個性:病原体 作:HERO
二人で雑談に花を咲かせながら歩いていると、住宅の脇道から筋肉の浮かぶピッチピチの赤スーツ、目元を隠すゴーグル、口元以外を露出していない数か月前に知ったヒーロー"レッドホット"が道を塞ぐように現れた。
彼は目が合うと、笑みを浮かべながら口を開く。
「やあ、響香ちゃん。それと……病くん、だっけ?」
最後に出会った頃から声色などは変わらない。それでもどこか、雰囲気が違う気がする。
耳郎も感じ取ったのか繋ぐ手のひらにギュッと力が入り、震える肩を寄せてきた。
そんな耳郎の反応を見たレッドホット。推定犯罪者は、唯一見える口元に厭らしい笑みを浮かべる。
「響香ちゃんと密着するなんて、本当に罪な子だねぇ。無個性の病クン?」
「何が言いたいんですか、レッドホット」
どうして捕まっていないのか。他のサイドキックはどうしたのか。聞きたいことは山ほどあるが、今は横に怯える耳郎がいる。
なるべく刺激しないように言葉を選ぶが、彼には全く効果が無かった。
病が言葉を発した瞬間、口元へ怒りを浮かべて病の背後へと声をかける。
「二人とも、やってくれ」
反応し、振り向こうとした時には遅かった。
頭に布を被せられ、隣にいた耳郎のくぐもった悲鳴が聞こえる。
抵抗しようとしたものの腕を抑えられたため、一旦落ち着くことにする。
(2人、って言ってたな。本当なのか?)
警察に見つからない悪知恵を働かせる生粋の犯罪者だ。2人、と言っておいて実は5人いました、なんてこともあり得る。
(今は様子見するしかない。……すまん耳郎。ちょっと待っててくれ)
腕は太い指によって拘束されているが、頑張れば振り解ける気がする。
ならば今は様子見にして、人数を把握してから反撃に出るべきだろう。
病は太い腕に抱えられて揺らされながら、どこかへと運ばれていく。
耳郎のすすり泣く声が聞こえてくるが、まだ行動を起こすべきではない。
運ばれている間に力で解決できなかった時用に、1つの細菌を体内へと創造しておく。
(個性が脳内カーソルで動かせて良かった。あと布の中でもハッキリ見えるのも)
付与する特性は二つ。"即時発症"と"破傷風"。5000Ptと1000Pt。痛い出費だが、創っておかずに後悔するよりはましだ。
当初は"狂犬病"の予定だったが、もしも死体を検分されると困ることになってしまう。どこで感染したのか? 何から感染したのか? 日本というこの国で狂犬病が見つかれば、徹底的に洗い出され、そして特定されて隔離されることだろう。
だが"破傷風”なら話は別だ。
破傷風を起こす"破傷風菌"は世界中の土壌や動物の糞などに存在し、自然に感染する確率は狂犬病よりも遥かに高い。
よって検分されても洗いだされる確率は低いはずである。
(問題は感染経路か。……爪で刺すしかないな)
上がった力で無理やり爪を食いこませ、体内に直接"破傷風"の特性を付与した細菌を流し込む。
普通ならば毒素が回るのに一定の時間を要するが、大量の細菌を流し込んでしまえば数時間で済むはずだ。
えっほえっほと、どこへ運んでいるのか分からないが、なんとなく人気のない所へ向かっているんだろうということは分かる。
しばらくすると、布の中からでも分かるほど薄暗い場所へと到着した。
病は適当に放り捨てられ、床に肩をぶつけてしまう。その拍子に頭の布が外れ、現在の状況が把握できるようになった。
薄暗く広い、埃の舞う薄汚い体育館のような場所。
恐らくは廃棄された工場だろう。錆びた釘のようなものが地面に転がっており、何かの廃材が端っこに山となって積み重なっている。
(釘。丁度いいな)
少し遠くにはレッドホットと布を被せられた震える耳郎の姿が見え、自身の背後には図体のデカい黄色スーツと、細めの青スーツがいた。
レッドホットは耳郎の布を取ると、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべながら彼女の頬へと手を添える。
彼女は恐怖で身体が動かせないのか、震えることしかできない様子だ。
「う~ん、やっぱりイイね。俺のお嫁さんに相応しい」
このロリコンが。と言いたいところだが、病自身も耳郎の事が好きな精神年齢おっさんなので何も言えなかった。
だが彼の目つきに見覚えがある理由が分かった。
(同類、か。……俺はこいつほど無差別じゃないけど)
コレと一緒にされたくはないが、やろうとしている目的が下種な自覚はあった。
それでもコレと一緒にはされたくない。
レッドホットは耳郎から手を離すと、なぜか病の方へと近づき始める。
一歩前までやってくると、彼は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「やあ、無個性の病クン。残念ながら君の響香ちゃんは俺のお嫁さんにすることにしたよ。残念だったね?」
「それが本性ですか? レッドホット」
病が言葉を口にした瞬間、レッドホットの右足が頭目掛けて迫ってきた。
見えてはいるが、避けてもさらに逆上させるだけ。それでこちらへ来るのならばいいが、耳郎にぶつけられても困る。
故に、病は見え見えの蹴りを甘んじて受け入れた。
「っ、やまいっ!」
側頭部に硬い靴の感触が当たった瞬間、頭をバレないように反対側へと引き、まるで蹴り飛ばされたかのように演出する。
見ていた耳郎が悲鳴のように名前を叫ぶが、今は反応するわけにはいかない。
(痛い……が、そこまでの痛みじゃない)
これも全て"成長系"のおかげだろう。
"筋肉密度"によって筋力の上昇と、その力に耐えうる肉体へと成長。"骨密度"、"骨質"によって得られる骨の頑強さ、柔軟さ。"脳機能"によって反射能力や運動能力が上昇したことによる受け流し。
もしものために会得した特性が、今ここでようやく本領を発揮できる。
地面へ倒れた病はダメージが入っていないことに気が付かれないよう、地面に蹲って痛みに呻く演技をする。
演技に関しては素人だったが、レッドホットは優越感が大きかったのか、案外すんなりと騙されてくれた。
「はっ、無個性のゴミが。お前なんかが俺の響香と仲良くしてるだけで吐き気がするぜ」
レッドホット。差別主義者のロリコン。自己中心的な
痛みに呻く演技をしながら黄色と青色を見れば、彼らもニヤニヤとこちらを見ながら嗤っている。
(こいつらも同罪か。となると、こいつらを捕まえられなかった原因である個性はこのどちらかが持っているのか)
普通に考えれば、彼らのことは簡単に捕まえられるはずだ。
彼らの目的は恐らく幼女との性交渉。その際に付着した体液などからDNA鑑定をすれば、誰が犯人かなど一発で分かること。
だがそれをしていない、もしくはしても分からなかった、ということは、なんらかの"個性"によって誤魔化しているのだろう。
赤色、黄色、青色。この中で誰が一番そういう"個性"を持っていそうか。
(普通に考えれば青色が怪しい、か)
地面に蹲りながら、何故か目の前にやってきた青色の事を見上げる。
彼は口元に嘲りを張りつけ、こちらを見下ろしていた。
「おいぃ、レッドぉ。このぉガキぃ、まだぁ諦めてぇないぞぉ」
ねっとりとした、ものすごく気色悪い喋り方をする青色。
彼の言葉を耳にした赤色はもう一度病へと蹴りを入れてから、耳郎の方へと歩いていった。
そして彼女の腰を掴み、身体へと引き寄せる。
「まあそこで見てな。可愛い可愛い響香が、俺のモノになる瞬間をよぉ」
手が腰から上へと昇っていき、薄い胸を撫でまわすように触り始めた。
耳郎は怯え、涙をこぼし、縋るようにこちらを見つめてきている。
(……うん、恐らく人数はこいつらだけで終わりだ)
そう結論付けた病は、反撃に出ることを決意した。
地面に寝ころびながら、脚の反動だけで身体を動かし、目の前に立つ青色の足を自身の右足で思いっきり蹴りつける。
陶器を砕いたような感触が足へと伝わり、青色が空中で480°回転して頭から地面へと落ちた。
驚愕に目を見開く赤色を目に入れながら、蹴りつけた勢いをそのままにしつつ、腕だけで身体を宙へと跳ね起こす。
空中で態勢を整えながら背後へと左足の踵で蹴りつけた。
木材を蹴りつけたような感触が足へと伝わる。
黄色は腕でガードしたようだが勢いを殺しきれず、廃工場の壁へと吹き飛んでいった。
廃材の山へと激突して金属の音が鳴り響き、砂埃が舞い上がる。
着地し、赤色へと向き直ると、彼は顔に怒りを浮かべながら耳郎から手を離した。
それはありがたい、と思いつつ、地面を這うように駆け出し、赤色の腹へと拳を振おうとする。
当然、赤色は腕を腹の前へと持ってきたが、それは予測済み。拳の軌道を地面へと変更しながら勢いのままに前転し、上から勢いよく踵を振り下ろした。
赤色の頭部へと命中し、勢いよく地面へと顔をぶつけて罅を入れながら倒れ伏す。
背後へ振り向いて黄色と青色の様子を確認するが、彼らの身体に動きはない。
赤色、黄色、青色。彼らは意識を失ったのか、廃工場の中に静寂が訪れた。
念のため赤色を転がして顔を見下ろすと、完全に気を失っている顔をしている。
股間を思いっきり踏みつけようとしても反応しないので、本当に気絶しているようだ。
(意外に早く終わったな)
潤んだ瞳で見上げてくる耳郎の元へと向かい、地面へ膝を着く。
彼女は感情が限界を迎えたのか、顔をくしゃりとさせて目元から涙を溢れさせた。
手のひらを広げて全身でぎゅっと抱き着いてくる。
柔らかな耳郎の身体が全身に伝わり、股間がまだ大きくならないことを祈りながら抱きしめる。
「病っ!」
「遅れてごめん、耳郎」
彼女は泣きじゃくり、身体を震わせていた。怖い思いをしたのだから当然だが、もっと早くに助ければよかったとほんの少しだけ後悔する。
現に耳郎の耳たぶはいつもならば感情に連動して動くはずなのに、今は垂れたままに。
(……ん? おかしくね?)
耳郎の耳たぶが感情に連動して動くことを、彼女自身は知らないはずだ。教えていないし、仮に知っていたのだとしたら今まで抑えようとも思っていなかったはず。
故にこの状況ならば必ず耳たぶのプラグが腕へと巻き付いてくるか、嬉しさにプルプルと震えるかの二択だった。
何故動かないのか。疑問が1つ芽生えた瞬間、先ほどの交戦にも違和感を覚える。
(そういえばあいつら、個性を使ってこなかったな。黄色と青色はいいとして、赤色はなんでだ? 使わない理由はないはず)
青色と黄色は奇襲をしたので理解できる。だが赤色が使わないのは違和感でしかない。
徐々徐々に、考えれば考えるほどに違和感が増えていく。
(黄色は見た目的に増強系。にしては一撃で沈んだ。青色は細いからまあ分かるが、黄色はおかしい。赤色もなぜ耳郎から
違和感の噴出。ここは本当に現実なのか? なんらかの幻覚を見ているのではないか? 病が世界に疑いの目を向けた瞬間、世界にピシリと罅が入った。
「なっ!?」
地面、耳郎、倒れる三人。全てに罅が入り、ガラスのような音を出しながら割れていく。
世界が揺れ、全てが割れて砕けて塵へと変わる。罅は廃工場の壁まで到達し、一面の壁や天井がガラスのように砕け散った。
砕けた先の闇から誰かの声が聞こえてくる。
それは聞き覚えのある声。
ずっと一緒にいたのだから間違いようのない、耳郎の声。
泣き叫ぶような彼女の声が、病の心へと突き刺さった。
「病っ! 助けて!」
世界が、砕けた。
【取得成長系特性一覧】
・身長Lv5 ・骨密度Lv5 ・骨質Lv5 ・筋肉密度Lv5 ・脳機能Lv5
・性器の大きさ、硬さ、長さ、それぞれLv5
・感染力Lv3
・美肌Lv4 ・美顔Lv4 骨格Lv4
【体内にいる細菌】
。即時発症+破傷風菌 <New