BLEACH ―斬界の御厨子―   作:tunagi

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一護たちは尸魂界へ向かうための力を手に入れます。

そして朔夜も、自分が再び尸魂界へ戻る覚悟を固め始めます。


第8話 強くなる理由

 

浦原商店の地下。

 

地上の小さな駄菓子屋からは想像もつかないほど広大な空間に、黒崎一護の声が響いた。

 

「俺を尸魂界に連れていけ!」

 

目を覚ましたばかりだというのに。

 

身体にはまだ傷が残っている。

 

それでも、一護の目には迷いがなかった。

 

朽木ルキア。

 

自分に死神の力を与えた少女。

 

自分や家族を助けてくれた少女。

 

そして今。

 

尸魂界へ連れ戻され、処刑されようとしている。

 

「助けに行く」

 

一護はもう一度言った。

 

浦原喜助は。

 

いつものように扇子を開きながら答える。

 

「今の一護サンじゃ無理ですねぇ」

 

「だったら強くしろ」

 

「ずいぶん簡単に言いますね」

 

「時間がねぇんだろ」

 

「それはそうなんですが」

 

一護が一歩前へ出る。

 

「俺は行く」

 

浦原の目が僅かに細くなった。

 

「死ぬかもしれませんよ」

 

「だから何だ」

 

即答。

 

地下空間が静かになる。

 

少し離れた岩の上

そのやり取りを聞いていた御門朔夜は小さく笑った。

 

「相変わらず馬鹿だな」

 

一護が振り返る。

 

「うるせぇ!」

 

「褒めてる」

 

「絶対嘘だ!」

 

朔夜は岩から飛び降りた。

 

そして浦原の横へ並ぶ。

 

「じゃあ俺が鍛えるか?」

 

その一言。

 

浦原の笑顔が固まった。

 

黒猫姿の夜一も。

 

ぴたりと動きを止める。

 

数秒後。

 

二人が同時に言った。

 

「ダメです」

 

「駄目じゃ」

 

「何で!?」

 

朔夜が不満そうな顔をする。

 

夜一が呆れた声を出した。

 

「おぬしには自覚がなさすぎる」

 

「何の?」

 

「修行の基準じゃ」

 

「普通だろ」

 

「どこがじゃ!」

 

夜一の声が地下に響く。

 

「以前、骨が折れたら『そこからが本番だ』と言うたのを忘れたか!」

 

「いや、折れた状態でも動けるようにしておいた方が」

 

「そういうところじゃ!」

 

一護が朔夜を見る。

 

「……お前、普段どんな修行してんだよ」

 

「普通」

 

「今の聞いた後じゃ信用できねぇ!」

 

浦原が扇子で口元を隠す。

 

「というわけで、一護サンの修行はワタシが担当します」

 

「喜助の修行も十分おかしいだろ」

 

朔夜が言う。

 

「朔夜サンにだけは言われたくないですねぇ」

 

◇

 

一護の修行が始まった。

 

浦原のやり方は端から見れば十分に狂っていた。肉体と魂魄を分離させ死神の力を取り戻すため一護を極限まで追い込む。

 

場合によっては虚へ堕ちる。

そんな危険すらある修行。

 

「……」

 

朔夜は岩の上に座り黙って見ていた。

 

隣には夜一。

 

「心配か?」

 

「少し」

 

「意外じゃな」

 

「俺を何だと思ってるんだよ」

 

「自分なら何でもできると思っておる馬鹿」

 

「酷くない?」

 

「違うのか?」

 

朔夜は答えなかった。

 

一護は何度も追い詰められる。

 

叫び。

 

苦しみ。

 

それでも諦めない。

 

朔夜はその姿を見ていた。

 

誰かに言われたからではない。

ルキアを助けたい。

ただ、その思いだけで自分から地獄へ飛び込んでいる。

 

「……似てるな」

 

朔夜が呟く。

 

夜一が横を見る。

 

「誰にじゃ?」

 

「昔の俺」

 

「どこが?」

 

「無茶するところ」

 

夜一が笑う。

 

「そこだけなら今も同じじゃ」

 

「……否定できないな」

 

時間が過ぎる。

 

そして限界一護の魂が虚へ堕ちかける。

 

巨大な穴。

 

鎖。

 

仮面。

 

空気が変わった。

 

朔夜が立ち上がる。

 

「……夜一さん」

 

「まだじゃ」

 

「でも」

 

「喜助を信じろ」

 

朔夜は浦原を見る。

 

いつもの軽い笑顔はない。

一護が戻ってくることを信じている。

 

そして。

 

次の瞬間。

 

ドン――ッ!

 

地下空間を揺らすほどの霊圧。

 

朔夜の目が見開かれる。

 

「……来た」

 

一護が死神の力を取り戻した。

 

それも以前より遥かに強く。

 

霊圧が全身から溢れている。

 

夜一が小さく笑った。

 

「どうじゃ」

 

朔夜も笑う。

 

「とんでもないな」

 

「嬉しそうじゃのう」

 

「そりゃな」

 

朔夜は一護を見る。

 

「俺の知ってる一護が」

 

少し誇らしげに。

 

「また強くなった」

 

◇

 

一護の修行はまだ終わらない。

 

斬魄刀。

 

自分の刀。

 

その名を知り自分の力として扱う。

 

浦原との戦闘。

 

一護は。

 

何度も吹き飛ばされ何度も立ち上がる。

朔夜は腕を組みながら眺めていた。

 

「構えが甘い」

 

一護が振り返る。

 

「うるせぇ!」

 

「右足が流れてる」

 

「分かってる!」

 

「分かってないから飛ばされてるんだろ」

 

「だったら教えろ!」

 

「俺が教えると夜一さんに怒られる」

 

夜一が即答する。

 

「当然じゃ」

 

一護が叫ぶ。

 

「何なんだよお前ら!」

 

遠くでチャド、織姫。そして石田も。

それぞれのやり方で尸魂界へ向かう準備をしている。

 

戦うため。

 

守るため。

 

助けるため。

 

理由はそれぞれ違う。

 

それでも全員が同じ場所を目指していた。

その光景を見ながら。

 

朔夜はふと

自分の斬魄刀へ手を置いた。

 

「……俺も」

 

夜一がその声を聞き逃さなかった。

 

「何じゃ?」

 

「いや」

 

朔夜は視線を落とす。

 

「少し鈍ってるかもな」

 

夜一の目が

一瞬で楽しそうに細くなる。

 

「ほう」

 

朔夜が嫌な予感を覚える。

 

「……夜一さん?」

 

黒猫の姿が光に包まれ。

次の瞬間人の姿へ変わった。

 

「では」

 

夜一が笑う。

 

「確かめるか」

 

「ちょっと待て」

 

朔夜が一歩下がる。

 

「今から?」

 

「当然じゃ」

 

「俺、今日は一護の見学に来ただけなんだけど」

 

「知るか」

 

「横暴すぎるだろ!」

 

夜一の姿が消えた。

 

「っ!」

 

朔夜が腕を上げる。

 

ドンッ!

 

夜一の蹴り。

 

朔夜の腕とぶつかり。

 

衝撃が地下空間を走る。

地面に大きな亀裂。

 

一護が戦いを止める。

 

「……何だ、今の」

 

浦原が額に汗を浮かべた。

 

「始まっちゃいましたねぇ」

 

「何が」

 

「見ない方がいいですよ」

 

「何でだよ」

 

「参考になりませんから」

 

夜一と朔夜二人の姿が

同時に消えた。

 

そして。

 

爆音。

 

爆音。

 

爆音。

 

一護には。

ほとんど何も見えない。

 

ただ時折夜一の拳、朔夜の腕、蹴り、掌。

 

その一瞬だけが界に現れる。

 

「速すぎる……」

 

一護が呟く。

 

浦原は笑みを浮かべながらも。

目だけは真剣だった。

 

「夜一サンは『瞬神』と呼ばれた人ですからね」

 

「じゃあ朔夜は?」

 

「その夜一サンに」

 

一瞬。

 

朔夜が夜一の蹴りを。

紙一重でかわしその懐へ潜り込む。

 

「直接」

 

掌底を夜一が腕で受ける。

地面が大きく陥没した。

 

「徹底的に鍛えられた人です」

 

「……」

 

一護は言葉を失う。

 

朔夜が一気に距離を取る。

 

「やっぱ速いな!」

 

夜一が笑う。

 

「おぬしが遅いだけじゃ!」

 

「それ絶対嘘だろ!」

 

「戦場で言い訳するな!」

 

瞬歩。

 

夜一が背後へ回る。

 

朔夜は振り返らずに肘を打つ。

夜一がそれを掌で受け流す。

さらに蹴り、拳、瞬歩。連撃。

 

二人が笑っている。楽しんでいる。

 

一護が引く。

 

「……あいつら怖ぇ」

 

「今さらですねぇ」

 

浦原が答えた。

 

しばらくして朔夜が大きく後方へ飛ぶ。

 

着地

 

そして。

 

右手が腰の斬魄刀へ触れた。

 

その瞬間夜一の笑みが消える。

浦原も真顔になった。

 

一護はその変化に気づく。

 

「……?」

 

朔夜は柄を握る。

 

一秒。

 

二秒。

 

三秒。

 

「……」

 

そして手を離した。

 

「やめた」

 

夜一が息を吐く。

 

「賢明じゃ」

 

浦原も胸を撫で下ろす。

 

「本当にありがとうございます」

 

朔夜が遠くから叫ぶ。

 

「そこまで!?」

 

「そこまでです!」

 

「失礼だな!」

 

一護は朔夜の腰の刀を見る。

 

ただ抜こうとしただけ

 

それだけで浦原と夜一が警戒した。

 

「……何なんだよ、その刀」

 

一護が小さく呟く。

 

その声は朔夜には届かなかった。

◇

 

修行が終わった後

一護と朔夜は

地下空間の岩場に並んで座っていた。

 

一護は全身ボロボロ。

 

朔夜も服に少しだけ土がついている。

 

「お前」

 

一護が言う。

 

「何?」

 

「化け物だな」

 

「急に失礼だな」

 

「夜一って奴も」

 

「本人の前で言うなよ。蹴られるぞ」

 

「……お前みたいに?」

 

「俺は慣れてる」

 

「慣れたくねぇよ」

 

少し二人で笑う。

 

そして一護が真剣な顔になる。

 

「なあ」

 

「ん?」

 

「お前ってさ」

 

少し言葉を探す。

 

「何で、そんなに強くなったんだ?」

 

朔夜が黙る。

 

「夜一や浦原に鍛えられたからってのは分かる」

 

一護が続ける。

 

「でも」

 

「何?」

 

「普通」

 

一護が。

 

夜一との戦いで崩れた地面を見る。

 

「ここまでやるか?」

 

朔夜はしばらく何も答えなかった。

やがて空を見上げる。

 

地下だから

本物の空はない。

 

それでも。

 

遠くを見るように。

 

「最初は」

 

ゆっくり言葉を選ぶ。

 

「死にたくなかったから」

 

一護が黙る。

 

「強くなければ死ぬ」

 

「……」

 

「弱ければ」

 

朔夜の声からいつもの軽さが消える。

 

「守りたいものが目の前にあっても」

 

拳をゆっくり握る。

 

「何もできない」

 

真咲。

 

過去。

 

尸魂界。

 

そしてまだ一護には話していない出来事。いくつもの記憶が朔夜の中をよぎる。

 

「だから」

 

一護が言う。

 

「強くなったのか」

 

「最初はな」

 

「今は?」

 

その問い。

 

朔夜は少し驚いたように。

 

一護を見る。

 

「今?」

 

「今のお前なら」

 

一護が笑う。

 

「死にたくないだけで、あそこまで修行しねぇだろ」

 

「……」

 

朔夜は思わず笑ってしまった。

 

「変なところ鋭いな」

 

「うるせぇ」

 

そして朔夜は考える。

 

浦原喜助。

 

四楓院夜一。

 

黒崎一護。

 

黒崎家。

 

チャド。

 

織姫。

 

石田。

 

ルキア。

 

いつの間にか失いたくない者は増えていた。

 

「今は」

 

朔夜が答える。

 

「守りたい奴が増えたから」

 

一護が黙る。

 

「昔は」

 

朔夜は自分の掌を見る。

 

「自分が生き残れれば、それでよかった」

 

「……」

 

「でも」

 

軽く拳を握る。

 

「今は違う」

 

一護を見る。

 

「俺一人だけ生き残っても」

 

小さく笑う。

 

「つまらないだろ」

 

一護は数秒何も言わず、そして

 

 

「そうだな」

 

笑った。

 

朔夜が立ち上がる。

服についた土を払う。

 

「強くなる理由なんてさ」

 

一護を見る。

 

「大層なものである必要ないんだよ」

 

「……」

 

「守りたい」

 

「……」

 

「負けたくない」

 

「……」

 

「失いたくない」

 

そして静かに言う。

 

「それだけで十分だ」

 

一護もゆっくり立ち上がる。

 

斬魄刀を握る。

 

ルキア。

 

彼女の顔を。

 

思い浮かべる。

 

「……ああ」

 

強くなる。

 

何のために。

 

答えはもう決まっている。

 

「絶対に助ける」

 

朔夜は笑った。

 

「なら」

 

少しだけ意地悪そうに

 

「もっと強くなれ」

 

一護も笑う。

 

「言われなくても!」

 

遠くから浦原が二人を見る。

その隣夜一も腕を組み満足そうに笑っていた。

 

「いい顔になったのう」

 

浦原が帽子を深く被る。

 

「ええ」

 

しかしその目は朔夜へ向いている。

 

「……朔夜サンも」

 

夜一の笑みが。少しだけ消える。

 

「尸魂界へ戻る覚悟を決め始めたようじゃな」

 

浦原は答えなかった。

ただ一護と話す朔夜の姿を静かに見つめていた。

 

尸魂界へ向かう日まで残された時間はあと僅か。

 

黒崎一護はルキアを救うために。

 

仲間たちはそれぞれの理由のために。

 

そして御門朔夜は再び自分の過去と向き合うために。

 

それぞれが強くなる理由を胸に次の戦いへ歩き始めていた。




タイトル通り、それぞれが「強くなる理由」を持つ回でした。

朔夜の強さも、最初から誰かを守るためだけだったわけではありません。
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