一護の前には、藍染の命令すら気にせず戦いを求める男――グリムジョー・ジャガージャックが現れました。
一方、朔夜も自分を狙っていた破面との戦闘を開始。
修行中の「纏う斬撃」が、初めて実戦の中で試されます。
それでは、第58話「グリムジョー」です。
「俺はグリムジョー・ジャガージャック。お前がどれだけ強ぇのか――見せてみろよ」
水色の髪を揺らしながら笑う男を前に、一護は斬月を握り直した。
離れた場所では、先ほどまで二人の前にいた破面が瓦礫の中から立ち上がっている。ルキアはそちらへ視線を向けたが、目の前にいるグリムジョーの霊圧は明らかに格が違っていた。
「一護、気をつけろ。こいつは先ほどの奴とは違う」
「言われなくても分かってる」
一護が答えた直後、グリムジョーの姿が消えた。
「っ!」
反射的に斬月を上げると、拳が刀身へ叩き込まれる。凄まじい衝撃に一護の身体が屋根の上を滑り、止まった時にはグリムジョーがすでに目の前まで追ってきていた。
「遅ぇぞ!」
蹴りをかわし、一護は斬月を振り上げる。だがグリムジョーは軽く身を捻って避け、そのまま一護の横を抜けた。
「悪くねぇ。でも、まだ足りねぇな」
「上から言ってんじゃねぇ!」
一護が追おうとした時、背後からルキアの声が飛ぶ。
「一護!」
振り返ると、もう一体の破面がルキアへ襲いかかっていた。
その僅かな隙に、グリムジョーの拳が一護の頬を捉える。
「余所見すんな」
一護の身体は屋根を突き破り、そのまま道路へ叩き落とされた。
ルキアは駆け寄ろうとしたが、破面が前へ立ちはだかる。
「人の心配をしている場合か?」
「退け」
ルキアは袖白雪を抜いた。
「初の舞――月白」
足元に白い円が広がり、次の瞬間には破面の身体が氷柱に包まれる。亀裂が走り、氷ごと身体が崩れ落ちた。
「一護!」
ルキアが振り返る。
その背後に、グリムジョーが立っていた。
「心配すんのは自分にしとけよ」
「――!」
ルキアが反応するより早く、グリムジョーの腕が腹部を貫いた。
「ルキア!」
一護の叫びが響く。
グリムジョーが腕を抜くと、ルキアはその場へ崩れ落ちた。
「……ルキア?」
返事はない。
一護の霊圧が一気に膨れ上がる。
「てめぇ……!」
グリムジョーは怒りを向けられても怯えず、むしろ嬉しそうに笑った。
「そうだ。その顔だよ」
一護は斬月を握り締める。
「卍解――天鎖斬月」
黒い霊圧が爆発し、巨大だった斬月が黒い刀へ変わる。
次の瞬間、一護の姿が消えた。
頭上から振り下ろされた天鎖斬月を、グリムジョーが腕で受ける。衝撃が周囲へ広がり、その霊圧は遠く離れた工業地区にまで届いた。
◇
工業地区で戦っていた朔夜も、一護の卍解を感じ取った。
「……始めたか」
そう呟いた直後、目の前の破面が刀を振るう。
朔夜は身をずらしてかわしながら右腕へ斬撃を纏わせ、そのまま刀身へ腕を当てた。
金属音とともに亀裂が走る。
破面はすぐに距離を取った。
「触れていないのに、刀が斬られた……その腕の周囲へ斬撃を置いているのか」
「分析早いね」
「藍染様から聞いた通りだ。お前の能力は単純な斬撃ではない」
その言葉で、朔夜の表情が変わった。
相手は勝つためだけに戦っているのではない。
自分の能力を見るために来ている。
「……なるほど」
朔夜は右腕の斬撃を消した。
「やめるのか」
「これ以上見せるの、嫌になった」
「今さら遅い」
破面が再び踏み込んでくる。
朔夜は刀を抜かずに数撃を避けたが、その途中で右腕に鋭い痛みが走った。
包帯の下から血が滲む。
斬撃を急に消したことで、制御が一瞬乱れていた。
破面がそれを見て笑う。
「未完成か」
「そこまで見られたか」
「十分な情報だ」
「……やられたな」
朔夜は素直に認めた。
実戦で新しい技を試すことばかり考え、相手の目的を読むのが遅れた。
その失敗を引きずる代わりに、朔夜は御厨子を抜いた。
「でも、ここから先は見せなくていい」
破面が刀を構える。
「終わらせるつもりか」
「うん」
朔夜が僅かに指を動かした。
「解」
破面の刀が根元から斬れ、その胸元にも浅い傷が走る。
さらにもう一つの斬撃が、首元へ届く寸前で止まった。
相手には見えない。
それでも朔夜の殺気を感じ取ったのか、破面は動きを止めた。
「帰って藍染に伝えて」
「……何をだ」
「俺の能力を調べたいなら、次はもう少し上手くやれって」
「殺さないのか?」
「伝言頼んでるからね」
朔夜の目が細くなる。
「ただし、次も同じことしたら帰さない」
その直後、遠くから巨大な霊圧がぶつかった。
一護とグリムジョーだ。
朔夜がそちらへ意識を向けた一瞬、破面の背後に黒腔が開く。
「十分だ。御門朔夜」
「待て!」
解を放つ。
だが斬撃が届く直前、黒腔が閉じた。
「……逃がした」
舌打ちしかけた朔夜だったが、すぐに別の異変へ気づく。
一護の近くにあるルキアの霊圧が、急激に弱くなっていた。
「……ルキア?」
表情が変わる。
次の瞬間、朔夜は瞬歩でその場から消えた。
◇
その頃、一護とグリムジョーの戦いは、一気に激しさを増していた。
卍解した一護は速度で食らいつき、天鎖斬月を何度も振るう。グリムジョーも正面から応じ、互いに一歩も退かないまま屋根から空中へ戦場を移していった。
「いいじゃねぇか!」
グリムジョーが笑う。
「これがてめぇの卍解か!」
「まだ終わってねぇ!」
一護は距離を取り、斬月へ霊圧を集めた。
「月牙天衝!」
黒い斬撃が夜空を走り、グリムジョーを正面から呑み込む。
爆発の煙が晴れる。
グリムジョーの身体には確かに傷があった。
それでも男は笑っている。
「最高じゃねぇか、黒崎一護」
「……まだ立つのかよ」
「その程度で終わると思ったか?」
再び二人が激突する。
しかし、今度は一護の動きが僅かに鈍った。
胸の奥から、聞き覚えのある声が響く。
――どうした?
「……っ」
――せっかく面白ぇ相手じゃねぇか。
「出てくんな……」
一護の集中が途切れた。
その瞬間、グリムジョーの拳が腹へめり込む。
「がっ!」
一護は地面へ叩き落とされ、瓦礫の中を転がった。
「何だよ」
グリムジョーが降りてくる。
「急に遅くなりやがって」
「うるせぇ……!」
一護は立ち上がろうとするが、内なる虚の声が頭から離れない。
仮面を使えばいい。
そのために修行してきた。
だが手を顔へ伸ばしても、白い欠片が僅かに現れるだけで崩れていく。
「くそっ……!」
グリムジョーの笑みが消えた。
「それだけか」
拳が振り上げられる。
その時、白い影が横から飛び込み、グリムジョーへ蹴りを叩き込んだ。
グリムジョーは腕で受けながら後退する。
一護が顔を上げた。
「……平子?」
そこに立っていたのは平子真子だった。
「何してんねん、一護」
「何で……お前が」
「修行途中で実戦出て、案の定ボコボコにされとる奴が言う台詞ちゃうやろ」
「うるせぇ……」
「それだけ言えるなら、まだ大丈夫やな」
グリムジョーが平子を睨む。
「何だ、お前」
「通りすがりの親切な高校生や」
「ふざけてんのか?」
「割と真面目やで」
平子は片手を顔へ上げた。
白い仮面が現れ、その顔を覆う。
死神の霊圧へ、濃密な虚の力が重なった。
グリムジョーの目が僅かに細くなる。
「……何だ、その霊圧」
仮面の奥から、平子が答える。
「一護に見せたやろ」
刀を構える。
「これが――俺らの力や」
二人の霊圧が正面からぶつかった。
その衝撃は、こちらへ向かっていた朔夜にもはっきり届いた。
「平子……」
朔夜は速度をさらに上げる。
一護の霊圧は弱っている。
ルキアも危険な状態だ。
急がなければならない。
そう思った、その時だった。
腰の御厨子が僅かに震える。
――ようやく、それに気づいたか。
「……?」
朔夜の足が一瞬だけ鈍った。
周囲に人影はない。
それでも声は確かに聞こえた。
低く、尊大で、こちらを嘲笑うような声だった。
朔夜は走りながら御厨子へ視線を落とす。
「……お前か?」
返事はない。
遠くで再び霊圧が爆発し、朔夜はすぐに前を向いた。
今は立ち止まれない。
それでも、御厨子の奥にいる何かが自分を見ている。
その感覚だけは、妙に鮮明に残っていた。
一護とグリムジョーが激突。
卍解で食らいついた一護でしたが、内なる虚への迷いによって戦いを続けられなくなり、平子が介入しました。
一方、朔夜は「纏う斬撃」を実戦で使用したものの、相手が能力確認を目的としていたことに気づくのが遅れ、情報を持ち帰られてしまいます。
そして一護たちのもとへ向かう途中、御厨子から聞こえた謎の声。
次回――
第59話「仮面」