。一体彼には何が見えているのやら。

 

 そんなことはさておき、彼が仕事をする……それはつまり、今日もまた一人の人間が大型トラックに轢き飛ばされるということを意味する。決して祝福すべきことではないが、今回も彼の仕事を見ていくとしよう。非常に不本意ではあるが。

 

「よっしゃー。それじゃあ今日のターゲット(お客様)を紹介……ってあれ? 依頼書どこいった?」

 

 ……おい。

 

「まあ失くしちまったもんはしゃーねえっ! 大丈夫だ皆! ちゃ〜んとお客様の情報はココに入ってるぜェ。一流は記憶力も一流なんだよ」

 

 嘘だと言ってくれ……。

 

 運ちゃんは自身のこめかみを指先で叩きながら、自身ありげに余裕の笑みを見せる。念の為言っておくが、この男は馬鹿だ。大馬鹿だ。自分の働いてる会社がブラックとすら気付けないほどの残念な頭の構造をしている。そんな男の記憶力を信じるなど、ナマケモノに命綱を持たせてスカイダイビングをするに等しい。

 

 ひとまず、今回の被害者に関してはこちらの方から説明しよう。

 

 今回の転生希望者の名は、花々瑠美(はなばな るみ)。ごく普通の高校へ通う現役女子高生だ。ただ、彼女は少し……いや、かなりこってりめのオタクという本性を隠し持っている。ゲームに六桁課金は当たり前。推しのライブの為であれば海外にすら躊躇うことなく飛んでいく。友人のオタク仲間からも「あの子はヤバい」と噂されるレベルの重症患者だ。

 

 彼女も例のごとく、『異世界転生勧誘詐欺風広告』からノリで異世界転生を申し込んでしまったのだが、異世界ではアニメもラノベもないだろうに、どうするつもりなのだろうか。

 

「おっ、見つけたぜ~……うん? あんな顔だったか? いや、間違いねぇ、あの女だァ!」

 

 おや? どうやら運ちゃんが彼女を見つけたよう――。

 

 ……………………。

 

「おっしゃァア! 行くぜ行くぜ行くぜェエ! アクセル全開! フルスロットルゥ!!」

 

 ちょっと待て。

 

 運ちゃんの視線の先にいたのは、花々瑠美によ(・)く(・)似(・)た(・)女(・)子(・)高(・)生(・)。

 

 確かに制服は同じ、恐らく同じ学校の生徒だろう。そして髪型も黒髪ロングという特徴が一致している。背丈も近いが……顔が違う。どこからどう見たって違う。ただまあ……恐らく運ちゃんは大雑把にしか依頼書を確認してなかったのだろう。

 

 このポンコツ運転手め。

 

「お待たせしましたァア! 死(楽園)のお届けでえぇすッ!」

 

 ただ運ちゃんは止まらない。いや、そこで注意深く観察するほど繊細ではないのだ。勘違いを加速させたまま、転トラも加速していく。そして、あと数秒でなんの転生願望もない少女が轢き飛ばされそうになった時だった。

 

「にゃあ……」

 

 ありえないスピードで走る転トラの前に亜音速で駆ける猫が飛び出してきたのは。

 

「っ……危ねぇ!」

 

 咄嗟に、運ちゃんはハンドルをきる。直角カーブが可能な転トラの性能であれば回避は容易。しかし、転トラは速くは走れるものの止まるのは苦手だ。急ブレーキは間に合わず、進路変更した先にあった対壊星生物用の電柱へと衝突した。

 

 ズドドドッ! ドッカーンッ!と確実に大事故が起きたであろう盛大な音を立てて電柱に罅が入る。

 

 それでも転トラは無傷だが、中にいる運ちゃんはそうではない。衝突による衝撃は80%カットされたものの、吸収しきれなかった衝撃で体を揺さぶられ、ハンドルの額をぶつけ、頭から少量の血を流している。

 

「っ……痛たたたた」

 

 運ちゃんは額を押さえながら、窓から外を見る。すると元気に空中を走り去っていく猫の姿があった。

 

「はっ、あのヤンチャめ。……しかしあぶなかった。ばあちゃんとの約束を破っちまうところだったぜェ」

 

 どうでもいいことだが、運ちゃんの祖母は亡くなる前に、動物の殺生をしないよう遺言を残したらしい。じゃあお前にとって人間は動物じゃないのか? という疑問は当然出て来るが、一旦それは置いておこう。

 

 理由はどうあれ、彼は仕事と小さな命を天秤にかけ、小さな命を守ることを選んだ。これは良い事だろう。

 

 そしてもう一つ、朗報がある。

 

 どうやら、今の事故で運ちゃんがあの無実の少女を完全に見失ってしまったらしい。キョロキョロと辺りを見渡している。この大事故だ。野次馬が集まり過ぎて運ちゃんの記憶力では見つけ出せないのだろう。

 

 とても素晴らしいアクシデントだ。少なくとも間違われた少女と実際に依頼してしまった花々瑠美。二つの命が救われた。こちらとしても、死亡シーンをわざわざ描写しなくて済む。むしろ悪い事の方が少ない。

 

「クッソ、しくじった。また上司にどやされるぜ。ああいや、その前に病院行くか。はあ……労災使ったら怒られちまう、この俺様がこんなミスするなんてな」

 

 今回の依頼は失敗。まあこういうこともあるだろう。どんな仕事だって全てが上手くいくとは限らない。転トラ事業でもそれは変わらないというわけだ。

 

 何はともあれ、今回は誰も死ぬことなく……。

 

「あの……大丈夫ですか?」

「……ん? ああ、気にすんなよ嬢ちゃん! このくらい屁でも…………」

 

 運ちゃんは窓の外から心配そうに声をかけてくる女子高生に握り拳を作って去勢を張ろうとし、停止する。何故なら、そこにいたのは先ほどのそっくりさんではなく、本物の依頼者――花々瑠美だったのだから。

 

 いや、運命力が強すぎる。どうしてこうなった。

 

「…………」

「……? どうかしたんですか?」

 

 運ちゃんは無言でハンドルを握る。

 

 おーい、ちょっと待て。その子は事故ったお前を心配して声をかけたんだぞ。やるなよ? 絶対にやるなよ?

 

 しかしそんな願いが届くことはなく、運ちゃんはアクセルをベタ踏みする

 

「さっきの偽物じゃねーかッ!?」

「は? えっ、なん――――」

 

 バンッッッ!!!

 

 あー……うん。やっぱりこうなったのね。

 

 初速で時速50kmを超える転トラは花々瑠美に至近距離から衝突。躱せるはずがない。真正面から受け、すぐ後ろにあったコンクリート壁と押し付けられた(サンドイッチ)。結果、彼女は骨すら細かく砕かれ、血と衣服と髪からギリギリ人間であると分かるレベルのミンチとなった。

 

「ラッキー! 減給免除ォ!」

 

 コイツ、マジで死んだ方がいい。

 

 周囲の野次馬達が悲鳴を上げ、花々瑠美をぶっ潰した(バンッした)転トラから逃げるように離れていく。まるで獅子から逃げるインパラのように。そして狂乱のど真ん中で心の底から安堵する推定殺人犯。

 

 紛れもなく、状況は混沌(カオス)。

 

 このままではいくらなんでも花々瑠美が浮かばれない。せめて彼女のその後についてくらい話させて欲しい。

 

 花々瑠美は異世界NO. 99、ワオーンに転生。生まれつき〝聖〟の魔力に適正のあった彼女は国王にその力を認められて、聖女として王子との結婚を果たすも、彼女は自身のオタク気質を抑えきれなかった。

 

 王宮内に引きこもり、多数の同人作品をその手で生み出し、国中でBLブームが勃発。それが何十年もの間続き、最終的に彼女は国王にまで上り詰め。同性以外との恋愛を禁止した王国最後の女王となるのであった。

 

 ……まあ、かなり癖はあるが、彼女も満足した人生を送ったらしい。だからといって、運ちゃんのしたことが許されるはずがない。

 

「そこのトラックの運転手! 大人しく降りてきなさい! ……というかそのナンバープレート……またお前かァアア!!」

 

 お巡りさん。登場だ。

 

「チッ! こっちは怪我人だってのに、青服(クレーマー)共め。情けってもんがねぇのかよ。テメェらにはァ!!」

 

 一体、どの口がそれを言うのか。

 

「この口、DA・ZE!」

 

 やめろ。こっちに語り掛けてくるな。

 

「逃げても無駄だ! その車両のナンバープレートは既に割れている! 抵抗しても無意味だぞ。……てかさっさと捕まれや! この暴走トラックがァア!!」

「へぇ、俺がテメェらなんかに捕まるわけねぇだろ! 正義は勝つんだよ!」

「悪だ、貴様は!!」

「なわけねぇだろっ!!」

 

 パトカーと転トラに付属されているスピーカー機能で罵倒し合う二人。

 

 平日の昼間から、街中を騒がせるカーチェイスはこうして始まるのだった。

 

 ちなみに勝者は言うまでもなく運ちゃんである。警察もかなり優秀でスピード差をものともしない匠な采配で転トラを追い詰めたが、流石に空に逃げられるとは思わなかったのだろう。最近は列車が空を走るのだ。トラックが走ったって不思議ではない。




短編で終わらせる予定でしたが、長くなりそうだったので前後半に分けて書きます。
続きは少々お待ちください。

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