BLEACH ―斬界の御厨子―   作:tunagi

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一護たちは尸魂界での戦いを終え、無事に空座町へ帰ってきました。

ルキアたちと別れ、それぞれの日常へ戻っていく一護たち。しかし、朔夜には帰ってすぐに確認しておきたいことがあります。

藍染が奪った崩玉。そして、浦原喜助がこれまで語らなかったこと。

第二部「尸魂界篇」を終え、物語は次の段階へ進みます。

それでは、第50話「帰還」です。


第50話 帰還

 

穿界門を抜けた一護たちを迎えたのは、見慣れた空座町の景色だった。

 

夕方の風が通りを抜け、遠くから車の音が聞こえてくる。ほんの数日前まで刀を振るい、隊長格を相手に命懸けの戦いをしていたことが嘘のような、いつも通りの街だった。

 

「じゃあ、ここで一旦解散だな」

 

石田がそう言うと、井上が少し名残惜しそうに皆を見る。

 

「明日、学校で会えるよね?」

 

「俺は行く」

 

茶渡がいつもの調子で答えた。

 

石田も頷く。

 

「僕もそのつもりだ。黒崎はどうする?」

 

「行くに決まってんだろ。これ以上休んだら学校で何言われるか分かんねぇ」

 

一護はそう答えたものの、すぐに別の問題を思い出したらしく顔をしかめた。

 

「……その前に家だな」

 

朔夜が横から一護を見る。

 

「頑張って」

 

「他人事みたいに言うな」

 

「他人事だからね」

 

「お前、こういう時だけ冷たいよな」

 

「じゃあ一緒に行って、怒られるところ見守ろうか?」

 

「来なくていい!」

 

即答した一護に、井上が思わず笑う。

 

一行はそれぞれの家へ向かうことになり、井上と茶渡、石田が順番に別れていった。一護も黒崎家へ向かおうとしたが、数歩進んだところで立ち止まり、振り返る。

 

「朔夜」

 

「何?」

 

「傷、ちゃんと治せよ」

 

朔夜は少し意外そうに一護を見る。

 

「一護に言われるとは思わなかった」

 

「うるせぇ。尸魂界で斬られてんの見たんだから気になるだろ」

 

「分かったよ。一護もね」

 

「俺はもう大丈夫だ」

 

「そういうこと言う人ほど危ないって、夜一さんが言ってたよ」

 

「お前が言われたやつだろ、それ!」

 

一護は呆れながらも、最後には少し笑った。

 

「じゃあな」

 

「うん。また明日」

 

一護が走り去っていく。

 

朔夜はその背中を見送った後、隣に立っていた夜一と浦原へ顔を向けた。

 

「俺たちも帰ろうか」

 

「ようやくその気になったか」

 

夜一が歩き出す。

 

浦原は杖を肩に乗せながら、いつもの軽い調子で続いた。

 

「いやぁ、やっぱり現世は落ち着きますねぇ」

 

朔夜はその横顔を見る。

 

「喜助」

 

「はい?」

 

「帰ったら話があるって言ったよね」

 

浦原の足がほんの僅かに遅くなった。

 

「……覚えてました?」

 

「忘れると思った?」

 

「少しくらい忘れてくれたら助かったんですけど」

 

夜一が振り返る。

 

「諦めろ、喜助。今回はわしも聞くぞ」

 

「二対一ですか。これは逃げられそうにありませんねぇ」

 

冗談めかして笑う浦原だったが、朔夜はそれ以上追及しなかった。

 

聞くべきことは浦原商店へ戻ってから聞けばいい。

 

道端でする話ではない。

 

◇

 

浦原商店へ戻ると、鉄裁たちがいつも通り出迎えた。

 

「お帰りなさいませ!」

 

「ただいま」

 

朔夜が返事をすると、店の奥からジン太の声が飛んでくる。

 

「遅ぇぞ! いつまで尸魂界行ってんだよ!」

 

「ジン太、帰ってきた人に最初にそれ言う?」

 

「うるせぇ! こっちは店番してたんだぞ!」

 

「偉い偉い」

 

「子供扱いすんな!」

 

ジン太が怒鳴る横で、雨が朔夜の包帯に気づいて心配そうな顔をした。

 

「朔夜さん……怪我、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫。治療はしてもらったから」

 

「本当に?」

 

「本当に」

 

そう答えると、雨は少しだけ安心したようだった。

 

いつもの店。

 

いつもの声。

 

少し前まで当たり前だった光景が、今は妙に落ち着く。

 

朔夜はそれを感じながら店の奥へ進んだ。

 

「喜助。話、今いい?」

 

「ええ」

 

浦原も逃げるつもりはないらしい。

 

夜一も当然のようについてくる。

 

三人は地下の修行場へ降りた。

 

◇

 

広い地下空間へ入ると、浦原は帽子を少し深く被り直した。

 

朔夜は壁際に座り、包帯の巻かれた肩を軽く回す。

 

「まず一つ」

 

「はい」

 

「藍染が崩玉を狙ってるって、どこまで分かってた?」

 

浦原はすぐには答えなかった。

 

夜一も横から口を挟まず、静かに待っている。

 

しばらくして、浦原は口を開いた。

 

「藍染サンが崩玉そのものに関心を持っていることは、以前から分かっていました」

 

「でも、ルキアの中に隠した」

 

「はい」

 

「そこが分からない」

 

朔夜の声に責める調子はなかった。

 

だからこそ、浦原も誤魔化さなかった。

 

「アタシは当時、崩玉を完全に消す方法を見つけられなかった。ならば誰にも見つからない形で封じるしかないと考えました」

 

「それで朽木さんを選んだ」

 

「……ええ」

 

浦原の表情が曇る。

 

「結果的に、彼女を巻き込みました」

 

朔夜は少し黙った。

 

ルキア自身が浦原に言った通り、それとこれとは別だ。

 

浦原が一護たちを助けたことと、ルキアへ何も知らせず崩玉を隠したことは、同じものとして片づけられない。

 

「もう一つ」

 

朔夜は続けた。

 

「藍染の鏡花水月。あれ、知ってた?」

 

「能力の正体までは知りませんでした。ただ、藍染サンの斬魄刀について公表されている情報が不自然だとは思っていました」

 

「つまり、怪しいとは思ってたけど完全催眠までは読めなかった」

 

「そういうことです」

 

朔夜は小さく息を吐く。

 

「そっか」

 

意外なほど短い反応に、浦原が少し驚いた。

 

「もっと怒るかと思いました」

 

「怒ってるよ」

 

朔夜は素直に答えた。

 

「でも怒ったところで、崩玉が戻ってくるわけじゃないし、鏡花水月が破れるわけでもない」

 

夜一が朔夜を見る。

 

以前なら、もっと感情を前へ出していたかもしれない。

 

だが尸魂界で藍染に何度も読み負けたことで、朔夜自身も少し変わっていた。

 

「それより、次に同じことが起きた時にどうするか考えたい」

 

浦原の目が僅かに細くなる。

 

「もう次を考えているんですね」

 

「藍染が崩玉持って逃げたんだから、何も起きない方がおかしいでしょ」

 

「それはそうなんですけど」

 

朔夜は自分の御厨子へ目を向ける。

 

尸魂界で初めて正式に解放した始解。

 

それでも藍染を止められなかった。

 

「御厨子も、もう少し調べたい」

 

夜一が眉を上げる。

 

「始解したばかりで、もう次か?」

 

「始解したから分かったことが多いんだよ」

 

未解放でも使えていた解と捌。

 

それが始解すると、複数の場所へ同時に斬撃を刻めるようになった。

 

だが、あれで終わりだとは思えない。

 

自分自身、御厨子の全てを理解したとは言えなかった。

 

「ただし」

 

夜一が釘を刺す。

 

「傷が治るまでは本格的な修行は禁止じゃ」

 

「え」

 

「え、ではない」

 

「軽くなら?」

 

「駄目じゃ」

 

「刀眺めるだけなら?」

 

「好きにせい」

 

「じゃあそこから始める」

 

夜一が呆れたように額を押さえた。

 

浦原が横で笑う。

 

「朔夜サンらしいですねぇ」

 

「喜助は笑ってないで付き合ってよ」

 

「え?」

 

「御厨子の解析」

 

浦原の笑顔が止まった。

 

「アタシもですか?」

 

「当然」

 

夜一が愉快そうに笑う。

 

「逃げ道を自分で塞いだの、喜助」

 

「今日は厄日ですかねぇ……」

 

ようやく地下に少しだけ軽い空気が戻った。

 

◇

 

その日の夜。

 

朔夜は浦原商店の屋根に座っていた。

 

空座町の夜景は、尸魂界とはまるで違う。

 

車の音。

 

家々の明かり。

 

遠くから聞こえる人の声。

 

どれも見慣れている。

 

「やっぱり、こっちの方が落ち着くな」

 

一人で呟く。

 

すると、近くで小さな霊圧が動いた。

 

朔夜の表情が変わる。

 

虚。

 

大した霊圧ではない。

 

町外れに現れただけの、よくいる程度の虚だった。

 

普段なら特に気にする必要もない。

 

だが尸魂界から戻ったばかりだからか、朔夜は立ち上がった。

 

「ちょっと行ってくるか」

 

瞬歩で屋根から姿を消す。

 

◇

 

虚が現れたのは、人気のない河川敷だった。

 

魂魄を追い回していた虚の前へ、朔夜が降り立つ。

 

「悪いね。今日はちょっと機嫌が悪いんだ」

 

虚が咆哮し、巨大な腕を振り下ろす。

 

朔夜は避けることもなく、右手の指を僅かに動かした。

 

「解」

 

次の瞬間、虚の仮面が音もなく割れた。

 

巨体が崩れ、光となって消えていく。

 

戦いと呼べるほどのものではない。

 

朔夜は御厨子を抜くことさえしなかった。

 

「……やっぱり違うな」

 

自分の指を見る。

 

尸魂界へ行く前なら、それで終わっていた。

 

だが今は、斬撃を放った瞬間に別のことを考えてしまう。

 

距離。

 

深さ。

 

角度。

 

同時にいくつまで扱えるか。

 

始解した御厨子を知ってしまったことで、未解放の解の感覚さえ以前より鮮明になっていた。

 

「傷治ったら、色々試してみるか」

 

その時だった。

 

消滅した虚の霊圧とは別に、遠くで僅かな気配を感じた。

 

朔夜が顔を上げる。

 

「……?」

 

すぐに消えた。

 

虚ではない。

 

死神でもない。

 

一瞬だけだったため、正体までは掴めない。

 

「今の、何だ?」

 

しばらく周囲を探る。

 

だが、もう何も感じない。

 

気のせいだと片づけるには、少しだけはっきりしすぎていた。

 

朔夜は眉を寄せる。

 

「……帰ってきたばっかりなんだけどな」

 

溜息をつく。

 

それでも、今夜は追わなかった。

 

傷もある。

 

何より、相手が何なのかすら分からない。

 

尸魂界で学んだばかりだ。

 

分からない相手を、分かったつもりで追うべきではない。

 

朔夜は気配が消えた方向を一度だけ見た後、浦原商店へ戻るために踵を返した。

 

◇

 

その頃。

 

空座町から少し離れた暗闇の中で、一つの影が街を見下ろしていた。

 

「……ここか」

 

人とも死神とも違う霊圧が、静かに揺れる。

 

その姿を見ている者はいない。

 

影はしばらく空座町を眺めた後、闇の中へ姿を消した。

 

尸魂界での戦いは終わった。

 

一護たちは日常へ戻った。

 

だが、その日常は長く続かない。

 

崩玉を手にした藍染が動き始めた時から、次の戦いへの歯車は既に回り始めていた。

 

そして空座町にもまた、新たな存在が近づこうとしていた。





一護たちは日常へ戻り、朔夜も浦原と今回の件について話しました。

しかし、空座町では早くも見慣れない霊圧が現れ始めています。

次回――
第51話「見えない違和感」
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