BLEACH ―斬界の御厨子―   作:tunagi

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ついに井上のいる場所を捉えた朔夜。

ドンドチャッカを先へ向かわせ、自らは追ってきたウルキオラの前に残りました。

これまでのような追走ではありません。

井上へ続く道を守るため、今度は朔夜自身がウルキオラを止めます。

破面篇で初めてとなる、朔夜と十刃級の本格的な一対一。

それでは、第77話「御門朔夜VSウルキオラ」です。


第77話 御門朔夜VSウルキオラ

 

白い廊下の先へ、ドンドチャッカの足音が遠ざかっていく。

 

朔夜はそれを背中で聞きながら、目の前のウルキオラから視線を外さなかった。

 

ウルキオラの手は斬魄刀の柄に掛かっている。

 

「仲間だけを先へ行かせ、自分は残るか」

 

「君まで通したら意味ないからね」

 

「先ほどまでは、俺と戦う時間が惜しいと言っていたはずだ」

 

「状況が変わったんだよ。井上の場所が分かったなら、今度は追うんじゃなくて、あそこへ近づく敵を止めればいい」

 

朔夜が御厨子を構える。

 

「だから、ここは通さない」

 

ウルキオラは表情を変えなかった。

 

「お前一人で?」

 

「試してみる?」

 

次の瞬間、ウルキオラの姿が消えた。

 

速い。

 

朔夜は反射的に御厨子を上げる。

 

金属音が響いた。

 

ウルキオラはすでに斬魄刀を抜いており、朔夜の首を狙った刃が御厨子とぶつかっている。

 

「っ……!」

 

重い。

 

速度だけではない。

 

押し込まれる力そのものが、これまでの破面とは違う。

 

朔夜は受け続けず、刀を滑らせて軌道を逸らす。そのまま横へ抜けると、振り返らずに解を放った。

 

ウルキオラは僅かに首を傾ける。

 

背後の壁だけが切れた。

 

「避けるんだ」

 

「当たる理由がない」

 

「相変わらず合理的だね」

 

今度は朔夜から踏み込む。

 

御厨子を振り下ろし、受けられる直前に手首を返して軌道を変える。ウルキオラはそれにも対応し、二本の刀が短く打ち合った。

 

一度、二度、三度。

 

四度目に朔夜が距離を離す。

 

同時に、ウルキオラの足元が切れた。

 

床が僅かに崩れる。

 

だがウルキオラは沈むより早く宙へ逃れ、そのまま朔夜の頭上へ回った。

 

「上!」

 

刀が落ちる。

 

朔夜は横へかわしたが、完全には避け切れない。

 

肩口が浅く裂け、血が飛んだ。

 

着地した朔夜は傷を見る暇もなく御厨子を振るう。

 

ウルキオラが刀で受けた。

 

接触。

 

「捌」

 

刀身を通じて斬撃が走る。

 

ウルキオラの目が僅かに動き、すぐに刀を引いた。

 

刃に一本の傷が刻まれていた。

 

「やはり接触が条件か」

 

「……本当に嫌なくらい調べてるね」

 

「藍染様が警戒する相手だ」

 

ウルキオラは朔夜の背後へ視線を向けた。

 

その先には、ドンドチャッカが向かった扉がある。

 

「だが、お前は一人で戦っているわけではない」

 

手のひらが持ち上がる。

 

霊圧が集まり始めた。

 

狙いは朔夜ではない。

 

廊下の奥。

 

「虚閃か」

 

朔夜の表情が変わる。

 

赤い光が放たれる直前、廊下の天井へ解を走らせた。

 

巨大な石材が落下し、虚閃の軌道へ割り込む。

 

轟音と共に爆発が起こり、白い煙が廊下を埋めた。

 

「同じこと何回もされると思わないでよ」

 

煙の向こうから返事はない。

 

朔夜はすぐに横へ動いた。

 

直後、先ほどまで立っていた場所をウルキオラの刀が通り抜ける。

 

「危な」

 

さらに一撃。

 

受ける。

 

押される。

 

朔夜は後退しながら解を放つが、ウルキオラは次々と位置を変えてかわしていく。

 

このままでは駄目だ。

 

一つずつ狙うだけでは、速度で上回られる。

 

それなら。

 

朔夜は御厨子を握り直した。

 

「……ここで使うか」

 

ウルキオラが止まる。

 

「何をだ」

 

朔夜は静かに刀を構えた。

 

「刻め、御厨子」

 

光はない。

 

爆発もない。

 

刀の形すら変わらない。

 

それでも、次の瞬間には廊下の空気が変わっていた。

 

ウルキオラの右側の床。

 

左側の壁。

 

背後の柱。

 

頭上の天井。

 

ほぼ同時に、複数の切断痕が刻まれる。

 

ウルキオラの視線が初めて忙しく動いた。

 

「これが始解か」

 

「そう」

 

朔夜は一歩進む。

 

「今までは、一つずつ斬るので十分だったからね」

 

次の瞬間。

 

解が同時に走った。

 

正面ではない。

 

右。

 

左。

 

足元。

 

背後。

 

ウルキオラ自身だけではなく、その周囲へ異なる深さと角度で斬撃が届く。

 

ウルキオラは響転で移動する。

 

だが移動した先にも切断が入る。

 

さらに別方向へ。

 

そこにも。

 

「……!」

 

白い袖が裂けた。

 

ウルキオラが朔夜を見る。

 

初めて、その表情に僅かな警戒が混ざった。

 

「動きを予測したか」

 

「違うよ」

 

朔夜は御厨子を下ろしたまま答える。

 

「行ける場所を減らしてるだけ」

 

床を浅く切る。

 

壁を削る。

 

天井の一部を落とす。

 

致命傷を狙う斬撃と、移動を限定するための斬撃を同時に重ねる。

 

広範囲を無差別に斬っているのではない。

 

一つ一つ、全て位置も深さも違う。

 

ウルキオラが最も安全な場所へ移動した瞬間、朔夜がそこへ踏み込んだ。

 

「そこ」

 

御厨子と斬魄刀がぶつかる。

 

接触。

 

「捌」

 

今度は刀ではない。

 

ウルキオラの腕へ触れる。

 

硬皮と霊圧に合わせた斬撃が走った。

 

白い肌が裂ける。

 

一筋の血が落ちた。

 

ウルキオラが即座に朔夜を蹴る。

 

「っ!」

 

腹部に衝撃が入り、朔夜の身体が廊下を飛んだ。

 

壁へ叩きつけられる。

 

肺から空気が押し出され、口の中に血の味が広がった。

 

「……痛っ」

 

立ち上がろうとした時には、ウルキオラが目の前にいる。

 

刀が迫る。

 

朔夜は御厨子で受け止めた。

 

床がひび割れる。

 

「始解しても、この程度か」

 

押し込まれながら、朔夜が少し笑った。

 

「そういうこと言うんだ」

 

ウルキオラの目が僅かに細くなる。

 

「何がおかしい」

 

「いや」

 

朔夜の笑みが、少しだけ変わった。

 

イグナシオを追い詰めた時と同じ。

 

冷たく、どこか愉しそうな笑い方。

 

「久しぶりに、ちゃんと力入れても壊れない相手だなって」

 

ウルキオラの刀を押し返す。

 

二人が同時に距離を取った。

 

朔夜の口元にはまだ血が残っている。

 

それでも目は笑っていた。

 

ウルキオラがその顔を見つめる。

 

「それがお前の本性か」

 

「……どうだろうね」

 

一瞬だけ沈黙が落ちた。

 

朔夜自身も分かっている。

 

楽しい。

 

ウルキオラが強いこと。

 

斬っても簡単には倒れないこと。

 

こちらの解をかわし、捌にも耐えること。

 

昔の自分なら、迷わずもっと力を出していた。

 

周りなど気にせず、どちらが先に相手を壊すかだけを考えていた。

 

頭の奥で、御厨子の笑い声が聞こえる。

 

『随分と嬉しそうではないか』

 

朔夜は答えない。

 

ウルキオラが刀を構え直す。

 

朔夜も御厨子を持ち上げた。

 

その時だった。

 

遠くから叫び声が聞こえる。

 

「サクヤの旦那ぁぁぁ!」

 

ドンドチャッカ。

 

朔夜の表情が戻る。

 

「……っと」

 

声の方向を見る。

 

「聞こえたでしょ?」

 

ウルキオラは答えない。

 

「俺、君との勝負を楽しみに来たわけじゃなかった」

 

「なら何故笑った」

 

朔夜は一度だけ考えた。

 

「悪い癖」

 

「それで済ませるのか」

 

「済ませないよ」

 

御厨子を握り直す。

 

「だから、選ぶ」

 

ウルキオラの背後。

 

廊下全体へ意識を広げる。

 

始解した御厨子によって、朔夜が同時に認識できる切断点は大きく増えている。

 

壁。

 

床。

 

柱。

 

天井。

 

ウルキオラ。

 

そして、井上へ続く方向。

 

「解」

 

複数の斬撃がほぼ同時に走った。

 

ウルキオラ自身へ向けたものは二つ。

 

残りは全て周囲の構造物。

 

右側の柱が切れる。

 

続いて左。

 

天井の一部が沈み、床の継ぎ目がずれる。

 

ウルキオラが斬撃をかわした瞬間、朔夜が前ではなく後ろへ跳んだ。

 

「何を――」

 

白い廊下が大きく揺れる。

 

完全に崩壊させるほどではない。

 

だが、ウルキオラと朔夜の間へ巨大な壁と瓦礫が落ちるよう、構造だけを切った。

 

轟音。

 

視界が遮られる。

 

「それじゃ」

 

朔夜は振り返る。

 

「続きはまた今度」

 

走り出した。

 

背後から瓦礫が弾ける。

 

当然、これだけでウルキオラを止め続けられるとは思っていない。

 

数秒。

 

いや、十秒もあれば十分だ。

 

ドンドチャッカの霊圧を追う。

 

すぐに姿が見えた。

 

大きな扉の前で、ドンドチャッカが必死にこちらへ手を振っている。

 

「旦那ぁぁぁ!」

 

朔夜がその横へ滑り込む。

 

「標識は?」

 

「置いたでヤンス!」

 

扉の脇。

 

浦原から渡された霊子標識が確かに反応している。

 

「よし」

 

朔夜は扉へ手を触れた。

 

その向こう。

 

井上の霊圧。

 

今度は近い。

 

明確だ。

 

間違いない。

 

「井上、この向こう」

 

「開けるでヤンス!」

 

「待って」

 

朔夜は後ろを見る。

 

ウルキオラの霊圧が近づいている。

 

速い。

 

やはりもう抜けてきた。

 

ドンドチャッカが震える。

 

「来るでヤンス……」

 

「うん」

 

「どうするでヤンス?」

 

朔夜は扉と、迫ってくるウルキオラの霊圧を交互に感じ取る。

 

ここまで来た。

 

あと一枚。

 

なら迷う必要はない。

 

「開ける」

 

御厨子を扉へ向ける。

 

「ウルキオラが来る前に?」

 

「違うよ」

 

朔夜の表情が少しだけ鋭くなった。

 

「来ても開ける」

 

扉の内部。

 

鍵。

 

霊子の接続。

 

一つずつ認識する。

 

始解した御厨子なら、一度に狙える。

 

「解」

 

切断音が重なった。

 

巨大な扉の内部で、複数の鍵が同時に破壊される。

 

低い音を立てて、扉が僅かに開いた。

 

その隙間から。

 

柔らかな霊圧が流れてくる。

 

朔夜の目が見開かれた。

 

「……井上」

 

向こう側。

 

まだ姿は見えない。

 

だが間違いない。

 

ここにいる。

 

同時に、背後へウルキオラの霊圧が迫る。

 

ドンドチャッカが振り返った。

 

「旦那!」

 

朔夜は振り返らない。

 

御厨子を構えたまま、開き始めた扉を見つめる。

 

今度こそ。

 

ようやく。

 

井上まで、あと少しだった。





今回は、朔夜とウルキオラの本格的な一対一を描きました。

ウルキオラは響転、硬皮、身体能力の全てがこれまで朔夜が相手にした破面とは別格。

朔夜も攻撃を受け、決して簡単には戦えていません。

そこで正式に始解――

「刻め、御厨子」

を使用。

派手な変化はありませんが、複数の解をほぼ同時に異なる場所・角度・深さで使い、敵そのものだけでなく戦場を制御する御厨子本来の強みを見せています。

そしてウルキオラへ捌を通し、硬皮にも傷を付けることに成功。

一方で、強い相手との戦いを「楽しい」と感じる朔夜の危険な本性も再び顔を出しました。

それでも今回は、戦いを続ける誘惑より井上の救出を選択。

ウルキオラを倒すことに拘らず、虚夜宮の構造を利用して時間を作り、ついに井上のいる部屋へ到達します。

次回――
第78話「扉の向こう」
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