Fate/sn×銀英伝クロスを考えてみた   作:白詰草

53 / 120
44:対決

「どこへ行くかと思えば……ここかよ」

 

 アーチャーが戦いの場に選んだのは、新都の一角を占める例の公園だった。

 

「ここは、日中から人気のない場所ですからね。

 このぐらい開けていないと、私も戦いようがありませんし。

 凛は無理そうだから、イリヤ君にお願いがあるんだが、

 この公園に人払いの結界はできるかな?」

 

「うん、平気よ。でも十五分ぐらいしかもたないけど」

 

「いいよ、充分だ」

 

 頷いたイリヤは、目を伏せると何事か呟いた。顔にまで巨大な魔術刻印が浮き出し、光を放つ。士郎は義妹の変貌に肝を潰しかけた。ヘラクレスを従えられるとはこういうことなのか。

 

「終わったわ」

 

「ありがとう。じゃあ、そろそろ始めましょうか。

 令呪を使ってから開始ということでいいですか?」

 

「ああ、かまわん。さっさとやんな」

 

「では」 

 

 奇跡的にベレーを落とさずに頭を下げると、アーチャーは凛を連れてランサーから五十歩ほど離れた。

 

「マスター、令呪の使用を」

 

 ここでようやく、凛は疑問を抱いた。

 

「アーチャー、あんた、宝具って、あれだけじゃないの!?」

 

 一度霊体化し、いつもの軍服姿に戻っていたアーチャーは、決まり悪げに髪をかき混ぜた。

 

「ああ、あっちは使えそうな宝具」

 

「え? どういうことよ」

 

「ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさとしてもらおうか」

 

 敵と味方に促され、凛は仕方なく令呪に願う。二重の眉月から放たれる矢を思わせる、均整のとれた令呪に。

 

「――令呪に告げる。アーチャー、宝具を使いなさい!」

 

 令呪の一角が輝き、眉月の外側が消え、かわりに膨大な魔力がアーチャーに注がれる。そして――。

 

「Yes Maam!」

 

 応えたのは、穏やかなテノールではなかった。もっと複数の、腹に響くような重低音の合唱。顕現したのは、白い鎧兜。左腕に赤い薔薇の紋章を刻み、右手に冬の月光を燦然と弾き返す戦斧を携え。その数は、一見しただけではわからないほど。一キロ四方ほどの広場に、整然と隊列を組み、ランサー一人を包囲している。

 

「ん、な、なんだとぉ!?」

 

「こっちは使えない宝具。含まれたんだよね……」

 

 凛は硬直した。それって、バナナじゃなくって、まさか……!

 

「宝具の操作兵員も。あー、これ、言わなきゃ駄目かい、中将」

 

 アーチャーの前に立ち、戦斧を構える長身の騎士が兜の下から応えた。

 

「言っていただかないと困りますな。

 今の我々は閣下の宝具。号令なしに出撃はできません」

 

 痺れるほどに魅力的なバリトンが応え、アーチャーは実に嫌そうな顔になった。

 

「恥ずかしいなぁ、もう。

 ……三つの赤(ドライ・ロット)三つの赤(ドライ・ロット)、血と炎と赤き薔薇。

 薔薇の騎士(ローゼンリッター)、出撃せよ!」

 

「Sir,Yes sir!」

 

 広場にどよもす、歓呼の響き。ある者は戦斧を握り直して構え、隊列後方の者は、いかにも威力のありそうな銃をランサーに向ける。

 

「な、なんだよ、これ、こいつら……」

 

「シロウ……これ、みんな、サーヴァントよ!」

 

 衛宮切嗣の二人の遺児は、呆然と白い騎士の一団を見渡した。士郎は人数を数えようとしたが諦めた。ぱっと見だが、全校生徒の倍はいそうだ。セイバーは、眦が裂けんばかりに目を見開いた。

 

「馬鹿な、これは征服王と同じ……いや、違う!」

 

 かの征服王の軍勢は、王の召喚に応えた臣下が、共に築いた固有結界であった。彼の世界が、現実を押し返し、自らの幻想へと塗りかえる空想の現実化。しかし、令呪を使ったにしろ、風景も変わらぬままだ。この発動の速さはありえない。

 

「この腹黒め、とんでもねえものを隠してやがったな!」

 

 ランサーは後退しようとしたが、退路を塞がれていることに舌打ちした。これを打破するには、真名開放の後に槍を投じねばならない。その間、ランサーは無防備になる矢避けの加護も、視覚外からの射撃には無力だ。

 

 ケチくさいマスターからの魔力を削ってでも、ルーン魔術を発動させるべきか。ランサーは左右に目を走らせると、力ある文字を中空に刻もうとした。

 

 人垣の間から、ひょいと手が上がった。白い騎士らの背後から、黒い頭ものぞく。

 

「いや、ちょっと話を聞いてください。中将も待ってくれ。

 ランサー、あなたは強者とのギリギリの戦いをご所望のはずだ。

 私の部下は、わが軍の歴代最強の白兵戦の名手たちです。

 幸いというか、武器や戦法は比較的あなたに近い。

 制限時間まで、彼らと手合わせしてください。ただし、殺し合いはなしで」

 

「……閣下。敵と試合ですと?」  

 

「そいつの言うとおりだ」

 

 白と群青の騎士に低い声で凄まれても、黒い魔術師は怯まなかった。

 

「ランサーは、まさに一騎当千の英雄だ。

 連隊(二千人)に対するに、師団(二万人)をもってせよと言われた諸君らでも、

 百人ぐらいは相手をしなくちゃいけないと思うよ」

 

「我々の選抜基準を見くびっていただいては困りますな。

 わが軍の比率で言うなら、一騎当万の勇士ということになる」

 

「……それは強弁が過ぎないかなあ。では貴官に任せるよ」

 

「んなっ……てめえ、アーチャーのくせに飛び道具はどうした!」

 

 ランサーの詰問に、アーチャーは髪をかき回した。

 

「私は射撃が苦手でしてね。

 彼らは射撃も名手ですから、任せることにしました。

 ともかくランサー、宝具使用を了承したのはあなたですよ」

 

 その言い種に、白い騎士は低く笑いを漏らした。

 

「まったく、相変わらず悪辣ですな……」

 

 ヤンの思考は、自らのサーヴァントに伝達された。ゲイボルグには、二つの伝承がある。

 

 一に曰く、必ず心臓を穿つ呪いの槍。二に曰く、数十の鏃にわかれ、敵を討つ雷の槍。それが両立したら困る。薔薇の騎士はヤンの宝具であって、ヤンが死ねば消滅する。かといって、薔薇の騎士を殺されるのも色々と支障を来たす。

 

 防ぐ方法はある。最初にランサーに遭遇したとき、彼は投擲の構えを見せた。伝承に語られるように、真名開放には投ずることが必要なのだろう。槍を手放せる状況を作らなければいい。瞬間的に包囲すれば、己の技量で戦うしかなくなる。

 

 ――彼はとても強いが、君たちは宇宙一の精兵。決して負けはしない。――

 

「では、閣下のご指名により、お相手仕りましょう」

 

 中将と呼ばれた騎士はそう言うと、一歩進み出た。見惚れるような敬礼で名乗る。

 

「小官はワルター・フォン・シェーンコップ。伝説の英雄に、一手ご教示を賜りたく」

 

「こっちはゲールの者か? 

 ますますわけががわからねえ。

 貴様ら、どこの弓兵に、どこの騎士だ」

 

「強いて言うならば、我らはつれなき女王に仕える者ですな。

 だが、そんなごたくはどうでもよろしい」

 

 シェーンコップは戦斧を突き出した。

 

「我らはただ戦うのみ」

 

 白い炎に輝く斧に、真紅の槍が重ね合わされる。

 

「違いねえ」

 

 美麗な顔に、獰猛な歓喜を乗せて、クランの猛犬は躍動した。突き出される真紅の槍を、輝く戦斧が弾き返す。一合、二合、三合。セイバーとの剣戟よりも、高く澄んだ刃鳴りが響き渡り、無数の火花が両雄を飾る。互いに劣らぬ長身の主である。敏捷とリーチはランサーが勝るが、耐久力と防御においては、シェーンコップが勝る。

 

 墓地での戦いが、より迫力をもって再現された。両者の武器が見えているせいだ。迫りくる稲妻の如き真紅の連撃を、虹の煌めきが弾き、絡めとり、撃ち込み、突き上げる。瞬きするほどの間に、数十の動作が連鎖する。相手を打倒する、ただそのためだけに。

 

「さすがは伝説の大英雄ですな。確かにお強い」

 

「貴様こそ、その腕で名を残さぬはずがあるものか。

 あのアーチャーといい、何者だ?」

 

 ランサーは、不審の目をシェーンコップの武器に向けた。白い斧は、刃の部分が透明で、こちらが本来の色なのだろう。虹のような輝きを放ち、彼が今まで刃を交えたどんな武器とも感触が違う。

 

 両雄の武器に目を吸い寄せられていた士郎は、ゲイボルグの神秘よりも、アーチャーの軍勢の武器の異常さに、目を剥くことになった。

 

 おかしい。ランサーと一騎打ちをしている騎士以外も、多くの者がまったく同じ斧を持っている。そして、銃の台頭で、鎧の騎士は姿を消したと言ったのは、アーチャー自身のはずだ。白い甲冑の騎士らには、大型の突撃銃のようなものを構えている者がいる。

 

 そして、その斧に眼を向けると――。

 

「な、なんだよ、あれ。う、嘘だろ。一体何なんだよ、あいつら!――」

 

 一際高い音で刃が噛み合い、両者はふたたび激突した。

 

「シロウ、どうしましたか!」

 

「セイバー、あの斧、変だ。あ、あれは」

 

「そいつは今は、他言無用に願いますなあ」

 

 いつの間にか、士郎らも騎士に囲まれていた。いや、声をかけてきたのは、アーチャーと同じ軍服姿の男だった。こちらは、ランサーよりさらに背が高く、がっしりとした肉付きの巨漢である。彼は武器らしいものは持っていなかった。いかにも気がよさそうで、声も朗らかだ。

 

「まあ、ちょっと待っててもらいましょうや。

 要塞防御司令官どのも、張りきってますからね」

 

「無理もないですよ、副参謀長。

 なにしろ、隊長じゃなかった、中将が閣下の目の前で実力を披露するなんて、

 今回が初めてですから」

 

 騎士の先頭に立っているのは、こちらも軍服の若い男だった。焦げ茶の髪と瞳をした、純朴そうな青年だったが、彼の手には銃がある。長身で筋骨逞しく、銃がなくても士郎などひとひねりだろう。セイバーは身構えかけたが、青年は銃を収め、びしりと敬礼をした。

 

「失礼しました。小官は薔薇の騎士連隊長代理です。

 我々は、アーチャー ヤン元帥閣下の部下であります。

 閣下に貴官らの護衛を命じられました」

 

「言い訳を!」

 

 巨漢が、両手を開いて顔の両脇に掲げた。

 

「まあまあ、落ち着いてください。閣下からの伝言です。

 こちらのご令嬢は、聖杯の担い手として、害するわけにはいきません。

 閣下のマスターも似たようなものですが、セイバーのマスターは違うんだそうです。

 光の御子の宝具に注意するようにと」

 

 この進言に、当の令嬢が真紅の瞳を細めた。

 

「ありがとう、ヘル……」

 

「パトリチェフですよ」

 

「ヘル・パトリチェフ。

 ねえ、皆さん、ちょっとお下がりになって。出てきて、バーサーカー!」

 

 イリヤの指示に従って、士郎とイリヤから少し離れた一団は、回れ右して半円形の隊列を組んだ。その背後にはバーサーカー。二人を護衛対象と認識し、バーサーカーを友軍と認める行動だ。セイバーや士郎の突撃を押しとどめる柵でもあった。

 

 隊列の後方、軍服の二人がのんびりと会話を始めた。  

 

「おや、閣下は中将の活躍を見たことがなかったかな。第七次の攻略の時は?」

 

「あれは相手がザルで、変装したまま司令部までフリーパスだったんですよ」

 

「クーデターの時、シャンプールで活躍したのは、

 中将が野戦服にキスマークつけて、幕僚会議で報告してたがねえ」

 

「でも、閣下は戦艦にいらっしゃたでしょう。

 あれも結局、スパイの拘束作戦に移行しましたしね」

 

 巨漢と青年の話は続く。

 

「なるほど、そう言えば。ガイエスブルクの時は……あー、査問会だったなぁ……」

 

「そうなんですよね。もう、やる気満々ですよ、中将も」

 

 サーヴァントはマスターによってステータスが上下する。マスターの優劣はもちろん、絆の深さでも発揮できる力が違ってくる。

 

「ねえ、アーチャー。あんたの部下の方が強いのね」

 

 敏捷と魔力以外は、ランサーにそうそう劣らない。そして幸運は遥かに高い。ステータスを見るかぎり、セイバーに次ぐだろう能力の持ち主だった。

 

 ヤンは黒い瞳を細めた。数多の戦場を越え、宇宙に勇名と悪名の双方を轟かせた薔薇の騎士。その十三代目の連隊長で、最初で最後の中将となった伊達男だ。

 

「そりゃそうだよ。彼は当代で五指に入る勇者だったからね」

 

 剣戟の間から、シェーンコップが反論する。

 

「過去形で言ってほしくはありませんな!」

 

 黒い眉が一気に角度を変えた。

 

「現在形なら、貴官はここにいないだろう! 何をやってるんだ、まったく」

 

 シェーンコップは兜、いやヘルメットの下で舌打ちした。

 

「おや、我々を置いていった方の言葉とも思えませんな。

 しかたがないでしょう。あの坊やのお目当ては閣下のみ。

 死なれてしまっては、残りは眼中にないわけだ」

 

「だからだよ! 

 平和を乱す元凶が死んだんだ。

 さっさと帝国と手打ちをすりゃよかったじゃないか!」

 

「帝国印絶対零度の剃刀なら賛同するでしょうが、

 戦争が趣味の、皇帝ラインハルトが聞き入れるものですか」

 

 上昇した眉が下がり、静かに部下を見据えた。

 

「だからといって、再戦するとはね。……馬鹿だよ。

 貴官は百五十歳まで生きるんじゃなかったのかい。

 あと、百十年も短いじゃないか……」

 

 上官の殊勝げな言葉に、誤魔化される部下ではない。

 

「まったく、ああ言えばこう言う。四年も短縮しないでいただきたい。

 ……最盛期というなら、中身も可愛げのある頃にならないものか」

 

「そういう貴官も若返っているが」

 

 ぼそりと吐かれた反論にもかかわらず、刃の伴奏の隙間を縫ってシェーンコップの耳に届いた。

 

「……なんですと?」

 

「鏡がないのが残念だ。第七次の頃ぐらいに見えるよ」

 

 薔薇の騎士連隊の第十三代連隊長が、上官に問い返すまで三合あまりの刃音が挟まった。

 

「なにをおっしゃりたいんです」

 

「いい年して無理したと言っているんだ。ああ、私じゃなくて聖杯がね」

 

 無言になったシェーンコップは、眼前の槍兵へと技巧と膂力の限りを叩きつけた。斬撃を渾身の力で弾き返したランサーが、犬歯を剥きだした。 

 

「てめえら、真面目にやれ!」

 

 シェーンコップは最少の動きで斧を引き戻し、突きこまれた槍を防いだ。返す一撃で首を狙う。金銀妖瞳の首の代わりというわけではないが、殺すつもりでかからなければならない相手だ。

 

 上官の推測によれば、ランサーは初戦は様子見に徹しているのではないかという。ヤンの命に背いても、斃せるものなら斃したい。だが、この蒼い騎士はシェーンコップが戦った誰よりも強い。やはり、宇宙よりも時空のほうが広大とみえる。

 

「大真面目だとも。俺がこんなに長時間戦った相手はそうはいない」

 

「そいつは言えてる。俺もだ……ぜっ!」

 

 戦場では、滅多に長時間の一騎打ちにはならない。軍事の白兵戦は、多対多が基本だ。ランサーことクー・フーリンも、赤枝の騎士らと槍を揃えて戦っていた。一人奮戦した戦では、絶対に負けるわけにはいかず、躊躇なく宝具を開放した。この男のような雄敵と、これほど長く槍を交えたことはない。

 

「は、狸だが、筋は通すと言うわけか」

 

「ああ、ガチガチにな。貴官もマスターに伝えることだ。早く停戦に応ずべしとね」

 

 幾重にも火竜に取り巻かれ、澄んだ刃音に伴奏された会話。その間さえも、真紅の驟雨と白と虹の竜巻が交錯する。

 

「俺も言うだけは言っといたが、あの野郎の考えなんざ知ったことかよ」

 

「それはいかんな。上官と意志疎通を欠くのは敗北の素だ」

 

 会議好きの提督の部下は、ランサーの精神をざっくりと斬り裂いた。バリトンの美声は、ヘルメットにくぐもることなく広場に流れる。

 

「こちらは構わんがね。そういう陣営は閣下の大好物だ」

 

「人聞きの悪いことを言わないでくれ」

 

 ヤンの抗議が、ランサーの耳に届いたか否か。

 

「決着もつかないようですし、そろそろ予定時刻です。お開きにさせてもらいますよ。

 ランサー、重ねてマスターに伝えて下さい。

 聖杯戦争には重大な不備がある可能性が高いと。では、総員配置に戻れ!」

 

 広場を埋め尽くしていた騎士が、一瞬で掻き消えた。遠ざかっていくリムジンが一台。ランサーの前には、左肩にアーチャーとイリヤを乗せたバーサーカーが立っていた。

 

「つくづく、てめえは賢くて汚いな」

 

「アインツベルンのマスターからもお願いするわ、ランサー」

 

 アーチャーの膝の上で、イリヤは妖精のような笑みを浮かべて言った。

 

「イリヤ君、それはお願いとは言い難いなあ……」

 

 バーサーカーの右手には、ランサーの身長ほどもあろうかという、石作りの斧剣が握られていた。

 

「これは脅迫って言うんだよ」

 

「てめえが言うな!」

 

 とはいえ、負け犬の遠吠えであった。ランサーには単独行動スキルはない。彼の宝具は非常に燃費が良いものだが、全力の白兵戦を十五分近くにわたって続ける方が、ずっと魔力を食うのである。

 

 まして、ここはかつての大災害の跡地。死者の怨念や、生者の悲しみが色濃く残り、光の御子たるクー・フーリンにとって、相性の良い場所ではない。 

 

「さて、あなたの願いも叶えた事だし、

 ライダー陣営の牽制に協力していただきますよ」

 

 アーチャーが右手を振って何かを投げた。コントロールが悪く、ランサーの頭上を越えたが、そこは最速のサーヴァント。地面に衝突する前に、何なく掴み取る。

 

「なんだ、こりゃ」

 

「携帯電話です。必要がある場合、それで連絡します。

 じゃあ、今日はありがとうございました。気をつけてお帰りください」

 

「まったく人を食った野郎だが、てめえの部下は確かに猛者だったぜ。

 だが、次は俺が勝つ。じゃあな」

 

 蒼い髪が翻り、凄まじい早さで遠ざかる。律儀に携帯の箱を持って。

 

「よかった、なんとか帰ってくれて」

 

「どうして? アーチャーの方が強かったのに」

 

 首を傾げるイリヤに、黒髪が振られる。

 

「いや、もう、私が限界だ」

 

 イリヤを包んでいた温かな感触が消失した。

 

「きゃっ!」

 

 アーチャーの体の厚み分を落下して尻餅をつき、イリヤはバーサーカーの肩から転がり落ちそうになった。すかさず従者は斧剣を放り出し、大きな手でイリヤを支えてくれた。

 

「あ、ありがとう、バーサーカー」

 

 アーチャーは死んだわけではない。だが、実体化できなくなるほど消耗しているということだ。イリヤは判断し、瞬時に決断した。コートのポケットに手を突っ込み、取り出したのは携帯電話。

 

「もしもし、リン。アーチャーが消えちゃった!

 いまからそっちに行くから、セラに車を戻すように言って。

 行くよ、バーサーカー!」

 

 巨体に似合わぬスピードで夜を駆ける鉛色のバーサーカー。その目指す先、赤いテールランプがUを描いたかと思うと、白いヘッドライトが近づいてくる。ほどなく両者は合流した。

 

「ねえ、リン、アーチャーは大丈夫!?」

 

 霊体化してしまうと、サーヴァントの様子はラインが繋がっているマスターにしかわからない。

 

「生きてるよとは言ってる。でも、使えない宝具って言うわけだわ」

 

 アーチャーの宝具『薔薇の騎士』は、アーチャー自身の魔力によって展開される。ここまでの五日間、凛の魔力を絞り取るだけ絞り取って、かつ令呪による補充をしないと使えない。そして、十五分弱の使用後は、本人が実体化できないほど消耗する。

 

「使えないとは失礼な」

 

 バリトンの抗議に、少年少女が一斉に視線を向けた。

 

「あなた、誰!?」




※アーチャーのステータスが更新されました。※

【CLASS】アーチャー
【マスター】遠坂 凛
【真名】ヤン・ウェンリー
【性別】男性
【身長・体重】176cm・65kg
【属性】中立・中庸

【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力B 幸運C(EX)
( )内は戦闘時。

【クラス別スキル】

単独行動:A
マスター不在でも行動できる。
ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要要。

対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

【固有スキル】

カリスマ:A
大軍団を指揮する天性の才能。Aランクはおよそ人間として獲得しうる最高峰の人望といえる。

軍略:A+
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。 自らの対軍宝具や対城宝具の行使や、 逆に相手の対軍宝具、対城宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。

心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、 その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
逆転の可能性がゼロではないなら、 その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

【宝具】

『制式銃』
ランク:D
種別:対人宝具 レンジ:0~30 最大捕捉:10人

別名『使えそうな宝具』。レーザー光線による攻撃を行う銃器。
本来は大量生産の兵器だが、現代から千六百年後の未来という、時間と技術の格差により、神秘を纏う事になった。
使う者が使えば、地味ながら非常に強力な武器になりうるが、使い手がヤンだということで威力をお察し下さい。
だからこそ、ひっかけの釣り針にもなるのだが。

『三つの赤(ドライロット)』
ランク:B+~C+ 
種別:対人・対軍宝具 レンジ:1~100 最大補足:約1,700人

別名『使えない宝具』。宝具????の操作兵員のうち、薔薇の騎士連隊を出撃させる。
彼らは、勇名と悪名を轟かせた、宇宙最強の陸戦隊員である。
レーザーと小火器無効の装甲服に、炭素クリスタルの戦斧や荷電粒子ライフルなどで武装している。
大威力の反面、秘匿性は皆無、展開には相当の面積が必要。 魔力を大量に必要とし、令呪による補給も不可欠である。彼らはアーチャーのサーヴァントであり、アーチャーが死亡すると消滅する。非常に運用が困難な宝具である。
 

『????』ランク:-- 種別:-- レンジ:-- 最大補足--


 触媒は、遠坂家にあった万暦赤絵の壺。ヤンの父のコレクションで、唯一の本物で形見として相続していたもの。

 聖杯にかける願いは特になし。召喚に応じた理由は、人類史上にも珍しい平和な時代を見ることと、伝説の英雄たちに会ってみたいから。したがって、戦闘意欲はあんまりない。

 知識欲の赴くまま、聖杯戦争のあれこれを考察しているが、本当は、英雄たちと時代を超えたバカンスを呑気に楽しみたい。

 しかし、戦うからには負けないようにする、『不敗』を冠された戦術家である。

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。