ソルシエ王国の国境都市、始まりはフェルが仕留めたコカトリス。

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カタリナ大暴走!ムコーダのネットスーパーの底力!!

### 異世界交差の特異点――コカトリス解体と、琥珀色の甘酸っぱい救い

ソルシエ王国。豊かな森と古くからの魔術体系、そして厳格な貴族階級の秩序によって成り立つその国に、異質な一団が足を踏み入れようとしていた。

黒い革ジャケット風の頑丈な装備に身を包んだ、どこか冴えない雰囲気を漂わせる青年――ムコーダ。

その傍らには、見る者を圧倒する巨大で神々しい銀狼、伝説の魔獣フェンリルの「フェル」。

ムコーダの肩には、ぷにぷにと愛らしく揺れる小さな青いスライム「スイ」。

そして、空を自在に舞う手のひらサイズの勇猛果敢な竜、ピクシードラゴンの「ドラちゃん」。

「なあフェル……何もわざわざ国境近くの街道で、あんなでかい鳥を倒さなくてもよかったんじゃないか?」

「ぬ? 何を言うかムコーダ。あやつは我が歩みの邪魔をしたのだ。それに、コカトリスの肉は前に食った時も悪くなかったではないか。今宵の飯の種にするには丁度よい」

『そうだよー! あの鳥さん、スイの酸でドロドロにしようとしたらフェルおじちゃんがドカンって倒しちゃったんだよー!』

『おいおい、俺にも少しは暴れさせろってんだ! 街道の横から急に飛び出してきたから、一撃で首を跳ねてやろうと思ったのにさぁ!』

ムコーダは深々とため息をついた。

彼らの視線の先、街道の脇には、巨大なコカトリスの巨躯が横たわっていた。体長は5メートルを超え、鋭い嘴と石化の魔力を秘めた尾を持つ、通常であれば最上位の冒険者パーティーが厳重な陣形を組んで挑むべきAランク指定の大物魔物である。

「はぁ……まあ、倒しちゃったものは仕方ないけどさ。これ、俺の『アイテムボックス』に入れるにしても、このままじゃ料理しづらいし……ソルシエ王国の街に入ったら、まず冒険者ギルドで解体を頼もう」

ソルシエ王国の国境都市「ラグネル」。

重厚な石造りの城壁と、幾重にも重なる魔導ランプの灯りが印象的なその街の冒険者ギルドは、いつも以上の緊迫感に包まれていた。それもそのはず、現在このラグネルには、王国の重鎮である「クラエス公爵」夫妻が視察および治安維持のために滞在していたからである。

「失礼、魔物の解体をお願いしたいんだが……」

ムコーダがギルドの買取・解体窓口で声をかけると、受けて立ったベテラン職員の目が丸くなった。

ムコーダがアイテムボックスからドスンと取り出したのは、傷一つなく美しく処理された(フェルの一撃によって首だけが綺麗に切断された)巨大なコカトリスだったからだ。

「こ、これは……コカトリス!? しかも、石化の毒腺も傷つけず、肉の質を一切落とさずに仕留められている……! 一体どこのSSランク冒険者ですか!?」

「あ、いや、冒険者ランクはCなんですけど……連れ(フェルたち)がサクッと倒しちゃって。俺は解体と、食える部位の切り分けをお願いしたいだけなんです」

ギルド内がにわかに騒がしくなる中、奥の応接室から、疲れ果てた表情を浮かべた中年紳士と、気品溢れる淑女が姿を現した。

ソルシエ王国屈指の権力者、クラエス公爵とその妻、ミリディアナ公爵夫人である。

「何の騒ぎだ? 今、コカトリスが持ち込まれたと聞こえたが……」

「クラエス公爵閣下! は、はい! こちらの旅の冒険者様が、街道で仕留めたコカトリスを持ち込まれまして……」

公爵は深々と刻まれた眉間のシワを揉みほぐしながら、溜め息を漏らした。

「ふむ……見事な獲物だ。しかし、今の私にはそれを称賛する気力すら残っておらんよ……。連日の領地問題と、近々控えている『公爵交流会』の準備で、頭が割れるように痛い」

ミリディアナ夫人もまた、真っ白な肌に濃い隈を浮かべ、扇子で口元を覆いながら力なく頷いた。

「ええ、あなた……。交流会の件もそうですが、この連日の酷暑とストレスで、喉を通るものといえば薄いスープばかり。胃もたれと疲労で、もう立ち上がることすら苦しいわ……」

その姿を見たムコーダの「日本人特有のお人よし精神」が、ひょっこりと顔を出した。

(うわぁ……見るからに限界突破してるじゃん、あの公爵夫妻。ストレスと夏バテの重症患者だ……。喉が渇いてて、胃もしんどいのか。何かサッパリして、疲労回復に効く冷たい飲み物でも差し入れてやるか?)

ムコーダはフェルたちの影に隠れるようにして、自身の固有スキル『ネットスーパー』の画面をコッソリと立ち上げた。

(サッパリしてて、酸味があって、疲労回復……レモネードもいいけど、ちょっと珍しくて果汁感のあるやつがいいな。お、これどうだ? 東南アジア系やエスニック系の輸入飲料コーナーにある……『タマリンドジュース』!)

タマリンド。甘酸っぱい果実で、クエン酸や酒石酸、ビタミンが豊富に含まれており、疲れた身体にじわっと染み渡る味わいが特徴だ。ムコーダはネットスーパーでキンキンに冷えた缶のタマリンドジュースを数本購入(1本あたり数百円程度のわずかな銅貨の出費だ)し、魔法で冷やしたグラスに注ぎ分けた。

「あの……公爵閣下、奥様。もしよろしければ、こちらをどうぞ。旅の行商人に分けてもらった、疲労回復に効く果実の冷たいジュースです。一口だけでも飲んでみてください」

「む……? 見慣れない色の果汁だな。琥珀色をしているが……」

「まあ、冒険者さん、お気遣いありがとう……でも、今の私に甘いものは……」

ミリディアナ夫人は半信半疑のまま、差し出されたグラスを口に含んだ。

瞬間――夫人の瞳がカッと見開かれた。

「――っ!? な、何ですか、これは……!?」

「ミリディアナ!? どうした、毒でも――」

公爵が慌てて妻を制そうとしたが、夫人はグラスを両手で包み込み、まるで渇いた砂漠が雨を吸収するように、ゴクゴクと一気にジュースを飲み干してしまったのだ。

「ぷはぁっ……! な、なんて清々しい甘酸っぱさなの……! 口に入れた瞬間、爽やかな甘みが広がったと思ったら、後からきゅっとキュートな酸味が追いかけてきて……喉の奥のドロドロした不快感が、一気に洗い流されていくわ!」

「な、なに……!? ほう、ならば私も……」

公爵も慌てて自分のグラスを手に取り、一気に口へ流し込んだ。

「――うおぉっ!? これは……体に染み渡る! 疲れて重かった頭の奥が、スーッと軽く冴え渡っていくようだ! 酸っぱいだけではない、この濃厚なコクとフルーティーな香りは一体何なんだ!?」

『おいムコーダ! 我らにもその甘酸っぱい水を出せ! 匂いだけで美味いとわかるぞ!』

『スイもー! スイもシュワシュワの甘いやつ飲むー!』

『俺にもくれよ、ムコーダ!』

フェルたちが念話で騒ぎ出したため、ムコーダは冷や汗をかきながら「後でたっぷりな!」と心の中で返しつつ、公爵夫妻の劇的な変化に苦笑いした。

タマリンドジュースに含まれる豊富なクエン酸と糖分、そして冷涼感が、極限まで疲弊していた公爵夫妻の細胞をダイレクトに活性化したのだ。先ほどまでの死んだような顔つきが嘘のように、二人の頬には健康的な赤みが差し、瞳には力が戻っていた。

「素晴らしい……! 素晴らしいぞ冒険者! これは一体何の果実だ? 我がソルシエ王国のいかなる高級果実とも異なる、至高の味わいではないか!」

「あ、いや……えーっと、遠い東の国で獲れる『タマリンド』という果汁でして……」

ミリディアナ夫人が、興奮した様子でムコーダの手を固く握りしめた。その目は、まるで奇跡の聖女を見るかのように輝いている。

「ムコーダさんとおっしゃいましたわね!? あなた、このジュースだけでなく、もしかして……お料理の技術も相当なものではありませんの!?」

「え? あ、まあ……一応、旅先で連れの食ぶちを賄うために、料理は毎日作ってますけど……」

その答えを聞いた瞬間、ミリディアナ夫人の頭の中で、カチリと運命の歯車が噛み合った。

「あなた! 決まりましたわ! 交流会……今週末にこのラグネルの別邸で開催される『ソルシエ王国・公爵交流会』の晩餐会! そのメインシェフを、ムコーダさんにお願いしましょう!」

「えええぇぇぇっ!? ちょ、ちょっと待ってください!? 公爵交流会って、王国の超VIPが集まるパーティーですよね!? 俺みたいな一介のCランク冒険者がそんなところで料理なんてできるわけが――」

ムコーダが全力で手を振って辞退しようとしたその時、クラエス公爵が重々しく首を振った。

「いや、ミリディアナの言う通りだ! 実は今回の交流会、他領の公爵家……特に食通として知られる『ヴァルデマール公爵』が、我が領地の料理人を馬鹿にしていてな。『ソルシエの東の料理は味覚が粗野だ』などと抜かしておるのだ。このままでは我が家の面目が丸潰れになるところだった……!」

公爵はムコーダの前に歩み寄ると、その両肩をガシッと掴んだ。

「頼む、ムコーダ殿! 我が公爵家の威信と、私の胃袋を救ってくれ! もちろんタダとは言わん。報酬として……**金貨100枚**を支払おう!」

「き、金貨100枚……!?」

ムコーダは思わず喉を鳴らした。金貨100枚といえば、一般的な庶民が何しも遊んで暮らせるほどの巨額である。しかし、相手は国の最高峰たる公爵家。失敗すれば首が飛びかねないリスクを考えると、やはり足がすくむ。

(いやいやいや! 金貨は魅力的だけど、公爵家のパーティーなんて敷居が高すぎるって! 失敗したら即処刑とか笑えないからね!?)

「申し訳ありません、お気持ちは嬉しいのですが、俺の料理はあくまで家庭料理の延長でして……貴族様方のお口に合うような格式高い料理は――」

断りの言葉を口にしようとした、まさにその時であった。

ムコーダの視界の隅、彼にしか見えない『ネットスーパー』の画面が、ピコン、ピコンと怪しい光を放ち始めた。

画面の上部に、これまで見たこともないド派手なポップアップ通知が躍り出たのである。

**【祝・売上達成&エリアレベルアップ! ネットスーパー新コーナーオープンのお知らせ】**

「……ん?」

ムコーダは思わず言葉を詰まらせ、画面を凝視した。

そこに書かれていた文字は、かつて日本で生活していた頃の彼なら、思わず狂喜乱舞して小躍りしたくなるような、奇跡のラインナップだった。

**【新開放コーナー一覧】**

**1. オーケー(OKストア)コーナー**

(高品質・Everyday Low Price! 圧倒的コスパの業務用肉パック、ピザ、厳選調味料が解禁!)

**2. 角上魚類コーナー**

(日本最高峰の鮮魚専門店! 奇跡の鮮度を誇る旬の和鮮魚、刺身用ブロック、極上海鮮惣菜が解禁!)

**3. 成城石井コーナー**

(極上のプレミアムスーパー! 高級輸入チーズ、生ハム、自家製ローストビーフ、プロ仕様の極上ソース&エスニック調味料が解禁!)

**4. カルディコーヒーファーム(KALDI)コーナー**

(世界中の輸入食材の宝庫! 生パンチェッタ、生パスタ、トリュフオイル、限定スパイス&ハーブ、魅惑のドレッシング類が解禁!)

(――はい??????)

ムコーダの脳内で、何かが弾けた。

オーケーのあのバカ安で高品質な「国産牛サーロイン」や「超ド級サイズのピザ」!

角上魚類のあの「脂が乗りまくった本マグロ」や「生食可能なボタンエビ」「巨大ホタテ」!

成城石井の「プレミアムチーズ」や「濃厚なポルチーニ茸のクリームソース」「プロ仕様のコンソメ」!

そしてカルディの「トリュフ塩」「バルサミコソース」「燻製オイル」「魅惑のスパイス各種」!!

(う、嘘だろ……!? 角上魚類まで入ったのかよ!? これがあれば……異世界のあらゆる肉や野菜と組み合わせて、格式高いフランス料理風も、極上の和洋折衷コースも、何もかも思いのままじゃないか……!?)

これまでネットスーパーの一般的な一般家庭用食材だけで工夫を凝らしてきたムコーダにとって、この4大店舗の解放は、まさに「料理無双」の神器を手に入れたも同然だった。

オーケーの圧倒的ボリュームと質。

角上魚類の圧倒的鮮度。

成城石井の圧倒的高級感。

カルディの圧倒的おしゃれ感と隠し味のバリエーション。

これらが揃った今、公爵家の交流会どころか、王国の国王の晩餐会すらもひざ伏せさせられるレベルのフルコースが構築可能になってしまったのだ。

「……ムコーダ殿? やはり、引き受けてはくれぬか……?」

落胆した様子で肩を落とすクラエス公爵。

しかし、ムコーダの目は違っていた。

その瞳には、新しく解放された高級食材や極上スパイスへの飽くなき探求心と、「これを使えば絶対に誰も文句を言えない極上料理が作れる」という確固たる野望(と、金貨100枚への欲望)がメラメラと燃え上がっていたのだ。

「公爵閣下……」

ムコーダはビシッと背筋を伸ばし、力強く頷いた。

「引き受けましょう! その『ソルシエ王国・公爵交流会』の晩餐会……俺と、うちのメンバーで最高のものにしてみせます!」

「おおおっ! 本当か、ムコーダ殿! 答えてくれたか!」

「まあ! 嬉しいわムコーダさん! これで横柄なヴァルデマール公爵の鼻を明かしてやれますわ!」

『ぬ? ムコーダ、宴か? 宴なのだな!? ならば肉だ! あの鳥の肉と、もっと美味い肉を山ほど食わせろ!』

『スイも美味しいのいっぱい食べたいー! お手伝いするー!』

『ヘッ、公爵だかなんだか知らねえが、ムコーダのメシを食ったら腰抜かすぜ! 俺も手伝ってやるから、美味いもん食わせろよ!』

フェルたちも念話で大興奮し、公爵ギルドの応接室は熱気に包まれた。

ムコーダは心の中で、新しく開いたネットスーパーの画面をスクロールしながら、不敵な笑みを浮かべた。

(角上魚類の極上帆立と本マグロで前菜を作って……オーケーの厳選肉とコカトリスをカルディの特製スパイスと成城石井のバルサミコで極上のメインに仕上げる。さらに、成城石井のプレミアムスイーツで締めくくれば……フッ、ソルシエ王国の貴族ども、覚悟して待ってろよ。日本のスーパーマーケットの底力、骨の髄まで叩き込んでやるからな……!)

こうして、異世界の公爵交流会を揺るがす、前代未聞の「ネットスーパー4大ブランドフルコース」の幕が切って落とされたのだった――!

 

### 開宴のファンファーレ――異彩を放つ厨房と、異世界転生者の既視感(デジャヴ)

ソルシエ王国の国境都市ラグネルにあるクラエス公爵家の広大な別邸。その中央宴会場は、絢爛豪華なシャンデリアの輝きと、王国最高峰の貴族たちが纏うドレスや漆黒の礼服の絹擦れの音に包まれていた。

今日の催しは、半年に一度開催される「ソルシエ王国・公爵交流会」。

王国の政治・経済・軍事の舵を取る公爵家が一堂に会するこの宴は、華やかな社交の場であると同時に、各家がいかに洗練され、豊かな財と権力を持っているかを無言のうちに競い合う熾烈な外交戦の場でもあった。

その会場の一角で、冷ややかな視線を注ぐ一団がいた。食通として知られ、他領の文化を「田舎臭い」と見下すことで有名なヴァルデマール公爵と、その側近たち。そして、何故かこの場に招待されていた、異世界からの転生者である少女・クラエス公爵令嬢のカタリナとその仲間たちであった。

カタリナは、前世の記憶を持ったままこの異世界に転生した元・日本人女子高生である。彼女はこの世界で冒険者として名を馳せつつも、常に「日本のあの美味しい味」に飢えていた。

「ハァ……お父様たちの別邸だからって期待して来てみれば、どうせまた塩とハーブだけで焼いた固い肉か、味の薄いコンソメスープなんでしょ? 異世界の貴族料理って、見た目は派手だけど味がぼやけてて退屈なのよね……」

カタリナが溜め息をつきながらワイングラスを傾けていると、厨房へと続く重厚な扉が開かれた。

その頃、バックヤードの別邸大厨房は、まさに戦場と化していた。

「おい、そこのコカトリスのモモ肉、水気をしっかり拭き取っとけよ! スイ、火加減はどうだ?」

『スイねー、パチパチの火、ちょうどよく調整したよー! ムコーダー、次は何すればいいー?』

「よしよし、スイはえらいぞ。ドラちゃん、換気扇代わりに風の魔法で煙を外に逃がしてくれ!」

『任せとけって! 煙で会場が真っ白になったら台無しだもんな!』

「ぬぅ……ムコーダよ、まだか? 試食という名の我が取り分はいつ出てくるのだ?」

「フェル、お前はさっき角上魚類のマグロのカマ焼きを丸ごと一塊食ったろ! ほら、大皿の準備を手伝ってくれ……って、手がないか。おとなしくお座りしててくれ!」

厨房の中央で指揮を執るのは、どこからどう見ても貴族の御抱えシェフには見えない、エプロン姿の青年――ムコーダである。

彼の周囲には、新しく拡張された『ネットスーパー』のダンボールやパッケージが山と積まれていた。

【オーケー(OK)】【角上魚類】【成城石井】【カルディ(KALDI)】

日本の食卓を支える、そして食通たちを唸らせる4大ブランドの力が、今まさにこの異世界の別邸厨房で融合しようとしていた。

「よし……公爵夫妻の命運と、金貨100枚がかかったフルコースだ。行くぞ!」

### 第一の皿:オークジェネラルの雲白肉(ウンパイロウ) ~カルディ風よだれ鶏ソースを添え~

銀のトレイに乗せられた前菜が、給仕たちによって整然と会場へ運ばれていく。

大皿に美しく盛り付けられていたのは、極薄にスライスされた透明感のある豚肉――ではなく、Bランクの巨体魔物「オークジェネラル」の極上バラ肉であった。

「な、何だこの料理は……? 肉が薄絹のように重ねられ、キュウリの薄切りと交互に美しく配置されている……」

「上にかけられている、この赤黒い胡麻と唐辛子が漂う濃厚なソースは一体……?」

ざわめく貴族たちの中で、カタリナはその一皿を目にした瞬間、カッと目を見開いた。

(え……? ちょっと待って、あの見た目……雲白肉(ウンパイロウ)!? まさか、この世界に四川料理があるわけ――)

カタリナは給仕から小皿を受け取ると、震える手でフォークを伸ばし、一口で肉とキュウリ、そしてソースを絡めて口に運んだ。

「――ッ!!????」

刹那、カタリナの脳内に稲妻が落ちた。

八角と花椒の華やかな香りが鼻腔を突き抜け、豆板醤のピリッとした痺れる辛味、練り胡麻の濃厚なコク、そして香ばしいラー油の風味が口いっぱいに広がる。ジューシーに茹で上げられたオークジェネラルの甘い脂身が、キュウリのシャキシャキとした清涼感と絶妙に調和し、一切のくどさを消し去っていた。

(この辛味! この花椒の痺れ! そしてこの複雑な香辛料のハーモニー……! これ、カルディの『よだれ鶏の素(四川風アジアンソース)』の味じゃないのぉぉぉぉぉっ!!??)

カタリナは叫び出しそうになるのを必死で抑えた。

カルディ。前世で放課後や休日に意味もなく立ち寄り、キャニスター缶のコーヒーを飲みながらエスニック調味料を漁っていた、あの愛すべき輸入食品店。その味が、何故この異世界の公爵交流会で再現されているのか!?

「う、うまい……! 何だこの刺激的な味は! 辛い、しかし香ばしく、後を引く! 舌が痺れるような感覚があるのに、手が止まらん!」

「オークジェネラルの肉が、これほどまでに柔らかく、上品な脂の甘みを見せるとは……!」

ヴァルデマール公爵も、貴族の矜持を忘れてフォークを動かし、皿についたソースまでパンですくい取るようにして舐め尽くしていた。

### 第二の皿:オーケーコーナーの新鮮野菜のマーラータン ~刀削麺入り~

続いて運ばれてきたのは、深みのある漆黒の陶器に入った熱々のスープ料理であった。

スープの表面には真っ赤な麻辣オイルが浮かび、中には**オーケーコーナー**から取り寄せたシャキシャキのチンゲンサイ、極太のエノキ、鮮やかな白菜、そしてモチモチとした特有の形状を持つ「刀削麺」が躍っている。

「スープ……か? しかし、この立ち上る香気は……!」

カタリナはスープを蓮華ですくい、フーフーと息を吹きかけてから口に含んだ。

「~っっっっ!!???」

スープのベースとなっているのは、オーケーの業務用極上ガラスープと、惜しみなく投入された新鮮野菜の出汁。そこに麻辣スパイスの深いコクと、小麦の香りが強い本格的な刀削麺のツルツルとした歯ごたえが絡みつく。

(うそ……オーケーの生鮮コーナーの超新鮮野菜に、本格的なマーラータンのスープ、そしてこのモチモチの刀削麺……! オーケー特有の『高品質・お手頃価格』なのに一切妥協のないあのクオリティじゃないの!!)

「おおお……身体の芯から熱気が湧き上がってくるようだ!」

「このモチモチとした平打ちの麺は何だ!? 噛むたびにスープの旨味が溢れ出してくる!」

会場の貴族たちは、額に汗をかきながらも、スープをすする手を止めることができない。汗をかくことで、日頃のストレスや毒素が体外へ排出されていくような清々しさを覚えていた。

### 第三の皿:角上魚類から取り寄せた朝どれのどぐろの炭火焼き

肉と辛味の連打で興奮した会場に、次に提示されたのは静寂と至高の香ばしさだった。

大きな銀皿に乗って登場したのは、丸ごと一匹美しく塩焼きにされた魚。

**角上魚類**――日本最高峰の鮮魚専門店から、異世界のネットスーパーを経由して取り寄せた「朝どれのどぐろ(赤むつ)」である。

皮目は炭火(スイの火魔法で完璧にコントロールされた火加減)でパリッと香ばしく焼き上げられ、溢れ出た上質な脂がじくじくと音を立てている。

「魚料理……? 陸奥の街ラグネルで、これほどまでに生き生きとした魚が手に入るはずが……」

疑念を抱きながらヴァルデマール公爵がナイフを入れる。

すっと通るナイフ。次の瞬間、身の隙間から溢れ出したのは、まるで極上のスープのような透明な脂であった。

口に入れた瞬間、公爵の目が飛び出さんばかりに見開かれた。

「――っっっ!? な、なんだこの柔らかさは!! 異国の海でとれるとは聞いていたが、口の中で身がホロホロとほどけ、脂の甘みが爆発するように広がる……! 塩加減も完璧だ! 魚の生臭さが一切なく、ただひたすらに海の旨味の結晶が舌を包み込む……!!」

カタリナもまた、その一口で確信した。

(この身の締まり、この脂の乗り……タダの魚じゃない。絶対に『角上魚類』の対面売り場で売ってる、一番高い『朝どれのどぐろ』だわ!! 異世界で角上ののどぐろが食べれるなんて、どんな奇跡なのよ!?)

### 第四の皿:シャキシャキ京野菜のシーザーサラダ

濃厚な脂の余韻を鮮やかにリセットするために出されたのは、色とりどりの新鮮な野菜が盛られたサラダであった。

みずみずしい京水菜、パリッとした九条ネギの若芽、甘みの強い京とまと。そこに、成城石井のプレミアムシーザードレッシングと、カリカリに炒められた生パンチェッタ、削りたてのパルミジャーノ・レッジャーノがふんだんに振りかけられている。

「うむ……この野菜のシャキシャキとした歯ごたえ! 異国の野菜独特のコクのある甘みと、この濃厚なチーズドレッシングの組み合わせが絶妙だ!」

「のどぐろの脂で満たされた口の中が、一瞬で爽やかにリセットされる……! 計算され尽くしたコース構成だわ!」

### 第五の皿:ブラッディホーンブルのブリスケット ~ほりにしのスパイスでこんがりと~

宴が最高潮に達する中、メインの第一弾として運び込まれたのは、Aランクの雄牛魔物「ブラッディホーンブル」の肩バラ肉(ブリスケット)の塊焼きであった。

じっくりと時間をかけて低温調理され、仕上げに強火で表面をこんがりと焼き上げられたその肉には、万能調味料として名高い「アウトドアスパイス ほりにし」が全体にしっかりと揉み込まれている。

ナイフを入れると、肉汁が滝のように溢れ出す。

「この肉……噛めば噛むほど肉本来の強烈な旨味が湧き出てくる! そして、このスパイスは一体何だ!? ガーリック、異国のスパイス粉末、塩、ペッパー、そして数々のハーブが絶妙な黄金比で混ざり合っている!」

「美味い! 旨すぎる! ワインが、ワインが止まらんぞ――っ!!」

ヴァルデマール公爵は、もはや貴族の威厳などかなぐり捨て、肉塊を貪り食っていた。

### 第六の皿:コカトリスのジーパイ(台湾風から揚げ)

そして、今夜のハイライト。事の発端となった「コカトリス」の肉を使った料理が登場した。

出されたのは、大人の顔ほどもある巨大な一枚肉のから揚げ――台湾の名物屋台料理「大鶏排(ジーパイ)」である。

ムコーダはカルディの『ジーパイの素(スパイスキット)』を使用し、五香粉(ウーシャンフェン)の甘くアジアンな香りをコカトリスの肉に極限まで染み込ませ、地元の片栗粉でザクッザクの衣に揚げ立てていた。

「な、なんだこの巨大な揚げ物は……!? しかも、この独特のエキゾチックな香りは!?」

ソルシエ王国の公爵家に抱えられている超一流の宮廷料理人たちが、厨房の隙間からその料理を覗き込み、青ざめていた。

「バ、バカな……! コカトリスの肉は繊維が硬く、下処理を誤れば石のように固くなるはず! それをこれほど巨大なまま揚げて、なぜこれほどジューシーに仕上がるのだ!?」

「あの衣のザクザク感と、八角やシナモンと言う異国のスパイスが混ざり合った異国の香気……我が厨房の技術を全て注ぎ込んでも、あのスパイスの調合と揚げ加減は再現不能だ……っ!」

料理人たちが四苦八苦してそのレシピを解読しようとする中、会場では豪快な「ザクッ!」という音が響き渡っていた。

「うわああああっ! 衣がザックザクだ! そして中のコカトリスの肉が、信じられないほどジューシーで柔らかい!」

「この甘くスパイシーな香り……癖になる! 手が止まらないわ!」

カタリナは涙目になりながらジーパイにかぶりついた。

(カルディのジーパイキットぉぉぉぉっ! この五香粉の香りとザクザクの衣! 間違いなさすぎる……! 一体誰なの!? 誰がこの厨房でカルディのキットを使ってるのよぉぉっ!?)

### 第七の皿:角上魚類から取り寄せた朝どれ鮮魚の海鮮丼

コースの締めくくりとして出されたのは、小さな漆塗りの器に盛られた料理であった。

白く艶やかに炊き上げられた米の上に、**角上魚類**から取り寄せた朝どれの本マグロの赤身・中トロ、弾力のあるボタンエビ、濃厚な生ウニ、そして輝くイクラが敷き詰められている。そこに、成城石井の高級だし醤油が極微量かけられていた。

「これは……穀物の上に、生の魚介を乗せているのか……? 魚を生で食べるなど、正気の沙汰では――」

半信半疑で、一人の公爵がスプーンで米と海鮮を一緒に口へ運んだ。

次の瞬間、宴会場全体に沈黙が訪れた。

「………………っ!!!!」

公爵は両手で顔を覆い、膝から崩れ落ちそうになった。

「な……なんという……なんという美味さだ……!! 生の魚が、全く臭わない……! それどころか、この魚は口の中でとろけて白い穀物と一体になり、このエビはとろけるように甘く、赤い粒が弾けるたびに海の旨味が弾け飛ぶ……!」

「この穀物と生の魚が、これほどまでに互いを引き立て合い、高め合う料理が存在するのか……!!」

ソルシエ王国の公爵たちが、一斉に舌を巻き、器を抱え込むようにして夢中で海鮮丼をかっ食らった。

「クラエス公爵……! 参った、私の負けだ! 東の料理が粗野などと撤回する! これほどの至高の宴を出されては、我がヴァルデマール家の料理人など赤子も同然だ……!」

クラエス公爵夫妻は、驚嘆と絶賛の嵐の中で、誇らしげに胸を張った。

### 第八の皿:成城石井コーナーの自家製プレミアムチーズケーキ

宴の最後を飾るのは、別腹のデザートである。

透明なガラス皿に乗せられて運ばれてきたのは、しっとりと濃厚そうな黄色いケーキ。

**成城石井**の代名詞とも言える「プレミアムチーズケーキ」である。

クリームチーズをたっぷり使用した濃厚なチーズケーキ生地の中に、香ばしいローストアーモンドとレーズンが散りばめられ、表面にはサクサクのシュトロイゼル(クッキー生地)が乗せられている。

「デザートか……もうお腹がいっぱいのはずなのに、この甘く香ばしい香りは別腹ね……」

夫人がフォークを入れ、一口食べる。

「――きゃあああああっっっ味覚の奇跡(ファンタジー)ですわーーーっっっっ!!!」

淑女たる公爵夫人が、思わず悲鳴を上げた。

「な、なにこの濃厚なチーズのコク!? それでいてしつこくなくて、中に隠されたアーモンドのカリッとした食感と、レーズンの爽やかな甘酸っぱさが絶妙なアクセントになっているわ!」

「上のサクサクしたクッキー生地の歯ごたえも素晴らしい! 一体どうやって作られているの!? このケーキは、王国のパティシエたちが生涯をかけても辿り着けない領域だわ!」

別邸の専属パティシエたちが、その一口を食べさせてもらい、白目を剥いて倒れかけていた。

「ば、クリームチーズの密度が違う……! このアーモンドとレーズンの比率、上のシュトロイゼルの焼き加減……くそっ、レシピを聞き出さねば、夜も眠れん……!」

そして――カタリナは、そのプレミアムチーズケーキを一口食べた瞬間、完全に「狂喜乱舞」状態に陥っていた。

「これ……成城石井のプレミアムチーズケーキだああああああっっっっ!!!! 間違いない! このレーズンとアーモンドの配置! 上のクランチ! 完全に成城石井のあの伝説のチーズケーキよぉぉぉぉぉっっっっ!!!」

カタリナの叫び声に、周囲の貴族たちが引くが、彼女はもう止まらなかった。

「カルディのよだれ鶏! オーケーの野菜と刀削麺! 角上ののどぐろと海鮮丼! ほりにしのスパイス! そして成城石井のチーズケーキ!! 揃いすぎている……こんなの、『日本のネットスーパー』を持ってる奴がこの厨房にいるに決まってるじゃないのぉぉぉぉぉっっっっ!!!」

### 結末:大混乱の厨房と、追い回される男

交流会が大成功のうちに幕を閉じようとしていたその頃。

厨房で後片付けをしていたムコーダは、ホッと胸を撫でおろしていた。

「ふぅ……なんとか無事に終わったな。クラエス公爵も金貨100枚を弾んでくれたし、ネットスーパーの新コーナーのおかげで乗り切れたよ」

『む、ムコーダよ。宴は終わったのだから、我が取り分の肉を早く出すのだ』

『スイもー! まだお腹すいてるー! ケーキもっと食べたいー!』

『俺もあの海鮮丼ってやつ、もっと食いたかったぞ!』

「はいはい、わかったから。後でアイテムボックスからたくさん出してやるから――」

**バァァァァァンッ!!!!**

厨房の頑丈な木製ドアが、凄まじい衝撃音とともに吹き飛ぶように開いた。

「そこに正体(ネットスーパー)を隠している転生者はだれぇぇぇぇぇっっっっ!!!???」

髪を振り乱し、目を血走らせたカタリナが、猛然と厨房へ踏み込んできたのである!

「うわああああっ!? な、なんだなんだ!? 誰だあんた!?」

「とぼけないでっ! 雲白肉のよだれ鶏ソース! のどぐろ! ほりにし! ジーパイ! そして成城石井のプレミアムチーズケーキ!! 異世界の食材と技術でそれが同時に出てくるわけないでしょーが!! あなた、日本人でしょ!? ネットスーパーとか通販のスキル持ってるでしょーっ!?」

「ええええええっ!? なんでそれを――って、あんたも転生者かよ!?」

ムコーダが叫んだ瞬間、カタリナの目が怪しく光った。

「やっぱりぃぃぃぃぃっ! 見つけた……見つけたわ私のオアシス! タピオカ! パスタソース! 生ハム! 納豆! おつまみ! 全部私に買い出ししてぇぇぇぇぇっ! 金ならある! 冒険者として稼いだ金貨なら山ほどあるから、カルディと成城石井の全商品を私に買い占めさせてぇぇぇぇぇっっっっ!!!」

「ひえぇぇぇぇっ! 警察(警備兵)呼んでー! 買い占めは無理だから! 一日の利用上限とかいろいろあるんだからぁぁぁぁっ!」

『ぬ? ムコーダを襲う敵か!?』

『あるじをいじめちゃダメー! 溶かすぞー!』

『なんだあいつ!? 勢いが凄すぎて近寄れねえぞ!』

あまりの勢いに、流石のフェルやスイ、ドラちゃんすらも気圧されてタジタジになっている。

「逃げるぞみんなっ! アイテムボックスに荷物を詰めて撤収だぁぁぁぁっ!」

「待ちなさいよぉぉぉっ! 私にカルディの生ハムと成城石井のプレミアムチーズケーキを定期購入させなさぁぁぁぁぁいっっっっ!!!」

「誰が定期購入のアマゾンプライムだぁぁぁぁっ! 助けてくれぇぇぇぇっ!」

満腹と大満足で幸福感に包まれる宴会場の裏で、新しく解放された4大スーパーの魅惑の味覚と、前世の食への執念に憑りつかれた元日本人少女に追い回されるムコーダの悲鳴が、ソルシエ王国の夜空にどこまでも響き渡るのであった――。

 


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