白百合眼のユナリア 〜狂科学者の歪な揺り籠〜   作:いちご大福ニャンコ

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ザエルアポロ×オリ女主になります

言うのが遅くてすみません 
なるべく原作に沿ってイベントやセリフを回収するつもりです

15話くらいを予想しております
気に入ったり刺さったりしましたら付き合っていただけますと幸いです 


第1話

白砂がどこまでも続く夜の虚圏。その枯れた大地に、一匹の少女の形をした虚が座り込んでいた。

 

彼女の顔の右半分は、冷たい骨の仮面に覆われている。その仮面には、虫眼鏡のレンズのような奇妙な穴がひとつだけ開いていた。そこから覗く彼女の右目——それこそが、彼女の『真相視(ミラル・ラ・ベルダ)』だった。

 

彼女の目に映る世界には、色がない。映るのは、他者の「感情の塊」が放つドロドロとした精神の煙と、次に繰り出される攻撃の「未来の軌道」だけ。視えすぎるがゆえに、彼女は自分を表現する言葉を失い、ただ砂漠の片隅で膝を抱えるだけの、空っぽな「不思議ちゃん」として生きていた。

 

そんな彼女の前に、ある日、一人の男が立ちはだかった。

ピンク色の髪をなびかせ、白い袋を纏った男。第8十刃に上り詰める前の、あるいはすでにその地位にあるマッドサイエンティスト——ザエルアポロ・グランツである。

 

「ほう。大虚の巣窟に、妙に引き締まった霊圧の個体がいると思えば……。ふん、ただの出来損ないの人型か」

 

ザエルアポロの言葉には、慈悲など微塵もなかった。あるのは、下等生物を品定めするような傲慢さと冷酷さだけだ。彼はユウナを保護しに来たわけではない。自分の実験の、新しい「使い捨ての素材」を探しに来たに過ぎなかった。

 

ザエルアポロは無造作に手を伸ばし、ユウナの細い髪を掴んで手折るように引きむしった。

 

「痛い」とも言わず、ユウナはただ、じっとザエルアポロを見上げていた。その右目の奥の瞳が、奇妙な回転を始める。

 

「……何を見ている? 出来損ないが。私の顔に何かついているかね」

ザエルアポロが不快そうに声を低くした、その時だった。

 

「……すごく、いそがしい」

 

ぼんやりとした、高低のない少女の声が、夜の静寂に響いた。

「何だと?」

「あなたの、なかの、いろ。……すごく、いそがしくて、ぐちゃぐちゃ。……きれい」

「……狂ったか。下等な虚が、私の何を分かった気で——」

 

 

「……『完璧』になりたい、って、泣いてる」

 

ユウナの言葉に、ザエルアポロの身体が一瞬、完全に凍りついた。

 

ユウナの『真相視』は、ザエルアポロがその高慢な仮面の下に隠し持っている、最も醜悪で、最も触れられたくない、ドロドロとした本質を見抜いていた。科学者を気取り、他者を見下しながらも、その実、自分という存在の不完全さに怯え、狂おしいほどに「完璧」という概念に執着し、コンプレックスの塊となってのたうち回る男の魂の形。それが、彼女の眼には鮮明な幾何学模様の煙となって視えていたのだ。

 

「……おまえ、いま、なんと言った?」

 

ザエルアポロの声音から、先ほどまでの軽薄さが完全に消え失せた。ドスの利いた、本物の殺意。彼の背後から、ねっとりとした、肌を焼くような不快な霊圧が膨れ上がる。

 

「わたしを、ころす、せん。……そこから、こう、くる」

 

ユウナは感情のない目で、ザエルアポロが次に自分を切り刻むであろう、空間に引かれた「赤い軌道の線」を指差した。それはザエルアポロが脳内でシミュレーションした攻撃の軌道と、寸分違わぬものだった。ザエルアポロの脳内に、激しい衝撃が走る。

(私の思考を、私の本質を、この出来損ないは……今、完璧に『視た』のか?)

 

激しい屈辱。自分のすべてを、名前も知らぬ下等生物に暴かれたという、吐き気のするような拒絶感。しかし同時に、彼のマッドサイエンティストとしての本能が、歓喜に打ち震えていた。

これほどの精度で「真実」を観測できる眼が、この世に存在するのか。もしこの眼を自分の管理下に置き、自分だけのものにできたなら——。

 

笑みに変わっていく。それは優しい救いの手などではない。対象を自分の世界の檻に閉じ込め、二度と外に出さないと誓った、ドロドロとした執着と独占欲の笑みだった。

 

「面白い……。面白いじゃないか、君。私のすべてをそこまで汚らしく見透かしたのは、死神を含めても君が初めてだよ」

 

ザエルアポロは彼女の髪を掴んでいた手を、今度は彼女の顎へと移し、骨が軋むほどの力で強く、強く掴みあげた。

 

「君をバラバラに解剖して、その眼の神経を一本ずつ私の顕微鏡に繋ぎ合わせてやろうと思ったが……やめだ。そんなことをすれば、この『真実』が壊れてしまう。君は私の研究室へ来るんだ。私の最高傑作の、専属の『観測者』としてね」顎を掴まれたまま、ユウナはやはり表情を変えなかった。ただ、彼の胸の奥で、自分への殺意と執着が混ざり合い、見たこともないほど禍々しく、そして美しい色へと変貌していくのを、うっとりと見つめていた。

 

「……ん。……いく」

 

ザエルアポロはフンと鼻を鳴らすと、彼女を乱暴に抱え上げ、自身の宮へと引きずっていく。その腕の力は、彼女を逃がさないための、鎖そのものだった。

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