Fate/sn×銀英伝クロスを考えてみた   作:白詰草

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修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、
その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
逆転の可能性がゼロではないなら、
その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。




4章 形のない宝具
20:軍略A+


 製作者が手抜きと言った食事は、たいそう美味であった。遠坂主従は賛辞を惜しまずに、だが食べる量はそう多くなかった。アインツベルンは主とそのメイドが席につき、見慣れない料理に首を捻った。

 

「これ、フリカッセと違うのね。とってもおいしいけれど」

 

「フリカッセって何さ」

 

「いわゆるシチューだよ」

 

 黒髪の通訳に夕日色の頭が、勢いよく方向を変える。

 

「アーチャー、よく知ってるなあ」

 

「私の敵国は、ドイツに近い文化の国だったからね。

 国民はみんな、その国の言葉を習うんだ。だからわかるんだよ」

 

「うわ、そういうことかあ。

 法律に詳しいって、それもそうなのか?」

 

「まあね。私は文民統制国家の軍人だから、当然法律に従わなきゃいけない。

 昇進する度に、必ず講習でしつこく言われる」

 

「講習ねえ。それ聞くと、やっぱり公務員よね。

 でもそういうので、そんなに詳しくなるものなの?」

 

 凛の言葉に、アーチャーは眉を顰めた。

 

「私は軍事基地の司令官を務めたんだ。

 この職は法的届出の最高決裁者になり、軍法会議で裁判長をやることになる。

 事務の責任者が、そういうことに厳しい人で、勉強もさせられた。

 彼のテストにパスしなきゃ、有給は認めんとさ」

 

 一同から感嘆の声が上がった。金髪を上下動させながらカレーを食べる一名を除いて。

 

「軍人って戦ってばっかりじゃないのか」

 

「一日の戦闘のためには、それに百倍する訓練が必要なんだ。

 そのための食糧や人件費に兵器、訓練の計画に実践。

 こういったことを充分やる、それが戦略で、戦争で一番重要な点だ」

 

「それ、腹が減っては戦ができぬ、ってヤツか?」

 

「まさに至言だね。我が国の滅亡の原因の一つがそれだ」

 

 セイバーがカレーから顔を上げ、アーチャーに鋭い視線を向けた。

 

「他には何があったのです」

 

「多勢に無勢さ」

 

 今まで戦いと縁のなかった現代人たちに、アーチャーは戦略の基本を説明する。

 

「一番の必勝の策は、敵より多くの味方を揃えることだ。

 さっきのランサーとの戦闘みたいにね。

 これができれば勝ったも同然、できなければ負けるのは必然。

 そいつを敵さんにやられた。彼は戦略の天才だったんだ」

 

「……何か、俺が想像してたのと違うぞ」

 

「長い年月、敵対している国同士だったが、一回の戦闘の限界は一月ぐらいだ。

 その準備と後始末が大変なんだ。

 そのためには、国から金を出してもらわなきゃいけない。

 一番ウェイトを占めるのは、予算要求と適正な予算執行。

 とはいえ金勘定なんて私にはさっぱりで、

 優秀な事務の達人に丸投げして、だから何とかなったんだがね」

 

「だからアーチャーは物知りなのかしら」

 

 イリヤの問いに、ヤンは苦笑いを浮かべた。

 

「一番大きいのは、私の国の仕組みがこの国に近いからだよ。

 似ているから理解がしやすいんだ。これは数少ない私のいいところかな」

 

 これに反論したのは、なんとイリヤのメイド兼家庭教師だった。

 

「アーチャー様、ご謙遜をなさるものではありません。

 あなたのお陰で、お嬢様は無用な復讐をなさらなくてよくなったのです。

 私どもが考えもしない方法を教えて下さったのですから」

 

「セラ……」

 

「いいえ、これは知っている者にとっては義務ですよ。

 子どもが親の愛を求めるのは当然のことだ。

 でもイリヤ君、士郎君もまた、養子としての権利を持っているんだよ。

 だからなんとか、折り合いをつける方法を考えてほしいのさ。

 非常に難しいことは、よく分かっているけどね」

 

 凛は小さく息を吐いた。

 

「なるほどね、アーチャーの『中立中庸』ってこういうわけね。

 人それぞれに立場と言い分があるってこと?」

 

 ヤンは小首を傾げた。

 

「そうかもしれないね。なにしろ長い戦争をしていた国に生まれたんだ。

 それぞれに言い分があるし、理があるってことを、私はよく知ってる。

 自分の意見を他人に理解してもらうのが、いかに難しいかもよくわかる。 

 ただ、努力しても駄目なものは駄目なんだよなあ」

 

 赤い色の潔癖そうな眉が、上向きに角度を変えた。

 

「俺は、そんなことないと思う。

 努力すれば、きっとできるようになるって」

 

 優しげな黒い眉は、下向きに角度を変えた。

 

「そう思えるのが平和の尊さなんだね。本当に羨ましい」

 

「なんでさ」

 

「戦闘中に努力しない兵士がいると思うかい?

 それで戦死を逃れられるなら、みんな戦場から帰ることができる」

 

 発言者を除くすべての者が息を呑んだ。

 

「こんな話はここまでにしようか。すまなかったね」

 

 遠坂凛のサーヴァントは、平凡な青年の姿をしている。新都のデパートにでも行けば、周囲に紛れてわからなくなるほど日本人に近い容貌だ。しかし、たしかに戦争の中で生まれ育ち、死んだ存在なのだ。現代人は骨の髄まで思い知らされた。

 

 セイバーも悟らざるを得なかった。この頼りなげで、ステータスも軒並み低いアーチャーは、『カリスマA』を持つにふさわしい一軍の将であったろうことを。これほど真摯に、兵士の死を惜しみ、人の心を理解し、理解させようと努める存在だ。さぞや部下に慕われたことだろう。セイバーは思わず問うた。

 

「アーチャー、それでもあなたは聞き、語ろうとするのですか。

 限界があると承知していながら」

 

「人間には他に方法がないと私は思うんだ」

 

 そう言ったアーチャーは、静謐な笑みを浮かべていた。

 

「不完全ではあるけれど、心をわかってもらうには、言葉をもってするしかない。

 たしかに、言葉では伝わらないものもある。

 でもそれは、言葉を尽くしてからのことだと思うんだ」

 

「アーチャー……」

 

 それ以上言葉がでてこないセイバーに、アーチャーは苦笑いしながら黒髪をかきまわした。

 

「しかし、三回ぐらい言っても、駄目だと駄目なんだよなあ。

 それにね、万人に賛同されるなんてありえないんだ。

 半分が味方になったら大したものだ、ぐらいに思ったほうがいいよ。

 選挙なら勝てる」

 

「あんたね、今ちょっと感動したのに、

 すぐさまぶち壊すようなこと言わないで」

 

 抗議する凛に対して、セイバーは無言で考えこんだ。生前のこと、前回の聖杯戦争のマスターのこと。すべて意志の疎通を欠いていたからではないのか。自分はまだ、衛宮士郎に真実の名を告げることはできないでいる。

 

「でも、これもまた私個人の考えだからね。

 もっとも、死んでからではあんまり意味がないか。

 だが、その死人が行う聖杯戦争に呼ばれてしまった以上、

 私は生きている人間の保護を最優先したい」

 

「戦わないと、そういうことですか」

 

 緊迫しかけた空気におろおろする琥珀に、翡翠の矢が直撃した。思わず目を泳がせると、今度は二対のルビーの矢が。もう一対はセイバーを無表情に見ている。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ、セイバーにアーチャー。

 夕飯の片付けが終わってからにしてくれよ。

 お茶も淹れ直したいしさ! なっ」

 

「じゃあ、私がやる」

 

「ありがとう、リズ」

 

「うん」

 

「『うん』ではなくて『はい』と言いなさい。

 では、わたくしも」

 

 二人のメイドが立ち上がろうとし、一方をアーチャーが制した。

 

「すみません、セラさん。あなたはイリヤ君の家庭教師だと伺いました。

 そして、魔術の師だとも。あなたも魔術師ということですか?」

 

「はい、それがなにか?」

 

「あなたにも同席していただきたいんです。

 できるだけ多くの知識がほしい。家門によって魔術が異なるならなおのことです。

 私は、魔術にはまったく縁のない時代に生きていましたから。お願いします」

 

「それでは僭越ながら」

 

 リズが片付けを始め、アーチャーも資料をごそごそとテーブルに並べ出した。冬木市の地図が二種類に、郷土史の本。遠坂家の戸籍が一式と英語らしき文章の綴られた紙の束。レポート用紙と筆記用具は凛の前へ。

 

「じゃあ、凛には書記をお願いしたい」

 

「え?」

 

「きちんと記録をとり、文書に残した方がいいんだ。

 もしかしたら、第六次の基礎資料となるかも知れないんだからね」

 

 そう前置きすると、ヤンはこの聖杯戦争の概略をかいつまんで説明した。二百年前に始まり、およそ六十年周期で開催され、今回が五回目であること。遠坂家が霊脈、アインツベルンが術式、マキリが令呪のシステムを提供している。

 

 ゆえに始まりの御三家と称され、優先的に令呪が発現し、特典もある。サーヴァントが敗退すると、マスターからは残った令呪が消失する。しかし、御三家のマスターの令呪は異なる。サーヴァントを失っても令呪は残り、主を失ったサーヴァントと再契約が可能である。

 

「ゆえに、御三家のマスターはより狙われやすい。敗者復活の権利があるからだ。

 だから、本当に勝ちたいんなら、三者が連携して戦えばいいんだよ。

 自分たちの手下の魔術師で残る枠を埋め、願いを叶える順番も決めておけばいい。

 極論するなら、アインツベルンが願いを叶えたら、

 みんなに第三魔法を使うと約束すれば、諸手を挙げて協力してくれる。

 戦う必要もないんだ。令呪を使えばそれで済む」

 

 婉曲な表現なので士郎は聞き流したが、残るマスターとセイバーの顔色が白っぽくなった。不老不死が対価ならば、マスターだって八百長上等だろう。サーヴァントを六騎集めて、令呪で自殺させればいいということだ。

 

 そんなことを言われたアインツベルンのマスターが、抗議の声を上げた。

 

「でもアーチャー、これは魔術師としての栄光なのよ!」

 

「イリヤ君もそう聞いているのかい? 凛も同じことを言ったな。

 もう一つ重要なのは、これが六十年周期で行われることだ。

 歴史学では一代は二十五年として計算する。

 つまり、本来なら第五次はあと五十年後、君たちに孫が生まれ成人した頃に、

 君たちの子どもが挑むことになる」

 

 歴史マニアを除いた面々は、色とりどりの頭を傾げた。発言者と同じ色の髪の持ち主が、紙面にペンを走らせながら問う。

 

「それがどうしたのよ」

 

「単に霊脈とやらの、エネルギーの問題ばかりじゃないと思うんだ。

 魔術は一子相伝。これを守るなら、二代ぶんの間隔を空けないと後継者を残せない。

 遠坂家が直面している問題が発生する。つまり、君が死ねば遠坂に次はない」

 

 細い指先から、ペンが転がり落ちた。

 

「アーチャー、なんてこと言うのよっ」

 

「そして、君の父上もそれは当然考慮するはずだ。

 自分が死ねば、まだ小さな娘と何も知らない妻が遺されてしまうと。

 つまり、彼は死ぬつもりなどなかった。

 いや、そういう取り決めがあった可能性すらある。

 第三次の遠坂の参加者と思われる、凛の曽祖父は生還している。

 でないと、養子に出ている大叔父たちが生まれないからだ」

 

 士郎は首を傾げた。

 

「でも、なんでさ。遠坂のお祖父さんが跡継ぎなんだろ?

 なんの関係があるんだよ」

 

「そ、そうよ」

 

「こんなに出産や育児が安全になったのは、日本でも昭和四十年代以降だよ。

 凛の曽祖母のきょうだいは、七人のうち成人したのが四人、

 三十歳以上になれたのは二人しかいない」

 

「う……、マ、マジに?」

 

「とにかくそれだけ、感染症が恐ろしいものだったんだ。妊娠出産も命がけだった。

 凛の曽祖母の実家でいうと、兄嫁はそれで亡くなったと思われる。

 それを潜り抜けても、昭和三十年代まで人生は五十年だったのさ」

 

 平均寿命八十年の時代の高校生二人にとって、想像しがたい五十年前の日本の姿だった。

 

「アーチャー、なんであんたそんなこと知ってるの!?」

 

「一昨日図書館に行った時、司書さんに日本の明治以降の人口動態の

 ダイジェストを作ってもらったんだ」

 

 面倒なことはさっさと他人を頼るヤンだ。コピーをしている間に、そっちも頼んでおいたのだった。こちらは、千六百年後も廃れていない図書館のサービスで、素人歴史マニアはお世話になったものである。

 

「それが劇的に変わるのが昭和四十年代、高度経済成長と第二次ベビーブームだ。

 平和が続いて経済が発展し、栄養状態と公衆衛生が著しく向上した。

 医学の発達のおかげもあるが、前者の影響がずっと大きい。

 それより前の時代に、一人っ子を設けたからよし、なんて言っていられないよ。

 とにかく無事に育ってくれなきゃ、素質に応じて跡継ぎを選ぶこともできない」

 

「その発想はなかったわ……」

 

「子どもの素質なんて、赤ん坊の頃にわかるわけないじゃないか。

 せめて、物心つくぐらいまでは待たないといけないだろう。

 魔力の有無もそうだが、研究者なら聡明な頭脳の持ち主が望ましいはずだ」

 

「ええ、それはそうだけど……でも、なぜそれが問題なのよ」

 

「さっき言ったように、二十歳までに七人中三人が亡くなっているってことだよ。

 これは人類史上、長らく至難の技だった」

 

 白銀の頭が可愛らしく傾げられた。

 

「ねえ、アーチャーはなにをいいたいの?」

 

「ほんの六十年前までは、生まれた子どもが成人できるかどうか半々だった。

 出産が女性の死因の上位を占めていた。

 平均寿命が五十歳の時代、明治から昭和初期の五十年に、戦争が三回もあった」

 

 高校生二人の喉が鳴った。

 

「こんな状況で、一人っ子にすべてを賭け、

 本気で戦うような危険な真似はできないよ。

 聖杯戦争を続けていくならばね」

 

 凛は頭がくらくらしてきた。歴史上の社会や技術の発展を考察し、広く事象を把握する。高校生に追い付ける思考法ではない。衛宮主従は完全に表情が漂白されていた。イリヤとセラは、食い入るようにアーチャーを見つめている。

 

「もう一つ。日本の民法は、戦前と戦後で大きく変更されている。

 戦前は、相続権があるのは長男のみだ。

 最初に生まれた娘が優れた魔術師でも、彼女には遠坂家を継げない」

 

「じゃ、じゃあ、遠坂みたいな子はどうしてたのさ?」

 

「一人っ子なら婿養子を取り、婿が跡取りになる。

 弟が生まれたら、彼が遠坂家の跡取りだ。

 子どもを複数もうけておいて、素質に応じてなんとか算段する方が確実だ。

 こういう社会だと、子どもが成人してすぐに親の寿命がくる。

 凛の父方の祖父母がそうなんだ。違うかい、凛?」

 

 アーチャーの言葉に、凛は不承不承に頷いた。彼女が生まれる前に、父方の祖父は亡くなっている。祖母は時臣の少年時代に没している。二人の顔を、凛は直接には見ていなかった。

 

「そして、一子相伝の縛りのせいで、傍系の援助を期待できない。

 これでは余計に、小さな娘を残して死ぬわけにはいかない。

 遠坂時臣氏にとっては、サーヴァントを戦わせ、自身は籠城するのが最適な戦術だ。

 ならば、必ず単独行動スキルが付与されるクラスを選ぶ。

 凛の父が選んだのは、アーチャーだと私は予想する。

 それもとても強い英雄を選んだことだろう。彼には準備時間も資金も充分にあった」

 

 セイバーが我に返った。

 

「あの、黄金のサーヴァントが!」

 

「なるほど、君と優勝を争った相手だね。また後で教えてくれないか」

 

「わかりました」

 

「さて、こうやって死ぬ気のない人の相手が、

 『魔術師殺し』という異名を持つ傭兵だったらどうするだろうか」

 

「じゃあ、まさかじいさんが……」

 

「いや、セイバーはマスターなしでは戦えないが、

 アーチャーはそうじゃない。ゆえに、余計に籠城するだろう。

 こうなると一番あやしいのが、サーヴァントとの主従関係。

 このへんが鍵なのではないか」

 

 凛は眉を寄せた。同じ時代の同じ学校の同級生とだって、人付き合いは難しい。まして、時代も地位も常識も全て異なる英雄と、父がうまくやれただろうか。生粋の魔術師で、優雅で貴族的な、だがうっかり屋の父と。

 

「たしかに、あの黄金のサーヴァントは傲慢この上ない男でした」

 

 セイバーの証言を聞くと悲観的にならざるを得ない。翡翠の色を黒ずませる凛を見て、士郎は眉間に皺を寄せて呟いた。

 

「セイバーが言うんなら、相当なもんだろうなあ」

 

「……シロウ、どういう意味ですか」

 

 まさに、口は災いの元。冷や汗をかいた士郎に、穏やかな声がかかった。

 

「ええと、続けてもいいかな」

 

「あ、ああ、頼む」

 

 アーチャーから送られたのは労わりの眼差しで、ほろりとする士郎である。『男は辛いね』と語りかけるかのようだった。

 

「単独行動スキルのレベルにもよるが、

 アーチャーならば遠坂時臣氏が死亡しても、主を探す余裕がある。

 飛び立ったふ、っと飛行機で、目的地まで飛び続ける必要はない」

 

 開戦時と終幕では、主従の組み合わせに変動が生じているかもしれない。理論的にはありとされているが、にわかには想像できないことだ。

 

「でも、御三家以外のマスターは、敗退により令呪が喪失するのよ」

 

「しかし、主を失ったサーヴァントの出現により、

 一度脱落したマスターに、令呪が再配分される仕組みもあるそうじゃないか。

 せっかく呼んだサーヴァントを、死ぬまで戦わせようとしているみたいだ。

 いかがわしいし、疑わしいね。令呪一つ取っても、真っ当な代物じゃなさそうだ」

 

 凛は、アーチャーの言葉を記すと、隣に赤で疑問符を書いた。

 

「さて、ここまででほとんど言及されていない、最後の御三家がある。

 令呪を開発したマキリ。前回と今回の参加は今のところ不明。

 だが、語られず表に出ないからこそ、重大な秘密を握っているのではないだろうか」

 

「でも今、あの家には戦争に参加できる魔術師はいないはずよ!」

 

「では凛、魔術師って何だろう」

 

 ここに集った魔術師達は、顔を見合わせた。

 

「世界の根源に至り、魔法を目指す者よ」

 

 凛の言葉に、おさまりのわるい黒髪が左右に振られた。

 

「いや、私が言っているのは魔術師である条件さ。

 魔術回路を持つ者。その点ならば、マキリには三名も該当者がいる。

 さっき言ったように、飛び立った飛行機で」

 

「飛び続ける必要はない……。って、アーチャー、あんたまさか」

 

「召喚した者と使役する者が一緒である必要はない。

 サーヴァントを従える令呪の製作者で、御三家の特権を作れるような技術がある。

 自分に便宜を図る、ズルをしないほうが不自然だ」

 

 穏やかな口調で、平然と悪どいことを言うヤン・ウェンリーだった。

 

「なんですって!?」

 

「戦争というか軍事ってものはね、手段があるならやらないほうが馬鹿、

 ひっかかるほうがマヌケ、そういう世界だよ」

 

 士郎が眼差しを鋭くした。

 

「……卑怯だ。そんなの正義なんかじゃない!」

 

「ああそうだ。戦争はおしなべて卑怯で醜い。

 敵より多くの兵力を整えること、敵の食糧を断つこと。

 日常では人でなしと罵られることが、戦争になると正しくなる。

 やらなければ負けるんだ。敗者が言うんだから嘘ではないよ。

 私もさんざんやって、ペテン師とも敵国に呼ばれたものだ」

 

 母音による混成合唱が沸き起こり、黒い射手は肩を竦めて髪をかき回した。

 

「みんなそろって、頷かなくてもいいじゃないか。

 戦争はいつの時代でも、経済や国家の権益と密接に結びついている。

 バーサーカーのような英雄は、もう出現しないかも知れない。

 だからこそ、不朽の英雄譚として語られているのだろう。

 何千年もの間、夢と憧れの存在として」

 

 と、これは歴史マニアらしく言葉を結ぶ。そんなフォローをしても、発言内容を漂白するなど不可能だが。

 

「じゃあ、アーチャーはマキリが参加してるって言うのか?」

 

「可能性は高いし、戦争が開始した今となっては、

 いずれにせよ呼びかけすべき相手だ。

 教会にもはっきりと所在が知れているからね」

 

「冬木って、遠坂のほかにも魔術師の家があったんだな。

 マキリなんて聞いたことないけど」

 

「恐らく、帰化したのだろうね。

 今は同音の漢字を読み方を変えて当てている。『間桐』と」


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