Fate/sn×銀英伝クロスを考えてみた   作:白詰草

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22:知は力なり

 呆然としている一同を見回すと、アーチャーは言葉を続ける。

 

「だが一方で、停戦が成立するまで、最大級の警戒を行わないといけない。

 桜君は遠坂と衛宮の弱点だ。

 間桐からの参加者がいるのならば、この点をこそ衝いてくる。

 凛に士郎君、間桐の名を持つ者からの接触には、充分に注意するんだ」

 

 士郎がようやく口を開いた。

 

「桜もか……?」

 

「君たちにはすまないが、彼女を候補者から除外はできない。

 養女になったところで、実の親や姉妹との法律上の縁が切れるわけじゃないんだ。

 この戦争で凛が死んだら、遠坂家の資産は桜君が継ぐことになる」

 

 陳腐なサスペンスドラマに出てきそうな、だが、紛れもない法律上の仕組みだった。

 

「義兄が十八になったら結婚し、最低二人は子どもを作るんだ。

 そして成人になったら、離婚と養子離縁をする。

 家庭裁判所の許可も必要なく、いつでも可能になるんだよ」

 

 士郎は唾を呑み込み、なんとか言葉を絞り出す。

 

「そ、それで、どうなるのさ」 

 

「遠坂桜が遠坂家の当主になり、間桐の血を引く子どもが将来の当主だ。

 もう一人の子が間桐の跡取り。婚姻による家門の乗っ取りってやつさ」

 

 間桐桜の姉と兄貴分にとって、側頭部を一撃されるような指摘だった。

 

「そうなれば、御三家とは名ばかりだ。マキリが二に、アインツベルンは一。

 今後に聖杯戦争が起きれば、よりアインツベルンの勝利は難しくなる。

 マキリが令呪を開発した家だということも、忘れてはいけないよ。

 勝者となったサーヴァントの所有権を、

 乗っ取れるようにしていないとは言い切れない」

 

 そして、アインツベルンからの参加者には、アーチャーは氷の釘を打ち込んだ。虚空の女王の心身を、二杯の紅茶で篭絡したヤン・ウェンリーにとって当然の懸念であった。サーヴァントに絶対の命令を下せる令呪は、言うなればバックドアと強制コマンドの複合体だ。

 

「絶対に乗っ取りができないことが、証明されているのかい。

 きちんと、複数の他の魔術師が検証しているのかな」

 

「え、わからないわ……。お爺さまからはなにも聞いていないもの」

 

 黒い瞳を向けられた凛も無言で首を振った。父や後見人から、そんなことなど聞いていない。

 

「よくも疑問と危機感を持たずにいられるものだ。

 参加が不明なほど消極的なのは、

 そういうことを画策しているのかもしれないじゃないか。

 ご三家のマスターの令呪が消えないというのが、

 その布石でないと断言もできないだろう」

 

「じゃあ、どうすればいいのよ……」

 

「そんなの考えるまでもないよ。

 この戦争を生き残り、様々なことを学び、幸せになればいいんだ。

 その幸せの中には、桜君の幸せも含まれるだろう。

 君たちの友人の幸せもだ。だからまずは、学校の結界の除去を優先する」

 

 穂群原高生たちは頷いた。

 

「居場所が判明している参加者には、今夜にも教会からの連絡はされるだろう。

 明日登校して、結界が消えていればそれでよし」

 

「そのマスターとサーヴァントが応じなかったらどうすんのさ」

 

「いい質問だね、士郎君。私もそんな気がするんだ。  

 私は、結界の犯人のマスターは、学校に強いこだわりを持つ者だと思う。

 遠坂凛の存在を知っているならなおのことだ。

 そして、学校に出入りしても不審に思われない者。

 生徒または教職員で、自己顕示欲が強く、他罰的な性格である可能性が高い」

 

 むくりと顔を上げた凛が目を泳がせた。同じく琥珀が彷徨いだす。

 

「わたし、ものすごく思い当たる相手がいるわ。

 この前、告白されたんだけど、思いっきりお断りしたばっかりなの……」

 

「それは奇遇だな。俺にも思い当たるヤツがいるぞ、遠坂。

 そいつさ、失恋のせいで、下級生にひどい八つ当たりしててさ。

 俺、仲裁に入って弓道場を掃除してきたんだ。昨日のことだけど」

 

 座卓を挟んで二人のマスターは顔を見合わせた。

 

「衛宮くん、誰なのよ」

 

「遠坂こそ誰なのさ」

 

「二人とも、逃避しても始まらないよ。

 桜君の義理の兄、間桐慎二君。凛が今朝、台所で心配してた子だろう」 

 

 ずばりと言われたが、間桐慎二の友人が弁護に立った。

 

「し、慎二はちょっとクセが強くって、

 ひねくれてるけど、そんなに悪いヤツじゃないんだ。

 そりゃ、桜とぎくしゃくしてたこともあったし、

 俺がケガした時に、みっともないから部活に出るなって言ったけど!」

 

「苦しい弁護ですわね、士郎様」

 

 玲瓏な声音でぽつりとセラが反論した。

 

「うぐ」

 

 アーチャーが黒髪をかき回した。

 

「確かに癖がある性格なのかもしれないね。

 怪我が治るまで安静にして、部活も休めって素直に言えばいいのに」

 

「あ、そっか、アイツのことだからそういう意味だったのか!」

 

 セラは、小さく手を打ち合わせた。

 

「なるほど、そういうことなのですか。日本語とは難しいものですわね」

 

「ええ、言い回し次第で、全く別の意味になってしまう」

 

 黒髪黒目の青年の『通訳』の巧みさに感心する家庭教師をよそに、彼女の生徒は仰天するようなことをさらりと言った。

 

「わたし、今日テレビで見たわ。ツンデレっていうんでしょ?」

 

 二人の日本人と、一人の未来人がよろめき、三人目は座卓で身を支えた。

 

「お嬢様、そんな余計なことは覚えなくても結構です。

 まったく、なんて品のない。どうなさいました、アーチャー様?」

 

「いえ、余計な知識が聖杯からやってきまして、目眩がちょっと」

 

「ちょっとアーチャー、大丈夫なの?」

 

「あ、ああ、大丈夫だよ」

 

 言えるわけもない。『ツンデレ=遠坂凛=先輩他多数』なんてイメージが降ってきたことなど。非常にわかりやすい喩えではあったが、正直いらなかった。

 

「と、とにかく、学校の結界。これは我々も陽動作戦としよう。

 犯人を炙り出すために、凛と士郎君の二人で協力して、

 残りの呪刻を調査し、妨害工作を行うんだ」

 

「でも、あの結界、そんなことじゃ解除できないわよ」

 

 凛の指摘に、アーチャーは首を振る。

 

「発動を先延ばしし、二週間弱を稼げれば我々の勝ちだよ」

 

「うう、まだるっこしいわね!」

 

「それが一番いいんだが、相手も同じように考えるだろうさ。

 この犯人のマスター、短気で我慢も足りない性格だと思うんだよね」

 

 士郎は冷や汗が出てきた。

 

「なあ、アーチャー。あいつに会ったことあんのか……?」

 

「ないけれど、こういう行動には為人(ひととなり)が現れるものなんだ。

 学校の広い敷地に呪刻を設置するって、一人でやるには大変だと思わないか?

 ええと、あれはどこだっけな」

 

 そう言うと、座卓に並べた資料をかき回し、学校のパンフレットを拡大でカラーコピーしたものを人数分配り始めた。凛がコンビニに寄った理由である。彼女が笑顔で店員に頼んだら、快く操作をしてくれた。千六百年後の格言は真理だと、霊体化したアーチャーは唸ったものだ。

 

「昨日調べたかぎりだが、見取図の赤丸が呪刻の位置。

 そいつを校舎の写真にもマークしてある。

 写真の赤線は、実際に見つけた呪刻をつないだものだ。

 青丸と青線は、こいつが線対照の図形と仮定した場合の、

 呪刻の予想位置と予想図の残り。仮定と予想の多い代物で申し訳ないが」

 

 話し合いは、完全に軍事作戦の様相を呈してきた。

 

「……あのさ、遠坂。聖杯戦争って、魔術の儀式なんだよな?」

 

「しょうがないでしょ、アーチャーは軍人よ。

 こういうことやって、給料もらってたって言うんだから、

 できることをやってもらうしかないじゃない」

 

 地図や写真を駆使して、理論的に魔法陣を予想する。ある意味すごい。解析の魔術が得意で、ガラクタいじりの好きな士郎には燃えてくるものがある。

 

「アーチャー、どうやるんだ、これ。カッコいいなあ!」

 

「作戦参謀は、地図を元にいろいろな作戦を立てるからね。

 平面図を元に、立体図をイメージするのは慣れかなあ。

 そのうち、感覚的になんとなくわかるようになってくるんだ」

 

 ヤン・ウェンリーは、数百万キロ範囲の戦場を、感覚的に一瞬でイメージできるが、

地上ではこのぐらいしか使いどころがない。

 

「アーチャー、あなたは素晴らしい軍師だ。わが国に招くことができぬのが残念です」

 

「おほめいただき光栄だが、私はそんなに役立たないと思うなあ。

 セイバーの甲冑は実に美々しいが、あれを身につけて行軍なんて、

 ちょっとできそうにないからね」

 

 セイバーの鎧は、いわゆる全身鎧ではないが、それでも二十キロ以上はあるだろう。兜を含めた全身鎧は、総重量が三十キロから五十キロにも及ぶ。にもかかわらず、当時の騎士は馬に飛び乗ったり、泳いだりもできたそうだ。すでに人間じゃない。もっと軽量化された装甲服の戦闘訓練でも、悲鳴を上げていたヤンには無理だ。

 

「そのサーヴァントは、この作業を凛が休んだ日にやったんだよ。

 それも学生や先生のいなくなった、深夜から早朝までの間さ。

 気の毒な話じゃないか。この赤丸を調べるのだけで、三時間余りかかったんだ」

 

 士郎とセイバーは予想図を見た。それでもなお、青丸のほうがずっと多い。これを一人で、六時間程度の間に施術して回っているわけだ。おまけに……。

 

「ものすごく古くて、高度な魔術だったわ。

 私にできる結界の術でも、そんな短時間の施術は無理よ。イリヤはどう?」

 

 地図を見回したイリヤは首を捻る。

 

「この学校の中をこんなにあちこち歩くの? 歩くだけで一晩かかっちゃう。

 それにリン、こんなにたくさん呪刻を書かなくちゃいけないんでしょ?」

 

「ええ、その時間も必要ってことよね」

 

「だったら、よけいに無理よ。でも、そんな結界がシロウの学校にあるのね。

 ちょっと行ってみたかったのに」

 

 若いとはいえ、破格の実力を持つ魔術師ふたりが、揃って否定的な見解を述べた。アーチャーは、イリヤの師であるセラにも聞いてみた。

 

「サーヴァントは人間の数十倍の速さで移動できるが、

 魔術にかかる時間の短縮はできるものなんですか?」

 

「そういう能力を持つ英霊が、いないことはないと伺っております。

 しかし、キャスターとして召喚されるにふさわしい英霊ですわ」

 

 黒髪の魔術師(マジシャン)は、腕組みをして独語するように呟く。

 

「一応は合理性をうたう魔術師が、こんなに効率の悪いことをするだろうか。

 凛の学校というホームグラウンドに、発動まで一週間以上はかかる罠を敷く。

 その間に凛にも存分邪魔され、それを修正しようとすれば発見される可能性が高い。

 倒されたら、掛けた労力と魔力の大損だ」

 

「じゃあ、アーチャーは、サーヴァントはキャスターじゃなくって、

 マスターも魔術師じゃないって言いたいの?」

 

「そうだね、イリヤ君。その可能性も排除すべきじゃないと思う。

 しかし、サーヴァントというのは、その存在も力も本当にすごいものだ。

 たぶん私を除いてね」

 

「え、えと、アーチャーはアーチャーですごいと思うぞ。

 すっごく頭がいいし、とにかく、物知りだしさ」

 

 士郎の褒め言葉は正直なものだったが、強いとか美しいという、英雄らしい形容詞は含まれていない。

 

「ありがとう。

 大体は仕事して、給料をもらって、それなりの年齢になってのおかげだがね。  

 さて、君たちはそうじゃない。そして、結界のマスターも若いことが予想される。

 見たこともないような美男美女に偉丈夫たちに、

 マスターとしてかしずかれ、命令を下せるんだ。

 舞い上がって、とんでもないことをしでかしてもまったく不思議じゃない」

 

 黒い瞳が、低い位置にある真紅の瞳をちらりと見た。

 

「シロウ、わたしが悪かったわ。ごめんなさい」

 

 白銀の頭が下げられて、士郎はあたふたした。

 

「や、いいよ、もう。イリヤの気持ちもわかるんだ」

 

 しかし、これには裁判長経験があるヤンは首を振った。

 

「イリヤ君のしたことは殺人未遂だ。簡単に許されるものじゃない。

 士郎君が許すというのだから、私はもうとやかくは言わないがね。

 ただし士郎君、自分の命が粗末にされたことを君はもっと怒っていいんだ。

 誰も代わりはいないし、誰かの代わりにもなれない。

 君も、凛も、イリヤ君も、こんな戦争をやれという大人に対して

 否と言う権利がある。

 死ぬぐらいなら逃げたほうがずっといい。逃げなかったら死体が増えるだけだ」

 

 士郎を揺り動かす言葉だった。あの日逃げた自分を、ずっと負い目にしていた。

だがそれは間違いではないと、アーチャーは語る。そして、これからの戦いのことも。

 

「だから、この作戦も危険と思ったらすぐに離脱すること。

 間違っても、マスターである君たちは、サーヴァントと交戦してはいけない。

 それはサーヴァントの役割だ。明日は私がやるしかないね。

 セイバーを学校に連れて行くには、準備と工夫が必要だから、

 明日に間に合わせるのは、ちょっと難しいだろうが」

 

 セイバーが目を丸くした。 

 

「私がシロウの学校に行けるのですか?」

 

「まあ、つまり証拠隠滅の監視ということでね。

 学校に証拠を隠したりしてないか、荷物検査して見張りをするってわけさ。

 イリヤ君側の協力も不可欠だし、士郎君の了承が一番に必要なんだが」

 

「俺はいいけど……」

 

「故人の名誉の問題があるんだが、いいかい?」

 

 夕日色の短髪が、激しくかきむしられた。

 

「うわぁ、それを学校に言わなきゃなんないのか!

 どうしよう、俺、藤ねえに殺される……」

 

「そのへんの根回しが必要なわけなんだ。

 味方になってくれそうなキーパーソンに、あらかじめ話を通しておく。

 そうやっておいてから、初めて全体に話をするんだよ。  

 こいつをやるのとやらないのとじゃ、人間関係やら事業やらの成功率が大きく違う」

 

 セイバーががっくりと項垂れた。

 

「アーチャーよ、あなたはまさしく賢者だ。その方法をもっと早くに知りたかった!」

 

「どうしたんだよ、セイバー?」

 

「い、いえ、生前の人間関係に思いをいたしまして……」

 

 ぼさぼさになった赤毛の主と、金髪が萎れた従者は、顔を見合わせて力なく笑いあった。

 

「ではセラさん、放課後に管理職と面会をと、

 明日の朝、学校に電話で申し入れしてください」

 

「はい、かしこまりました」

 

「え、ちょ、ちょっと!」

 

「士郎君はこれに慌てて、藤村先生に相談するという形をとる」

 

 琥珀色の目が真ん丸になり、口も同じ形になった。士郎を悩ませる姉貴分を、そのキーパーソンにしてしまえという逆転の発想である。

 

「事実を話すだけで、彼女はきっと君の味方になってくれるよ。

 初恋相手の名誉と、弟分の立場がかかってるんだから。

 でも、イリヤ君のことも思いやれるような人だ。

 無碍に反対もできず、明日は管理職をとりなしてくれると思うよ」

 

「う、うう、うん」

 

 言葉もない士郎に、ヤンはにっこりと笑いかけた。時系列を少々入れ替えて、誰も悪者にせず難題に片をつけてしまう。大人のテクニックの一つ、嘘も方便というわけだ。

 

 巧妙な詐欺の手口そのものでもあるが、基本的には事実なので、追求されても無理がない。口下手な士郎でも、これならなんとかなりそうだ。

 

「で、明日の放課後に、イリヤ君とセラさんは、

 セイバーと一緒に学校に行ってほしいんだ。

 セイバーを貼り付けるための談判兼、

 いざというときにバーサーカーの動員を願いたい」

 

「ちょっと待ちなさい! 学校の中でだって無理よ。頭がつかえるでしょう。

 校舎がめちゃめちゃになるわ」

 

 物申した凛に、アーチャーは人差し指を立て、床と天井を交互に指差した。

 

「学校の教室は、高さを三メートル以上にする法律があるんだ。

 六法全書に載ってたよ」

 

「え、マジか?」

 

「そんなの決まってるの!?」

 

 現役高校生が口々に驚きの声を上げた。

 

「君たちは学生だから、この時代の学校についてひととおり調べたんだ」 

 

「や、普通そこまでやんないだろ……」

 

 若干引いている士郎に、アーチャーは首を振った。

 

「魔術なんてわからないから、できそうなところから手を付けただけだよ。  

 学校が戦場となってしまった場合、兵力が展開できるか否か。

 身長二メートル半のバーサーカーを、出現させても大丈夫かどうか」

 

「あ……」

 

 戦いの準備である戦略は、99%が戦術に勝る。彼はそう言った。学校の見取り図や写真の準備、法律の調査だってその一環なのか。

 

「結論を言うなら、彼が出ても大丈夫だ。

 障害物のない廊下と広い特別教室の呪刻を中心に除去し、

 さらに体育館や武道場などに手を伸ばすようにする。

 相手が手を出すなら、こちらに有利な場所で手を出させればいい」

 

 一同、唖然とするしかなかった。これがアーチャーの戦略というわけだ。相手が出した手が、こちらに届く前に殴り倒せるようにする。

 

「まあ、他にも色々考えてはある。

 いざとなったら、凛に本来の意味のガンドで、

 学校閉鎖する数の生徒と、教職員全員に風邪をひかせてもらうとか。 

 人がいなきゃ、結界が発動しても被害者は出ないからね」

 

「出ないって、あんた、わたしにそんなことやらせる気でいたの……」

 

 凛だけでなく、みんなからも色々なものが引いた。血の気とか心とか。なにそれ、超怖い。もはや、鬼とか悪魔とかじゃなくて、名状しがたきナニカだ。

 

「最悪の場合には。あの結界が、術者が消滅しても解除されないことも考えられる。

 爆弾を置いた者を逮捕しても、爆弾はなくならないようにね」

 

 凛は、口許に拳をあてた。

 

「現代の魔術だと、そこまで頑固なものはないけど、

 あんなに高度な術だと、あんたの言う可能性もありよね……」

 

「今はちょうど冬だし、風邪が流行して学校閉鎖ってのはさほど不自然じゃない。

 数百人の若い命がドロドロにとけるより、数十人が風邪引くほうがましだ。

 もしもの場合は頼むよ、マスター」

 

 これが司令官としての思考法だ。常に最悪を仮定して、決して楽観論では動かない。作戦成功のためには、ある程度の犠牲も止む無しと割り切る。より少ない犠牲で、より多くの生存を。

 

 士郎は目を見開いた。養父がしていたという救済の手段は、軍事行動そのものだった。そして、『魔術師殺し』に『傭兵』だったという衛宮切嗣とは、一体何者で何を為し、何を想っていたのか。自分は何もほんとうのことを知らない。遺言となったあの言葉以外は。

 

 養父が亡くなって五年。初めて士郎は、彼をもっと知りたいと思った。それが時の癒し。養父の死にかたくなに凍り付いて、最後の約束を果たさねばと思っていた士郎に、差し込んできた光だった。

 

 もっと違う角度から、沢山の方法の中から、『正義の味方』に至る道があるのではないか? それには、知らなかったことを知らなくてはならない。そして知ることができるのだ。アーチャーが教えてくれた方法もその一つ。

 

 そして考えてみよう。あの言葉の意味を。切嗣の絶望と『正義の味方』の限定期間とは何なのかを。


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