Fate/sn×銀英伝クロスを考えてみた   作:白詰草

105 / 120
13章 魔術師来たれり
89:蕩児たちの再臨


 ギルガメッシュが剣を振り上げるの同時に、アーチャーの姿が掻き消えた。斬られたのではない。その前に、さっさと霊体化してしまったのである。

 

「むっ……」

 

 このアーチャーがよくやる手だった。サーヴァントは普通、戦闘中に霊体化しない。マスターの防御がおろそかになるし、戦闘動作を中断することにもなる。だが、マスターの凛は不在、銃は極小のモーションで攻撃できる武器だ。

 

 言峰にとっては、充分な脅威であった。ましてや、あの未来の英霊は光弾を放ち、複数の部下を召喚することもできる。それをやられては、代行者といえど防御を不可能だ。言峰は身を翻すと、手近な石筍の陰に屈み込んだ。

 

 言峰の行動は、優れた戦闘者であることの証明だった。が、ヤン・ウェンリーの誘導は、優れた者にこそ著効を発揮するのだ。マスターの挙動に、ギルガメッシュが気を取られた一瞬に、微かな気配が遠ざかる。英雄王の攻撃に対峙するより、逃げたほうがずっとましというものだ。勝算なくして戦うよりは、ずっと。

 

 とはいえ、やられた側には、これほど腹の立つ行動もない。金髪に縁どられた額に、くっきりと青筋が浮かび上がった。

 

「姑息な手を……。出て来るがいい、卑怯者め!」

 

 返答は、石筍の奥から聞こえてきた。

 

「あなたに言われる筋合いはありませんね」

 

「そこか!」

 

 しかし、虚しく地に刺さる音が聞こえるのみ。離れた所からまた声が響く。

 

「まあ、凛の父に責任がなかったとは言いませんが」

 

「ほう、道化師よ。貴様に何がわかる?」

 

 再び、洞窟に金属音が木霊する。残響を縫って、淡々とした声が問い掛けてきた。

 

「彼の目的を果たすために、あなたをサーヴァントに選んだのが間違いでした。

 根源に行くため、七騎の犠牲を必要とする遠坂時臣と、

 死を厭って、世界を巡って不死の方法を探求したあなたでは、

 望みの方向が正反対だ」

 

「何が言いたい?」

 

 主に劣らず、思いがけないことを言う従者だ。ギルガメッシュの攻撃がふと止む。

 

「歴史にもしもはない、というのが私の考えですが、

 それでも、選択の皮肉さに考えてしまいますよ。

 第三次のアインツベルンがあなたを呼んでいたら。

 あるいは、セイバーが前回、凛の父に呼ばれていたら、と」

 

「なに……?」

 

「前者であるならば、第三魔法が復活していたかもしれません。

 後者ならば、セイバーは我が身を引き替えにしても、

 願いを叶える道を選ぶでしょう。

 凛の父が生き残るとは断言できませんが、

 セイバーは、あなたがたのような行動はしないでしょうね」

 

「言わせておけば!」

 

 剣軍を突進させようとしたギルガメッシュを、言峰は制した。

 

「待て、ギルガメッシュ。言わせてみろ」

 

 どこに身を隠したのか、彼らの視力でも姿は見えなかった。あるいは、何らかの機器を用いているのかもしれない。ただ、声のみが響いた。

 

「こうして、私が呼ばれることもなさそうです。

 だが、聖杯を以てしても、過去は決して覆りはしないでしょう。

 この世界を生きる人々に可能なのは、未来へ向けての選択だけです」

 

「ほう、主が主なら、従者も従者だな。

 弓兵ではなく、哲学者のようなことを言う。

 だが、貴様の言を容れたところで、私に利はあるとは思えんのだがね」

 

「ここで私に斃されるより、司直の裁きを受けたほうが長生きできますよ。

 私からも提案しますが、英雄王との契約を解除し、警察に自首しては?」

 

 凛と同じ勧告だった。いや、凛のほうが、この男に影響を受けたのだろう。それにしても、未来の異世界の異星人、しかも幽霊とは思えぬ常識的な発言ではないか。

 

 言峰は、低い笑い声を立てた。

 

「我々を斃すとは、また大きく出たものだ。

 だが、貴様にはそれほどの力があるのに、私に警察に自首しろとはな。

 戦う気がないのか、それとも虚言か。どちらだ?」

 

「正直に言うと、戦いたくないんですよ」

 

 アーチャーは煮え切らない台詞を吐いた。

 

「あなたは一応、凛の恩人です。

 私の父がしたように、三回は忠告すべきだと思うんです。

 それで考えを改めてくれるなら、私も楽ができますし」

 

「三回の忠告か。だが、アーチャーよ。

 私が貴様と顔を合わせたのも三度目だな。

 貴様なら、三回会っただけの相手の言を容れるかね?」

 

「……まあ、普通はそうなんですが」

 

 アーチャーの口調は、穏やかでありながら鋭い棘が混じっていた。

 

「これは忠告ではなく、降伏勧告です。

 生きているあなたの諸々の権利を、幽霊の私が奪いたくない。

 英雄王の同類になるのは遠慮します」

 

 ギルガメッシュは応酬した。

 

「綺麗事をほざくな、道化師!」

 

「ええ、綺麗事です。でも、別にいいでしょう。

 私は国家の命令で、人殺しをしていた人間ですが、

 ここには私に命令できる母国はありません。

 平和的な交渉を選ぶのも、私が好きにできるわけです」

 

 戦争で、ヤンが敵を殺すことを担保していた法もないということだった。

 

「戦ったところで、給料も出ないってことですしねえ……」

 

 仕事だから嫌々やっていたのに、無資格無給でやってられるか。ヤンの本音の一端だが、言峰主従を呆れさせただけに終わった。

 

「痴れたことを。――いいぞ、やれ」

 

 言峰はギルガメシュに頷いて見せた。宙に留まっていた剣の群れが、獲物を屠るべく飛び出した。広間を満たすような飽和攻撃。ギルガメッシュの財宝には、魔や悪霊を斬った剣の原典が数多く含まれている。たとえ霊体化していても、逃れられるものではない。

 

 轟音を立てて、剣の雨が降り注いだ。石柱や石筍は断ち切られ、鍾乳石の棚田は畦が壊され、溜まり水を涙のように零した。そして、広間の地面が針山と化す。

 

 ようやく追いつき、通路に身を隠していた士郎は、叫ぶのを必死で堪えていた。英霊エミヤシロウの固有結界そのものの光景だった。あいつもきっと、これを見たのだろう。そして、セイバーを失ったのだろう。荒れ果てた地に立ち並ぶ剣は、あいつがセイバーと、失った人々に手向けた墓標ではないのか。

 

 士郎にとっては、優しい黒髪の青年の墓標になったのか。

 

「あ、……アーチャーは」

 

 士郎は凛に目を向けた。豊かな長い黒髪が横顔の半ばを隠し、引き結ばれた唇だけが見えた。広間から声は絶え、剣の群れが輝きを放っていた。

 

 ――いや。士郎は目を瞠った。

 

『黄金の輝きも、光があってこそさ』 

 

 なぜ、闇の中で、剣の輝きが見える? 士郎は弾かれたように視線を上に向けた。真紅と深紅、翡翠と緑柱石も、琥珀に倣った。洞窟の天井に銀色の月が浮かび、清かな光を放っていた。

 

「え、つ、月……? さっきの攻撃で、天井が抜けちまったのか!?」 

 

 銀色の月は真円を描き、銀砂を敷き詰めた漆黒の夜空に君臨する。

 

「……月じゃねえ」

 

 切れ長の目を裂けんばかりに見開き、ランサーが唸るように呟いた。

 

「まだ月が出る時間じゃねえし、出てもあんな風に丸くはならんぞ!」

 

「へ!?」

 

 ランサーがアーチャーと最初にまみえた日の月は、半月を少し越えていた。アーチャーの騎士と一騎打ちした日が、ちょうど満月だった。

 

 キャスターのサーヴァントになり、凛の頼みを聞いた。桜の心臓を貫いた槍を見下ろしていた居待ち月。士郎とエミヤが刃を交わす間にも、月は細り続け、昇るのが遅くなっていった。

 

 そして今、細い下弦の月が昇るのは、日付を超えた明け方になる。

 

 ランサーは呆然と空を指さした。

 

「それに、よく見ろ。……星が瞬いてねえ。あれは、なんだ?」

 

 洞窟を照らす、鏡のように滑らかな銀の月。漆黒の夜空に、星々が瞬くことなく輝く。

 

 ありえない光景だった。月は満ち欠けに反し、冬の星座が一つも見当たらない。いや、この洞窟の天井すべてをぶち抜いたところで、これほど空が広く見えないはずだ。

 

 もう一人の赤き瞳の美青年も、眦を割かんばかりに月を凝視していた。

 

「なんだ、これは……?」

 

 言峰は、ギルガメッシュの死角を補うかのように周囲を見回した。微かに息を呑む。

 

「……どうやら、凛の言葉は妄想ではなかったようだ」 

 

「なに?」

 

「未来の、異世界の、異星人。……見ろ」

 

 言峰が足元を指さす。ギルガメッシュは視線を下げ、思わず半歩後ずさった。

 

「な……!?」

 

 地面の感触はある。だが足の下、さらにその奥まで闇が広がっていた。瞬かない星々の群れと一緒に。

 

「夜空に浮かんでいるのか……?」

 

「いや、違うな。……星が瞬いていないだろう。 

 星が瞬くのは、地球に大気があるからだ。つまり、大気のない場所の光景だ」

 

「大気のない場所?」

 

 怪訝な顔をするギルガメッシュに、言峰は意味ありげに笑った。

 

「宇宙空間だろうな。だが、私がこうして話していられるからには、

 本物ではないということでもある」

 

 真空の宇宙空間、その温度は絶対零度。生身の人間はたちまち窒息死し、全身が凍りつく。

 

「ふ、こけおどしのまがい物か」

 

 ギルガメッシュは鼻を鳴らした。

 

「時臣の娘は、あの男を不敗の魔術師と言っていたな。

 征服王や贋作者と同種の宝具、――固有結界か」

 

 それは魔法に最も近い大魔術。術者の心象風景を以って、現実世界を塗り替える。四次ライダーも使い手であったが、彼には魔術にまつわる逸話はない。サーヴァントの宝具は、後世の逸話によって形づくられることがあるのだ。

 

 征服王イスカンダルこと、アレクサンドロス三世は、万軍を率いて、地中海地方を征服、統一した、唯一の覇者だ。数千年を経て、今も語り継がれる、人類史上最高峰の軍事的天才である。

 

 凛の言葉を信じるなら、アーチャーは近現代の無名の軍人ではない。人類が直径一万光年に居を広げた遥かな未来、一軍のみを率いて、数倍する敵を屠ったという。

 

 軍才については、非常によく似ているではないか。征服王の戦場が広漠たる大地だったように、ヤン・ウェンリーの戦場は、深遠の宇宙だったに違いない。

 

 術者の瞳の色を映す虚空に、月と星々を浮かべた幻想の世界。一際目立つ銀の月は、ことのほか美しかった。

 

 真紅の瞳が愉悦に輝く。

 

「だが、面白い。褒めてやろうぞ、道化師よ。

 固有結界を使う相手は三人目だが、貴様が一番興をそそる。

 我が剣で、直々に相手をしてやろう」

 

 ギルガメッシュの背後に、巨大な波紋が生じた。引き抜かれたのは、異形の宝具であった。自身が剣と言うからには、剣なのであろうが、翼を重ねた意匠の黄金の柄から、刀ではなく三段重ねの円柱が突き出ている。円柱は、赤と黒が溶岩流のように渦巻き、明滅を繰り返し、桁外れの魔力を放っていた。

 

「貴様の力を見せるがいい、道化師!」

 

「……っ、な、なんだ、あれ……!」

 

 無意識に解析しようとした士郎は、脳が焼きつくような苦痛を味わった。ギルガメッシュが放った名剣、宝剣の大半の真名は読み取れたのに、異形の剣はまったく理解が及ばない。

 

 対する固有結界内に、武器らしきものはなく、銀の月が星々を従えて輝く。玲瓏と微笑む、黒衣の女王のように。

 

「と、遠坂……。アーチャーは……」

 

 凛は頭を振った。

 

「わからない。呼びかけてるのに、うんともすんとも言わないの」

 

「リン、あれもアーチャーの宝具なの?」

 

「だから、わかんないのよ! なんで夜空なんかが……」

 

 マスターたちの困惑をよそに、セイバーは決断を下した。

 

「とにかく、アーチャーに助太刀しましょう! ランサー!」

 

「応よ!」

 

 セイバーが先陣を切り、ランサーもその後に続く。しかし二人が移動できたのは、極めて短い距離だった。

 

「入れねえ!?」

 

「くっ、見えているのに……」

 

 彼の声も聞こえているのに。

 

「もう一度、これが最後の勧告です。降伏せよ。しからざれば攻撃す」

 

 ギルガメッシュは昂然と応じた。

 

「ふ、武器を抜いたか? 我を殺すならば、貴様の力をもってせよ!」

 

「言峰神父、あなたはいかがです」

 

「事ここに到っては愚問だろう?」

 

 言峰に契約を解除する気はなかった。要するに、ギルガメッシュを令呪で自害させろということだからだ。逆に殺されかねず、また、命令が成就しても丸腰になる。

 

 そして、アーチャーが矛を収める保証もない。不確定要素の塊よりは、勝ち抜いて全てを手に入れる可能性に賭けたほうがいい。

 

「……残念です。ごめん、凛。

 偉そうなことを言ったが、私はまた人殺しになってしまいそうだ」

 

「案ずるな、道化師よ」

 

 ギルガメッシュは、剣を振りかぶった。刀身が輝きを増し、赤と黒が激しく渦巻いた。

 

「我が勝つ。エアよ」

 

 凛は息を呑んだ。桁外れの魔力。恐らくは、四次ライダーの固有結界を切り裂いた宝具だ。――対界宝具。固有結界にとっての天敵。

 

「アーチャー! 駄目! 逃げて!」

 

 凛の叫びも虚しく、英雄王は高らかに真名を告げる。

 

「――天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)

 

 そして、開放された魔力が嵐となった。星の原初のすがた、高熱のガス雲が宇宙ジェットを発するように。魔力の奔流は、真っ直ぐに漆黒の中天に向かう。

 

 すかさずアーチャーの指示が飛んだ。

 

「フォーメーションD」

 

 と、月の周囲に輝く星々が動きを見せる。瞬く間に、月よりも二回りほど大きな円環を形作った。通路の入口で立ち往生していた二騎士の瞳も、星と動きを同じくした。

 

「ほ、星が動きやがった! まさか、あれも星じゃねえのか!?」

 

「もしや……、あれが、アーチャーの言う船では!?」

 

 二人の叫びを聞いた凛は、素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

「えっ!? 船って、あれが船!? 

 あいつの船って長さが一キロぐらいあるって言って……」

 

「は?」

 

 バーサーカーを除く全員が顎を落とし、同じ声を発した。

 

「で、でも、あいつの船は、普通の船の倍ぐらいはあるって言ってたけど……」

 

「……ちょっと待ってくれ、遠坂。半分でも何百メートルってことじゃないか!」

 

 数百メートルが光の点にしか見えない。この結界は、途方もない広がりを持っているのだった。ギルガメッシュが放った魔力の奔流は、音速に数倍するものであったが、宇宙での戦闘は光速が基準だ。ヤン・ウェンリーが迎撃態勢を整えるには充分であった。

 

「――射て!」

 

 完璧に統制のとれた攻撃は、幾何学的でさえあった。無数の流星が、銀沙の環の中心に向けて流れ落ち、天頂に銀輪が出現する。原初のエネルギーの奔流を、集束された光の矢が削り取っていく。だが、完全には相殺できていない。

 

「イゼルローン、砲撃準備は?」

 

 アーチャーの声に応じたのは、聞き覚えのある深いバリトンであった。

 

雷神の槌(トゥール・ハンマー)、エネルギー充填完了。

 照準も完了いたしました」

 

「全艦、指示の位置に散開せよ。――雷神の槌、発射用意」

 

 アーチャーが引っ込めた美丈夫の声が、月から響いてくる。凛は月を見上げ、再び形を変えた星座に目を瞠った。

 

「え、ええっ!?」

 

 星の空隙を、赤と黒の嵐はなおも突き進んでいた。あれだけの砲撃を物ともしないことに戦慄すべきか、果て無きがごとき結界に驚愕すべきか。

 

「……う、嘘。なんて無茶苦茶……」

 

 マスターの動揺をよそに、アーチャーと部下のやりとりは続く。

 

「雷神の槌、発射用意よし」

 

 淡々と指示するテノールに、バリトンが唱和した。そういえば、アーチャーは言っていた。

 

『含まれたんだよね……。宝具の操作要員も』

 

 すっかり忘れていたけれど、あの騎士たち自身も宝具だが、別の宝具の操作要員でもあったのか。

 

「って、何の宝具なのよ!?」

 

 エミヤが到着したのは、凛が喚いた瞬間であった。

 

「ば、馬鹿な、ヤン艦隊に、イゼルローン要塞だと……」

 

 ようやく到着した赤い外套の偉丈夫が呻いた。

 

「あの人は正気か!?」

 

 守護者であるエミヤシロウは知っていた。美しき面に隠された、白き女王の恐るべき正体を。

 

「――射て(ファイア)

 

 黒い魔術師の呪文が、彼女を慈悲なき女神に変貌させる。銀色の表面に眩い白光が灯り、極大の稲妻と化して夜空を翔けた。そして、赤と黒の竜巻と衝突した。

 

 エミヤは額の汗を拭い、大きく息を吐いた。

 

「……やはり固有結界か。本物でなくて助かった……」

 

「そう言うってこたぁ、おまえは本物を知ってんのか?」

 

 ランサーの問いに、エミヤは額の汗を拭いながら頷いた。

 

「守護者としての知識だがね。

 あの月が彼の本拠地たるイゼルローン要塞だ。

 星が彼の率いたヤン艦隊だろうが……、いったい、どれほどの兵士が来ているのか……」

 

 セイバーは聖緑を細め、星の群れを透かし見ようとした。

 

「万軍を召喚する固有結界というわけですね

 あなたや征服王と一緒で、白い騎士たちはその一部分だったと」

 

 エミヤは手を振った。

 

「いや、私などとは規模がまるで違う。恐らく、征服王でも敵わんよ。

 あの星の数に数百人を掛けるのが正しい」

 

「は?」

 

 セイバーから表情が抜け落ちた。 

 

「あの光が戦艦を再現しているなら、一隻に数百人が乗っている。

 ヤン・ウェンリーは、我々のような意味での魔術師ではないからな。

 恐らく、実際のヤン艦隊を再現しているのだろう」

 

「つまり、アーチャーの奴は、ああいう戦いをしてたって訳か」

 

 ランサーは空を指差した。二人のアーチャーの争いは、未だに決着していなかった。無音の虚空に、赤と黒、白光が入り乱れ、互いを引き裂こうとせめぎ合う。貫かんとする白光を赤と黒が締め上げ、白は二色の鎖を引きちぎって進もうとする。凄まじい光景であった。

 

 しかし、エミヤは首を左右に振った。

 

「いや、あんなものではない。

 あの月が実物なら、冬木どころが地球が滅亡している」

 

 今度はライダーとバーサーカー以外が、目と口でOの字を描いた。彼らの視線の先で、ぶつかり合う魔力が遂に相打って大爆発を起こした。しかし、音は聞こえず、空は一瞬で漆黒の色を取り戻し、偽りの月と星々は変らずに輝いている。

 

「あれは月ではなく、イゼルローン要塞というのだ。

 直径60キロメートルの人工天体だ」

 

 エミヤはイゼルローン要塞の概略を説明した。表面は、耐ビーム用鏡面処理を施した超硬度鋼と、結晶繊維と、スーパーセラミックの四重複合装甲で覆われ、射程百五十万キロの中性子線ビームでも傷一つ付かない。

 

 ヤン・ウェンリーの時代、宇宙人口四百億にとっての難攻不落の代名詞。

 

 凛はアーチャーとの雑談を思い出した。

 

「ああ、そういえば、あいつ言ってたっけ……。宇宙要塞の司令官だったって」

 

「嬢ちゃん、思い出すのが遅かねえか!?

 というよりもだ、マスターのくせに、奴の宝具を知らなかったのかよ!?」

 

 ランサーの抗議に、凛は口篭った。

 

「だ、だって、宇宙要塞なんて、てっきりもっとメカっぽいと……。

 あんなに綺麗だなんて思わなかったのよ。

 アーチャーが嫌がっていた戦争なのに、……まるで流れ星の雨みたい」

 

「ん……」

 

 士郎は言葉少なに頷いた。光点の一つ一つが宇宙船で、それぞれに大勢の乗組員がいる。あの星の数ほどの船は、彼が率い、死なせた人々そのものだ。彼らは、そしてアーチャーは、戦場で最善を尽くし、それでもあれほどの犠牲を出した。

 

「あんなに部下に死なれて、戦いなんて嫌って言うのも当たり前だよな。

 でも、みんなアーチャーのとこに来たんだ。

 凄いけど、それはそれでとっても辛いだろうな……」

 

 頼りない背に、数百万の人命と願いを背負って。だが、彼は誰にも縋れない。ただ一人、思考を研ぎ澄まし、より良きを追うしかないのだ。剣の群れを率いる赤い背中と、どちらが孤独なのだろう。

 

 セイバーは誰にともなく呟いた。

 

「征服王もそうだったのでしょうか……。

 あちらは世界征服の夢を抱き続けていましたが」

 

「あいつにとっては、平和こそが夢だったのよ。

 だから、イゼルローン要塞を攻略したのに、

 逆効果どころか二千万人が死んだって言ってた」

 

 そう言ってから凛は青褪めた。アーチャーは雷神の槌についても語っていた。

 

「ちょっと待って……。

 たしか、雷神の槌は、何百の戦艦を一瞬で蒸発させるそうなんだけど……。

 それが金ぴかの宝具と互角だなんて!」

 

 一同は息を呑んだ。重苦しい雰囲気の中、ライダーが唇を開く。

 

「では、彼が負けたら、私には打つ手がありません。

 英雄王に魔眼は効きませんでしたし、

 あの宝具に私の仔を突進させても……」

 

 イリヤも項垂れた。

 

「悔しいけど、バーサーカーもダメ。

 残りの命がいっぺんでなくなっちゃう」

 

 二騎士と暗殺者は顔を見合わせた。

 

「この固有結界さえ解ければ、手がないことはねぇが……」

 

 金沙と白銀も頷いた。しかし、それはアーチャーの敗北を意味するのだ。双方の切り札は今のところは互角だが、世界の修正に晒される固有結界は、時が経つほど不利になってゆく。

 

「は、ははははは!」

 

 ギルガメッシュは哄笑した。

 

「ついに本性を露わにしたな!

 認めてやろう、アーチャー、いや、魔術師!

 貴様は『この世全ての悪』を食らうにふさわしい化け物よ!」

 

 落日が爛々と燃え、右手の剣を再び振りかぶる。

 

「イシュタルの使い魔め、王たる我が討伐してくれようぞ!

 天地乖離す……」

 

 ギルガメッシュの高揚に、ヤン・ウェンリーは何の感慨も抱かなかった。

 

「雷神の槌、次砲準備は?」

 

 答えたのは先ほどとは異なる声だった。士郎とイリヤには聞き覚えがある。たしか、パトリチェフと名乗った巨漢の声だ。

 

「すでに完了しております。しかし、よろしいので?」

 

 言峰綺礼は結界の隅に退避しているようだが、雷神の槌を撃てば、巻き込むことは必至だろう。

 

「……よくはないが、もう時間がない。全艦、全速前進」

 

 星が整然と動き出す。

 

「全砲門開け。主砲斉射。――射て(ファイア)

 

 光の矢が一点に集中する。目標は黄金の王。夜空に砲手たちの叫びが木霊した。

 

『くたばれ! 英雄王!』

 




アーチャーのステータスが更新されました

【CLASS】マジシャン
【マスター】遠坂 凛
【真名】ヤン・ウェンリー
【性別】男性
【身長・体重】176cm・65kg
【属性】中立・中庸

【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A 幸運EX

【クラス別スキル】
単独行動:A
マスター不在でも行動できる。
ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。

対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

【固有スキル】
カリスマ:A
大軍団を指揮する天性の才能。
Aランクはおよそ人間として獲得しうる最高峰の人望といえる

軍略:A+
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具や対城宝具の行使や、
逆に相手の対軍宝具、対城宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。

心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、
その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
逆転の可能性がゼロではないなら、
その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

【宝具】

『制式銃』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:0~30 最大捕捉:10人
別名『使えそうな宝具』。レーザー光線による攻撃を行う銃器。
本来は大量生産の兵器だが、現代から千六百年後の未来という、
時間と技術の格差により、神秘を纏う事になった。
使う者が使えば、地味ながら非常に強力な武器になりうるが、
使い手がヤンだということで威力をお察し下さい。
だからこそ、ひっかけの釣り針にもなるのだが。

『三つの赤(ドライロット)』
ランク:B+~C+ 種別:対人・対軍宝具 
レンジ:1~100 最大補足:約1,700人

別名『使えない宝具』。
宝具『ヤン艦隊』のイゼルローン要塞操作兵員のうち、薔薇の騎士連隊を出撃させる。
彼らは、勇名と悪名を轟かせた、宇宙最強の陸戦戦員である。
レーザーと小火器無効の装甲服に、炭素クリスタルの戦斧や荷電粒子ライフルなどで武装している。
大威力の反面、秘匿性は皆無、展開には相当の面積が必要。 
魔力を大量に必要とし、令呪による補給も不可欠である。
彼らはアーチャーのサーヴァントであり、アーチャーが死亡すると消滅する。
非常に運用が困難な宝具である。

『ヤン艦隊(イゼルローン要塞防衛軍兼イゼルローン要塞駐留艦隊)』
ランク:EX 種別:対軍・対城宝具 レンジ:?? 最大補足:??

別名『本当は使えない宝具』
『この世全ての悪』を取り込んだ結果、使えるようになった。
とはいえ、実物を出すのは不可能。固有結界という形で再現している。
9億2千四百万メガワットの雷神の槌を擁するイゼルローン要塞と、
約一万隻のヤン艦隊がセットになっている。(注:イメージです)
理由は「イゼルローンがないと、艦隊が出せないから(ヤン談)」
なお、ヤン艦隊は戦死者によって構成され、ヤンが全体の指揮、
フィッシャーが艦隊運用、メルカッツが攻撃を担当している。
要塞の運用はシェーンコップ&パトリチェフ担当。強い。(確信)

 触媒は、遠坂家にあった万暦赤絵の壺。
ヤンの父のコレクションで、唯一の本物で形見として相続していたもの。

 聖杯にかける願いは特になし。
召喚に応じた理由は、人類史上にも珍しい平和な時代を見ることと、
伝説の英雄たちに会ってみたいから。したがって、戦闘意欲はあんまりない。

 知識欲の赴くまま、聖杯戦争のあれこれを考察しているが、
本当は、英雄たちと時代を超えたバカンスを呑気に楽しみたい。
と思って、各陣営の取り込みに乗り出し、成功しかけていたのだが、
とんでもない強敵の出現に戦わざるを得なくなってしまった。

 残り時間も短いし、バカンスと少年少女たちのために、本気出したヤンである。

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。