一方、囚われているルキアも、一護と朔夜の霊圧が近づいていることに気づき始めています。
来てほしくない。
それでも、会いたい。
相反する思いを抱えるルキアのもとへ、二人はついに到達します。
そして、その裏では五番隊隊長・藍染惣右介死亡の知らせが瀞霊廷を駆け巡り始めていました。
それでは、第24話「再会」です。
懺罪宮へ続く細い通路を、一護、朔夜、花太郎の三人は足早に進んでいた。
先頭を歩く花太郎は何度も周囲を確認し、警備の少ない道を選んでいる。朔夜も霊圧を探りながら後を続き、そのさらに後ろを一護が歩いていた。
「なあ、まだなのか?」
何度目か分からない一護の問いに、花太郎が困ったように振り返る。
「もう少しです。黒崎さん、さっきから三回くらい同じこと聞いてますよ」
「だって、もうすぐって言ってから結構歩いてるだろ」
「一護、少し落ち着け」
朔夜が呆れたように言うと、一護はすぐに睨み返した。
「お前は平気なのかよ」
「平気に見える?」
「見える」
「じゃあ演技が上手いんだろうな」
朔夜は軽く答えたが、実際には一護と大して変わらなかった。
ルキアの霊圧が近い。
それが分かるたびに、自然と足が速くなりそうになる。
ただ、一護まで一緒になって走り出せば、確実に花太郎を置き去りにする。それだけは避けたかった。
「御門さん」
花太郎が小声で呼ぶ。
「どうした?」
「この先を曲がれば、懺罪宮の近くに出ます。でも、その先には見張りがいるはずです」
朔夜は頷くと、壁際へ身を寄せて角の先を覗いた。
二人。
どちらも一般隊士だ。
一護も隣から覗き込む。
「倒すか?」
「声が大きい」
「小声だろ」
「お前の小声は普通の人の会話くらいある」
「んなわけあるか」
言い合いを始めそうな二人を見て、花太郎は小さくため息をついた。
朔夜は改めて隊士たちの様子を確認する。
殺す必要はない。
騒がせる必要もない。
「一護、ここで待ってろ」
「何でだよ」
「お前が行ったら絶対派手になる」
「ならねぇよ」
「恋次との戦いで壁を何枚壊した?」
一護が黙った。
朔夜はそれを答えと受け取り、静かに角を曲がる。
二人の隊士が気づいた時には、既に朔夜は懐へ入り込んでいた。
一人目の鳩尾へ軽く掌底を当て、息を詰まらせたところで首筋へ手刀を落とす。もう一人が刀を抜こうとしたが、その手首を押さえて体勢を崩し、背後へ回り込むと同じように意識だけを奪った。
二人が倒れるまで、ほとんど音はしなかった。
一護が角から顔を出す。
「……それ、俺でもできた」
「じゃあ今度やってみろ」
「やってやるよ」
「その前にルキアだろ」
その一言で、一護の表情が変わった。
朔夜もそれ以上からかわず、前を向いた。
巨大な白い塔が、すぐ目の前にある。
懺罪宮。
ようやく辿り着いた。
◇
同じ頃、瀞霊廷の別の場所では、隊士たちが慌ただしく走り回っていた。
「五番隊隊長が殺された!」
「犯人はまだ分からないのか!」
「旅禍の仕業じゃないのか?」
「決めつけるな! 現場を調べている最中だ!」
藍染惣右介死亡の知らせは、瞬く間に各隊へ広がっていた。
旅禍侵入によってただでさえ混乱していた瀞霊廷に、隊長の死という異常事態が重なる。
警戒はさらに強まり、各隊の間には疑念まで生まれ始めていた。
五番隊では雛森桃が藍染の亡骸から離れようとせず、周囲の隊士たちも彼女へ何と声を掛ければいいのか分からずにいた。
誰が殺したのか。
何のために。
そして、旅禍侵入との関係はあるのか。
答えは何一つ出ていない。
ただ一つ確かなのは、瀞霊廷の中で何かがおかしくなり始めているということだけだった。
◇
懺罪宮の中で、ルキアはゆっくり顔を上げた。
近い。
先ほどまで遠くに感じていた霊圧が、今ははっきり分かるほど近づいている。
一護。
そして朔夜。
「……まさか」
ルキアは立ち上がった。
足音が聞こえる。
一人ではない。
複数。
少しずつ。
確実に近づいてくる。
「そんな……」
来てはいけない。
ここまで来れば、もう言い逃れはできない。
旅禍として捕らえられれば、彼らまで処罰される可能性がある。
それなのに。
自分の鼓動が速くなる。
会いたいと思っている。
その事実が、ルキア自身を苛立たせた。
「何を期待しているのだ、私は……」
自分へ言い聞かせるように呟いた時、外から声が聞こえた。
「この上です」
花太郎の声。
続いて。
「ルキア!」
ルキアの身体が固まる。
忘れるはずがない。
「……一護」
扉の向こうから慌ただしい音がした。
どうやら一護が力任せに開けようとしているらしい。
「ちょっと待て、一護! 壊すな!」
「開かねぇんだから仕方ねぇだろ!」
「鍵を探せ!」
「そんな暇あるか!」
「だからお前は!」
今度は朔夜の声まで聞こえてくる。
ルキアはしばらく呆然としていた。
緊張していた自分が馬鹿らしくなるほど、いつも通りだった。
「……何をやっているのだ、あの馬鹿どもは」
しかし、口元が僅かに緩んでいることには気づかなかった。
外では花太郎が必死に二人を止めていた。
「待ってください! ちゃんと開け方がありますから!」
「先に言え!」
「言おうとしたら黒崎さんが扉を蹴ったんです!」
「一護……」
「何だよ、朔夜」
「後でルキアに怒られても俺は助けないからな」
「何で俺だけなんだよ!」
やがて、金属が動く音がした。
重い扉がゆっくり開いていく。
差し込んだ光の向こうに。
三人の姿が見えた。
先頭には花太郎。
その後ろに一護。
そして。
少し離れた位置に朔夜。
ルキアは何も言えなかった。
一護も。
朔夜も。
しばらく言葉を失っている。
最初に口を開いたのは、一護だった。
「……よう」
あまりにも普通の挨拶だった。
ルキアの眉が震える。
「よう、ではない!」
「うおっ!?」
一護が反射的に一歩下がった。
「貴様、何を考えている! 何故ここへ来た!」
「何でって、お前を助けるために決まってんだろ!」
「誰が助けろと言った!」
「言われなくても来る!」
「帰れ!」
「嫌だ!」
一護とルキアが再会して数秒で言い合いを始める。
花太郎は困惑しながら二人を見ていた。
朔夜だけは、少し懐かしそうに笑っている。
「変わらないな」
その声に、ルキアが振り返った。
「……御門」
朔夜は軽く手を上げる。
「久しぶり」
ルキアは呆然と彼を見る。
一護が来たことも信じられなかった。
だが。
朔夜までいる。
「何故、貴様まで来た」
「何故って?」
朔夜は少し考えるように首を傾げた。
「友達が処刑されるって聞いたから」
「私は貴様に一護を頼んだはずだ!」
「頼まれたよ」
「なら何故一緒になって尸魂界へ乗り込んでいる!」
朔夜は一護を指差した。
「止められると思う?」
ルキアは一護を見る。
「……無理だな」
「だろ?」
「おい」
一護だけが不満そうだった。
しかし、ルキアはすぐに表情を険しくした。
「ふざけている場合ではない! 今すぐ二人ともここから出ろ!」
一護の顔から笑みが消える。
朔夜も静かにルキアを見る。
「ルキア」
「何だ」
「本当にそうしてほしい?」
問いかけられ、ルキアの言葉が止まった。
朔夜は責めるような口調ではない。
ただ静かに尋ねている。
「俺たちに帰ってほしい?」
「……当然だ」
「じゃあ、何でそんな顔してるの?」
ルキアが息を呑む。
「どんな顔だ」
「安心した顔」
「していない!」
「してる」
「しておらん!」
「してるって」
「御門!」
怒鳴るルキアに、朔夜は小さく笑った。
その笑顔を見た瞬間。
ルキアの表情が崩れかける。
現世。
浦原商店。
一護たちと過ごした時間。
それが一気に蘇ってくる。
「……馬鹿者」
今度の声は、小さかった。
一護がルキアを見る。
「ルキア?」
「何故……来た」
先ほどまでの怒鳴り声とは違う。
「私は、お前たちを巻き込みたくなかったのだ」
ルキアは俯いた。
「私一人が処刑されれば、それで済むはずだった。一護も、織姫も、石田も、茶渡も……御門も、誰もここへ来る必要などなかった」
一護は黙って聞いていた。
朔夜も口を挟まない。
「なのに……」
声が震える。
「何故、そこまでして……」
一護が一歩前へ出た。
「そんなもん、決まってんだろ」
ルキアが顔を上げる。
「お前が仲間だからだ」
迷いのない言葉だった。
ルキアの目が見開かれる。
一護は続ける。
「俺だけじゃねぇ。井上も石田もチャドも岩鷲も来てる。夜一さんだって一緒だ」
「皆……?」
「ああ」
そして一護は朔夜を見る。
「こいつなんか、更木剣八とまで喧嘩してたぞ」
「余計なこと言わなくていいから」
ルキアが固まった。
「……今、何と言った?」
朔夜は視線を逸らす。
「大したことじゃない」
「更木剣八と戦ったのか!?」
「ちょっとだけ」
「ちょっとで済む相手ではないだろう!」
「ほら怒られた」
「自業自得だろ」
一護が笑う。
朔夜は肩をすくめた。
そのやり取りを見ていたルキアは、怒るべきなのか呆れるべきなのか分からなくなった。
そして気づく。
この二人は、本当に自分を助けるためにここまで来た。
命を懸けて。
「……本当に馬鹿だな、お前たちは」
ルキアの声が僅かに震えた。
一護は笑う。
「知ってる」
朔夜も笑った。
「よく言われる」
「褒めておらん!」
その声にはまだ怒りが残っていた。
しかし、もう二人を追い返すための怒りではなかった。
◇
花太郎は少し離れた場所から三人を見ていた。
ルキアがこれほど感情を表に出している姿を、牢へ通っていた時にはほとんど見たことがない。
自分のことより、ずっと他人を心配していた女性。
そのルキアが今、怒りながらも明らかに嬉しそうにしている。
花太郎は小さく笑った。
連れてきてよかった。
そう思った。
だが、朔夜の表情が不意に変わる。
「……待って」
一護が振り返る。
「どうした?」
朔夜は外へ意識を向けていた。
複数の霊圧が動いている。
それだけではない。
先ほどまでとは、瀞霊廷全体の空気が違う。
「何かあった」
「何かって?」
「分からない。でも、隊士たちの動きが変だ」
花太郎も緊張した表情になる。
「僕、少し見てきましょうか?」
「いや、一人で行くのは危ない」
朔夜がそう言った直後、遠くから鐘の音が響いた。
一度。
二度。
それに続いて、慌ただしい伝令の声が外から聞こえてくる。
「五番隊隊長・藍染惣右介が殺害された!」
その名前を聞いた瞬間、朔夜の表情が完全に止まった。
「……藍染が?」
一護が朔夜を見る。
「知り合いなのか?」
「昔に少し」
朔夜は答えながら、先ほど耳にした話を思い出していた。
藍染と連絡がつかない。
五番隊が探している。
そして今。
死亡。
「……そういうことだったのか」
ルキアも驚きを隠せない。
「藍染隊長が……殺された?」
護廷十三隊の隊長が瀞霊廷の内部で何者かに殺害された。
ただの旅禍侵入とは明らかに別の事件だった。
一護が眉を寄せる。
「俺たちが来たのと関係あんのか?」
「今のところ分からない」
朔夜は静かに答えた。
だが、胸の奥に違和感がある。
何か、まだ見えていないものが動いている。
そんな気がした。
それでも今は、ルキアが目の前にいる。
優先順位を間違えるつもりはなかった。
朔夜は一度目を閉じると、気持ちを切り替えた。
「藍染のことは後だ」
「御門?」
ルキアが見る。
「まずはお前を助ける」
朔夜はそう言って笑った。
「そのために帰ってきたんだから」
一護も頷く。
「そういうことだ」
ルキアは二人を見つめた。
そして今度はもう、帰れとは言わなかった。
◇
懺罪宮。
長い道の先で、ようやく一護と朔夜はルキアと再会した。
だが、救出はまだ終わっていない。
処刑は撤回されていない。
朽木白哉もいる。
護廷十三隊も動いている。
そして今、藍染惣右介の死によって瀞霊廷には新たな混乱が生まれようとしている。
それでも、一護は迷わない。
朔夜も同じだった。
ここまで来た以上、もう引き返すつもりはない。
ルキアを必ず助ける。
その目的だけは、何が起きようとも変わらなかった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、ついに一護と朔夜がルキアとの再会を果たしました。
ルキアは二人が来たことを喜ぶどころか、最初は当然のように怒っています。
自分の処刑へ仲間たちを巻き込みたくなかったからこそ、「何故来た」「帰れ」と言いますが、一護と朔夜にはその言葉の裏にある本心が見えていました。
特に一護は、
「お前が仲間だからだ」
と真正面から答えています。
そして朔夜も、ルキアに頼まれた「一護を頼む」という言葉を守りながら、ルキア本人まで救うために尸魂界へ戻ってきました。
また、一護から更木剣八との戦いをばらされ、ルキアに怒られる朔夜という少し軽い場面も入れています。
一方、再会の直後には、
五番隊隊長・藍染惣右介死亡
の知らせが懺罪宮にも届きました。
朔夜は前話で藍染が行方不明になっていることを耳にしていたため、その二つがここで初めてつながっています。
ただし今の朔夜は、藍染の事件を追うことよりもルキア救出を優先します。
再会は果たしましたが、処刑そのものはまだ止まっていません。
次回――
第25話「迫る白き影」
よろしくお願いします。