『プリンプリン物語』×『白鯨伝説』で『グノーシア』パロ 作:つるみ鎌太朗
1、
空間転移後メインコンソールに招集され、プリンプリンは『またか』と思った。
一人減っている……。
『ムッツさまの反応がありません』
Leviが容赦なく事実をつけつけた。
エイハブ一行が各々に反応する。
「む、ムッツが……?」
アトレが最も動揺しているようだった。ラッキーがそばに寄り添い、うつむいている。
「だってキングクーロンでもサイキョーの剣士なんだぜ。それが、こんな呆気なく……」
アトレの震える声にドクも表情を曇らせる。
「ムッツ、ムッツ。ムッツよォ~〜。
天で人には言えねェ映画を好きなだけ観て、極楽に行っとくれ……」
ホワイトハットが両手を合わせ、涙と鼻水まみれの顔で天井を仰いだ。
それをよそにエイハブは瞳を閉じ、ただ静かに喪に服す。
雛壇にはきのうと同じくデュウが腰掛けていた。懐から笛らしきものを取り出す。
吹き口に唇を寄せ、もの悲しい音色を奏ではじめた。
「これ、ムッツが好きだった曲だ」
ラッキーが呟くとアトレがその胸もとへ飛び込む。
肩を激しくわななかせ、声をあげて泣きだした。
その背をラッキーは自分も涙ぐみながらも撫でてやっている。
『ムッツ、ヤスラカニ! ヤスラカニ!』
ルーシーが羽をばたつかせて宙を飛び回った。
「……いつもながら、堪えるな」
プリンプリンの隣でトントンが囁く。
「ええ。わたしたち、何度この光景を見なければならないのかしら……」
プリンプリンが落ち込んでいると、ドレスのすそを引っ張られた。
「キィ〜」
モンキー。慰めてくれているのだろうか。
抱き上げて笑ってみせる。
「大丈夫。こんなことを早く終わらせるために今日も頑張りましょう」
♢
「まず、ドクターによる診断を聞かせてくれるかな」
トントンから視線を向けられ、プリンプリンは淡々と報告した。
「ワットさんは残念ながらグノーシアだった。
わかりやすい偽者だけど、人間であってほしかったわ……」
この結果からわかる事実。
グノーシア陣営に、合理的で頭のいい人物が潜んでいるということだ。
まず偽者だとバレたワットを容赦なく切り捨てた。
マイホームが仲間のグノーシアだったとしても、あとの二人はしれっとワットへ投票している。
マイホームが人間であれば、仲間全員で見捨てたということに……。
(情があれば、こんなことできないわ……いくらグノーシアだからといって、ここまで冷たい判断をするなんて)
プリンプリンはもうひとつの事実を反芻する。
犠牲者はムッツ。グノーシア騒動の際に外に出ておらず、人間だと確定していた船員。
グノーシア陣営は確実に人間を減らす選択をした。
守護天使がいるから護衛対象として選ばれる可能性もある。
だが——。
(同じ留守番のオサゲもいた。そして、ドクターのわたしもいた。
人間と確定している中から三分の一の確率なら賭けてみてもいい)
そしてまんまとグノーシアはその賭けに勝った。
適当に選んだにしては出来すぎている。
(今回は苦戦しそうだわ)
プリンプリンがぐるぐると悩んでいたら、オサゲが駆け寄ってくる。
「プリンプリン、本物のドクターってことだよね? よかったァ」
抱き留めながらプリンプリンは首を横に振った。
「信じてくれてありがとう。でも、まだ決まったワケじゃないのよ」
「どうしてさ? ワットさんはグノーシアだったんだろ? じゃあ、プリンプリンが本物で人間に決まってる」
「対抗であるプリンプリンの報告だけじゃ、本当かどうかわからないでしょうが」
カセイジンがメガネを直しつつ、説明する。
オサゲはまだキョトンとしていた。
「え〜、だってワットさんがあんなバレバレな嘘ついてたんだから……」
「まあ。感覚的には、プリンプリンが本物だとワタシも思いますけどね」
そう。ややこしい状況なのだ。
ワットが嘘をついていた。これはほぼ全員が直感で気づけた。
だとすれば、プリンプリンが『ワットはグノーシア』と報告した瞬間に本物のドクターは確定したように思える。
しかし。
嘘をついた、と確実に証明することは不可能だ。
だからこそ、みんな薄々勘づきながらも『まあ大体そうかもね』と言葉を濁すしかない。
ちなみに、ワットが人間だったとしても『嘘をついていた』のであればAC主義者。
プリンプリンが本物でないのであればグノーシアということになってしまう……。
(では、本当のドクターが名乗っていないということになる。
こんな命がけの時に、ニセ情報を出回らせるなんて普通なら有り得ないわ!)
それだから、みんな心の中で、
『まあプリンプリンが本物なんだろうね』
と思っておくしかないのだ。
「むう。人間確定だったら、ぼくと一緒で安泰だったのに……」
オサゲが不満げにするのを見て、プリンプリンは釘をさした。
「オサゲ。油断しちゃダメよ。あなたも……わたしも気をつけなくっちゃ」
「え? 何を?」
よくわかっていない彼へ耳打ちする。
「……空間転移中、グノーシアから襲われるかもしれない」
その可能性を口にするとオサゲが『ヒェッ』と悲鳴をあげる。
「そんなあ。せっかく、人間だってわかってもらったのに……」
「グノーシアにとって、人間だと確実にわかっている人は邪魔なの。いったいどっちなのかわからない人を残すほうが都合がいいのよ」
怯えているオサゲへさらに付け加えた。
こうでもしないと調子に乗って議論中に目立ってしまうかもしれないから。
オサゲは青い顔で落ち込んだようだが、ボンボンが近づいてきて、
「安心しろ。おれが守ってやる!」
と胸を叩く。
彼はプリンプリンのこともチラと見て、
「ねえ、プリンプリン。だからゆっくり診断でも推理でもしてくれたらいいよ。
おれはきみを信じてる。だから、きみの盾になる」
なんて頼もしいことを言ってくれた。
もしかして、守護天使?
しかしボンボンが前に出がちなのはいつものことなので判断に迷う。
その可能性をいったん頭の隅に置きつつ、プリンプリンは前を見た。
エイハブ一行は卓を挟み、相変わらず向こう側にいる。
心の距離のように感じられた。
しかし、今、再び問わねばならないことがある。
「……エンジニアの方は、いらっしゃいますか?」
凛とした声でプリンプリンは尋ねた。
エイハブがわずかに眉を上げる。その隣のラッキーは仲間を見やってくれた。
アトレ、ホワイトハット、ドク、デュウは微動だにしない。
ひょっとしたらプリンプリンの友人の中にいるのかもしれないが、ひとまず新参の人々に訴えた。
「昨日カセイジンの言ったとおり、申請がある以上は必ずいるハズなんです。
そして一日目にコールドスリープになったのはグノーシアのワットさん。
犠牲になったのは、ムッツさん。……ルゥアンの騒動で外に出なかった人だわ。その時、この船は誰でも自由に出入りできた。
逆に言えば権限の申請なんて必要なかったのよ。
つまり、彼がエンジニアである可能性はないの」
ループを重ね、プリンプリンも役職の予想ができるようになってきた。
だからこそわかるのだ。
「絶対にエンジニアは残っている」
エンジニアは残った船員からひとりずつ、グノーシアか否か知ることができる。
議論後にコールドスリープになった船員を調べられるドクターより、リアルタイムで疑わしい人物を当てられる。
明らかに怪しいワットが去った今、新しい判断材料が必要だ。
プリンプリンは両手を胸の前で組む。
「名乗り出た瞬間にグノーシアに狙われる。だから黙っておきたい気持ちはわかるわ。
わたしだって怖い……でも、犠牲者を増やさないためにも本当のエンジニアの力がこれから必要なの。
お願いよ。勇気を出して、名乗り出てください」
「キキィ」
モンキーも横で頭を下げてくれた。
青白い照明が、上から議論の面々を煌々と照らしている。
誰も応えてくれないのか……。
プリンプリンが胸の痛みを覚えた時、エイハブ一行からとある人物が動いた。
ゆっくりと立ち上がり、外套のホコリを払う。
デュウだった。
昨日と同じく無言で議論卓の中央に進み出る。
ちょうどエイハブの隣で、彼から驚愕の表情で迎えられた。
「……エンジニアは、おれだ」
初めて声を聴く。
思ったよりも穏やかな声音で、それでいて抑揚のない喋り方。
「あいつ、喋れたんだ……」
プリンプリンの隣でボンボンも目を皿のようにする。
みんなが珍しいものを見る目でデュウに注目していた。
その視線を受けて特に緊張した様子も見せず、彼は話し続ける。
「初日に名乗り出ると、プリンプリンの言うとおりグノーシアに狙われる恐れがあった。
一度も診断できないまま消えるのは、船のためにも避けたかった。
だから黙っていた。すまない」
すみれ色の大きな瞳がプリンプリンを見つめていた。
意外にも謝罪を述べられ、戸惑いながらも会釈する。
一拍置いてからデュウが肝心の報告を口にした。
「おかげで昨夜は無事に診断ができた。
——あなたがグノーシアだ」
ス、と突きつける指。
その先には——いつも議論の進行を買って出てくれる銀髪の美男。
彼の瞳孔がわずかに縮んだ。
「トントンがグノーシア……?」
プリンプリンはにわかには信じられなかった。
他のみんなも同じで、トントンを見たまま固まっている。
特にマイホームはアゴを手で支えて注意深く動向を伺っていた。探偵のサガか。
その視線を受けつつ、トントンは慎重に言葉を選んでいるようだった。
「……いや、驚いている。真っ赤なニセモノがいきなり私を指名してきたからね」
「……?」
デュウが首を傾ける。
一同が真意を掴めずにいると、トントンが挑むように言い放った。
「本当のエンジニアは私だよ。
まさか突然グノーシア扱いを受けるとは思わなかった。大胆な真似をする」
議論卓がどよめく。
エンジニアが二人……なのは、プリンプリンのようにループしている者からすればいつものことだ。
それでも今回が特殊なのは、
『先に名乗ったエンジニアからグノーシア判定を受けた者が「自分こそがエンジニアだ」とやり返した』
その一点に尽きる。
誰もが固唾を飲んで見守る中、トントンは普段の調子を取り戻してきていた。
「もちろん私も昨夜、診断している。
結果グノーシアを見事特定できたよ。ニセモノのお隣さん」
鈍色の瞳がデュウの隣の人物をとらえている。
どこか飄々とした態度の隻眼の船長。視線に気づくと、『ん?』と自分を人差し指でさした。
トントンがうなずく。
「エイハブ。診断結果はあなたがグノーシアだと示している」
「……キッツいねえ……」
エイハブは困ったように頭を掻いた。
いきなりの修羅場に当事者以外は困惑しきりだ。
ホワイトハットがエイハブへ顔を近づける。
「おい、エイハブ! お前、ホントにムッツをやったってのか?」
「いやァ、あのニーチャンはそういうことにしときたいらしいぞ」
「アホ、お前はいつもそーやって曖昧にしやがって! ここはしっかり否定しとけよ!」
エイハブのクラバットを掴んでガクガクと頭を揺らす。
『アワワ』とエイハブの声が震え、すかさずデュウがホワイトハットを押しやった。
その先でドクがキャッチし、ポーイと部屋の隅へ放り投げる。見事な連携だ。
ラッキーがアトレの面倒をまだ看つつ、トントンへ聞く。
「どうして……船長を診断したんだ?」
鋭い指摘。
トントンとデュウ、どちらも各陣営の中心人物を狙い撃ちにしている。
理由を問うのはもっともだった。
トントンはハッキリとした声で応じる。
「あなた方の中で、最も影響力があるのは彼だ。発言ひとつで状況を変えられるだけの力がある。
グノーシアだった時、人間側のダメージが計り知れない……」
つまり、グノーシアであった場合、発言力を削ったということか。
プリンプリンが感心しているとカセイジンがデュウヘ尋ねかける。
「そちらの理由も聞いてみたいですね」
質問を受け、デュウが長いまつ毛で瞳を伏せた。
すこし考えたのだろうか。
やがてポツリとこぼした。
「……目立っていた……」
「それだけかよ」
ボンボンが低い声でうなる。
空気が張り詰めてきた。
本来、議論すべきは人間かグノーシアかなのに。これでは互いによそ者といがみ合っているだけだ。
プリンプリンがハラハラしていると、向こうも同じことを考えたのかドクがデュウの肩を引く。
「デュウ。お前も、トントンが進行を努めていたから……『目立っていた』からグノーシアなら危険だと考えたんだろう?
ほぼ同じ考えだ。どちらもグノーシアだったら危険な人物を調べてみた……そうだな?」
デュウはまぶたを閉じ、何も言わない。
無反応な彼相手にドクはなおも食い下がる。
「方向性としては間違っちゃいねえ。
ただ、身内かそうでないかで診断先が変わっただけだ」
言葉少ななデュウの代弁をしているような形だった。
いや、実際は何を考えているかわからないのだから希望的観測か。
しかし否定もしないとなると、
『二人のエンジニアが同じ目的で動いた』
という格好になり、亀裂が一旦は収まる。