幻想郷に飛ばされてしまったアインズ様、今回はこの幻想郷をナザリックの支配下に置くようです。 作:白いスミレ
# 第3話 未知との遭遇
ナザリック地下大墳墓。
玉座の間。
静寂に包まれた広間で、アインズは玉座に腰を下ろしていた。
その周囲には、守護者たちが並んでいる。
「――では、改めて確認する」
アインズの声が響いた。
「我々が存在しているこの世界について、現時点では何も分かっていない」
誰も口を挟まない。
「地理、文明、国家、種族……そして、我々以外にどの程度の戦力を持つ存在がいるのかも不明だ」
アインズは指を組む。
先ほどまでの調査で、いくつかの情報は得られている。
しかし、それらはあまりにも断片的だった。
この世界には、魔法が存在する。
そして、自分たち以外にも魔法を扱う存在がいる。
そこまでは分かっている。
だが――。
「……情報が足りない」
その一言に、アルベドが頷いた。
「仰る通りです、アインズ様」
「だからこそ、今回は戦闘を目的としない」
アインズは玉座から立ち上がった。
「周辺地域の探索を行う。可能な限り、この世界の情報を集めろ」
「お任せください」
答えたのは、ナーベラル・ガンマだった。
「ナーベラル」
「はい」
「現地の存在と接触する可能性もある。その場合、こちらから無用な敵意を見せる必要はない」
「……承知しました」
ナーベラルは一礼する。
「ただし」
アインズは続けた。
「こちらの情報を不用意に渡すな」
「はい」
「相手が友好的だからといって、信用するな」
「当然です」
その返答に、アインズは満足げに頷いた。
「では、頼んだぞ」
「お任せください、アインズ様」
ナーベラルは一礼すると、玉座の間を後にした。
――こうして。
ナザリックによる、最初の本格的な探索が始まった。
◆
幻想郷。
森の中。
ナーベラルは一人、木々の間を歩いていた。
周囲に敵の気配はない。
少なくとも、今のところは。
「……奇妙な場所ですね」
ナーベラルは周囲を見回した。
自然そのものは、特別珍しいものではない。
しかし、この世界には明らかに違和感がある。
魔力の流れ。
空気中に漂う独特の力。
そして――。
「何者かに見られている……?」
ナーベラルが足を止めた。
視線を上げる。
何もない。
木々があるだけだ。
しかし、確かに何かを感じる。
「……」
ナーベラルは無言のまま、周囲を警戒する。
その時だった。
「へえ」
声がした。
ナーベラルが振り返る。
木の枝の上。
そこには、一人の少女が立っていた。
黒い服。
黒い帽子。
そして、どこか楽しそうな笑み。
「こんなところで見ない顔だね」
霧雨魔理沙。
幻想郷を代表する魔法使いの一人だった。
ナーベラルは少女を見上げる。
「……」
魔力を感じる。
普通の人間ではない。
いや――。
それ以前に。
この世界そのものについて、ナーベラルは何も知らない。
「お前達……人間か?」
ナーベラルが尋ねた。
魔理沙は少しだけ目を丸くした。
「私?」
自分を指差す。
「そうだけど?」
ナーベラルは黙って魔理沙を観察する。
目の前の少女は、自分と同じ人間に見える。
だが、その身体から感じられる魔力は決して弱くない。
「……そうですか」
「なんだよ。そんなに珍しいか?」
「この世界の人間について、私は何も知りませんので」
「この世界?」
魔理沙の表情が変わった。
「……お前、外から来たのか?」
「答える必要はありません」
「おっと」
魔理沙は肩をすくめる。
「警戒心が強いな」
「あなたが何者かわからない以上、警戒しないのはミジンコ以下です」
ナーベラルの視線が鋭くなる。
「未知の場所で、見知らぬ存在と遭遇したのですから」
「そりゃそうか」
魔理沙は笑った。
しかし、その目から警戒が消えたわけではない。
「じゃあ、こっちも一つ聞いていいか?」
「……どうぞ」
「お前、何者だ?」
ナーベラルは少しだけ間を置いた。
「ナザリック地下大墳墓、プレアデスのナーベラル・ガンマ」
「それだけか?」
「それ以上言う事はありません」
「ははっ。徹底してるな」
魔理沙は楽しそうに笑った。
「じゃあ、私も自己紹介するのぜ」
帽子を軽く持ち上げる。
「私は霧雨魔理沙。魔法を使えるのぜ」
「……魔法使い」
ナーベラルはその言葉を紡ぎ出した。
やはり、この世界では魔法を扱う人間が存在する。
それは重要な情報だった。
◆
「で?」
魔理沙が箒を肩に担ぐ。
「お前は何しに来たんだ?」
「あなたに話すことはありません」
「へえ」
魔理沙はナーベラルをじっと見る。
その視線には、好奇心があった。
そして――試してみたいという感情も。
「なあ」
「何でしょう」
「ちょっとだけ、付き合ってくれないか?」
魔理沙がミニ八卦炉を取り出した。
ナーベラルの目が細くなる。
「……何をするつもりです?」
「ちょっとした確認さ」
魔理沙が笑う。
「お前がどれくらい強いのか」
瞬間。
魔力が膨れ上がった。
「――っ!」
ナーベラルが反応する。
次の瞬間、魔法が放たれた。
だが。
ナーベラルは一歩横へ移動した。
ただ、それだけ。
魔法は彼女の横を通り過ぎ、木々の向こうへ消えていった。
「……」
魔理沙が固まる。
「ふーんなかなかだな」
ナーベラルはガントレットを出現させ、戦闘態勢に入った。
「……」
魔理沙は目を細めた。
彼女は本気で攻撃をしていなかった。
しかし、当てるつもりで放った魔法を軽々と避けた眼の前の女を見て、彼女の好奇心を刺激した。
「なるほどな」
魔理沙が笑う。
「面白い奴だな」
ナーベラルは魔理沙を睨みつける
「悪かったって」
魔理沙はミニ八卦炉を下ろした。
「今日はここまでにしとくよ」
「……」
ナーベラルは魔理沙を警戒したまま見つめる。
敵意は薄い。
少なくとも、今すぐ戦うつもりはないようだ。
ナーベラルはまだ魔理沙を警戒しつつ、ガントレットを仕舞った。
「また会えるか?」
「それは私が決めることではありません」
「そっか」
ナーベラルはその場を離れていった。
魔理沙はその背中を見送る。
「……あいつ、何者なんだ?」
呟きながら、帽子を被り直す。
「外の世界から来たって感じでもないんだよな」
魔理沙は考える。
だが、答えは出ない。
「まあ、霊夢にでも話すか」
そう言って、魔理沙もその場を後にした。
◆
ナザリック。
ナーベラルが帰還すると、すぐに報告が行われた。
「報告します」
アインズの前で、ナーベラルが跪く。
「現地で、一名の人間と接触しました」
「人間?」
「はい」
「敵対は?」
「ありませんでした」
「名前は?」
「霧雨魔理沙と言うようです」
アインズはその名前を記憶する。
「魔法使いを名乗っていました」
「……魔法使い」
アインズは思考する。
この世界にも魔法使いが存在する。
それ自体は予想できる。
だが――。
「他には?」
「こちらの素性について質問されました。また、魔法による攻撃を一度受けました」
「攻撃?」
「はい。ただし、敵意は限定的でした」
「反撃したか?」
「いえ、その攻撃の後武器をしまったので反撃はしませんでした。」
「そうか」
アインズは玉座に深く座り直した。
「ナーベラル」
「はい」
「その魔法使いは、どの程度の力を持っている?」
「正確な判断はできません」
ナーベラルは答えた。
「ですが、一般的な人間よりは明らかに高い魔力を持っていると思われます」
「……なるほど」
アインズは静かに考える。
この世界には、人間の姿をしながら強大な力を持つ者がいる。
ならば――。
まだ判断するには早い。
この世界の戦力は未知数だ。
「引き続き情報収集を行う」
「承知しました」
ナーベラルが頭を下げる。
「決して油断するな」
「はい」
◆
同じ頃。
博麗神社。
「――で?」
霊夢は面倒そうに魔理沙を見る。
「変な奴を見つけたって?」
「ああ」
魔理沙は先ほどの出来事を説明した。
「メイド服の女でさ。名前はナーベラルって言うらしいのぜ」
「ナーベラル……?」
「そう」
霊夢は腕を組む。
「それで?」
「この辺りの人間じゃないのは確かなのぜ」
「それは分かるわ」
「しかも、自分たちがどこにいるのかすら分かってない感じだった」
霊夢の表情が変わる。
「……幻想郷のことを知らない?」
「ああ」
「それは妙ね」
霊夢は空を見上げた。
「外から来た?」
「たぶん違う」
「じゃあ、何なのよ」
「分からん」
魔理沙は笑う。
「だから面白いんじゃないか」
「私は面白くないわよ」
霊夢はため息をついた。
「しばらく様子見ね。何か問題を起こしたら、その時に考えるわ」
「わかったのぜ」
魔理沙は頷いた。
だが。
霊夢の中には、一つの疑問が残っていた。
――ナーベラル
その女は、一体どこから来たのか。
そして。
彼女の背後には、何がいるのか。
◆
ナザリック。
アインズは一人、玉座に座っていた。
「霧雨魔理沙……」
先ほど聞いた名前を呟く。
そして、その名前と共にもう一つの情報が残っている。
「幻想郷……か」
それが、この世界の名なのだろう。
アインズは静かに目を細めた。
未知の世界。
未知の住人。
未知の戦力。
そして――。
まだ見ぬ勢力。
「……慎重に進める必要があるな」
ナザリックは圧倒的な力を持っている。
だが、それだけで世界の全てを理解できるわけではない。
むしろ、未知というものほど恐ろしい。
アインズは立ち上がった。
「まずは、知ることだ」
その言葉に、誰も答える者はいない。
しかし。
同じ頃、幻想郷でもまた一人の少女が考えていた。
「……あの女」
魔理沙は空を飛びながら呟く。
「絶対、まだ何か隠してるのぜ」
両者はまだ知らない。
自分たちが出会った相手が――。
この世界の未来を大きく変える存在になることを。
そして。
これはまだ、幻想郷とナザリックが互いを認識しただけに過ぎなかった。