BLEACH ―斬界の御厨子―   作:tunagi

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第一部「死神代行篇」最終話です。

一護たちはルキアを救うため。

朔夜は再び過去と向き合うため。

尸魂界へ向かいます。


第10話 門の向こうへ

 

浦原商店の地下。

 

巨大な空間の中央。

 

そこに

現世と尸魂界を繋ぐための門――穿界門があった。

 

黒崎一護。

 

井上織姫。

 

茶渡泰虎。

 

石田雨竜。

 

そして、御門朔夜。

 

五人が、開かれようとしている門の前に並んでいた。

 

空気は重い。

 

誰も昨日までのような軽い表情をしていない。

 

これから向かう場所は敵地。

 

それも尸魂界という巨大な組織の中心。

 

「……」

 

一護は自分の斬魄刀へそっと手を置いた。

 

ルキア絶対に助ける。

 

その思いだけは、少しも揺らいでいない。

 

隣、織姫は。胸の前で両手を握っていた。

 

怖い。

 

当然だ。

 

相手がどれほど強いのか。

 

自分が本当に役に立てるのか、分からない。

それでも

 

「大丈夫」

 

小さく自分に言い聞かせる。

 

チャドは一護の背中を見ていた。

 

言葉はない。だが、その表情だけで十分だった。

 

石田は眼鏡を押し上げる。

 

「黒崎」

 

「何だ」

 

「向こうで勝手な行動をするなよ」

 

一護がすぐに顔をしかめる。

 

「何でお前に言われなきゃならねぇんだ」

 

「君は考えるより先に身体が動く」

 

「悪いか」

 

「悪い」

 

「てめぇ」

 

始まりそうになった言い争い。

 

そこへ朔夜がため息をついた。

 

「行く前から喧嘩するなよ」

 

「石田が!」

 

「黒崎が!」

 

二人同時。

 

朔夜は額を押さえる。

 

「息ぴったりじゃん」

 

「どこがだ!」

 

「どこがだ!」

 

また、同時に織姫が思わず笑う。

 

チャドも少しだけ口元を緩めた。

 

その光景を浦原喜助が静かに眺めていた。

そしていつものように扇子を開く。

 

「皆さん」

 

全員が浦原を見る。

 

「最後に」

 

浦原の表情から笑みが少しだけ消える。

 

「もう一度だけ言います」

 

地下空間が静かになる。

 

「この門の向こうに入れば、現世のようにはいきません」

 

「誰かが必ず助けに来てくれるとも限らない」

 

「判断を間違えれば」

 

少し、間を置く。

 

「死にます」

 

織姫が小さく息を呑む。

 

一護は浦原から目を逸らさない。

 

浦原が続ける。

 

「それでも、行きますか?」

 

一護が一歩前へ出る。

 

「何回聞くんだよ」

 

浦原の目が僅かに細くなる。

 

一護は真っ直ぐ見て言う。

 

「行く」

 

「ルキアを助ける」

 

「それだけだ」

 

浦原は少しだけ笑った。

 

「そうですか」

 

次に朔夜を見る。

 

一護が気づく。

 

「……」

 

昨日浦原は朔夜にだけ何度も本当に行くのかと聞いていた。

一護は今度こそ聞くことにした。

 

「なあ」

 

「ん?」

 

朔夜が横を見る。

 

「お前」

 

一護が門を見る。

 

「尸魂界にいたんだよな」

 

朔夜は少しだけ目を細める。

 

「いたよ」

 

「やっぱり」

 

一護が続ける。

 

「どれくらい?」

 

「さあ」

 

「さあって」

 

「時間の感覚なんて」

 

朔夜は少し考える。

 

「向こうじゃ適当だったから」

 

「何してた?」

 

また、その質問。

 

何度も聞かれた。

 

朔夜は一護を見る。

 

「……」

 

今回はすぐに。「後で」とは言わなかった。

 

「向こうに着いたら」

 

一護が眉を上げる。

 

「話せるところまでは話す」

 

「本当だな?」

 

「多分」

 

「多分じゃねぇ!」

 

緊張が少しだけ解ける。

 

だが朔夜本人は笑いながらも。心の奥どこか落ち着かなかった。

尸魂界は長い間戻ろうとは思わなかった場所。

自分を知る者がいる。自分が知っている者もいる。

 

浦原。

 

夜一。

 

そしてかつての記憶、あの場所へもう一度戻る。

「朔夜」

 

足元から声が聞こえる

 

黒猫姿の夜一。

 

「何じゃ、その顔は」

 

「どんな顔?」

 

「腹を壊したような顔じゃ」

 

「緊張感台無しだな!」

 

一護たちが思わずこちらを見る。

 

夜一は気にしない。

 

「昨日言ったじゃろ」

 

「……うん」

 

「迷うな」

 

朔夜は少しだけ黙った。

 

そして小さく息を吐く。

 

「分かってる」

 

今度は本当に迷わない。

 

浦原が杖を構えた。地下空間に霊力が広がる。

 

門がゆっくり開き始める。

 

光のその向こう、普通の道ではない。空間そのものが歪んで見える。

 

「では」

 

「皆さん」

 

「行ってらっしゃい」

 

一護が最初に。踏み出す。

 

「行くぞ!」

 

チャド。

 

石田。

 

織姫。

 

続く。

 

朔夜も。

 

その後ろへ一歩。

そして門をくぐった。

 

◇

 

目の前の景色が一瞬で変わった。

暗い。長い。

どこまでも続くような巨大な通路。

 

「ここが……?」

 

織姫が周囲を見る。

 

夜一が一護の肩から飛び降りる。

 

「断界じゃ」

 

「断界?」

 

石田が周囲を注意深く観察する。

 

夜一が説明する。

 

「現世と尸魂界の間にある場所じゃ」

 

「観光気分で歩いておる暇はないぞ」

 

一護が振り返る。

 

「そんなに危険なのか?」

 

朔夜が答える。

 

「かなり」

 

一護が横を見る。

 

「お前来たことあるのか?」

 

「何度か」

 

「じゃあ先に言え!」

 

「聞かれなかったから」

 

「絶対わざとだろ!」

 

朔夜が少し笑う。

 

けれどすぐにその笑みが消えた。

 

「……走れ」

 

「え?」

 

チャドが後ろを見る。

 

「何か来る」

 

次の瞬間空間が震えた。

 

ゴゴゴゴゴ――。

 

巨大な音。

 

織姫の顔が引きつる。

 

「な、何ですか?」

 

夜一が叫ぶ。

 

「走れ!」

 

一護たちが一斉に駆け出す。

 

背後。

 

通路の奥。

 

巨大な何かが迫っている。

 

空間そのものを押し潰すような圧倒的な存在。

 

一護が走りながら叫ぶ。

 

「何なんだあれ!」

 

「説明は後じゃ!」

 

「捕まれば」

 

「ただでは済まん!」

 

織姫が必死に走る。

だが他の四人より少しだけ遅い。

 

チャドがすぐに織姫の横へ速度を合わせる。

 

「井上」

 

「大丈夫か?」

 

「はい!」

 

石田が前方を見る。

 

「出口は!」

 

「もうすぐじゃ!」

 

夜一が叫ぶ

 

だが、後ろから。迫る轟音。

朔夜は最後尾で一度だけ振り返る。

 

「……」

 

目が少しだけ、興味深そうに細くなる。

 

「これ」

 

小さく呟く。

 

「斬れるかな」

 

夜一の耳がその言葉を拾った。

 

「朔夜!」

 

怒声で叫ぶ

 

「何?」

 

「馬鹿なことを考えるな!」

 

「いや」

 

「試すだけ」

 

「試すな!」

 

一護が前を走りながら叫ぶ。

 

「何の話してんだよ!」

 

「朔夜が後ろのアレを斬るとか言い出した!」

 

夜一が即答した。

 

一護が振り返りながら驚く

 

「はぁ!?」

 

朔夜は肩をすくめる。

 

「冗談」

 

夜一が怒鳴る

 

「おぬしの冗談は冗談に聞こえんのじゃ!」

 

それでも朔夜の手は、ほんの少し斬魄刀の柄に触れていた。

 

試してみたい。

 

そんな戦闘狂のようなわずかな衝動。

 

だが、前回のときの夜一との会話を思い出す。

 

全部を一人でやろうとするな。自分を信じろ。仲間を信じろ。

 

朔夜はゆっくりと刀から手を離した。

 

「……ま」

 

笑う。

 

「今回はやめとくか」

 

「最初からそうせい!」

 

◇

 

前方に光が見えた。

 

出口だ。

 

「見えた!」

 

織姫と夜一が叫ぶ。

 

「飛び込め!」

 

一護が最初に出口へ、チャド、織姫、石田。

 

次々と光の中へ。

 

朔夜が後ろを。ほんの一瞬。見た。

迫る存在。そして、光。

 

「じゃあな」

 

何故かそんな言葉を残して飛び込んだ。

 

◇

 

――風。

 

朔夜の髪が、揺れた。

 

目を開く。

 

青い空。

 

白い雲。

 

地面。

 

現世とは違う。

 

空気。

 

いや、空気だけではない。

 

世界そのもの霊子すべてが懐かしい。

 

「……」

 

少し離れたところで一護が身体を起こしていた。

 

「いてぇ……」

 

「黒崎くん!」

 

織姫。

 

「大丈夫?」

 

チャド。

「大丈夫だ」

 

石田も眼鏡を直しながら周囲を確認している。

 

「全員いるようだね」

 

一護が顔を上げる。

 

「ここが」

 

言葉が少し震える。

 

「尸魂界……?」

 

夜一が静かに言う。

 

「そうじゃ」

 

一護が周囲を見る。

 

未知の世界。

 

自分にとっては、初めての場所。

 

だけど、朔夜だけは違った。

 

「……」

 

動かない。ただ立っている。

 

一護がその横顔を見る。

普段見たことのない顔懐かしさ、苦しさ。

 

そしてほんの少しの寂しさ全部が混ざっている。

 

「朔夜?」

 

声。

 

朔夜は、ゆっくり顔を上げた。

 

遠く、その先。

 

巨大な壁。

 

その向こう、瀞霊廷。

 

自分が、かつて知っていた場所。

 

「……帰ってきた」

 

小さな声。

 

一護には、はっきり聞こえなかった。

 

夜一には、聞こえた。

 

「後悔しておるか?」

 

朔夜が、夜一を見る。

 

一瞬。

 

そして、少しだけ笑う。

 

「まさか」

 

また、瀞霊廷を見る。

 

「ただ、思ったより」

 

小さく、息を吐く。

 

「懐かしかっただけ」

 

一護が、朔夜の隣へ来る。

 

「お前」

 

少し、真剣な顔。

 

「本当に」

 

「ここにいたんだな」

 

「うん」

 

「じゃあ」

 

一護。

 

「案内できるか?」

 

朔夜は、一瞬黙る。

 

そして、笑う。

 

「それは期待しない方がいい」

 

「何でだよ!」

 

「昔と同じなら」

 

朔夜は、遠くを見る。

 

「正面から入れてくれる連中じゃないから」

 

「最初からそれ言え!」

 

◇

 

その頃、瀞霊廷。

 

護廷十三隊、各所。

 

一人、また一人。

 

強い霊圧を持つ死神たちが。

 

顔を上げた。

 

「……?」

 

ある隊舎。

 

「今の……」

 

別の場所。

 

「気のせいか?」

 

また、別の隊舎。

 

一人の死神が、筆を止める。

 

僅かな、霊圧。

 

まだ、遠い。

 

完全には、判別できない。

 

それでも、知っている者には、分かる。

 

いや、忘れることなど、できない。

 

「……まさか」

 

そして、六番隊朽木白哉は、静かに、目を開いた。

 

数日前、現世のあの少年。

 

否、あの死神。

 

「御門朔夜……」

 

声。

 

僅か。

 

その時、別の場所。

 

一人の男も、同じように遠くを見る。

 

表情は、見えない。

 

ただ、一言。

「戻ったか」

 

それだけ。

 

◇

 

尸魂界。

 

朔夜は、ふと空を見上げる。

 

「……」

 

夜一が。その変化に気づく。

 

「どうした?」

 

「いや」

 

朔夜は。

 

瀞霊廷を見る。

 

「何人か」

 

少し、笑う。

 

「気づいた気がした」

 

一護が、首を傾げる。

 

「何に?」

 

「俺に」

 

一護。

 

石田。

 

織姫。

 

チャド。

 

四人が。

 

一斉に朔夜を見る。

 

「……」

 

一護が嫌な予感を覚える。

 

「お前さ」

 

「ん?」

 

「尸魂界で」

 

少し。

 

間を置く。

 

「何したんだ?」

 

朔夜は、しばらく考える。

 

そして

 

「色々」

 

一護が、叫んだ。

 

「またそれかよ!」

 

朔夜の笑い声が、尸魂界に響く。でも本人にも、分かっていた。

ここから先もう隠し続けることはできない。

自分が何者だったのか。何をしてきたのか。

何故浦原喜助と四楓院夜一に鍛えられたのか。

 

そして、斬魄刀「御厨子」。

 

その力も。いずれ一護たちの前で見せることになる。

 

朔夜は、腰の刀へ。そっと触れる。

 

「……行くか」

 

一護が、前を見る。

 

「ルキアを助ける」

 

朔夜が横へ並ぶ。

 

「おう」

 

チャド、織姫、石田。

そして、夜一。

 

全員が歩き始める。

黒崎一護は、大切な仲間を取り戻すために。

御門朔夜は置いてきた過去と、もう一度向き合うために。

 

尸魂界、その地へ彼らは。ついに、足を踏み入れた。

だが、まだ誰も知らない。

 

御門朔夜の帰還が一護たちの想像を遥かに超える形で。

 

瀞霊廷を揺らし始めていることを。

 

そして、これから彼らの前に立ちはだかる者たちもまだ知らない。

 

長い間尸魂界から姿を消していた、一人の死神が

再び刀を抜こうとしていることを。

 

――第一部。

 

「死神代行篇」

 

完

 

そして。

 

物語は。

 

新たな戦場へ。

 

第二部 尸魂界篇

 

次回。

 

第11話

 

「帰還した怪物」




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

これにて第一部「死神代行篇」は終了です。

死神代行篇では、朔夜の実力や過去について意図的に多くを伏せています。

尸魂界篇からは、
御門朔夜が尸魂界で知られている理由。

浦原喜助・四楓院夜一との過去。

斬魄刀「御厨子」。

そして、彼が本気で戦った時の力。

これらも徐々に明かしていきます。
次回より、

第二部「尸魂界篇」開幕。

第11話――

「帰還した怪物」

よろしくお願いします。
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