BLEACH ―斬界の御厨子―   作:tunagi

69 / 69

虚圏へ到着した一護、茶渡、石田、そして朔夜。

そこで出会ったネル、ペッシェ、ドンドチャッカから、遠くにそびえる白い城が藍染の居城――虚夜宮であることを知りました。

井上がいる可能性が最も高い場所。

救出班は、ついに敵の本拠地へ向かいます。

それでは、第68話「虚夜宮」です。



第68話 虚夜宮

 

白い砂漠の彼方にそびえる虚夜宮は、歩いても歩いてもなかなか近づいてこなかった。

 

距離感がおかしくなるほど巨大で、最初は地平線の向こうに浮かんでいた白い影が、進むにつれて少しずつ城壁の形を見せ始める。

 

先頭を歩く一護は、何度目か分からないほど遠くを見上げて眉を寄せた。

 

「まだ着かねぇのかよ」

 

「さっきから三回目だぞ、その台詞」

 

石田が呆れたように返すと、一護はすぐに振り向く。

 

「じゃあお前は遠く感じねぇのか?」

 

「感じるが、言ったところで距離は縮まらない」

 

「そういうところがムカつくんだよ!」

 

二人が言い合う横で、茶渡は黙々と歩き続けていた。

 

その少し後ろでは、ネルが砂の上を跳ねるように進み、ペッシェとドンドチャッカがその後を追っている。

 

「イツゴのヤツ、せっかちっすねぇ」

 

「誰のせいで時間食ったと思ってんだよ!」

 

一護が振り返ると、ネルはきょとんとする。

 

「ネルのせいっす?」

 

「お前らを助けるために砂の化け物から逃げただろ!」

 

「助けてくれたのは感謝してるっすよ?」

 

「何で上からなんだ!」

 

すぐ横でペッシェが深く頷く。

 

「ネル様は感謝の心にあふれたお方っす」

 

「本当かよ」

 

「もちろんっす。ただし表現方法には個人差があるっす」

 

「便利な言葉使ってんじゃねぇ!」

 

ドンドチャッカも腕を振りながら加わる。

 

「ネル様は照れ屋なのでヤンス!」

 

「ドンドチャッカ、余計なこと言うなっす!」

 

「痛いでヤンス!」

 

ネルに叩かれたドンドチャッカが泣き出し、ペッシェまで面白がって騒ぎ始める。

 

少し前を歩いていた朔夜は振り返り、苦笑した。

 

「虚圏に来たとは思えないくらい騒がしいね」

 

「お前も大概慣れてんだろ」

 

一護が返す。

 

「尸魂界よりは静かな旅になると思ってた」

 

「どこをどう見てそう思ったんだ」

 

石田のもっともな指摘に、朔夜は肩をすくめた。

 

そのまま歩みを進めながらも、周囲への警戒は緩めていない。

 

虚圏では遠くの霊圧が空気に混ざりやすく、現世よりも位置を読みづらい。虚夜宮から感じる霊圧も多く、井上だけを探し出すことはまだできなかった。

 

それでも、目指す場所ははっきりしている。

 

井上がいるとすれば、あの中だ。

 

石田が途中で足を止め、浦原から渡された霊子標識を砂へ設置した。

 

一護がそれを見て今度は何も言わない。

 

前回注意されたことを覚えているらしい。

 

「珍しいね」

 

朔夜が言う。

 

「何がだよ」

 

「一護が標識忘れてない」

 

「俺だって学習する!」

 

「さっき石田が止まったから気づいただけじゃない?」

 

「うるせぇ!」

 

一護の声が響き、ネルが楽しそうに笑う。

 

だが次の瞬間、茶渡が足を止めた。

 

「誰かいる」

 

空気が変わる。

 

一護もすぐに斬月へ手を掛け、石田が周囲へ意識を広げた。

 

朔夜も視線を前方へ向ける。

 

砂丘の向こう。

 

何かが動いた。

 

ネルたち三人の表情も変わった。

 

「……虚っす」

 

ネルの声から、先ほどまでの無邪気さが少し消える。

 

一護が一歩前へ出る。

 

「強いのか?」

 

ネルは首を傾げる。

 

「ネルには分かんないっす」

 

「分かんねぇのかよ!」

 

「だって見えないっす!」

 

その直後、砂丘の向こうから複数の影が現れた。

 

人型に近い。

 

白い装束。

 

仮面の名残。

 

破面だ。

 

数は六。

 

どれもグリムジョーやウルキオラほどの圧はない。

 

だが、こちらを見つけるなり一斉に武器へ手を掛けた。

 

「侵入者だ」

 

一人が低く告げる。

 

「虚夜宮へ向かっている」

 

一護も斬月を抜いた。

 

「ちょうどいい。道聞こうぜ」

 

石田が眉をひそめる。

 

「普通に聞いて答えると思うのか?」

 

「倒してから聞く」

 

「それはもっと答えないだろう!」

 

言い合っている間に、破面の一人が地面を蹴った。

 

狙いは一護。

 

刀が振り下ろされる。

 

一護は斬月で受け止め、そのまま力で押し返した。

 

「悪ぃけど急いでんだ!」

 

相手の体勢が崩れたところへ、茶渡が横から踏み込む。

 

拳が腹へ入る。

 

破面は砂の上を大きく転がった。

 

残る五人も同時に動く。

 

石田はすぐに霊子の弓を展開し、二本の矢を連続して放った。一人の肩と太腿を正確に射抜き、動きを止める。

 

「殺す必要はない。情報を取るんだろう?」

 

「さすが石田」

 

朔夜が言いながら指先を動かす。

 

「解」

 

別方向から一護へ迫っていた二人の武器だけが、ほぼ同時に根元から切断された。

 

相手の動きが止まる。

 

その隙に一護が斬月の峰で一人を吹き飛ばし、茶渡がもう一人の足元を拳で崩した。

 

「あと二人」

 

朔夜が確認した時、最後方にいた一人が虚夜宮へ向かって走り出した。

 

「知らせに行く気だ!」

 

石田が弓を向ける。

 

だが、その前に朔夜が止めた。

 

「待って」

 

「何?」

 

一護も振り返る。

 

「逃がすのか?」

 

朔夜は走り去る破面の背中を見ながら頷いた。

 

「うん」

 

「何でだよ!」

 

「どうせ俺たちが入ればバレる。それなら、こっちが来たって分かった状態でどう動くか見た方がいい」

 

石田が少し考えた。

 

「敵の反応を見るのか」

 

「そう。それに、全員捕まえても案内してくれるとは限らないしね」

 

一護は不満そうだったが、走り去る相手を追わなかった。

 

残った破面たちは倒れながらも、こちらを睨んでいる。

 

朔夜が一人の前へしゃがんだ。

 

「聞きたいことがあるんだけど」

 

「話すと思うか」

 

「そう言うと思った」

 

朔夜は困ったように笑う。

 

「じゃあ一つだけ。井上織姫って女の子、この中にいる?」

 

破面の表情が僅かに変わった。

 

ほんの一瞬。

 

だが十分だった。

 

朔夜は立ち上がる。

 

「ありがとう」

 

「何も言ってないぞ!」

 

「言わなくても分かった」

 

一護の目が鋭くなる。

 

「井上は中にいるんだな」

 

「可能性はかなり高い」

 

それだけで進む理由は十分だった。

 

虚夜宮はもう目の前まで迫っている。

 

巨大な城壁は、近くで見るとさらに異様だった。

 

どこまで続いているのか分からないほど高く、白い壁には窓らしいものも少ない。

 

正面らしき方向には巨大な門があるが、その前にはさらに多くの霊圧が集まっていた。

 

石田が目を細める。

 

「正面から入るのは歓迎されそうにないな」

 

一護が斬月を肩へ担ぐ。

 

「別に歓迎されに来たわけじゃねぇ」

 

「そういう問題じゃない」

 

朔夜は壁を見上げながら近づき、御厨子へ手を掛ける。

 

「壁を切って入る?」

 

ネルがすぐに飛び上がった。

 

「ダメっす!」

 

朔夜が振り返る。

 

「何で?」

 

「虚夜宮の壁、変な場所切ると中の道が分かんなくなるっす!」

 

一護が眉を寄せる。

 

「どういうことだ?」

 

ネルは両手を大きく広げた。

 

「中、すっごく広いのら! 道いっぱいで、変なところから入ると迷うっす!」

 

ペッシェも得意げに頷く。

 

「ネル様のおっしゃる通りっす。虚夜宮は非常に広大で、適当に侵入すれば迷子になる可能性大っす」

 

ドンドチャッカも重々しく続けた。

 

「一度迷ったら泣くでヤンス」

 

一護が三人を見る。

 

「お前ら、入ったことあんのか?」

 

三人が同時に止まった。

 

ほんの一瞬だった。

 

ネルはすぐに笑う。

 

「あるっすよ?」

 

「あるのかよ!」

 

「昔ちょっとだけなのら!」

 

ペッシェとドンドチャッカは何故か急に目を逸らしている。

 

朔夜はその反応に気づいたが、今は追及しなかった。

 

ネルたちには何かある。

 

だが、それを問い詰めるのは井上を助けた後でもできる。

 

「じゃあ、入口知ってる?」

 

朔夜が尋ねる。

 

ネルは少し考え、虚夜宮の壁に沿って右側を指差した。

 

「正面より、あっちの方が入りやすいっす」

 

石田が疑うような目を向ける。

 

「本当に?」

 

「ほんとっす!」

 

「何で知ってるんだ?」

 

「ネルは物知りなのら!」

 

またそれで押し切ろうとしている。

 

一護は何か言いたそうだったが、朔夜が先に歩き出した。

 

「とりあえず信じよう。正面から大勢とやるよりいい」

 

「お前、意外と簡単に信じるな」

 

一護が横へ並ぶ。

 

「全部は信じてないよ」

 

朔夜は小声で返した。

 

「でも、今のところネルたちは俺たちを騙してない」

 

一護も一瞬だけネルたちを見る。

 

先ほど追われていた時の様子。

 

破面だと隠そうともしなかったこと。

 

そして虚夜宮を危険だと止めたこと。

 

確かに、今すぐ敵と判断する材料はなかった。

 

「分かった」

 

一護も頷く。

 

一行は虚夜宮の壁に沿って進む。

 

ネルの案内で巨大な城壁を回り込むと、やがて壁の一部に小さな入口が見えた。

 

正面の大門とは比べものにならないほど狭い。

 

その前には二人の破面が立っている。

 

今度は一護も飛び出さなかった。

 

石田が小声で言う。

 

「二人だけか」

 

茶渡も周囲を見る。

 

「他に近い霊圧はない」

 

朔夜は少し考える。

 

「静かに行こうか」

 

一護が怪訝な顔をする。

 

「お前が言うと嫌な予感するんだけど」

 

「失礼だなぁ」

 

そう返した直後、朔夜は二人の足元へ指を向けた。

 

「解」

 

地面へ浅い切れ目が走る。

 

突然足場を崩された二人が反射的に下を見る。

 

その一瞬で一護と茶渡が距離を詰めた。

 

一護が一人の刀を弾き、茶渡がもう一人の腹へ拳を入れる。

 

どちらも声を上げる前に倒れた。

 

石田が呆れたように眼鏡を押し上げる。

 

「静かではあったな」

 

「でしょ?」

 

「やり方は十分乱暴だ」

 

「贅沢言わないでよ」

 

一護が入口へ手を掛ける。

 

「行くぞ」

 

誰も反対しなかった。

 

扉を開く。

 

その先には、白い石造りの長い廊下が続いていた。

 

砂漠とは違う冷たい空気が流れてくる。

 

朔夜は中へ意識を向ける。

 

無数の霊圧。

 

遠い。

 

近い。

 

強いものも、弱いものもある。

 

その中に井上がいる。

 

そう考えた瞬間、先ほどよりも明確に目的が形になった。

 

「ここから先は、本当に敵の中だね」

 

朔夜が言う。

 

石田が頷く。

 

「標識を忘れるな。中でも一定間隔で置く」

 

茶渡は拳を握った。

 

「井上を探す」

 

一護は斬月を肩へ担ぎ直す。

 

「ああ。見つけたら連れて帰る。それだけだ」

 

朔夜も御厨子の柄へ触れる。

 

「そうしよう」

 

その後ろでは、ネルが入口を見上げたまま少しだけ黙っていた。

 

ペッシェとドンドチャッカも、さっきまでの騒がしさが嘘のように静かになっている。

 

一護が振り返る。

 

「どうした?」

 

ネルは一瞬だけ迷った後、すぐにいつもの顔へ戻った。

 

「何でもないっす!」

 

「本当か?」

 

「ほんとっす! イツゴのヤツは心配性なのら!」

 

「誰がだ!」

 

また声が響く。

 

だが今度は、ネルの笑い方がほんの少しだけ固いことを、朔夜は見逃さなかった。

 

虚夜宮には、井上だけではない何かがある。

 

ネルたちにとっても。

 

そう感じたが、今は何も言わなかった。

 

目の前の優先順位は変わらない。

 

井上を探す。

 

見つける。

 

連れて帰る。

 

一護が最初の一歩を踏み出し、茶渡と石田が続く。朔夜も最後尾につき、入口付近へ最初の霊子標識を設置した。

 

小さな光が白い廊下の端で灯る。

 

帰るための印。

 

朔夜はそれを確認してから前を見る。

 

「行こう」

 

一護が短く答えた。

 

「ああ」

 

救出班はついに、藍染の居城――虚夜宮へ足を踏み入れた。




今回は、ネルたちと共に虚夜宮へ近づき、ついに内部へ侵入するところまで進みました。

道中で遭遇した破面からは直接情報を聞き出せませんでしたが、井上の名前へ反応したことで、彼女が虚夜宮にいる可能性はさらに高くなっています。

朔夜も、敵を全員倒すことより救出を優先し、あえて一人を逃がして敵側の反応を見る判断をしました。

また、ネルたちが虚夜宮の構造をある程度知っていることも判明。

特に城へ近づいた時の三人の反応には、まだ何か事情がありそうです。

そして一護たちは、浦原との約束通り霊子標識を残しながら、ついに虚夜宮の内部へ。

次回――
第69話「白い迷宮」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

絶対の先制(作者:幻影の塔)(原作:BLEACH)

護廷十三隊どこにでもいる平隊員、だがその実力は最強格あえて実力を隠し平穏に生きてる。これはしがない平隊員が、絶対の先制をもって敵を葬る物語である


総合評価:244/評価:5.33/連載:110話/更新日時:2026年10月04日(日) 03:40 小説情報

四番隊の一般隊士、実は卍解持ちの激強死神でした(作者:獅子論)(原作:BLEACH)

ほんの思い付きでとりあえず書いてみたものです。▼皆さんの目に少しでも面白いと思ってくれたら幸いです。


総合評価:889/評価:5.12/短編:54話/更新日時:2026年10月13日(火) 01:01 小説情報

双白の花(作者:心ここにあらず)(原作:BLEACH)

原作では悲しい別れになってしまった松本乱菊と市丸ギン…この2人の中にもう1人幼馴染が居たら…あの時乱菊を助けられたんじゃ…ギンが愛染を相手に1人で立ち向かわなくても良いんじゃないか。▼そう言う思いを書き詰めた作品です。オリ主モノで恋愛描写も有るかもです!苦手な人は回れ右です!またBLEACHの知識で知らないこともあるかと思います。どんどん指摘して無知な私めに…


総合評価:345/評価:9/連載:16話/更新日時:2026年07月30日(木) 07:16 小説情報

転生したので、好きに生きる(作者:牛丼の並、汁だくだくで。)(原作:FAIRY TAIL)

現代日本から転生したので、好きに生きると決めた男の物語。▼衝動に任せて執筆してます。▼拙い文章で読みづらいと思います。▼強がりでも何でもなく、文字通り好きなようにやってます。▼なので評価等はしなくて大丈夫です。▼脳みそを空っぽにしてお読みください。


総合評価:183/評価:-.--/連載:9話/更新日時:2026年07月16日(木) 11:13 小説情報

BLEACHの世界に転生したけど何故かステータス画面があるんだが(作者:最強主人公2)(原作:BLEACH)

気づいたら『BLEACH』の世界に転生していた主人公。▼しかも、目を開けると何故かステータス画面が表示されていた!▼「ステータスザコすぎるダロォ!」▼原作知識とステータスを頼りに、斬魄刀も持っていない状態から少しずつ強くなっていく。▼果たして朔は、この世界でどこまで強くなれるのか。▼これは、そんな少年の成長物語。


総合評価:420/評価:7.22/連載:8話/更新日時:2026年10月12日(月) 17:23 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>