BLEACH ―斬界の御厨子―   作:tunagi

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ルキアは一護によって処刑台から救い出され、恋次へ託されました。

その前に立ちはだかったのは、六番隊隊長・朽木白哉。

三日前、圧倒的な力の差を見せつけられた相手を越えるため、一護は斬月と向き合い、新たな力を手にしています。

朔夜は手を出さず、一護自身の戦いを見届けます。

それでは、第40話「黒崎一護 VS 朽木白哉」です。


第40話 黒崎一護 VS 朽木白哉

 

双殛の丘を、二つの強大な霊圧が押し合っていた。

 

黒崎一護と朽木白哉。

 

二人が向かい合うだけで空気は重くなり、少し離れた場所にいる隊士たちでさえ、息苦しさを覚えるほどだった。

 

一護は斬月を肩の高さに構えながら、白哉の姿を正面から見据えている。

 

三日前とは違う。

 

懺罪宮で戦った時、一護は白哉の瞬歩を追うことすらできなかった。気づいた時には背後を取られ、斬られた後でようやく何をされたのか理解する。そのくらいの差が、二人の間にはあった。

 

だが、三日間の修行を終えた今、その時の恐怖は一護の中には残っていなかった。

 

「どうした、白哉。来ねぇのか?」

 

挑発するように言う一護へ、白哉は冷静な視線を返す。

 

「三日で何を得たかは知らぬ。その程度で私へ届いたと思うな、黒崎一護」

 

「だったら確かめてみろよ」

 

言い終えるより早く、一護が地面を蹴った。

 

白哉も同時に姿を消し、次の瞬間には丘の中央で斬月と千本桜が激しくぶつかり合う。

 

甲高い音とともに霊圧が弾けた。

 

以前なら一撃を受け止めるだけで体勢を崩していた一護が、今度は白哉の刀を押し返す。その勢いを利用して斬月を斜め下から振り上げると、白哉は上体を僅かに反らして刃を避け、そのまま瞬歩で横へ抜けた。

 

一護は逃がさない。

 

白哉の着地点を読んで追い付き、身体を捻りながら斬月を横薙ぎに振るう。

 

白哉は千本桜で受けたものの、一護の力を完全には殺し切れず、足が石畳の上を僅かに滑った。

 

周囲の隊士たちがざわめく。

 

三日前には白哉の姿さえ捉えられなかった旅禍が、今では六番隊隊長の動きを読み、正面から打ち合っている。

 

少し離れて見守っていた朔夜も、一護の変化をすぐに理解した。

 

「ただ速くなっただけじゃないな」

 

修行前の一護は、相手の動きへ食らいつくことに必死だった。

 

今は白哉の足運びや刀の角度を見ながら、その先を予測して動いている。斬月と戦い続けた三日間は、単純に霊圧や速度を高めただけではなく、一護自身の戦い方を大きく変えていた。

 

再び二人の刀が交差する。

 

白哉の斬撃を斬月の腹で受け流した一護は、そのまま踏み込み、返す刃で胴を狙った。白哉は瞬歩で距離を外すが、一護も間髪入れずに追う。

 

攻める一護に、受けながら機を窺う白哉。

 

数度の斬り合いを経るうちに速度はさらに上がり、やがて周囲の隊士たちには、二人の姿よりも刃が衝突する音の方が先に届くようになっていた。

 

それでも朔夜には見えている。

 

技術と経験では、まだ白哉が上だった。

 

刀の運び、間合いの管理、瞬歩を織り交ぜるタイミングには無駄がなく、一護が勢いだけで押し切れる相手ではない。

 

しかし、その差を埋めるほど一護は急速に食らいついている。

 

何より以前と違うのは、白哉を「届かない相手」として見ていないことだった。

 

一護は最初から、勝つつもりでここへ立っている。

 

◇

 

白哉が大きく距離を取った。

 

一護も追撃せず、斬月を構え直す。

 

「少しは見られるようになったな、黒崎一護」

 

「褒めてんのか?」

 

「事実を述べただけだ」

 

「相変わらず可愛げねぇな」

 

一護の軽口にも白哉の表情は変わらなかった。

 

ただ、その視線だけが先ほどより鋭くなっている。

 

「だが、まだ足りぬ」

 

白哉が千本桜を前へ差し出した。

 

その構えを見た一護の顔から笑みが消える。

 

「散れ――千本桜」

 

刀身が無数の小さな刃へと変わり、光を受けながら桜の花びらのように舞い上がった。

 

次の瞬間、それら全てが一護へ殺到する。

 

一護は横へ飛んで最初の一波をかわした。

 

無数の刃が石畳を抉り、そのまま生き物のように軌道を変えて追いかけてくる。

 

斬月を振るって正面の刃を弾きながら、一護は後ろへ逃げるのではなく白哉へ向かって進んだ。

 

一つ一つを防いでも終わりがない。

 

ならば、千本桜を操る本人へ届けばいい。

 

白哉もその狙いをすぐに見抜いた。

 

「退かずに私へ来るか」

 

「お前を倒しに来たんだから、当たり前だろ!」

 

一護は肩や腕を浅く切られながらも速度を緩めず、刃の密度が薄くなった一瞬を見逃さなかった。

 

千本桜の包囲を抜け、白哉の懐へ飛び込む。

 

振り下ろされた斬月を白哉が受け止めた瞬間、一護は刀身へ霊圧を集中させた。

 

「月牙天衝!」

 

至近距離から放たれた霊圧の斬撃が、白哉を飲み込もうと迫る。

 

白哉は瞬歩で軌道から外れたが、完全には避け切れず、肩口の死覇装が大きく裂けた。

 

少し離れた場所へ着地した白哉が、自分の肩へ一度だけ目を向ける。

 

一護は斬月を構えたまま笑った。

 

「どうだ」

 

白哉は破れた衣服から視線を戻した。

 

「なるほど。三日前とは別人だな、黒崎一護」

 

「やっと分かったか」

 

「だが、それでも私には届かぬ」

 

その言葉とともに、白哉の霊圧が一段階高まった。

 

空気そのものが押し潰されるように重くなる。

 

朔夜はその変化を感じ取り、僅かに目を細めた。

 

「ここからが本番か」

 

恋次との戦いでも使われた力。

 

白哉の卍解。

 

一護もそれが来ると分かっているのだろう。

 

表情には緊張がある。

 

しかし、退く気配はなかった。

 

◇

 

白哉が千本桜を逆さに持つ。

 

「黒崎一護」

 

その声が静かに響く。

 

「三日で得た力がその程度ではないというのなら、全て見せてみろ」

 

一護は斬月を握り直した。

 

「言われなくてもそのつもりだ」

 

白哉が手を離す。

 

千本桜は地面へ吸い込まれるように沈み、その背後から無数の巨大な刀身が浮かび上がった。

 

「卍解――千本桜景厳」

 

並び立った刀が一斉に崩れ、数え切れないほどの刃へと変わる。

 

先ほどの始解とは規模が違った。

 

双殛の丘の一角そのものが、無数の桜に包み込まれたかのようだった。

 

周囲の隊士たちは、その霊圧に耐え切れずさらに距離を取る。

 

一護だけは動かない。

 

千本桜景厳を正面から見上げ、斬月を両手で握った。

 

地下修行場で斬月と向き合い続けた三日間。

 

力を奪うためではなく、自分の斬魄刀と共に戦うために重ねた時間が、一護の中で一つの形になっていた。

 

白哉が眉を寄せる。

 

「何をする」

 

「見せてやるよ」

 

一護の霊圧が急激に膨れ上がった。

 

ただし、その力は周囲へ無造作に広がっていかない。

 

一護自身へ、そして斬月へ向かって、異常なほどの密度で圧縮されていく。

 

朔夜はその変化を感じ取り、口元に小さな笑みを浮かべた。

 

「やっと出すか」

 

足元の石畳へ亀裂が走るほどの霊圧を纏いながら、一護は白哉を真っ直ぐ見た。

 

「白哉。俺はお前を越える」

 

白哉は何も言わず、その言葉を受け止める。

 

「そしてルキアを連れて帰る。そのために手に入れた力だ」

 

一護は斬月を強く握り締めた。

 

「卍解――!」

 

爆発するように霊圧が吹き上がり、砂煙が二人の間を覆った。

 

白哉は目を逸らさない。

 

朔夜も黙って、その中心を見つめている。

 

やがて風に流されるように砂煙が薄れ、その中から一護の姿が現れた。

 

先ほどまでの巨大な斬月はない。

 

一護の手に握られているのは、細身の黒い刀だった。

 

死覇装も形を変え、全身を包む黒がさらに深く見える。

 

「天鎖斬月」

 

一護が静かに名を告げた。

 

周囲の隊士たちが息を呑む。

 

卍解と聞いて想像する姿とは、あまりにも違っていた。

 

白哉もその黒い刀を見つめる。

 

「それがお前の卍解か、黒崎一護」

 

「ああ」

 

「卍解でありながら、その大きさ……力を縮小させたとでもいうのか」

 

一護は口元を上げた。

 

「小さいから弱そうに見えるか?」

 

「そうは言っていない」

 

白哉の周囲で千本桜景厳が大きく広がる。

 

「ならば証明してみろ。その姿に、卍解と呼ぶだけの力があることを」

 

一護は天鎖斬月を低く構えた。

 

朔夜はその姿勢と霊圧の流れを見ただけで理解する。

 

小さくなったのではない。

 

全てを押し込めたのだ。

 

膨大な霊圧を拡散させず、小さな刀と一護自身へ極限まで圧縮することで、その力を速度へ変えている。

 

一護が白哉を見据えた。

 

「白哉。一つ教えといてやる」

 

「何だ」

 

「今までの俺と同じ速さだと思うなよ」

 

言葉が終わった瞬間、一護の姿が消えた。

 

白哉の視線が僅かに遅れる。

 

次に一護の声が聞こえた時には、既に背後だった。

 

「遅ぇぞ」

 

天鎖斬月の切っ先が、白哉の首筋へ届いている。

 

白哉の目が初めて大きく見開かれた。

 

一護の卍解は、ただ霊圧を増大させるものではない。

 

膨大な力を小さな形へ閉じ込め、その全てを超高速の戦闘能力へ変える。

 

それを理解した瞬間、白哉の視線から最後の侮りが消えた。

 

「そういうことか……黒崎一護」

 

◇

 

少し離れた場所で見ていた朔夜は、ようやく肩の力を抜いた。

 

一護は白哉の卍解を前にしても退かなかった。

 

それどころか、天鎖斬月を使った今なら白哉の速度すら上回っている。

 

この先の戦いがどうなるかは分からない。

 

白哉にもまだ底がある。

 

だが、少なくとももう、朔夜が近くに残って「もしもの時」に備える必要はなかった。

 

一護は自分の力で白哉と戦えている。

 

その確信を得た直後だった。

 

朔夜の表情から笑みが消える。

 

先ほどから意識の片隅に引っ掛かっていた霊圧が、また動いた。

 

「……ギン」

 

市丸ギンの霊圧だった。

 

問題は、ただ場所を移していることではない。

 

処刑場では浮竹と京楽が動き、各隊でも混乱が広がっている。普通なら隊長として、自隊へ戻るか、双殛周辺の騒ぎへ対応するはずだった。

 

ところがギンは、そのどちらにも向かっていない。

 

瀞霊廷の騒動から離れるように、戦いとは直接関係のない方向へ進んでいる。

 

しかも、周囲へ気配を悟らせないよう霊圧の揺れまで抑えていた。

 

昔からギンを知っている朔夜だからこそ、その不自然さが分かる。

 

何も企んでいない時の動きではない。

 

朔夜は一護と白哉を振り返る。

 

白哉の千本桜景厳が広がり、一護は天鎖斬月を握って正面から向き合っている。

 

ここに残れば、一護の戦いを最後まで見届けられる。

 

だが、そのために瀞霊廷の裏で起きている異変を見過ごすわけにはいかなかった。

 

それにルキアは恋次が連れて離れ、処刑場周辺では浮竹や京楽も動いている。

 

今、自分にしかできないことがあるとすれば――それは別の場所だ。

 

「一護」

 

朔夜が小さく呼ぶ。

 

戦いに集中している一護が振り返ることはない。

 

それでよかった。

 

「こっちは任せたよ」

 

独り言のように告げると、朔夜は双殛の丘へ背を向けた。

 

一護を信じて戦いを任せることと、仲間を放っておくことは違う。

 

今の一護なら白哉と戦える。

 

だからこそ朔夜は、ここで初めて別の異変へ動くことを選べた。

 

「ギン……何してるんだ」

 

僅かに目を細める。

 

次の瞬間、朔夜の姿がその場から消えた。

 

双殛の丘では、卍解を解放した一護と白哉の戦いがさらに激しさを増そうとしている。

 

その裏で朔夜もまた、誰にも気づかれないまま進み始めた異変を追って、瀞霊廷の奥へ向かっていた。

 

一護には、一護の戦いがある。

 

そして朔夜にも今、向かわなければならない場所がある。

 

二つの戦いが、ここから同時に動き始めようとしていた。




一護がついに卍解「天鎖斬月」を解放。

白哉との戦いを任せられると判断した朔夜も、市丸ギンの不審な動きを追って双殛を離れます。


次回――
第41話「異変」
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