BLEACH ―斬界の御厨子―   作:tunagi

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長い道のりを越え、一護と朔夜はついに懺罪宮でルキアとの再会を果たしました。

しかし、再会できたからといって、ルキアを救出できたわけではありません。

処刑はまだ撤回されておらず、護廷十三隊も彼らを追っています。

そして懺罪宮へ、一護にとって決して忘れることのできない霊圧が近づいていました。

現世で一護を圧倒し、戦うことすら許さなかった男。

六番隊隊長――朽木白哉。

それでは、第25話「迫る白き影」です。



第25話 迫る白き影

 

「それで、どうやって私をここから出すつもりなのだ?」

 

ルキアの問いかけに、一護は当然のような顔で牢の扉へ手を掛けた。

 

「こんなの壊せばいいだろ」

 

「待て、一護」

 

朔夜が止めるより早く、一護は力を込める。

 

しかし、重い音が響いただけで扉はびくともしなかった。

 

「……硬ぇな」

 

「だから言っただろ」

 

「まだ何も言ってねぇだろ!」

 

「言おうとしたらお前が先にやったんだよ」

 

朔夜は呆れながら扉へ近づき、表面へ指先で軽く触れた。

 

普通の鉄ではない。牢そのものに霊的な封印が施されており、それが懺罪宮全体の構造と連動している。ただ斬ればいいという造りではなかった。

 

花太郎も横から確認しながら、不安そうに口を開く。

 

「無理に壊すのは危ないと思います。懺罪宮は罪人を逃がさないための場所ですから、いくつも封印が組み込まれているはずです」

 

「じゃあ鍵は?」

 

一護が尋ねると、花太郎は困った顔をした。

 

「僕は持ってません……」

 

「使えねぇな」

 

「一護」

 

朔夜が低い声で名前を呼ぶ。

 

「何だよ」

 

「ここまで案内してくれた相手に、それ言うのは最低だぞ」

 

「いや、今のはそういう意味じゃなくて……」

 

慌てて弁解する一護を見て、花太郎が困ったように笑う。ルキアも呆れたようにため息をついた。

 

「相変わらずだな、一護」

 

「何がだよ」

 

「何も変わっておらん」

 

「お前にだけは言われたくねぇ」

 

一護が言い返す横で、朔夜は再び封印を確かめた。

 

「壊せないことはないと思う」

 

一護の表情が明るくなる。

 

「だったら――」

 

「最後まで聞け」

 

朔夜は一護を遮った。

 

「この封印、牢だけに掛かってるわけじゃない。懺罪宮そのものにつながってる。下手に『解』で切れば、どこに影響が出るか分からない」

 

ルキアが眉を寄せる。

 

「御厨子を使うつもりだったのか?」

 

「最初はね。でも、ルキアごと何かに巻き込んだら意味がない」

 

「当然だ!」

 

「だからやらないって言ってるだろ」

 

朔夜は苦笑したが、すぐにその表情が消えた。

 

一護も気づく。花太郎にはまだ分からないが、一護とルキアにははっきりと感じ取れた。

 

空気が変わった。

 

先ほどまで周囲にあった霊圧とは、明らかに質の違うものが懺罪宮へ向かって真っ直ぐ近づいてくる。

 

静かで、冷たく、一切の揺らぎがない。ただそこに存在するだけで、周囲の空気そのものを押し下げていくような霊圧だった。

 

花太郎の顔から血の気が引く。

 

「な、何ですか……これ……」

 

息をするのも苦しい。

 

ルキアも表情を強張らせた。

 

「兄様……」

 

一護の拳が強く握られる。

 

忘れるはずがない。

 

現世で何もできないまま、自分を斬り伏せた男。

 

「朽木……白哉」

 

朔夜だけは動かなかった。ただ、懺罪宮の入口を静かに見つめている。

 

「来たな」

 

◇

 

白い隊長羽織が、通路の向こうに現れた。

 

六番隊隊長、朽木白哉。

 

歩みは決して速くない。それでも、一歩近づくたびに圧力が増していく。

 

花太郎は無意識に一歩後ろへ下がった。

 

ルキアも声を失う。

 

一護だけは斬月へ手を伸ばした。

 

白哉はその姿を見ても何の反応も示さない。

 

「黒崎一護」

 

静かな声だった。

 

「現世で命を拾ったというのに、自ら尸魂界へ踏み込むとは愚かな男だ」

 

一護が斬月を抜く。

 

「誰のせいでここまで来たと思ってやがる」

 

「一護、待て」

 

朔夜が止める。

 

だが、一護は聞かない。

 

「今度こそだ」

 

「今のお前じゃ勝てない」

 

一護が朔夜を睨んだ。

 

「やってみなきゃ分かんねぇだろ」

 

「分かる」

 

「何で言い切れる!」

 

朔夜は一護の肩を見る。

 

蛇尾丸によって裂かれた傷から、まだ血が滲んでいる。

 

「恋次と戦った直後だってのもある。でも、それだけじゃない。今のお前と白哉じゃ、まだ戦い方そのものに差がある」

 

一護の顔が歪む。

 

悔しい。

 

それでも、退くことはできない。

 

「だったら、ここで確かめる」

 

斬月を構える。

 

「どれくらい差があるのか」

 

白哉の目が僅かに細くなった。

 

「知れば死ぬぞ」

 

「なら、死ぬ前に追いつく」

 

一護が地面を蹴った。

 

「一護!」

 

ルキアの叫び声が響く。

 

一護は斬月を振り上げ、白哉へ一直線に踏み込んだ。

 

現世の時とは違う。

 

今度は見えている。

 

白哉が刀へ手を伸ばす動きも、鞘から刃が抜かれる瞬間も。

 

だから、届くと思った。

 

斬月が振り下ろされる。

 

だが。

 

「遅い」

 

金属音が一度だけ響いた。

 

一護の目が見開かれる。

 

斬月は止められていた。

 

しかも白哉は片手だった。

 

「くっ……!」

 

一護は力を込めるが、押せない。白哉の刀は微動だにしなかった。

 

「前よりは見えるようになったらしいな」

 

「だったら!」

 

一護は一度刀を引き、横薙ぎに振るう。

 

白哉は首を僅かに傾けただけでかわした。

 

すぐに二撃目、三撃目とつなげ、一護は攻撃を止めない。

 

斬月の重い斬撃が連続して放たれ、白哉の周囲の床や壁が次々と砕ける。

 

それでも、一度も白哉には触れなかった。

 

「どうした!」

 

一護が叫ぶ。

 

「現世の時みてぇに一瞬で終わらせてみろよ!」

 

白哉は答えなかった。

 

次の瞬間、その姿が消えた。

 

「っ!」

 

一護は反応した。

 

今度は見失わない。

 

背後。

 

振り返りながら斬月を振るう。

 

しかし、そこにはいない。

 

「違う!」

 

朔夜の声が飛ぶ。

 

一護が顔を上げる。

 

白哉はさらにその背後へ回っていた。

 

「二段……!?」

 

瞬歩を見切ったと思った瞬間には、既に次の移動へ入られていた。

 

白哉の刃が走る。

 

一護は咄嗟に斬月を盾にする。

 

甲高い音と共に身体が吹き飛ばされた。

 

「ぐっ!」

 

石床を転がりながらも、一護はすぐに立ち上がる。肩の傷が開き、血が流れた。

 

「一護!」

 

ルキアが叫ぶ。

 

「来るな!」

 

一護は斬月を支えにしながら立ち上がった。

 

白哉は追撃しない。

 

それが余計に一護を苛立たせる。

 

まるで、いつでも終わらせられると示されているようだった。

 

「ふざけんな……」

 

一護の霊圧が膨れ上がる。

 

「俺は……ここまで来たんだぞ」

 

ルキアを救うために修行をした。

 

虚化寸前まで追い込まれ、斬月の名を知り、一角を倒し、恋次にも勝った。

 

それなのに、目の前の男にはまだ届かない。

 

「一護」

 

朔夜が呼ぶ。

 

だが、一護は前だけを見ていた。

 

「まだ終わってねぇ!」

 

一気に駆ける。

 

白哉の懐へ。

 

今度こそ剣を振り抜く。

 

その瞬間、白哉の姿が霞んだ。

 

一護の目が追う。

 

右。

 

違う。

 

左。

 

そこにもいない。

 

そして正面へ視線を戻した時には、白哉が懐へ入っていた。

 

「――遅いと言った」

 

あまりにも近い。

 

刀が既に一護の身体へ向かっている。

 

避けられない。

 

受けられない。

 

一護の脳裏に、現世の夜が蘇った。

 

斬られたことすら分からなかった、あの一撃。

 

「一護!」

 

ルキアの悲鳴が響く。

 

だが、白哉の刀は一護には届かなかった。

 

ギィンッ!

 

激しい音が懺罪宮へ響き渡る。

 

一護の目の前に、一人の男が立っていた。

 

「……朔夜」

 

朔夜は白哉の刀を受けていた。

 

だが、自分の斬魄刀は抜いていない。

 

右腕を白哉の刀へ添え、その軌道を僅かに外している。刃と掌の間にはほんの僅かな隙間があり、極限まで圧縮された霊圧によって刃を直接触れさせずに受け流していた。

 

白哉の目が細くなる。

 

「手を出さぬのではなかったのか」

 

「死ぬところまで見届ける趣味はない」

 

朔夜の声から、いつもの軽さが消えていた。

 

「一護、下がれ」

 

「まだやれる!」

 

「今の一撃で死んでた」

 

「……っ」

 

一護は言葉を失った。

 

自分でも分かっている。

 

朔夜が入らなければ、今の一撃は避けられなかった。

 

白哉が刀へ力を込める。

 

朔夜の腕が僅かに沈み、足元の石床に亀裂が走った。

 

「相変わらずだな、御門」

 

「何が?」

 

「自ら戦わぬと言いながら、他者が死ぬ瞬間には必ず前へ出る」

 

朔夜の目が僅かに細くなる。

 

「……よく覚えてるな」

 

「忘れるほど昔ではない」

 

次の瞬間、白哉の姿が消えた。

 

朔夜も消える。

 

「え……?」

 

花太郎には何が起きたのか分からなかった。

 

一護だけが辛うじて視線を動かす。

 

右。

 

左。

 

天井付近。

 

一瞬ごとに白哉と朔夜の姿が現れては消え、刀と何かがぶつかる音だけが連続して響く。

 

一護の目が見開かれた。

 

「速ぇ……!」

 

以前、夜一と朔夜が戦った時を思い出す。

 

自分にはほとんど見えなかった速度。

 

今の白哉も、その領域にいる。

 

朔夜が床へ着地した直後、白哉が頭上から刀を振り下ろした。

 

朔夜は身体を半歩ずらしてかわす。

 

刃が床を切り裂く。

 

白哉が即座に横薙ぎへつなげると、朔夜は上体を反らしてぎりぎりで避けた。

 

続く突きに対しては、二本の指を刀の腹へ添え、軌道だけを逸らす。

 

白哉が初めて僅かに眉を動かした。

 

「刀を抜かずにどこまで続けるつもりだ」

 

「できれば最後まで」

 

「戯言を」

 

白哉の霊圧が一段階高まった。

 

周囲の空気がさらに重くなり、花太郎が思わず膝をつく。

 

「う……!」

 

ルキアも息を呑み、一護でさえ皮膚を押さえつけられるような圧力を感じた。

 

だが、朔夜はその場から動かない。

 

「昔より強くなったな、白哉」

 

「貴様に言われる筋合いはない」

 

「褒めたんだけど」

 

「不要だ」

 

白哉が再び踏み込む。

 

今度は先ほどまでより速い。

 

朔夜の頬を刃が掠め、細い血の線が浮かんだ。

 

一護の表情が変わる。

 

「朔夜!」

 

「大丈夫」

 

朔夜は白哉から目を離さない。

 

その声は落ち着いている。

 

しかし、雰囲気が少し変わっていた。

 

頬を流れた血を親指で拭う。

 

それを見た白哉の目が鋭くなる。

 

「……その顔は昔と変わらぬな」

 

朔夜が微かに笑った。

 

「何のこと?」

 

「とぼけるな」

 

白哉は刀を構え直す。

 

「戦いを愉しみ始めている」

 

一護が朔夜を見る。

 

ほんの少しだけ、剣八と戦っていた時と似ている。

 

静かで、妙に冷たい笑みだった。

 

ルキアも不安そうに名前を呼ぶ。

 

「御門……」

 

その声を聞いた瞬間、朔夜の笑みが消えた。

 

一度息を吐く。

 

「……危ないな」

 

右手が腰の斬魄刀へ向かう。

 

白哉の視線もそこへ落ちる。

 

御厨子。

 

更木剣八と戦ってなお、抜かれなかった斬魄刀。

 

朔夜の指が柄へ掛かる。

 

一護も息を呑んだ。

 

浦原と夜一が、朔夜が刀へ手を伸ばしただけで反応した理由。

 

その答えが、今見えるかもしれない。

 

白哉も構えを変えた。

 

先ほどまでとは違い、明確に朔夜を強敵として見ている。

 

「抜け、御門」

 

白哉の声が低く響く。

 

「その刀を抜かぬまま、私を止められると思うな」

 

朔夜は白哉を見つめた。

 

「俺も、そろそろそう思ってたところ」

 

親指が鍔を押す。

 

カチッ、と小さな音がした。

 

鞘からほんの僅かに刀身が覗く。

 

その瞬間、白哉の霊圧がさらに研ぎ澄まされた。

 

ルキアも、一護も、花太郎も、思わず息を止める。

 

だが。

 

「そこまでじゃ」

 

上から声が降ってきた。

 

朔夜の動きが止まる。

 

「……この声」

 

一護が顔を上げる。

 

黒い影が高所から飛び降り、軽やかに床へ着地した。

 

一匹の黒猫。

 

「夜一さん!」

 

一護が声を上げた。

 

夜一は一護の傷を一瞥した後、すぐに朔夜へ視線を向ける。

 

「朔夜」

 

「はい」

 

朔夜はそっと刀を鞘へ戻した。

 

「今、抜こうとしたな?」

 

「気のせいじゃない?」

 

「わしの目をごまかせると思うておるのか?」

 

「思ってません」

 

「ならば最初から誤魔化すな」

 

一護が思わず口を挟む。

 

「お前、夜一さんに弱いよな」

 

「今そこじゃないだろ」

 

夜一は呆れたように鼻を鳴らした。

 

そして次の瞬間、その身体を強い霊圧が包み込む。

 

黒猫の輪郭が光の中で大きく変化し、四肢の形が伸びていく。

 

一護が目を見開いた。

 

「え……?」

 

光が収まった時、そこに黒猫の姿はなかった。

 

代わりに立っていたのは、長い紫色の髪を持つ一人の女性だった。

 

褐色の肌に引き締まった身体、そして一目見ただけで只者ではないと分かる鋭くしなやかな佇まい。

 

四楓院夜一。

 

本来の人の姿だった。

 

「よし。これで動きやすい」

 

夜一は軽く肩を回した。

 

一護は目を丸くしたまま、しばらく言葉が出てこない。

 

「……夜一さん?」

 

「何じゃ、その顔は」

 

「いや、だって……人だったのかよ!?」

 

「今さら何を驚いておる」

 

「驚くだろ普通!」

 

朔夜が横から呆れたように言う。

 

「そういえば一護、夜一さんの人型を見るの初めてだったな」

 

「お前、知ってたのかよ!」

 

「そりゃ師匠だから」

 

「先に言えよ!」

 

「聞かれなかったし」

 

「そういう問題か!?」

 

夜一は言い合いを始めた二人を放っておき、白哉へ視線を向けた。

 

「久しいのう、白哉坊」

 

白哉の眉が僅かに動く。

 

一護は聞き逃さなかった。

 

「白哉坊?」

 

「一護、今はそこに食いつくな」

 

朔夜が小声で止める。

 

白哉は人型へ戻った夜一を静かに見つめていた。

 

「四楓院夜一」

 

「相変わらず堅い顔をしておるな」

 

「貴様まで関わっていたか」

 

「今さら気づいたのか?」

 

夜一はそう言うと、一護の前へ歩み寄り、傷の状態を確認した。

 

「恋次と戦った直後に白哉へ挑むとは、無謀にも程がある」

 

「でも俺は――」

 

「今のおぬしでは勝てん」

 

一護の表情が険しくなる。

 

朔夜と同じ言葉だった。

 

しかも、実際に戦ってその意味を思い知らされた直後だ。

 

一護は唇を噛む。

 

夜一はそんな一護を真っ直ぐ見た。

 

「悔しいか?」

 

「……当たり前だ」

 

「なら、その悔しさを忘れるな」

 

一護が夜一を見る。

 

「三日じゃ」

 

「何?」

 

「わしがおぬしを、三日で白哉と戦えるところまで引き上げてやる」

 

一護の目が見開かれる。

 

ルキアも驚いた。

 

「三日で……?」

 

夜一は一護を見据える。

 

「ルキアを助けたいのじゃろう?」

 

「ああ」

 

「ならば今ここで意地を張って死ぬな。生きて強くなれ」

 

一護は白哉を見る。

 

白哉は何も言わず、ただ静かに立っている。

 

先ほどまで自分は、あの男へ届かなかった。

 

ならば、届くところまで行くしかない。

 

「……分かった」

 

一護が答える。

 

夜一は満足そうに頷いた。

 

「よし」

 

次に朔夜を見る。

 

「朔夜、おぬしも来い」

 

「俺も?」

 

「当然じゃ」

 

「一護の修行だろ?」

 

「おぬしは更木剣八と戦った後、今度は白哉相手に御厨子を抜こうとしておったな」

 

朔夜が黙る。

 

夜一は腕を組み、朔夜をじっと見た。

 

「後で詳しく話を聞かせてもらうぞ」

 

「……はい」

 

一護が少し笑った。

 

「やっぱ夜一さんに弱ぇじゃねぇか」

 

「一護、後で覚えてろよ」

 

白哉はその会話を聞いた後、静かに刀を鞘へ収めた。

 

一護が眉を寄せる。

 

「何のつもりだ」

 

「ここで殺す必要がなくなっただけだ」

 

「何?」

 

白哉は一護を見る。

 

「三日後に再び私の前へ立つというのなら、その時に斬る」

 

一護の目が鋭くなる。

 

「後悔すんなよ」

 

白哉は背を向ける。

 

「その言葉は、私へ刃を届かせてから言え」

 

そのまま歩き出す。

 

だが、数歩進んだところで足を止めた。

 

振り返らないまま、朔夜へ声を掛ける。

 

「御門」

 

「何?」

 

「次に私の前へ立つ時は、その刀を抜け」

 

朔夜の目が細くなる。

 

「……考えとく」

 

白哉はそれ以上何も言わず、その場を去っていった。

 

◇

 

白哉の霊圧が遠ざかっていく。

 

それでも一護は、しばらくその方向を見つめたまま動かなかった。

 

悔しい。

 

以前より強くなった。

 

恋次にも勝った。

 

それでも、まだ届かなかった。

 

「一護」

 

牢の中からルキアが呼ぶ。

 

一護が振り返る。

 

「何だ?」

 

ルキアは少し迷った後、静かに言った。

 

「……死ぬな」

 

一護が目を見開く。

 

「助けに来いとは言わぬ」

 

「おい」

 

「だが、勝手に死ぬことは許さん」

 

一護は少しだけ笑った。

 

「それ、助けに来いって言ってるようなもんだろ」

 

「違う!」

 

「はいはい」

 

「一護!」

 

一護は笑いながら斬月を背負い直した。

 

「ああ。絶対戻ってくる」

 

ルキアはもう、帰れとは言わなかった。

 

朔夜も牢へ近づく。

 

「ルキア」

 

「何だ」

 

「もう少し待ってて」

 

ルキアは朔夜の頬にできた新しい傷を見る。

 

「御門」

 

「ん?」

 

「お前も無茶をするな」

 

「善処する」

 

「その返事は信用できん」

 

「酷いな」

 

「更木剣八と戦った直後に兄様と戦い、御厨子まで抜こうとした者のどこを信用しろというのだ」

 

朔夜は何も言えなかった。

 

一護が横で笑う。

 

「正論だな」

 

「うるさい」

 

人型に戻った夜一も腕を組みながら、呆れたように二人を見ていた。

 

再会は短かった。

 

ルキアを連れ出すこともできていない。

 

処刑も止まっていない。

 

それでも、もう以前とは違う。

 

ルキアは一人ではない。

 

そして一護も、自分が越えなければならない壁をはっきりと見た。

 

朽木白哉。

 

現世で一度、自分を圧倒した男。

 

今もまだ届かない。

 

だからこそ強くなる。

 

たった三日で。

 

あの男の刃へ、そしてその先にいるルキアへ届くために。

 

一護の新たな修行が始まろうとしていた。





最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

今回は白哉との戦闘に加えて、夜一が黒猫姿から本来の人型へ戻る場面を追加しました。

朔夜の御厨子が抜かれようとしたところへ現れた夜一は、戦闘を止めた後、その場で人型へ戻っています。

一護にとっては、夜一の本来の姿を見るのはこれが初めてです。

もちろん朔夜は夜一の弟子なので、以前から知っています。

そしてここからは、夜一が人型のまま一護の卍解修行を指導していくことになります。

白哉との戦いでは、恋次に勝利して成長した一護でもまだ届かないという力の差が明確になりました。

ただし現世とは違い、一護は白哉の動きを少しずつ捉えられるようになっています。

その差を埋めるため、夜一が提示した期限は三日。

次回から一護は、朽木白哉を越えるための新たな修行へ進みます。

次回――

第26話「三日」

白哉を越えるため、一護の新たな修行が始まります。

そして朔夜は、更木剣八との戦いから白哉相手に御厨子を抜こうとしたことまで、夜一からまとめて追及されることになります。

よろしくお願いします。
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