Fate/sn×銀英伝クロスを考えてみた   作:白詰草

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62:解名

 一瞬の躊躇。眉間の皺が伸び、潔癖な眉が、灰色の目が本来の形を取り戻す。すぐに皮肉っぽい笑みの形に変じたが。

 

「サーヴァントの真名を尋ねるのはルール違反だろう。アーチャーのマスターよ」

 

「ああ、ごめんなさい。愚問だったわね」

 

 凛はにっこりと微笑むと、テーブル越しにアサシンに歩み寄った。

 

「訊くんじゃなくて、こう言えばよかったわ。

 何やってんの、……士郎?」

 

「何を言うのかと思えば……馬鹿馬鹿しい。人違いだ」

 

「あら、そういう時はこう言わなくちゃ駄目じゃない。

『そんな人間は知らない』って」

 

 アサシンは表情を消した。いや、姿も消したかったが叶わなかった。遠坂家の堅固な結界は、自らのサーヴァント以外の霊体を拒む。瞬きするほどの逡巡を、凛は繊手を伸ばして掴み取る。

 

「な、なにをするの!?」

 

 神代の魔女が仰天するのも無理はない。華奢な美少女が、筋骨隆々たる偉丈夫を、右手一本で椅子から引き剥がしたのだ。八極拳に身体強化の魔術を上乗せした、現代の魔女ならではの荒業である。二人の膝がテーブルにぶつかり、ティーカップが受け皿に転がった。

 

 凛の鼻先に、白い短刀が突きつけられた。

 

「手を離してもらおうか。招待主にあるまじき無作法だろう」

 

 しかし、この異端の投影魔術に触れていた凛にとって、最悪の手段であった。 

 

「弟子の分際で、わたしを誤魔化せるとでも思ってんの!」

 

 胸郭を殴りつけるような一喝に、アサシンは気を呑まれた。ああ、これも忘れてはいない。激しくも美しい、錬鉄を鍛えた炎の魔女。

 

 左手の魔術刻印が青白い光を放ち、奔騰した魔力が長い黒髪を激しく揺らめかせた。紫の視線が赤いセーターと外套を忙しなく行き来し、おろおろと手を上げる。

 

「ちょ、ちょっと、落ち着きなさいな! まさか、これがあの坊やだと言うの?」

 

 凛はアサシンの襟元を締め上げながら頷いた。

 

「ええ、そうよ。大人の顔から、子ども時代の写真を探すのは難しい。

 でも逆は簡単なのよ!」

 

 右手でアサシンの顔を引き寄せ、魔力を纏った左手を秀でた額の上、かきあげられた銀髪に突っ込む。クラススキルによる対魔力の恩恵を持たぬアサシンに、抗う術はなかった。

 

 キャスターは目を丸くし、口許を手で覆った。 

 

「まあ……」

 

 髪が額に落ちて呆然とした顔は、肌も髪も瞳すら色合いを異にしていたけれど、少年の頃の面影を色濃く残していた。

 

「名もなき守護者とは聞いたけれど、お前も未来の英雄だったのね」

 

 アサシン、いやエミヤシロウは奥歯を噛み締めた。磨耗しかけた記憶の中の遠坂凛と、赤い外套のアーチャーは、息のあった主従であった。いや、あるいは分霊の記録なのかもしれないが、その境界は曖昧模糊としている。『彼女』は、リタイヤした従者の真名を聞けずじまいだった。

 

 この世界も同じだろうと思い込んでいたのは過ちだった。赤きアーチャーを召喚した遠坂凛は、従者と先に触れあい、衛宮士郎とは紆余曲折を経て同盟を結んだ。だから気付かなかった。

 

 黒きアーチャーを召喚した遠坂凛は、衛宮士郎とすぐに同盟を結んだ。何度も語らい、その喜怒哀楽に、表情の変化に触れた。だから気付いた。衛宮士郎とエミヤシロウの二人に。

 

「守護者、ですって……!?」

 

 それは人間の集合意識体、アラヤの尖兵。世界を滅ぼす事象を、全てを殲滅することで消し去るのだ。百のために一を切り捨てる存在と言えよう。

 

 全てを救う正義の味方になりたいという、衛宮士郎の理想から最も遠いものではないか。

 

 高い功績をもつ英雄が、守護者となることはない。英雄には足りぬ者に、世界が伸ばす誘惑の手。握り返した者は英雄となり、死後には世界を守るために頤使(いし)される。

 

「この馬鹿! こんな姿になって、何やってんのよ……!」

 

 凛の問いにエミヤは吹き出しかけた。翡翠の瞳に険が籠もる。

 

「なにがおかしいのかしら?」

 

 エミヤの胸元を握り締めた左手が、再び剣呑な光を帯び始める。

 

「いや、……まさに賢者の言だと思ったまでさ。

 私が、いや、俺が馬鹿だったからだ」

 

 凛は項垂れ、逞しい胸板に力なく額を寄せた。

 

「愚行でも、行動にはその人なりの理由があるって、アーチャーが言ったわ。

 あんたの人生なんだし、それももう終わってるんでしょう。

 ここにサーヴァントとしているってことは」

 

「遠坂……」

 

「わたしには、あんたを非難する権利はないけれどね。

 あんたは衛宮士郎だけど、わたしが知ってる士郎とは違うんだもの」

 

「どうして、そう言い切れる!?」

 

「だって、ここの士郎は家族問題で手一杯よ。

 イリヤのこと、おとうさんのこと、本当の家族のこと。

 あんたのようになれるとは思えないわ」

 

 エミヤは目を瞠った。彼はひたすらに養父の理想を追った。忘れてしまった実の家族のことに蓋をしたまま。

 

「あれが、実の家族を、だと……」

 

「というより、イリヤを認知させるための副産物なんだけどね……」

 

 逞しい上体がよろめいた。言うに事欠いて『認知』。身に覚えのないことのない男にとって、ざくりとくる単語である。

 

「あんたのおとうさんの過去を、イリヤと一緒に追ってみなさいって、

 アーチャーが勧めたのよ。今はもう、けっこう仲のいい兄妹よ」

 

 アサシンの顎が落ちた。やっぱり士郎だ。凛は悲しみを込めて、遥かに位置が高くなった顔を見上げた。魔術による変色。目だけではなく、髪も、肌も。こんな姿になるまで、限界を超えて魔術を行使したに違いない。

 

「ここの士郎はイリヤを置いて、限界を超えるような戦いにはきっと行けない。

 あんたは、なくしてしまったの?」

 

 エミヤは視線を逸らし、口を引き結んだ。これが、ヤン・ウェンリーの弟子になるということなのか。

 

「ねえ、並行世界の衛宮士郎。そういうことなんでしょう?」

 

 キャスターが右手の擬似令呪に目をやり、凛の言葉に頷く。

 

「なるほど、筋が通っているわね。

 英霊の座は世界の外、時の輪から切り離されている。

 千六百年後の英雄が呼べたのなら、数十年先の英雄が来ても不思議はないわ。

 真名を名乗らず、聖杯に問うてもこの男のような英雄はいない。

 いないのも道理だわ」

 

 そして溜め息を吐いた。

 

「山門が触媒では、精々サーヴァントを擬した亡霊が呼べるぐらいなのに、

 存外に格のある、英霊といっていい者が来たと思ったら……。

 あの赤毛の坊やが、どうやったらこんなにむくつけき男に育つのかしら?」

 

 エミヤには、キャスターの慨嘆に反応する余裕などなかった。

 

「俺は、自らの世界には召喚されないと?

 俺が経験した聖杯戦争では、遠坂のアーチャーはヤン提督ではなかった。

 赤い外套に、褐色の肌、銀髪の大男。俺自身だった!」

 

「その一回が、最初で最後の奇蹟だったのかもね」

 

 ずっと高い位置になった瞳を見上げて、凛は静かに言った。  

 

「それだって、あんたの異能を世界が欲し、最初に伸ばした手なのかもしれない。

 あんたの投影は、魔法に近いものだもの」

 

「そんな、馬鹿な……」

 

「もっとも、確かめようもないことね。

 あんたの世界のわたしが、何をやっていたのかと思うと悔しいわ」

 

「いや……君は、違うな、俺の知ってる遠坂も、俺を止めてくれようとしたよ。

 聞かなかったのは俺だ。じいさんの理想に進むことしか考えなかった」

 

 凛はむすりとした。

 

「わたしだって、アーチャーに言われなかったらそうなっていたと思うわよ。

 でも、誰かに言われたぐらいで、簡単に考えを変えられるなら

 苦労なんてしないのよね。 

 あいつだってそうだもの」

 

 夢で見る黒髪のアーチャーの人生は、不本意と後悔の連続だった。父を亡くし、家を失い、学費目当てで入った軍で、思いもかけない活躍をした。ごく平凡で善良な青年の中に、稀世の戦争の才が眠っていたのだ。人を殺すたびに、高まっていく名将としての声望。平和を願う心と反するその矛盾。

 

 しかし凛には、彼の生を愚かだとは思えなかった。間違っていたとも。歴史の大河に流されながら、生を閉じるまで抗った。このエミヤシロウも同じだ。世界が契約するほどの高みへと至ったのだから。近代兵器のせいで、英雄が生まれにくい現代とその先のどこかで。

 

 エミヤは面食らった。やけに理性的だ。ヤン・ウェンリーの影響だろうか。彼の知る遠坂凛ならば、詰問から糾弾、宝石強化の八極拳というコースだっただろう。

 

「と、遠坂?」

 

「あんたもそうなんでしょう。

 譲れぬ思いに、必死に努力をしたんでしょう。

 そんな姿になるまで、理想を追ったんでしょう」

 

「それが間違いだったんだ。

 世界を救うということは、君が言ったとおりのことだった」

 

「それはどっちの遠坂凛?」

 

 エミヤは言葉に詰まった。深い翠が灰色を包み込む。

 

「あんたは聖杯への望みはないと言ったわね。 

 でも、召喚に応じたのは、聖杯戦争には望みがあったということじゃないの?

 教えてちょうだい。士郎が本当に望んでいることを」

 

*****

 

 アーチャーとランサーは、少し遠回りをして衛宮家に到着した。呼び鈴を鳴らすと、出てきたのはセラだった。藤村大河が夕食に来ないのは、彼女が防波堤になっていたからだろう。

 

 アーチャーはぺこりと頭を下げた。

 

「こんばんは。夕食時にお邪魔して、申し訳ありません。

 士郎君に頼んでおいた本を借りに来たんですが……」

 

「あの、それが……。皆様は土蔵にいらっしゃいまして」

 

「え?」

 

 二人の青年は顔を見合わせた。

 

「なかなか調べ物が進まないのだそうです。

 セイバーの触媒を探して、お考えになるとおっしゃいまして」

 

「ああ、士郎君の怪我が治ったのも、セイバーが召喚されたのも土蔵でしたからね」

 

「アーチャー様たちも、どうかお知恵を貸してくださいませ」

 

 セラに促されて、二人は土蔵に回ることにした。

 

「失礼するよ……うわぁっ!?」

 

 土蔵を覗き込んで、後ずさったアーチャーの後頭部が、ランサーの肩口に当たった。歴戦のクー・フーリンは、アーチャーの頭突きぐらいでは小揺るぎもしなかったが、不平の呟きをを漏らす。

 

「なんだよ……うおっ!」

 

 だが、続いて頭を巡らせたランサーも、似たような叫びを上げることになった。バーサーカーが斧剣を振りかぶり、今しも振り下ろそうとしているところだったのだ。 

 

「よ、よかった! 

 た、頼む、アーチャーとランサー、イリヤを止めてくれ!」

 

 腰を抜かしかけて懇願するのは、家主の衛宮士郎だった。

 

「おいおいおい! これは何の騒ぎだ!?」

 

 膨れっ面で返答したのは、バーサーカーのマスターだ。

 

「だって、セイバーの触媒がどこにもないんだもん!

 あとは床下しかないの」

 

 アーチャーはイリヤをなだめにかかった。

 

「まあまあ、ちょっと待ちなさい。小さなものかも知れないだろう」

 

「そんなことないわ。触媒は、セイバーの剣のサヤよ。

 キリツグがセイバーを呼んだときに、お爺さまが用意したんだもの」

 

「でも、割れたり、壊れたりした破片かもしれないよ。

 もしも、完全な形で床下にあるとしても、

 バーサーカーが床を壊したら同じことになってしまう」

 

 金の髪が左右に振られた。

 

「私の鞘は不壊のものです。天井にもないということはやはり……。

 バーサーカーが壊すのがいけないならば、私が斬ります」

 

 青い光の靄が立ち上り、眦を決したセイバーが、武装を編もうとした。

 

「ああっ! セイバーまで! お、落ち着け、落ち着いてくれ!

 俺はこの家にずっと住んでるけど、土蔵の床を掘ったことなんてないぞ」

 

 士郎はようよう反論を思いついた。

 

「この床下に鞘を埋めるのは、重機なんかを入れないと無理だ。

 俺、そんな覚えはないんだ!」

 

「君が学校に言っている間はどうなんだい?」

 

「それも無理だ。うちの門は車も入れない」

 

 士郎の言うとおりで、イリヤのリムジンは塀の外の駐車場に置いてある。

 

「手作業だと、俺が学校に行ってる間ぐらいじゃ終わらないぞ。

 ……じいさんが隠したなら、俺が小学生の時だからさ」

 

「シロウ……」

 

 その言葉に含まれた哀切に、セイバーを包んだ光が立ち消えた。だが、衛宮家の事情に詳しくないがゆえに、冷静な判断ができる者がいた。

 

「鞘だと? それだと、このぐらいの長さか?」

 

 首を捻ったランサーが、両手を軽く広げて見せた。セイバーは無言で頷くしかなかった。白兵戦の名手は、見えざる剣の長さをほぼ正確に把握していたからだ。 

 

「ところでな、ちっこい嬢ちゃんの親父さんとお袋さんは、

 どのくらいの背格好なんだ?」

 

 セイバーとイリヤは顔を見合わせ、記憶が鮮明なほうが答えた。

 

「キリツグは、ちょうどアーチャーぐらいの体格でした。

 アイリスフィールの背は、だいたいリズぐらいで、

 体つきはもう少し細身でしたか……」

 

「リズ? ああ、メイドの胸のでかい方か。

 ってこたあ、アーチャーよりは背が低くて細いってことだな。

 アーチャーよ、ちょいと前に出ろ」

 

 首を傾げたアーチャーが、輪の中心に足を進める。

 

「こいつぐらいの体格の男が、この長さの鞘を持つとする」

 

 ランサーの開いた手は、上が肩に置かれ、下が腰の下まで届いた。

 

「で、腰からさげるとこうなる」

 

 腰の上から膝を越え、上下が体の厚みから斜めに突き出す。

 

「女なら余計に目立つぜ。もっと身幅が狭くて、背が低いんだからな。

 服によっては隠せるかも知れんが、肩から吊ると座れねえ。

 いくらなんでも、セイバーに隠してはおけまい」

 

 実物大のモデルで示したことで、新たな疑問が沸き起こった。一同は当惑した顔を見合わせた。

 

「あ、そっか。じいさんとイリヤの母さん、両方が持ち歩いてたんだっけ」

 

 士郎はランサーの手の間隔をじっと見た。

 

「長傘ぐらいあるな。どうやって隠してたんだろ?」

 

 セイバーは首を振った。

 

「私は、失った鞘が触媒とは知りませんでしたから……。

 それに、アイリスフィールは優れた魔術師でした。

 治癒魔術だと説明されて、不審にも思いませんでした」

 

 アーチャーは髪をかき回した。

 

「ああ、それじゃあ無理もないか」

 

 彼自身は目撃していないが、凛の蘇生の大魔術は、己がサーヴァントから聞いている。

 

「家捜しするからには違うと思うが、

 ひょっとして、セイバーの鞘も見えないものなのかい?

 あるいは、衛宮夫妻がそういう魔術を鞘に施したのかもしれないが」

 

 再び振られる、結い上げられた黄金の髪。

 

「いいえ、私の剣が見えぬのは、失くした鞘の代わりの魔術なのです。

 我が剣の鞘は、あらゆるものから身を守る最高の守護。

 たとえ魔法でも、見えなくすることはできません」

 

 少年少女と青年達の若々しい眉間に皺が増えた。変わらないのはバーサーカーぐらいだ。イリヤの忠実な従者は、斧剣を同じ角度で保持して待機中である。

 

「もう、どういうことなの!?」

 

 今にもやっちゃえと叫びそうなイリヤに、ランサーが手を上げた。

 

「あのよ、この土蔵で嬢ちゃんの捜し物を手伝ったが、

 ここでは俺のルーンが反応しなかったよな」

 

「ここでは?」

 

 傾げられる黒髪をよそに、蒼と金と銀が赤毛へと向きを変えた。 

 

「坊主に反応したんだ。こいつの荷物ではなく、服でもねえ。

 坊主の身体にくっついた」

 

「ま、まさか、シロウの体の中に……」

 

 目を瞠るセイバーに、士郎とアーチャーの目と口はぽかりと開いた。

 

「いっ、いや、ちょっと待ってくれよ。

 俺、レントゲンを何度も撮ってるけど、そんなの写ってたことないから!」

 

「それ以前に、一メートルもある異物を体内に入れたら、人間生きていけないよ。

 七歳の子じゃ、首から足先までの長さじゃないか」

 

 アーチャーの冷静な反論に、士郎はその図を想像してしまった。  

 

「それじゃ俺、ひらきになっちまう……」

 

「きゃー、いやーっ! シロウのばか!」

 

 具体的過ぎる比喩に、先日の食卓で既知のイリヤは抗議し、サーヴァントの青年らは目を逸らして顔に手をやった。聖杯の加護あるいは悪意により、『ひらき』の知識が送られてきたからだ。

 

「士郎君、その表現はやめてくれないかな。

 まあ、普通ならそのとおりになるだろうけどねぇ……」

 

「アーチャーもよ!」

 

 イリヤは憤然として胸元で拳を握り締めた。ランサーは首を振る。

 

「ああ、そうなっちゃいねえぜ。

 坊主の身体には、でかい傷跡どころか火傷の痕一つねえ。 

 なあ、セイバー。貴様の鞘とやらは、どんな代物なんだ?」

 

「私の鞘は……絶対の守護と癒しをもたらす不壊の鞘。

 余人には使えないはず……」

 

 ヤンは手を打った。

 

「おそらく、それだ」

 

 セイバーは瞳に疑問符を浮かべ、アーチャーを仰ぎ見た。

 

「なにがです!?」

 

「私たちが人ではないからだよ。

 サーヴァントは、マスターの魔力で維持された存在だ。

 私たちを使えるんだから、宝具を使えたって不思議じゃない。

 だって、我々の武器とは違って、君の鞘には実体があるんだから」

 

 宝具の担い手たるサーヴァントの上位存在がマスター。実物がある彼女の鞘を、限定的に使用できるかもしれない。

 

「絶対の守護は無理でも、治癒の機能は動いているんじゃないだろうか」

 

「……ならば、ありうることです。

 私の鞘は魔力で展開し、光の粒子の防壁となる。だから……」

 

 アーチャーは眉を下げ、士郎は寄せて顔を見合わせた。

 

「じゃあ、士郎君の体内に、粒子化した鞘があるのかな?」

 

「だったらどうしよう……。セイバーの時代に持ち帰れないぞ……」 

 

 アーチャーとランサーの瞳が瞬いた。

 

「持ち帰る?」

 

「セイバーの時代って、なんだそりゃ?」

 

 小柄な美少女は躊躇いがちに顔を上げ、青年達に視線を合わせた。

 

「私の真名は、アルトリア・ペンドラゴン。

 カムランの丘で死に瀕し、聖杯の入手を条件に世界と契約した者です。

 ……私はまだ生きている」

 

「はぁっ!? 生きているだと!?」

 

「……ペンドラゴン? アルトリア……男性名だとアルトリウス。

 ま、まさか、セイバー、君はアーサー王なのかい!?」 

 

 槍と弓の騎士からの問いに、剣の騎士は口を閉ざして頷いた。後者の知識と鋭さに、慄然としながら。

 

 アーチャーは、へたへたとしゃがみ込んで頭を抱えた。

 

「……わからないわけだ……」


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