更木剣八との戦いを終えた朔夜は、再び本来の目的であるルキア救出へ向けて動き始めました。
一方、一護たちもそれぞれ異なる場所から瀞霊廷の奥へ進んでいます。
離れ離れになっていても、目指す場所は一つ。
そして今回は、朔夜がルキアの居場所へつながる手掛かりを掴み始めます。
それでは、第21話「再会への道」です。
瀞霊廷の屋根の上を、朔夜は静かに走っていた。
更木剣八との戦いを終えてから、しばらく時間が経っている。肩や頬にはまだ傷が残っていたが、動くことに支障はない。
それよりも問題なのは、瀞霊廷全体の警戒が明らかに強まっていることだった。
「……さすがに動きにくくなってきたな」
通りを見下ろせば、複数の隊士が絶えず走り回っている。
旅禍を探している者もいれば、各隊への伝令を運んでいる者もいる。その中では当然のように「御門朔夜」という名前まで飛び交っていた。
剣八との戦いまで報告されているのだろう。
こうなれば、顔を隠したところであまり意味はない。
「もう少し静かに入る予定だったんだけど」
朔夜は苦笑しながら屋根から飛び降り、人通りの少ない路地へ着地した。
正面突破を続けてもいいが、目的は戦うことではない。ルキアの居場所さえ分かれば、無駄な戦闘を避けながらそこへ向かうことができる。
問題は、その情報をどう手に入れるかだった。
「その辺の隊士に聞いても、素直に教えてくれないだろうしな」
そんなことを考えながら歩いていると、少し先の曲がり角から慌ただしい足音が聞こえてきた。
朔夜は反射的に建物の陰へ身を寄せる。
現れたのは二人の死神だった。
身につけている隊章から見て、四番隊。
戦闘部隊というより、治療や補給を担当する隊士たちらしい。
「急げ! 十一番隊からまた負傷者が運ばれてきてるぞ!」
「分かってるよ! でも牢の方の当番も交代しないと……!」
朔夜の眉が僅かに動いた。
牢。
二人の隊士はそのまま走り去っていったが、朔夜はしばらくその場に立ったまま考える。
ルキアは罪人として拘束されている。
ならば、囚われている場所へ出入りする四番隊員がいても不思議ではない。
「……これは当たりかもな」
直接捕まえて聞き出すという方法もあるが、それではまた騒ぎになる。
朔夜は二人の霊圧を追うことにした。
◇
その頃、石田と織姫も瀞霊廷の中を慎重に進んでいた。
建物の陰へ身を隠しながら周囲を確認した織姫が、小声で石田へ尋ねる。
「石田くん、こっちで合ってるかな?」
「正確な場所が分からない以上、今は少しでも中央へ進むしかないね」
「そっか」
織姫は頷きながら、遠くに見える高い建物へ視線を向ける。
「朽木さん、大丈夫かな……」
不安がないわけではない。
むしろ、一護たちと離れてしまった今は心配なことばかりだった。
それでも織姫は前へ進む。
「絶対助けようね、朽木さん」
石田が横目で彼女を見る。
「ああ。そのために来たんだからね」
「うん!」
織姫は明るく頷いた。
その直後、石田が急に足を止める。
「井上さん」
「どうしたの?」
「誰か来る」
織姫の表情もすぐに引き締まった。
遠くから複数の霊圧が近づいている。
二人は目を合わせると、すぐに物陰へ移動した。
この瀞霊廷では、ただ歩くだけでも気を抜くことはできない。
それでも。
二人の足は、確実にルキアへ近づいていた。
◇
一護は一角から教えられた方向を頼りに、ひたすら瀞霊廷を走っていた。
しかし。
「……ここ、さっきも通ってねぇか?」
足を止める。
正面には見覚えのある白い壁があった。
よく見ると、さっき自分が刀でつけた傷まで残っている。
一護の顔が引きつった。
「マジかよ……」
完全に迷っていた。
一角から方角は聞いた。
確かに聞いた。
だが、入り組んだ瀞霊廷の道を進んでいるうちに、いつの間にか同じ場所へ戻ってきてしまったらしい。
一護は頭を掻きながら周囲を見る。
「こういう時に夜一さんがいりゃあ……」
朔夜が空鶴砲へ乗る前に言っていた言葉を思い出す。
――一護は方向音痴だから、できれば夜一さんについててほしい。
「あいつ、分かってて言ってやがったな……!」
悔しい。
だが、否定できないのがさらに悔しい。
一護はしばらく考えた後、とりあえず目立つ高い建物を目印に進もうと決めた。
「止まっててもしょうがねぇ」
斬月を背負い直し、再び走り始める。
その時だった。
一護の表情が変わる。
前方から感じる霊圧。
知っている。
一度。
現世で感じたことがある。
「……この霊圧」
一護の足がゆっくりと止まった。
すぐには名前が出てこなかった。
だが。
間違いなく。
自分と関わりのある死神だ。
◇
四番隊の隊士を追っていた朔夜は、やがて比較的人通りの少ない建物の近くへ辿り着いた。
先ほどの二人は中へ入っていったらしい。
朔夜は屋根の上から周囲を観察する。
四番隊。
治療部隊。
そして牢への当番。
「正面から入ったら騒ぎになるよな」
少し考える。
そして。
裏口を探す。
「喜助なら、こういう時は正面から行かずにこっそり入るんだろうな」
もっとも、浦原の場合はその後に余計なことまで調べ始めるだろう。
朔夜は裏手へ回った。
すると。
ちょうど一人の隊士が外へ出てくるところだった。
小柄な少年。
四番隊の死覇装。
どこか頼りなさそうな雰囲気。
朔夜は一瞬だけ動きを止める。
相手もこちらに気づいた。
「……え?」
少年の顔が固まる。
最近では朔夜の顔までかなり広まっている。
逃げられる前に声を掛ける。
「ちょっと待って」
「ひっ!?」
少年が大きく肩を跳ねさせる。
「御、御門朔夜……!」
「やっぱり俺の顔まで回ってるんだな」
「あ、あの、僕は戦闘要員じゃありませんから!」
「分かってるよ」
朔夜は両手を見せた。
「戦う気はない」
「本当ですか……?」
「本当。というか、四番隊相手に暴れたら後で夜一さんに何言われるか分からない」
少年は困惑した。
「夜一……さん?」
「こっちの話」
朔夜は少しだけ表情を柔らかくする。
「名前は?」
「山田花太郎です。四番隊第七席をやってます」
「第七席?」
朔夜は少し驚いた。
「見た目より偉いんだな」
「よ、よく言われます……」
「それ褒められてない気がするけど」
花太郎は苦笑した。
少し緊張が解けたらしい。
朔夜は本題へ入る。
「花太郎。一つ聞きたい」
「何でしょうか」
「朽木ルキアがどこにいるか知ってる?」
花太郎の表情が止まった。
「……朽木さん?」
「知ってるんだな」
「それは……」
言葉に詰まる。
朔夜は無理に追及せず、静かに待った。
花太郎はしばらく迷っていたが、やがて小さく尋ねる。
「御門さんたちは、本当に朽木さんを助けに来たんですか?」
「ああ」
「処刑を止めるために?」
「そのつもり」
花太郎は俯いた。
「僕……朽木さんの牢の掃除とか、食事を運んだりしてたことがあるんです」
朔夜の目が僅かに細くなる。
やはり。
当たりだった。
花太郎は続ける。
「朽木さん、いつも他の人のことばかり心配してました。自分が処刑されるのに、現世の人たちを巻き込みたくないって……」
朔夜は静かに聞いていた。
ルキアらしい。
自分のことより。
一護たちのことを心配する。
「馬鹿だな、あいつ」
思わず呟く。
花太郎が顔を上げる。
「御門さん?」
「何でもない」
朔夜は小さく笑った。
「でも、安心した」
「何がです?」
「変わってないんだなって」
現世で一護たちと過ごしていたルキア。
あの頃と。
何も変わっていない。
「それで」
朔夜は改めて尋ねる。
「ルキアはどこにいる?」
花太郎は迷った。
自分が答えていいことではない。
それは分かっている。
しかし。
目の前の男が。
ルキアを傷つけようとしているようには見えなかった。
「……懺罪宮です」
「懺罪宮」
朔夜の表情が変わる。
知っている。
瀞霊廷の奥。
罪人が処刑まで収容される場所。
「そこか」
場所さえ分かれば。
後は進むだけ。
「ありがとう、花太郎」
「待ってください!」
立ち去ろうとした朔夜を、花太郎が呼び止める。
朔夜が振り返る。
「どうした?」
花太郎は少し迷いながらも言った。
「懺罪宮へ行くなら、正面からはかなり厳しいです。今は旅禍侵入のせいで警備も増えてますし……」
「だろうな」
「それに、御門さんは特に狙われています」
「それも知ってる」
花太郎は困った顔をする。
それでも。
「僕なら、少しだけ道を知ってます」
朔夜の眉が動いた。
「案内してくれるの?」
「全部は無理です。でも、近くまで行ける道なら……」
「大丈夫なのか?」
「分かりません」
花太郎は正直に答えた。
「でも、朽木さんには生きてほしいです」
その言葉に。
朔夜はしばらく何も言わなかった。
やがて。
静かに笑う。
「そっか」
そして。
花太郎の肩へ軽く手を置いた。
「じゃあ、頼む」
◇
その頃。
六番隊。
恋次は一人で隊舎を出ていた。
旅禍侵入。
黒崎一護。
御門朔夜。
そしてルキア。
頭の中で。
いくつものことが絡み合っている。
「くそっ……」
一護たちは。
本気でルキアを助けに来た。
そんなことは分かっている。
現世で一護と戦った。
ルキアが一護を庇おうとした姿も見た。
そして今。
瀞霊廷には御門朔夜までいる。
更木剣八と戦い。
刀すら抜かず。
傷を負わせた男。
そんな男が。
ルキアのために戻ってきた。
「何でそこまで……」
自分でも。
分からない。
何故。
こんなにも苛立つのか。
その時。
前方から。
一つの霊圧を感じた。
恋次の足が止まる。
忘れるはずがない。
現世で。
自分と戦った霊圧。
「……黒崎一護」
◇
一護もまた、前方から近づく霊圧の正体に気づいていた。
「この霊圧……」
角を曲がる。
そこに。
一人の死神が立っていた。
赤い髪。
額の刺青。
そして。
一護が知っている顔。
「阿散井……恋次」
恋次も一護を見る。
「よう」
いつものような軽い声ではない。
一護は斬月へ手を伸ばした。
「何しに来た?」
「それはこっちの台詞だ」
恋次も斬魄刀へ手を掛ける。
「何で尸魂界まで来やがった」
一護の目が鋭くなる。
「決まってんだろ」
迷いなどない。
「ルキアを助けるためだ」
恋次の表情が僅かに歪んだ。
その言葉が。
今の自分には。
何故か。
ひどく重く感じられた。
「そうかよ」
恋次が斬魄刀を抜く。
一護も斬月を構えた。
「だったら」
二人の霊圧が高まる。
「俺を倒してから行け」
一護は静かに答えた。
「最初からそのつもりだ」
瀞霊廷の通りに。
二人の霊圧がぶつかり合う。
黒崎一護。
阿散井恋次。
現世で一度戦った二人が。
今度は。
尸魂界で。
再び向き合った。
◇
その少し前。
花太郎と共に移動を始めた朔夜は、不意に足を止めた。
「御門さん?」
「……一護だ」
花太郎が首を傾げる。
「黒崎さんですか?」
「ああ」
一護の霊圧。
そして。
もう一つ。
知っている。
「恋次か」
二つの霊圧が。
明らかに。
戦闘へ向かって高まっている。
花太郎が不安そうに尋ねる。
「助けに行かなくていいんですか?」
朔夜は少しだけ考えた。
そして。
首を振る。
「行かない」
「でも……」
「一護がやるべき戦いだ」
現世。
白哉と恋次。
あの時。
一護は何もできなかった。
その敗北を。
一護自身が。
越えなければならない。
「大丈夫」
朔夜は歩き出す。
「一護は強くなった」
花太郎も後を追う。
朔夜は一度だけ。
一護の霊圧がする方向を振り返った。
「勝てよ」
誰にも届かないほど小さな声で。
そう呟いた。
そして。
朔夜自身も。
再び前を向く。
花太郎から聞いた。
ルキアの居場所。
懺罪宮。
ようやく。
再会へ続く道が。
見え始めた。
一護は恋次を越え。
ルキアのもとへ向かおうとしている。
朔夜もまた。
花太郎と共に。
ルキアのもとへ近づいていく。
それぞれ別の道を進んでいても。
目的は変わらない。
朽木ルキアを。
必ず助ける。
そのための戦いが。
また一つ。
始まろうとしていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は「再会への道」というタイトルどおり、一護と朔夜がそれぞれ別の形でルキアへ近づいていく回となりました。
朔夜は四番隊第七席・山田花太郎と出会い、ルキアが「懺罪宮」に囚われていることを知ります。
花太郎自身もルキアと接する中で彼女の人柄を知っており、処刑されることを望んでいません。
そのため今回は、朔夜を懺罪宮の近くまで案内することになりました。
一方、一護の前には再び阿散井恋次が現れています。
現世では白哉と恋次を相手に何もできず敗北した一護。
しかし今の一護は、浦原商店での修行を乗り越え、斑目一角との戦いにも勝利しています。
一護にとって恋次との再戦は、ルキアを救うためだけでなく、現世での敗北を乗り越える戦いでもあります。
そして朔夜は、一護と恋次の霊圧を感じながらも助けには向かいません。
それは見捨てたからではなく、
「この戦いは一護自身が越えるべきもの」
だと信じているからです。
次回――
第22話「再戦」
黒崎一護VS阿散井恋次。
現世で敗北した一護が、成長した力で恋次へ挑みます。
そして朔夜も花太郎と共に、懺罪宮へ向けて動き始めます。
よろしくお願いします。