Fate/sn×銀英伝クロスを考えてみた   作:白詰草

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73:共同戦線異状あり

「――突き穿つ死翔の槍(ゲイボルグ)

 

 伝承に曰く、数多の鏃に変じ、敵を穿つ赤き雷。真紅の彗星は無数の流星となり、左舷から黄金の王に襲いかかった。

 

 ライダーに放たれようとしていた刃の群れが、方向を転じて迎え撃つ。だが、それでは到底追いつかない密度であった。横殴りの暴風雨の中に、モーターボートで突っ込んだようなものだ。十数本の剣は、窓を拭うワイパーにしかならなかった。

 

 槍の雨が黄金の船体を叩き、切り裂く。散りばめられた緑柱石は割れ、中空に煌きを零す。ギルガメッシュは眦を吊り上げると、船を減速させた。

 

「熾天覆う七つの円環!」

 

 彼は、再び秘蔵の盾を展開した。これこそ、飛び道具に対して無敵を誇るアイアスの盾の原典である。

 

 それを見たランサーは、美しくも獰猛な笑みを浮かべた。

 

「はっ、これだ。俺が望んでいたのは!」 

 

 彼の技量は、ゲイボルグに、原典の大神宣言をも凌駕する威力を与えていた。三人目となるマスターは、神代最高の魔女、コルキスの王女メディア。豊富な魔力で、思う存分に腕を揮える。

 

 戦いへの高揚と、ルーンによって威力が更に増幅された。無数に分かれた真紅の穂先が、盾を粉砕していく。弾かれても、再び敵を目指して突き進む。獲物を仕留めようとする猟犬のごとく。

 

「しつこい槍め。だが、これには通じぬぞ」

 

 六枚目を粉砕し、七枚目に傷をさんざん傷をつけて、ようやくゲイボルグは止まった。ギルガメッシュは無傷。しかし、アーチャー=ランサーの意図は充分に達せられた。

 

 黄金とエメラルドで作られた空飛ぶ舟、ヴィマーナ。いずれも、傷のつきやすい素材である。赤い槍は舟を散々に穿ち、切り裂いていた。左舷は大きく剥がれ落ち、船底にまで穴が広がっている。水上なら浸水、転覆するだろう。大気の上でも、さほどの違いはなかった。

 

 舟はバランスを崩し、ふらふらと蛇行を始めた。襲撃者には、先ほど城を破壊した狙撃手も混じっている。このままでは格好の的だ。

 

「ち……」

 

 ギルガメッシュは舌打ちすると、地上に降り立った。同時に舟は形を失う。騎兵と槍兵は速さの双璧。ほんのわずかな隙でも、彼らが逃げ切るには充分だった。ギルガメッシュでは、宝具の補助なしには追いつけない。だが蛇と狗を狙っても、今度は道化師と狙撃手が邪魔をするだろう。

 

「だが、やはり甘い男よ。我を殺さなかったこと、後悔するがいい。

 次は全力で叩き潰してやろう」

 

 財宝を惜しむことなく、無数の剣で串刺しにしてやる。復讐の念が、瞳で業火を燃やす。あの黒い頭は塩漬けにして、新たな財に加えてやろう。

 

 そのころ、車中のアーチャーは、ランサーらに詰め寄られていた。

 

「息の根を止めればよかったじゃねえか」

 

 もう一つの伝承にある、因果をねじ曲げ必ず心臓に中たる槍。ランサーことクー・フーリンの技量が可能にした宝具である。

 

 銀髪の運転手も賛同した。武装を解いて、執事服に戻ったエミヤである。

 

「それには私も賛成だな。舟を壊して終わりでは……」

 

「いや、それが一番の目的だよ。

 ここに彼を封じて、できるだけ機動力を削ぎたかったんだ」

 

 ランサーが眉を寄せた。

 

「はあ?」 

 

「街のどこにいるかわからず、神出鬼没じゃ分が悪いですよ。

 ……受肉とはどういった状態なんでしょう?」  

 

「はあ? いきなりなんだ」

 

「どうして霊体化せず、盾を出したのかと思ったんですよ。

 さっきも、公園でも、マスターはそばにいない。

 避けるだけなら、そちらでも事足りませんか?」

 

「ん?」

 

 ランサーは眉を寄せ、顎に手をやった。

 

「生者であるセイバーが霊体化できないように、

 彼にもそうした制約があるのかも知れません」

 

 かつて、セイバーのマスターだったエミヤは、小さく声を上げた。

 

「なるほど、ここから冬木の市街地まで一本道だ。距離も十キロ強はある」

 

 ランサーが、車窓から外を覗き見る。

 

「そんなにあるのか? 別に遠いとは感じないが」

 

「たしかに君ならば、自動車並みの速度の長距離走ができるだろうがね。 

 それでも、姿は消して走るだろう」

 

「まあそりゃな」

 

 サーヴァントは人間の数十倍の身体能力を誇るが、移動手段は一緒である。令呪を使わないかぎりは、自分の足を使うか、乗り物に乗るかだ。いずれにしても、霊体化した状態の方がメリットが大きい。人ならぬ速度で走れば目立つし、車や電車にタダ乗りができないではないか。

 

「言峰は指名手配されている。ギルガメッシュは姿を消せないかも知れない。

 ああ、自動車の類いは、私の目視の範囲にはなかった」

 

「そうかい」

 

 ヤンは頷いた。車があれば、最優先で潰すという指示への報告だった。

 

「あの舟がなければ、地上を行くしかなかろう。

 言峰が代行者でも、三十分以上はかかる」

 

「この道を奴が走ったら、そりゃ目立つからな」

 

 ライダーが首を傾げるので、ランサーは説明してやった。言峰綺礼は、胡散臭い目つきをした、並外れた長身の筋肉達磨だと。

 

「俺やアサシンよりも背はでかいぜ。腕なんざ、アーチャーの倍はある」

 

「それが、あのサーヴァントのマスターですか。

 アーチャーとリンのように、とても親戚とは誤魔化せませんね」

 

 運転中のエミヤは、前方を顎で指した。

 

「そら、検問だ。我々と行き違いになったとしても、車で通り抜けてはいないだろう。

 教会も、もう奴の後ろ盾にはならないだろうからな」

 

 ヤンは、凛に聖堂教会の本部をせっつかせていた。口頭と文書の両方でだ。言峰の怠慢だけではなく、上層部の管理体制を問うものだった。児童の虐待監禁が発覚してみれば、『だからあんなに、ちゃんとしてくれって言ったでしょう!』という管理者の主張に首を垂れるしかなくなった。責任の所在を明確にしておく役人の知恵である。

 

「いっそ、聖杯戦争で死んでくれたほうがいいと思っているかも知れん。

 今の教会に、警察に圧力を掛ける余力はなさそうだ。

 ということで、ランサーとライダーに提督。そろそろ霊体化を」

 

 三人が姿を消す。唯一残ったエミヤは、イリヤに都合してもらった国際免許証を差し出し、あっさりと通過を許された。森の中の別荘からの帰りだと告げると、警察官は驚いた。

 

「は、あんな森の中に別荘ですか?」

 

「いや、建設当時はあんな森の中ではなかったそうです。

 戦争や当主の代替わりで、手を入れないでいるうちに、

 庭園が森になってしまったのだとか……。

 庭番小屋があったそうですが、今は場所がわからないほどですよ」

 

「それは凄い。スケールが違うというか、なんというか」

 

「なんでも、百年近く前に建てたものだそうです。

 今となっては少々木を切っても、とても追いつかないので……」

 

「はあ、まあそうでしょうなぁ」

 

 あの森に手を入れるには、林業と製材業を始める必要があるだろう。

 

「しばらく留守にしますので、よろしくお願いします」

 

 郊外の森には、人目を避けられる住居がある。そう警察に知らせることにより、円蔵山の捜索が進まなければ、この情報は重要性を増す。

 

「まあね、森を抜けて行く方法もあるんだろうし、完璧とは言いがたいんだがね。

 道路を封鎖すれば、相手の移動時間を浪費させるメリットがある。

 前線で戦っている最中に、本拠地を落とされるのは避けたいんだ」

 

 検問から離れ、再び実体化したアーチャーは、車内の一同にそう説明した。

 

「英雄王はまさに一騎当千。単独行動ができるうえ、マスターは最強格だ。

 我々がサーヴァントを攻めている間に、

 マスターがマスターを襲撃するのが恐ろしい」

 

 それもあって単独行動スキルを持つか、燃費のよい戦巧者を今回の戦闘部隊にした。

 

「みんな、この平和な世界で生まれ育った子どもたちだ。

 魔術師としての研鑽というが、暴力の前にはどれだけ役立つか」

 

 嘆息するアーチャーに、渋面を作ったランサーも相槌を打つ。

 

「俺を召喚したマスターは、戦士としても魔術師としても一流だったんだぜ。

 それでもあの野郎に敵わなかった。

 なまじ知り合いだったのが裏目に出たってのはあるが、

 坊主らに嬢ちゃんたちじゃ、一発殴られたらおしまいだぞ」

 

「そんなマスターを伴う必要のあるセイバーとバーサーカーは、

 安易に前線に出せません。

 キャスターが前線に出るのは、自分から負けにいくようなものだ」

 

 手数と機動性を駆使し、策に嵌めて目的は果たした。

 

「でも我々だけでは、決定的に火力が足りないんですよね……」

 

 要するにそういうことだった。殿軍を務めたライダーが頷いた。

 

「私の目が全く通じないだなんて……。それにあの剣の矢。想像以上の威力です」

 

 すり抜けていく木立が、次々に断ち切られていった。やすやすと回避したかのように見えて、実のところは背筋を冷や汗が伝っていた。

 

「宝具を開放し、あの仔を突進させて勝てるのか、確信が持てなくて……」

 

 決定打に欠けるために勝ち切れなかった。ライダーの魔眼で石化ないしは動きを止め、騎英の手綱を使うのが第一案。第二案はランサーによる横撃。

 

 ライダーは正しい意味で、高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処した。第一案が通じないと見るや、ランサーの待機ポイントまで、巧みにギルガメッシュを誘導したのだ。

 

 それでもライダーは頭を下げた。

 

「すみません。私の力不足です」

 

「いや、正解ですよ。年代的には、あなたは英雄王に次ぐ。

 そんな貴重な戦力を、一か八かの賭けに投入せずにすみました。

 とにかく、あなたが無事でよかったです」

 

 言いながら、ヤンは胸中で呪詛を吐いた。まったく、アインツベルンはどうかしている。ヘラクレスを狂戦士以外で召喚していれば、もっと楽に戦えたものを!

 

「アーチャー……」

 

 ライダーは、眼帯の下で目を潤ませた。召喚されて以来、いや化け物に変じてから、

こんなに温かい言葉を掛けてくれた者はいなかったから。

 

「まだまだ不確定要素が多すぎますしね。

 あの宝具だって、魔力が充分なら直るかもしれないし」

 

 ランサーがにやりと笑った。

 

「俺の槍が付けた傷は、容易くは癒えんぜ」

 

 ゲイボルグは、受けた傷が治癒せぬ魔槍。一騎打ちなら必ず心臓に中り、多勢相手では無数の鏃と化し、即死しなくても傷が治らない。主に似て、どこまでも殺る気満々の宝具なのだ。

 

「そいつはサーヴァント相手でも一緒だ。それこそ概念ってやつの効果だからな」

 

 毒は効かないが、酒には酔うように。

 

「あの金ぴかの舟、今は本物の金じゃあるまい。

 俺たちの宝具と同じで、魔力で出来てるんだろう」

 

 黒曜石の瞬きは、梟の目覚めを意味していた。

 

「じゃあ、今夜ぐらいは大丈夫かな?」

 

 ヤンはそう言うと、不器用な手つきで携帯電話の操作を始めた。

 

「ああ、キャスターですか。今から大聖杯に行きましょう。

 迎えに行きます」

 

 眼帯をしていてもわかるほど、ライダーは愕然としていた。

 

「……まだ戦うのですか?」

 

「いや、一時間で移動して、一時間だけ調査したら、逃げるとしますよ。

 ……うまくいけばの話ですが」 

 

***   

 エミヤは車を間桐家に回した。キャスターとライダーが交替する。せっかくの天馬も、閉所では充分に動けないというのが理由だった。アーチャーが文献を元に分析した結果、円蔵山には洞窟があり、そこに大聖杯がある可能性が極めて高い。

 

「危険ではあるが、士郎君とセイバー、イリヤ君とバーサーカーにも来てほしい」

 

 選手交替を告げるアーチャーに、三人は頷いた。間桐邸には、衛宮士郎とイリヤたちも詰めていた。守るべきは場所ではなく人だが、そのためのハードウェアも必要だ。

 

 キャスターの陣地作成スキルで、間桐家は堅牢な要塞となっていた。凛とライダー、セラたちが留守部隊を務める予定だ。短時間ならば充分に防衛が可能だろう。

 

 そう続けようとして、アーチャーは自分のマスターの不在に気づいた。  

 

「あれ、凛は?」

 

「遠坂なら電話だよ」

 

 慎二が顎をしゃくった。 

 

「ようやく、時計塔の講師と連絡がついたみたいでね。

 ……途中で携帯の電源が切れちゃって、いまは家の電話で話してる」

 

「ああ、そりゃよかった! 待ってたんだよ」

 

 第四次聖杯戦争で、ギルガメッシュと対峙したライダーのマスターの情報は、アーチャーが喉から手が出るほど欲していたものだった。噂をすればなんとやらで、凛が廊下の奥から足音高く走ってきた。

 

「ちっともよくないわ!」

 

「なんだい、慌てて。何か悪いことでもあったかな?」

 

 第四次聖杯戦争で、最強を誇った英雄王と戦端を開き、あれだけやってしまったのだ。それ以上に悪いことはそうはあるまいに。

 

「憧れの名教師が、しょっちゅう下品な言葉で罵るのはショックだったけどね!

 まずいのよ。前回のキャスター討伐には景品があったの。

 だからみんなが乗ったんだわ」

 

「人道上や秘匿の問題による団結のみならずかい?」 

 

 凛は首を振った。

 

「キャスターを退治するのに、

 自分やサーヴァントが死んだりしたら元も子もないでしょ。

 それがなくたって、……士郎とイリヤには悪いけど、

 近代兵器を使う魔術師殺しと共闘したいなんて思わないわ」

 

 士郎は目を剥いた。

 

「な、なんだって!?」

 

「エルメロイ二世に聞いたの。彼は、エルメロイ一世の死で、

 アーチボルト家の後始末のために迎え入れられた人だから。

 死因は銃殺だったんだって」

 

 彼はライダーを失ってすぐ、冬木から離れたという。魔術師としては未熟だったが、その判断力は栴檀は双葉より芳しといったところか。それが彼を救った。冬木の災害に巻き込まれずに済んだのである。

 

 まもなく起こった冬木の災害は、世界中に報道された。帰らぬ当主と婚約者に、アーチボルト家は捜索隊を派遣し、変わり果てた二人の遺体を発見したのだった。

 

 四次ライダー征服王イスカンダルは、元々はケイネスが召喚するはずの英霊だった。その触媒を盗んだのが、師からの冷遇に立腹していたエルメロイ二世ことウェイバー・ベルベット。

 

 天才的な先生は亡くなり、駆け出しの学生は帰ってきた。生死のボーダーが、サーヴァントの差によって設けられた。遺族がそう思ったところで、なんの不思議があろうか。

 

 ――おまえのせいだ、責任を取れ! 

 

 そしてウェイバー・ベルベットは、一気に傾いた名門を必死で支えなければならなくなった。

 

『私たちは愚かにも、魔術師としての腕試しの場と思っていたからな。クソが!』

 

 優秀なサーヴァントを使役し、その傍らでマスターが魔術の技を競う。

 

『その結果、命を落とすことはそれなりに覚悟もしていた。

 今にして思えば、なんたる甘さだ。クソ!

 キャスターの討伐に成功したら、貢献者に令呪を一つ贈る。

 教会の申し出をマスター排除の機会に使ったのだ、あの☓☓☓☓野郎は!』

 

 電話の向こうの声は、歯ぎしりせんばかりの調子だった。

 

『セイバーもランサーもライダーも、巨大な海魔に必死に立ち向かった。

 ランサーは槍を折ってまで、セイバーが宝具を撃つのに協力した。

 ……そのランサーのマスターが、許嫁共々銃殺されている。

 近代兵器を使う魔術師殺し、衛宮切嗣の仕業だろうさ! ☓☓☓☓!』

 

『ええ、ええと』

 

 口篭る凛に、講師は我に返ったのか咳払いをして続けた。

 

『ああ、すまん、話が逸れた。

 私が言いたかったのは、教会は未使用の令呪の管理もしているということだ。

 あれはフィジカル・エンチャントの一種だ。

 奪うことも移譲することもできる以上、相続ができるかもしれん』

 

『なんですって!?』

 

『あの令呪は、当時でも六十年以上前のものだということだ。

 本来の持ち主には、天寿を迎えている者もいたことだろうにな。

 別人に固定されれば、その人物の令呪となるのだろう。

 聖杯戦争の時期でなければ無用の長物だし、

 本来の三画、絶対命令権と同じではないと思うが』

 

 凛は汗で滑りそうな受話器を握り締めた。

 

『じゃあ、綺礼のお父さんが亡くなったのは……』

 

 しばしの沈黙の後で、ウェイバーは低い声で囁いた。

 

『令呪目当ての物盗りかもしれん。

 少なくとも、キャスター討伐の参加者は知っているわけだからな』

 

『だ、誰が……いえ、あなたは違うわ。

 自分が犯人なら、わたしにそんなことを教えてくれないでしょう。

 私の父でもない。本当に必要なら、こっそり融通してもらえばいいんだから』

 

『ほう、なかなか賢いな。付け加えるなら衛宮切嗣でもない。

 せっかくのセイバーを、まともに使っているとは言いがたかった。

 令呪に執着する時間があるなら、銃でマスターを撃つほうを選択するだろう』

 

 凛は唾を飲み込んでから、ウェイバーに語りかけた。

 

『じゃあ、容疑者はランサーかバーサーカーのマスター。

 でもきっと、バーサーカーのマスターじゃありません』

 

 アイリスフィールの誘拐に、バーサーカーと言峰=アーチャーが協力した疑いが濃厚だった。加害者と被害者の遺族が、すぐさま同盟を結ぶとは考えにくい。

 

『ランサーのマスターしかいないわ……』

 

 深い溜息が、海と空を超えて凛の耳を打った。

 

『悪事は己に返る、か。彼は優れた魔術師だったよ。

 聖杯戦争に関わらねば、いや、私が彼の言を素直に聞く耳があったなら、

 こんなことにはならなかったのかもしれん』

 

 だが、歴史にもしもはない。

 

『だから、君たちはよく考えることだ。これからをどうするのかをな。

 とにかく、英雄王の令呪は三つだけとは限らん。そう考えて事に当たれ』

 

 名教師のありがたいお言葉に、アーチャーは天を仰いだ。

 

「簡単に言ってくれるなあ……」

 

 その頼りない背をランサーは叩いた。 

 

「おい、アーチャー、どうする気だ」

 

「どうするもなにも、このまま進めるしかないでしょう。

 むしろありがたいですよ。

 令呪での転移を念頭に置けるし、マスターが戯言だと切り捨てないし」

 

 最悪の情報を得て、なお肯定的に受け入れるとは。ぼんやりした顔に似合わず、苦労をしていたのだろうか。ランサーは、この策士に初めて同情した。

 

「こんなものを有難がるとは、どんな修羅場を潜ってきたんだ、おまえ……」 

 

「まあ、色々と。だが、基本戦術は変わりません。

 彼らがこちらに現れたら、令呪で戻る。

 大聖杯に現れたら、やはりここに令呪で戻る。ね、シンプルでしょう?」

 

 銀髪の執事が腕組みをした。溜息を吐くと、事実を指摘する。

 

「むしろ、それしかできないと言うべきでは……」

 

「ま、やることは変わらないからね。 

 戦力を集中し、マスターを保護し、最大戦力を叩きつける。

 では、行きましょう。多少配置換えをしますが」

 

 調査部隊は、アーチャーとセイバー、バーサーカーの主従。そして、キャスターとランサー。

 

「では、留守を頼んだよ、慎二君と桜君、ライダーとエミヤ君」


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