『プリンプリン物語』×『白鯨伝説』で『グノーシア』パロ   作:つるみ鎌太朗

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【Day2】-2

 

 そのはずだった。

 場外に投げ出された男が復帰するまでは。

 

「……待て。肝心なことに触れちゃいねえぜ」

 

 部屋の隅でうずくまっていたホワイトハットが鋭い眼光を見せた。

 これまでのお茶らけた雰囲気とは違い、目が据わっている。

 

「肝心なことって?」

 

 ラッキーが問いかける。

 ホワイトハットは恰幅のいい体をのそりと起き上がらせた。

 

「その、トントンとやらが都合いいタイミングでカミングアウトしたことさ」

 

 地を這うような声にドクが不安げな視線を送る。

 

「あまり対立を煽るな」

「いーや。このままじゃ、イーブンで話が済んじまう。

手ぬるすぎンだ、おめえらはよ」

 

 議論卓まで辿り着くとホワイトハットは明確にトントンを睨めつけた。

 

「まず、トントンはプリンプリンの懇願に真っ先に応えなかった。元からの知り合いなのにも関わらず、だ。

歳若い、それも歳の近い男女ならすこしは意識しあうってモン……」

「そういう恋バナをしたかったの?」

 

 ラッキーがトゲのある言い方をする。

 ホワイトハットはゲホゲホと咳をすると気を取り直して、もう一度。

 

「何にせよ。お前さんら、トモダチなんだろ? じゃァ先手を譲るのは変じゃねェか。お嬢ちゃん、あんなに必死に頼んでたんだぜ。

それに応えず、デュウに『グノーシア』だと言われてカウンターで名乗り返した。

典型的な大嘘つきのパターンだ!」

 

 ホワイトハットの言い分はプリンプリンも気がかりだった。

 トントンは同じループ仲間として基本的に協力的だ。

 それなのに呼びかけにすぐ応じてくれなかった。

 

(今回は、もしかして敵同士なのかも……)

 

 そう思わせられた、腑に落ちない名乗りだった。

 ホワイトハットは卓をバァン! と両手で叩き、身を乗り出す。

 

「そうだろう? とりあえずエンジニアだと言っておけば、みんなが投票を保留する。貴重な情報源は残しときたいからな!

だがよ、俺にゃァお前が昨日のワットさんとどう違うのかわかんねえな。

胡散臭ェんだよ、何もかも」

 

 ホワイトハットに噛みつかれてもトントンは冷ややかなまなざしで受けるのみ。

 誰も弁護しないのであれば、プリンプリンが助けるべきだろうか……。

 

(でも、上手い言葉が浮かばないわ)

 

 迷っている間に別の人物がホワイトハットの告発に受けて立った。

 探偵らしいキャスケット帽を抑えつつ、姿勢を低くしながら、

 

「そう熱くなりなさんな。

アンタ、エイハブ……そのお人が黒認定されたのがよっぽど気に食わんのかね?

もしや、お仲間かな?」

 

 マイホーム。きのうワットがコールドスリープになってから、口数が少なくなっていたがここに来て口火を切った。

 元より推理を披露するのが大好きな探偵。調子が戻ってきたのは何よりだが……。

 

(またケンカみたいになっちゃってる)

 

 プリンプリンは肩を落とした。

 モンキーも議論卓の上で所在なげにしっぽを揺らしている。

 おじさん同士の口論はヒートアップするばかり。

 

「俺ァ、一意見として言っているだけだ! エイハブのためじゃねえ! 全体を思ってだな……」

「イヤイヤ、照れんでもええ。トントンが指摘したあと、アンタ真っ先にエイハブに詰め寄ったろ。

心配でたまらん、といった顔しよった」

「うーるせ、このエセホームズ!」

「なっ!? 小生はホームズのライバルであって、エセじゃねぇみゃぁ!」

 

 子どものケンカと化している。

 周囲からは白い目で見られ、反対に場のトーンダウンに貢献しているから結果オーライなのかもしれなかった。

 

「もうやめなよ、見苦しい」

 

 直情的なボンボンから冷徹な一言が飛び出て、ここいらで強制終了。

 おじさん二人を引き離して仕切り直しとなった。

 まずは疑われていたトントンによる説明から。

 

「私があの瞬間に権限を明かしたのは、機を伺っている間にニセモノが現れたからだよ。

名乗り出なければ、ニセ情報が真実として出回ってしまう。

……そんなに不自然だったかい?」

「タイミングが……」

 

 まだモゴモゴ言っているホワイトハットに、カセイジンが挙手する。

 

「確かに、アナタの言い分もわかります。ワタシもトントンはチョットもったいぶっていたと思いますよ。

でも……トントンばかりがおかしいでしょうか? ワタシはさっきからデュウが発言しないのも同じくらい気がかりです」

 

 そう言ってデュウを見やった。

 やはり無言。

 カセイジンに続き、おずおずとまた挙がるふくよかな手。

 

「ぼくも、疑ってるとかじゃなくて。

何も言わないのは心配だなァ……だって、何を考えてんだかわかんないからさ」

 

 オサゲだ。気の優しい彼は本気で心配そうにデュウの澄まし顔を覗き込んでいる。

 疑いの目が向けられているというのにどこ吹く風なデュウに、カセイジンがさらに踏み込んだ。

 

「そもそも、この騒ぎはデュウが『トントンがグノーシアだ』と言ったのが発端です。それなのにあとは知らん顔。

まるで疑惑のタネを撒くだけ撒いたような……」

 

 そこへ、かすれた声が割り込む。

 

「ナンだ、ソレ。デュウが無口なのはいつものことじゃん。

おまえが知らないだけだろ」

 

 アトレが鼻を鳴らした。

 ムッツのことで塞いでいたようだが、だいぶ落ち着いてきたようだ。

 

「デュウはめったに口を効かないんだ。言葉より、行動で示すタイプ。

ラッキーがバンキッズに捕まった時だって……みんなに黙ったままムッツと助けに行った……」

 

 プリンプリンはほう、と息をつく。

 バンキッズが何かは知らないが、危険をかえりみずに人助けをするのは好ましく思えた。

 助けられたというラッキーもデュウを振り仰ぎ、ニコリと笑う。

 

「そうだよ。あの時は頼もしかったな。

だから、今もいつもどおりのデュウだよ」

 

 そもそも初日にだってひと言も話さなかったのだから、今回に限ってのことではないと証明されている。

 さしものカセイジンも申し訳なさそうにうなだれるばかり。

 

「ウ〜ム。まあ、そういう人もいますよね……」

 

 オサゲに至ってはのんびりした口調で、

 

「へー。よくわかんないケド、デュウって良い人なんだね!

変なこと言って、ごめん!」

 

 などと謝る始末。

 そんな子ども同士の会話に乗っかり、デュウの隣からにゅっと大きな手が伸びた。

 

「あー……謝らなくてもいいさ。

ま、とどのつまり、デュウは口下手ってヤツなんだ。

勘弁してやってくれ」

 

 エイハブがデュウの肩に腕をかけ、ダメ押しとばかりに弁護する。

 しかしながら、ここまで庇われたのに眉ひとつ動かさない。性格というには極端すぎやしないか?

 プリンプリンがじっと見ていたら、エイハブと目が合った。

 眼帯の下、顔の左半分に走る傷跡。

 壮絶な過去を思わせ、アルトコ市ですくすくと育ったプリンセスには少々刺激が強い。

 だが向けられたのは、傷だらけの体に反して人懐こい笑み。

 プリンプリンが呆気に取られていると、エイハブはデュウの横顔をまじまじと見つめた。

 

「なあ、デュウ。俺と組むか?」

 

 持ちかけられたとたんデュウがパッとエイハブを見る。

 大きな瞳をさらに大きくし、動向を窺っているようだ。

 エイハブは口の端をニッと上げる。

 

「俺もお前も疑われている身だ。つーことはよ、同じ穴のムジナってことだ。

ここは一丁、協力しようぜ」

 

 デュウの肩を抱き寄せたまま、目線を合わせる。

 普段よりも穏やかな声。

 デュウはそんなエイハブを真正面から見つめ——。

 コクリとうなずく。

 アトレの肩からルーシーが羽を広げて飛び上がった。

 

『トモダチーッ、トモダチーッ!』

 

 祝福しているのだろうか?

 一部始終を見届けたプリンプリンは、

 

『すこしマズいことになったのでは?』

 

 と不安になる。

 エイハブはあちらの一行をまとめるリーダー。圧倒的に信頼を集めている。

 そして、デュウは二人申し出たエンジニアの片割れ。

 あまりにも強力な協力関係が出来上がってしまった。

 それに対し、トントンは——。

 チラリと顔色を窺う。

 表面上は平静を保っているように見えた。

 だが、胸中はどうだろう。

 

(手を貸してあげたいけど、トントンが味方であると限らない……)

 

 そこが悩ましかった。

 エイハブとデュウはともにトントンから疑われた身。傍から見ても利害が一致している。

 だから、手を組んだとしても不自然ではない。

 しかしプリンプリンとトントンは、まだ協力するだけの理由がない。

 無闇に手を貸せば、もしも敵だった時に取り返しがつかなくなる。

 

(困ったわ……)

 

 オロオロとしていたら協力どころかまたトントンを責める声が。

 

「それよりもよォ! トントンはやっぱり怪しいよなあ!

俺はだんまりなヤツより、進行役として場をコントロールしようとしたヤツのほうが……!」

「またアンタ、いい加減にしなされよ」

 

 ホワイトハットとマイホームがまた小競り合いを始めている。

 それを見ながら、あちら側でアトレが、

 

「マイホーム? ってオッサンもじゅ〜ぶん怪しいんだよなぁ。

トントンが怪しまれて都合が悪いことでもあンのか?」

 

 とジト目で見ている。

 その隣でドクも首を縦に振っていた。

 

「ホワイトハットにミョ~に突っかかるのもな。特定の相手に構いすぎだ」

 

 そこでLeviの声があたりに響いた。

 

『投票の時間です』

 

2、

 

 投票用のモニターの前でプリンプリンは迷っていた。

 どこへ投票したものか……。

 

 トントンとデュウ、どちらかは必ずニセモノのエンジニアだ。

 トントンがニセモノなら、確定でグノーシア。

 デュウがニセモノなら、二分の一でグノーシア。AC主義者の線がまだ残っている。

 

 でも裏を返せば、どちらかは本物。

 今は排除するべきではない。

 

 トントンにグノーシアだと判定されたエイハブはどうか?

 これまた微妙なところだ。

 なぜなら、今の状況だとトントンのほうが若干疑わしいとプリンプリンは考えている。

 彼はループする者としては協力的だが、議論では何度も出し抜かれてきた。

 あまりにも聡明だから、今回の判定を受けてのカミングアウトもコールドスリープを見送るための策のように思える。

 だとしたらエイハブは反対に人間の可能性が高い。

 

 ここも二日目の投票先としてはふさわしくない。

 

(なら、消去法で。ごめんなさい)

 

 プリンプリンは『えいっ!』とその人物の名を押した。

 モンキーと一緒に中央の仮想ディスプレイへ向かう。

 

『有効投票数:12。開票します』

 

【投票結果】

 

プリンプリン→ホワイトハット マイホーム→ホワイトハット ラッキー→トントン

ボンボン→ホワイトハット トントン→エイハブ アトレ→マイホーム

オサゲ→ホワイトハット エイハブ→トントン ホワイトハット→トントン

カセイジン→ホワイトハット デュウ→トントン ドク→マイホーム

 

ホワイトハット…5票

トントン…4票

マイホーム…2票

エイハブ…1票

 

『コールドスリープはホワイトハット様です』

 

――――――――――――

 

 投票室からメインコンソールへ戻される。 

 結果を受け、プリンプリンはトントンが一票差でコールドスリープを免れたことに危機感を覚えた。

 確かに不自然さはあったものの……。

 

(ホワイトハットさんには悪いけど、まだトントンを追いやる段階じゃない……)

 

「あれェ、カセイジン。ナンであのオッサンに投票してるのさ?」

 

 ボンボンがカセイジンに問う。

『ヨカン』持ちの、プリンプリンたちのブレーンは唇を尖らせた。

 

「あの状況で他に投票できますか?」

「えー、だってあの無口なロボットを疑って……」

「! シーッ、シーッ!」

 

 きかん坊の口が抑えられる。

 危うい無邪気さに、プリンプリンは少々呆れた。

 

「そういうボンボンはどーしてあのおじさんにしたの?」

 

 オサゲに聞かれ、カセイジンの手をどけつつボンボンは、

 

「ン? だって、うるさかったじゃない。感じ悪いし」

 

 と、わかりやすい答えを口にする。

 議論で悪目立ちすると、こういう理不尽がまかり通るから怖い。

 何度も経験したからよくわかる。

 

(マイホームさんにも票が入っちゃってるわ。基本、お喋りだから……)

 

 マイホームを見ると、ディスプレイを眺めて何か考え込んでいる様子だ。

 とりあえずプリンプリン一行はみんな議論を生き抜いた。

 エイハブ一行へ目を向ける。

 

「やれやれ、嫌われたモンだな」

 

 ホワイトハットが潔く部屋を出ようとしていた。

 去りゆく背中を全員が見守る。

 

「蒸し返すからだよ」

 

 ドクが苦々しい顔で言う。

 ホワイトハットはくるりと振り返り、

 

「だが、あのヤローにも灸を据えてやった」

 

 と勝ち誇った笑みであごをしゃくった。

 もちろんトントンを示している。

 

(捨て身の覚悟だったのかしら……)

 

 だとすれば策略にまんまと乗せられたということになる。

 そんなホワイトハットの隣にエイハブが静かに歩み寄った。

 突然の接近に、ホワイトハット当人が当惑したように目を丸める。

 それを横目で見つつ、エイハブはぶっきらぼうに言った。

 

「……ありがとよ。泥かぶってくれて」

 

 すぐに視線をそらす。

 礼を言われた本人もギクシャクした態度で白い帽子をずりおろし、顔を隠した。

 二人で肩を並べ、メインコンソールを後にする。

 残された四人は閉じた扉を眺めた。

 プリンプリンは、その中でもひときわ美しい青年を見つめる。

 

(デュウには一票も入らなかったわね)

 

 やはり、あのエイハブの協力申し出が大きな牽制となったのか。

 カセイジンが投票できなかった理由……。

 デュウを疑えば、同時にエイハブを敵に回すことになる。

 つまりはあの一行から総スカンを食らってしまう。

 

(これでは議論というより政治だわ)

 

 場が収まったようで、結局は互いの陣取り合戦になっている。

 敵の脅威を退けるには手を取り合わなければならないのに。

 

(どこかで指摘しなければ……グノーシアの思うつぼよ!)

 

「キー」

 

 プリンプリンの決意に、モンキーもウンウンと同意してくれた。

 

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