寒い。寒い。寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い。
なぜこんなに寒い。青い光は赤い熱を胸に宿していたのに。
暗い。昏い。冥い。暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い……儚い。
なぜこんなに暗い。なぜこんなに儚い。青い光は金色の光を纏っていたのに。
……………………………寂しい。寂しい。寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい。
俺も、光の当たる場所へ……。
か え り た い
「………………呼ばれてるね」
とある赤が、傍らの青に声を掛ける。
「そうだな」
青も、それに応える。この場所には、自分たちしかいない。
「迷子みたいだ」
「……………」
まるで自分が迷子になったかのように心細い声を出す赤に青は無言を返す。
「迎えに行ってあげようか、ね?」
きっと、待っているから。
「一人で行け」
迎えなんて、一人で十分だろう。と、この場を揃って離れたくない青が返すと、赤がその手を取る。
「もー、またそんなこと言って。ほら、行くよ」
「……………仕方ないな」
どこか遠いところで迷子になって泣いている子を、迎えに行ってあげよう。こんなにも、悲しそうに呼んでいるのだから。
「オオオオオオオオオオッ」
暗い宇宙の片隅で、咆哮が上がる。地球から弾き出され、ずっと彷徨っていた。
何を探しているのかもわからず、どこかに行きたいのにどこに行きたいのかもわからず。
ただ、眩しい者たちからは“排除すべきもの”だと認識されていることは分かった。
胸を掻きむしるような苦しさを抱えて、冷たい孤独から逃げるように走る。眩しい彼らの方に行きたかった。でも、そちらに行ってはいけないとあるかどうかもわからない本能が警鐘を鳴らす。
死にたくない。生きていたい。温かいところに行きたい。寂しいのは嫌だ。
手を伸ばしたい光に背を向けて逃げるしかない苦しみ。身のうちから突き上げる息苦しさ。
やっと、「暴れろ、倒せ」と命じる頭の中の声が取り払われたのに。
流す涙もなく、ただ暗闇を、冥闇を彷徨う。彷徨う。
「ルロロロロロロィ!!!!」
コンマの差で反応して体を翻すと、幸か不幸か酷く敏捷性に富んだ体は宙からの攻撃から逃れ、赤と青にえぐられた地面を視界に捉える。
「さすが、ブレーザーを元にしてるだけあってアクティブなやつだな」
「でもここまででございますよ!」
「本当にロボットとは思えない動きだが、確かに思考が0と1だな」
眩しいものが数を増やしていく。
「あんまり逃げ回るからこんなに出張る羽目になったじゃねぇか」
「まったくだ。さっさとここで決めるぞ」
数を数えるということを知らない“黒”は、並ぶ眩しいものに虚ろな目を向ける。どんな感情を、願いを持とうと、この目が意味を持つことはない。
たくさんの眩しいものが並ぶ中で、青い光が、じっとこちらを見ている。
「…………」
とても、とても静かで。確固たる何かを、自分にないものを持っている瞳。それが無性に癇に障る。
悲しい。寂しい。苦しい。辛い。悔しい。ズルい。どうして、お前は、お前だけ、そちら側にいられるんだ。
俺も。俺も。俺も。俺も………!!!!!!
「オオオオオオオオオオッ!!!!」
処理しきれない何かに突き動かされるように叫ぶ。
0と1が頭の中を駆け回って答えを探している。
俺は何が悲しいんだ。俺は何で寂しいんだ。俺は何で叫んでいるんだ。
どうしてどうしてどうして!!!!!
言語化されない、感情にもなれない0と1の暴虐が“黒”の中を暴れまわる。これを外に出さないと。俺はどうにかなってしまう。怖い怖い怖い怖い怖い。
「来るぞ!」
「今度は逃がすな!」
大きく展開して、“黒”が逃げる道をそれぞれが遮る。
もう逃さない。
悪意から生み出された、仲間の力を利用する怪物。
倒さなければ。小さな命が危ない。優しい星が危ない。
だからここで、過剰戦力だとしても仲間たちの力を総動員しなければ。
そうしてでも倒さなければならない脅威。逃がすわけにはいかないのだ。
猛る“黒”を制圧せんと戦士たちが動き出す。
閃光が走り、“黒”への警戒心と敵意が立っている星の地面を抉る。土岩が巻き上がる。
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして。
どうしてこいつらは俺を攻撃する。どうして俺はこんなに寒い。どうしてこんなに俺は苦しい。
死にたくない。生きたい。行きたい。帰りたい。
…………………還りたい。
「オオオオオオオオオオオオオッ」
胸の内を痛めつける何かを吐き出すように、叩きつけるように叫ぶ。吠える。
いきたいいきたいいきたいいきたいいきたいいきたいいきたいいきたいいきたいいきたいいきたいいきたいいきたいいきたいいきたい!!!!!
強烈なそれが叩きつけられても、眩しい者たちには伝わらない。悔しい。悲しい。辛い。寂しい。
「ルロォ………」
青い光が、構えを解いた。
“黒”がわずかに目を見張る。
眩しい者たちが、青い光をぎょっとしたように見ている。
当たり前だ、なぜ、戦闘中に、敵の目の前で構えを解くのか。
青い光が、静かに“黒”を見つめる。
突然動きを止めた一人をフォローするように、4つの光が攻撃してきた。避けなければ、逃げなければ。そう体に力を入れた瞬間。
「………ルロロロロロロロイッ!!!!!!!」
裂帛の咆哮が、その攻撃を叩き落とした。
「えっ、ちょっ!?」
「ブレーザー!?」
「お前何やってんだよ!」
「どういうつもりだ」
仲間だと思っていた彼が、他の光の攻撃を叩き落とす。“黒”にも眩しいものにも想定外で、その場が凍る。
いや、一人だけ、動いた。
眩しいものが1つ、青い光の後ろに立った。
「エックス……?」
「ブレーザーは、話がしたいんだろう。少し待たないか」
“黒”は言葉がわからない。だが、この二人によって自分への攻撃が止んだことだけは理解した。
「確かに彼は機械なんだろう。だから、私には聞こえた。いきたいのだと。かえりたいのだと。ブレーザーが何を感じたのかはわからないが」
「そんな不確かな……」
「話したところでどうこうなるとは思えんが」
「そもそも話通じるんで……?」
困惑しながらブレーザーと“黒”の様子をうかがう。
“黒”が暴れ出す様子はない。ただ、静かに見つめてくるブレーザーに低く喉を鳴らしながら相対している。
身を低く、いつでも動けるように身構える“黒”にブレーザーが近づく。“黒”はジリと足を退くが、ブレーザーは身構えるどころか力むことすらなく、無防備に手を伸ばす。
触れる。
ブレーザーの手が、“黒”に届く。
そっと伸ばされた手は、温かった。柔らかかった。
差し伸べられる手は、こんなにも。拳を握らない手は、こんなにも。
壊すことしかない俺の手は。
あぁ。あぁ。どうして。どうして。どうして俺にはこの手がないのだ。
荒れ狂っていた、自分の中のものが求めていたものに触れて鎮まっていく。
あのとき、叩き潰されて、すがりついてしがみついてきた手は鬱陶しいばかりだったのに。なぜ、差し伸べられた手はこんなにも違う。
なぜこの手は、俺の手とは違う。
どうして。どうして。どうして。お前は、俺だろう。どうしてこんなにも違うのか。
お前は温かいところに、明かりところにいるのに。
俺は独りで、寂しくて、冷たいのに。
どうしてこんなにも違う。
俺はただ、かえりたいだけなのに。
寂しいのは嫌だ。暗いのも嫌だ。
自分が光になりたいのではない。ただ、明るいところ、温かいところに、かえりたいだけ。
かえりたい。かえりたい。かえりたい。
「……かえりたい、か」
「エックス?」
静かにブレーザーと“黒”の動向を見守っていたエックスが呟けば、胡乱な視線が集まる。ブレーザーだけは、“黒”から目をそらさない。
「彼の思考プログラムを読んでいるんだ。かえりたい。寂しい。寒い。さっきまではこれほど明確なイメージではなかったんだがな。ブレーザーが彼に対して話をしようとする姿勢を見せた辺りから、思考プログラムがまともに機能している」
さっきまでは、訳もわからない叫びのようでしかなかったんだが。
「帰りたいってどこに帰りたいんでございましょう。造られたのは地球でも、造り主は俺がいた宇宙のバロッサ星人でございますし」
「ていうか、いつ暴走するか分かんねーし、やっぱ見過ごさないほうがいいだろ。侵略兵器として造られてるわけだし」
「だが、戦意はもうないように見える。ひとまず、逃げないように監視でいいんじゃないか」
ゼット、ギンガ、ビクトリーの視線がゼロに向く。
「エックス。あいつはまた暴れると思うか」
「……荒れている根源がわからないからなんとも。だが、今は大丈夫なんじゃないか。ただただ、かえりたい、と繰り返しているだけだ」
望む場所へ帰してやれば、苦しそうに暴れることもないのだろうか。誰かに、何かに危害を加えず、静かに暮らしていけるのだろうか。
戦わずに済むのだろうか。
対話を望むブレーザーが手を差し伸べた。共存を目指すエックスが平和を望む仲間たちに静止をかけた。
どうするのが正しいのだろう。どうすればアレは救われるのだろう。どうすれば、戦わずして彼を止められるのだろう。
彼は、どこにかえりたいのだろう。
ブレーザーの差し伸べた手にじっとしている“黒”は、逃げようとする素振りも攻撃しようとする素振りも見せない。
ただ、じっとしている。
ブレーザーの手が、そっと“黒”の頭を撫でた。
“黒”の虚ろな穴のような瞳から、黒い雫が垂れる。
寂しい。あの場所で、たくさんの気配や音を感じながら眠っていたい。
寒い。あの温かい場所で命の営みを感じていたい。
暗い。光の気配を感じて、光に疲れたもののゆりかごであったはずなのに。
冥い。ここに、自分のそばには、命が生きている気配がない。
闇い。何も見えない。
儚い。自分の役目は。存在の意味は。
全部全部、置いてきた。この手の中には、なにも。なにも。なにも。
「よかった、見つけた」
優しい声がする。見つけてもらえた。これで、還れる。
どうしようか、どうするべきか。油断なく“黒”を見張りながら考えていると、ふと、強い光がこちらに近づいてくる気配を感じた。“黒”とブレーザーの近くに2つの光がそっと降り立つ。
「ウルトラマン、ガイアに、ウルトラマンアグル…?」
なぜこんなところに。地球から遠く離れた宇宙の片隅。地球の化身である二人が来るようなところではないというのに。
「え、な、なんでお二方がこんなところに!?」
ゼットが素っ頓狂な声を上げる。
「呼ばれたからね。迎えに来たんだ」
赤の手が差し出される。
「こんなところまで来るとはな。まったく、世話のやける」
還りたい。還りたい。還りたい。
願いを、声を、聞いてくれた。安堵を察したかのように、ブレーザーが一歩下がる。
「そんなに泣くのなら、さっさと還ってくればいいものを」
青の手が差し出される。
“黒”の体が光り始める。彼の中に呼び込まれて封じ込められた、『地球の闇』が、地球の光のもとに還る。
“黒”の体に色味が戻り、紫がかった結晶をもったもう一人のブレーザーの姿に戻る。その姿も、やがて光に融けた。
「おかえり」
地球の化身たちが、大切そうに無形の、でも確かにそこにある闇を手の中に握った。
「ルロロロイ」
静かに語りかけるようにブレーザーが声を出せば、二人の地球の化身は頷きを返す。
「地球の闇は、地球にとって大切なものだからね。連れて還るよ」
還りたいと望んでいた闇はやっと、温かい、明るい場所に還る。
「大切……?闇が?」
「そうさ。地球の闇は地球の一部なんだ。光は闇がなければ存在できないし、光には光の、闇には闇の役目がある。地球に、宇宙に、意味なく存在しているものなんてないんだ」
ただ、光の役割が目に眩しいだけ。ただ、闇が悪に毛色が近いだけ。
「説教臭いぞ、ガイア。そんなものなくても、お前は迎えに来ただろう」
「まぁね。大事な僕らの一部だもの」
この子は連れて還るね。この子の望んだ通りに。
「[[rb:僕ら > 地球の光]]と一緒に、[[rb:この子 > 地球の闇]]も命を見るんだ」
同じなんだ。僕らも、この子も。この子は悪いことはしたけれど、悪ではないから。
「世話をかけたな。お前。お前たちも」
ブレーザーに、ウルトラマンたちにそう残してガイアとアグルが飛び立つ。
地球の闇は、地球の光とともに温かい場所に還った。
寂しいと嘆かなくていい、苦しいと叫ばなくていい、暗いと絶望しなくていい、そんな明るい、温かい場所へ。
「光と闇の役目かぁ。俺達も、光の役目を果たせてるのかな」
「さぁな。だが、果たそうとする心があればいいんじゃないか、今は」
「闇は悪じゃない、って、なんだか難しいでございますねぇ」
「戦うべきものを間違えないようにしないとってことだな」
じっと、ブレーザーは自分が伸ばした手を見つめる。この手は、届いたのだろうか。
「ブレーザー」
呼ばれて、ブレーザーはエックスの方に振り向く。
「君が対話を望んで差し出した手があったから、私は彼の声を聞くことができた。君の手は、きっと届いていた」
彼はもうひとりの君だったのだから。きっと。
「ルロロロロ」
そうであったのなら、ゲントにもらった光は繋がったのだろう。光もまた、巡り巡ってこの手の中に還ったのだと信じよう。
“[[rb:黒 > もう一人]]”の自分が、還りたかった場所で静かに眠ることを願う。