BLEACH ―斬界の御厨子―   作:tunagi

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今回は織姫。

朔夜が初めて彼女の力を目にします。


第5話 井上織姫

 

井上織姫。

 

黒崎一護のクラスメイト。

 

明るく、優しく、どこか天然。

 

そして――料理の発想がかなり独特。

 

「御門くん、これ食べます?」

 

昼休み。

 

織姫が差し出した弁当を見て、朔夜は固まった。

 

「……これは?」

 

「チョコバナナ納豆おにぎりです!」

 

「一護」

 

「俺を見るな」

 

「お前のクラスメイトだろ」

 

「だから何だよ!」

 

織姫は不思議そうに首を傾げる。

 

「美味しいですよ?」

 

「……気持ちだけ貰っておく」

 

「そうですか……」

 

少し残念そうにする織姫。

 

そんな姿を見て、朔夜は苦笑した。

 

普段の彼女は。

 

どこにでもいる、少し変わった普通の高校生に見える。

 

だが。

 

最近。

 

一護の周囲にいる者たちは、少しずつ変わり始めていた。

 

石田雨竜。

 

茶渡泰虎。

 

そして。

 

井上織姫もまた――。

 

◇

 

その夜。

 

浦原商店。

 

縁側で寝転がっていた朔夜が、突然目を開いた。

 

「……何だ?」

 

感じたことのない霊圧。

 

人間でもない。

 

死神でもない。

 

虚とも違う。

 

奇妙な感覚。

 

朔夜は身体を起こす。

 

隣にいた黒猫――夜一も耳を動かした。

 

「気づいたか?」

 

「ああ」

 

朔夜は遠くを見つめる。

 

「織姫の方だ」

 

「行くのか?」

 

「気になる」

 

「なら行ってこい」

 

「夜一さんは?」

 

「わしは眠い」

 

「自由だな」

 

「おぬしに言われたくない」

 

朔夜はため息をつき。

 

次の瞬間には姿を消した。

 

◇

 

屋根の上。

 

朔夜は眼下の光景を見ていた。

 

織姫。

 

その友人。

 

そして。

 

虚。

 

「……なるほど」

 

虚の正体。

 

それは。

 

生前、織姫の兄だった魂。

 

妹を愛していた。

 

大切にしていた。

 

だからこそ。

 

死んだ後も。

 

織姫の側にいた。

 

しかし。

 

その想いは。

 

虚によって歪められてしまった。

 

「厄介だな」

 

朔夜は呟く。

 

倒すだけなら簡単だ。

 

刀を抜く必要もない。

 

ただ。

 

指を動かすだけでも終わる。

 

だが。

 

これは。

 

ただの敵ではない。

 

織姫の兄だ。

 

朔夜は動かない。

 

「……お前ならどうする?」

 

誰に言うでもなく呟く。

 

戦いは続く。

 

織姫は傷つく。

 

それでも。

 

兄を憎まない。

 

拒絶しない。

 

ただ。

 

昔の兄に戻ってほしいと願う。

 

その時。

 

織姫の髪飾りが。

 

光った。

 

「!」

 

朔夜が目を細める。

 

六つの小さな存在。

 

それぞれが。

 

異なる力を持っている。

 

攻撃。

 

防御。

 

そして。

 

傷ついたものを癒す力。

 

「……いや」

 

朔夜は首を振る。

 

「治してるだけじゃない」

 

壊れたものを。

 

元に戻している。

 

違う。

 

もっと根本的だ。

 

起きた出来事そのものを。

 

拒絶するような力。

 

「何だ、これ……」

 

朔夜が。

 

初めて明確に驚いた。

 

攻撃力なら。

 

上には上がいる。

 

速さも。

 

力も。

 

鍛えれば伸ばせる。

 

だが。

 

織姫のこれは。

 

そういう次元ではない。

 

「事象そのものに干渉してる……?」

 

もし。

 

この力が成長すれば。

 

傷を治すどころではない。

 

起きたことそのものを。

 

無かったことにする。

 

そんな領域にまで。

 

届くかもしれない。

 

「喜助が見たら絶対喜ぶな」

 

朔夜は嫌そうな顔をした。

 

「研究対象にされそうだ」

 

戦いが終わる。

 

虚となった兄が。

 

少しずつ。

 

人間だった頃の心を取り戻す。

 

織姫は。

 

兄を責めなかった。

 

ただ。

 

泣きながら。

 

見送った。

 

光となって。

 

兄の魂が消えていく。

 

朔夜は。

 

その光景を。

 

何も言わず見ていた。

 

「……強いな」

 

力の話ではない。

 

敵を倒したからでもない。

 

自分を傷つけた相手を。

 

それでも愛して。

 

許す。

 

そんな強さ。

 

朔夜には。

 

簡単にはできない。

 

「俺なら」

 

もし。

 

大切な人を傷つけられたら。

 

許せるだろうか。

 

朔夜は。

 

自分の腰にある斬魄刀を見た。

 

答えは。

 

考えるまでもなかった。

 

「……無理だな」

 

だからこそ。

 

井上織姫という少女を。

 

少しだけ。

 

凄いと思った。

 

◇

 

翌日。

 

学校帰り。

 

朔夜は偶然。

 

織姫と顔を合わせた。

 

「御門くん!」

 

「よう」

 

織姫は。

 

いつもと変わらない笑顔。

 

しかし。

 

目の奥に。

 

昨日までとは違うものがある。

 

「昨日」

 

織姫が言う。

 

「不思議な夢を見たんです」

 

「夢?」

 

「はい」

 

少しだけ。

 

寂しそうに。

 

それでも。

 

嬉しそうに笑う。

 

「お兄ちゃんに会えたような気がして」

 

朔夜は。

 

何も言わなかった。

 

本当のことを教える必要はない。

 

少なくとも。

 

今は。

 

「いい夢だった?」

 

織姫は。

 

力強く頷いた。

 

「はい!」

 

朔夜も。

 

小さく笑う。

 

「なら、それでいいんじゃない」

 

「はい!」

 

織姫が走っていく。

 

朔夜は。

 

その背中を見送る。

 

そして。

 

静かに呟いた。

 

「その力」

 

織姫には聞こえない。

 

「大切にしろよ」

 

人を斬る力より。

 

壊す力より。

 

誰かを救える力の方が。

 

きっと。

 

ずっと。

 

扱うのが難しいのだから。

 

朔夜は。

 

自分の手を見る。

 

自分にあるのは。

 

斬るための力。

 

それでも。

 

いつか。

 

「守るためだけに使えればいいんだけどな」

 

そう呟いて。

 

朔夜は。

 

ゆっくりと歩き出した。




織姫の力を見て、朔夜自身の「強さ」の価値観にも少し影響が出る回でした。

次回は一護にとって、そして朔夜にとっても重要な相手が登場します。
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