父親が死んだ子供の話

1 / 1
あいの手紙

父親が死んだ。

別に特別愛されてるわけじゃなかった。

大人になってから一人暮らしを始め、関わることも少なくなった。

だから、動かなくなった父親を見て初めに思ったのは、面倒だなぁなんて、そんな薄情なことだった。

 

周りの人からよく慰めの言葉をもらった、そんな大した事ないですよと返してた。途中から面倒になって同じような言葉を繰り返していた。

 

そんな風にして、葬儀も適当に済ませた。

手続きが多くて面倒で、感情に浸る機会なんてなかった。

湯灌で触れた肌が硬くて冷たくて、人ってこんな硬くなるんだなぁ。なんて他人事のように思ったことが一番記憶に残ってる。

 

ようやく終わった、そんな風に思っていたが、まだやることはあるらしい。父親の過ごしていた家、部屋の片付けだ。また面倒ごとだ、とうんざりして顔を顰めた。荷物やらが多いから見る必要があるらしい、ほしいものは持っていって、とのことなので、金になりそうなものは持っていこうかなと思う。

 

家に入ると、いつもの匂いがした。ああ、そうだったな。父親と過ごしていた家は、この家はこんな匂いがしたんだったな。

痛みが走った気がしたが、なかったことにした。

 

長く息を吸って、吐いて、大きく息を吐いて。覚悟を決めて物を片付けはじめる。なんてことなく見ていて、景色のように馴染んでいたそれらが物として片付ける必要がある。不思議な気分で、そしてものを片付けるたび、そのものが思い出を掠めていく。

 

心が軋み、苦しくなる。思い出が重たい、こんな気持ちになるなら、ここまで疲れるのなら、こんな事しに来るんじゃなかったかな。そんなことまで思ってしまう。それ

思い出を拾うように、一つ一つを集めていった。

一言くらいしか話題に出さなかった物でも、処分すると思ったらその都度手が止まる。だけどキリがないよな、と言い聞かせて手を動かしていく。

 

らしくない、手紙の束を見つけた。捨てようにも捨てれなかったような、それでもぐちゃぐちゃにされた手紙たち。父親の机の中にあったそれら。

何故か気になってしまって中を開いた。

 

内容は自分に向けた手紙たちだった。心配や激励、自分の近況だったり色々なこと。

 

気づいたんだ、きっとそれは愛だった。離れ離れで出会わない選択肢。そして、親として子を手放す勇気だった。この手紙は、その証拠だったんだろう。

メガネに水滴が落ちる、それを見てあぁ、今泣いてるんだなって自覚した。

愛されていた、愛されていたんだ。最後の手紙を書いた日付は、送ろうと悩みやっぱり出されなかったその日は、父親が死んだ日から1週間も経ってなかった。

ずっと想われていた、特別に想われていた。俺のことを思って伝えない選択をして、それを死ぬ時まで続けた強情者。

 

そうだ、そうだったんだ。昔からあの人は転んでも手を差し伸べもしなかった。後から心配の言葉もかけない。

でも、立ち止まって隣に来るまで待っているような、強情で不器用な人だった。

気づいてしまった、ずっと愛されていた。そんなことに今更に気づいたんだ。

手紙の文字が落ちる水滴で滲む、手に力が入って元からシワの入った手紙に線が増えていく。

うずくまり、堪えきれない嗚咽が漏れていた。

 

俺は、愛されていた。俺も、愛していたんだ。

 

「とうさん……」

 

気づけば窓から差し込む光がオレンジ色に変わっている。

少し足をふらつかせて、今日のところは帰ることにした。

ぐしゃぐしゃの顔を洗うために洗面に行く、鏡を見てあんまりにひどい顔をしていたから笑ってしまった。

 

暗くなり始める道を歩き、思う。

もう黄泉路に向かった父さんへ。

俺も貴方を愛してました。

 

 

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。