BLEACH ―斬界の御厨子―   作:tunagi

93 / 93
あと一歩というところで、現世へ続く道は閉ざされました。

今度は誰か一人ではなく、全員で出口を取り戻します。


第92話 閉ざされた出口

巨大な扉の前で、朔夜たちはしばらく動かなかった。

 

向こう側にあったはずの霊子標識の反応は消えている。ただ壊されたという感じではなく、それまで確かに繋がっていたものが途中から切り離され、虚夜宮の壁の中へ埋め込まれたような不自然さが残っていた。

 

一護が扉へ手を掛ける。

 

「ぶった斬れば開くんじゃねぇのか?」

 

「扉だけならね」

 

朔夜はその隣へ立ち、御厨子の切っ先を床へ向けた。

 

「問題は、その先に道があるかどうか。今の感じだと、開けても向こうが塞がってる可能性が高い」

 

「じゃあ、その塞がってる方も斬る」

 

「どこまで?」

 

一護が言葉に詰まる。

 

見えない壁の向こうまで無理に壊せば、外へ繋がる構造そのものを崩すかもしれない。それは朔夜にも同じことで、斬れるからといって斬っていいとは限らなかった。

 

横で石田がしゃがみ込み、床へ指を触れる。

 

「少し静かにしてください」

 

「何か分かるのか?」

 

「霊子の流れを見ています」

 

一護が口を閉じる。

 

朔夜も余計な口を挟まず、石田の様子を見守った。

 

虚圏は現世より霊子が濃い。その中で石田は、壁や床を構成する霊子の流れを細かく拾い、扉の周辺にある不自然な歪みを追っていく。

 

やがて、眼鏡の奥の目が細くなった。

 

「閉じたというより、ずらされていますね」

 

朔夜が眉を上げる。

 

「ずらされた?」

 

「僕たちが辿っていた出口と、実際に外へ繋がる位置が一致していません。通路そのものを少しずつ動かして、ここへ誘導したんでしょう」

 

一護が顔をしかめる。

 

「またかよ」

 

石田は立ち上がると、扉の右上、左下、床際の三箇所を順に指した。

 

「この辺りだけ霊子の流れが不自然です。恐らく固定点でしょう。そこを解除できれば、元の位置へ戻るかもしれません」

 

「全部壊せば?」

 

「茶渡くんたちごと天井が落ちてもいいならどうぞ」

 

「やらねぇよ!」

 

返事が早く、井上が少しだけ笑った。

 

その笑顔を見て、一護もつられるように表情を緩める。

 

虚圏へ来てから、井上は何度も怯え、不安になり、誰かが傷つくたびに自分を責めようとしていた。それでも今は、仲間が自分の前で相談し、悩み、役割を決めている様子を見ても、以前のように「自分がいなければ」とは思わなかった。

 

代わりに、自分にできることを探す。

 

それだけで心の置き場所が少し変わった。

 

「石田くん」

 

「何です?」

 

「その固定してるところ、壊すんじゃなくて元に戻せたらいいんだよね?」

 

石田が井上を見る。

 

「できるんですか?」

 

「分からない。でも、そこに何か起きたことで道がずれたなら……」

 

井上は両手を胸の前へ上げる。

 

「私は、それを拒絶できるかもしれない」

 

朔夜はすぐに口を出さなかった。

 

できるかもしれない。

 

その言葉を、できると決めつけたくなかった。

 

「試してみる?」

 

井上は頷いた。

 

「やってみたいです」

 

自分から言えた。

 

朔夜はそれだけで十分だと思った。

 

「じゃあ、俺たちは何すればいい?」

 

茶渡が低い声で尋ねる。

 

石田は少し考えた後、周囲を見回す。

 

「固定点を一つずつ外したら、壁の重量が別の場所へ掛かるはずです。崩れそうになったら支えてください」

 

「分かった」

 

「俺は?」

 

一護が聞く。

 

「最後に動かなくなった場所を壊してください」

 

「それだけか?」

 

「それ以上やると壊しすぎます」

 

「信用ねぇな、おい」

 

「実績がありますから」

 

朔夜が笑いそうになるのを堪える横で、一護が不満そうに斬月を担ぎ直した。

 

役割が決まったところで、石田が最初の固定点を指す。

 

「御門さん。右上の内部だけ切れますか」

 

「やってみる」

 

朔夜は御厨子を持ち上げた。

 

壁そのものではなく、その奥。

 

石田が示した場所へ意識を集中させる。

 

厚い壁を挟んでいても、解なら届く。ただし今必要なのは、まとめて切り裂くことではなく、内部にある一本の繋がりだけを断つ精度だった。

 

「……そこか」

 

静かに解を放つ。

 

次の瞬間、壁の中で低い音が響いた。

 

石田がすぐ床を見る。

 

「合ってます。次は左下」

 

二つ目。

 

さらに床際。

 

三つ目の接続を切った瞬間、虚夜宮全体が僅かに揺れた。

 

「来るぞ!」

 

茶渡が前へ出る。

 

左右の壁が軋みながら内側へ動き始め、天井から白い破片が落ちてきた。

 

茶渡は崩れかけた石材へ両腕を伸ばし、そのまま身体で支える。

 

「茶渡くん!」

 

井上が振り返る。

 

「俺は大丈夫だ。続けろ」

 

声には無理がある。

 

それでも茶渡は退かなかった。

 

井上は唇を引き結ぶと、固定点があった場所へ意識を集中させる。

 

「双天帰盾――私は拒絶する!」

 

柔らかな光が広がった。

 

傷を治す時とは違う。

 

今回、拒絶するのは身体の損傷ではない。

 

出口へ繋がる構造に加えられた変化そのもの。

 

光に包まれた壁が微かに震え、ずれていた霊子の流れが少しずつ本来の位置へ戻り始める。

 

「動いてます!」

 

石田が声を上げる。

 

だが完全ではない。

 

一箇所だけ、強く固定されたまま残っている。

 

井上の額に汗が浮かぶ。

 

「ここだけ……戻らない……!」

 

一護が斬月を構えた。

 

「そこか?」

 

「待って」

 

石田が位置を測る。

 

「壁じゃありません。その奥に何かあります」

 

朔夜も感じ取った。

 

今までの固定点とは違う。

 

もっと強い。

 

外からではなく、内側から意図的に押さえ込んでいるような霊圧。

 

「……これ」

 

見覚えがある。

 

朔夜の表情が変わる。

 

井上も遅れて気づいた。

 

「この霊圧……」

 

一護が振り返る。

 

「誰だ?」

 

答えるより早く、背後から静かな声が届いた。

 

「そこまで辿り着いたか」

 

全員が振り返る。

 

通路の奥。

 

ウルキオラが立っていた。

 

急ぐ様子はなく、それでも逃げ道を塞ぐには十分な位置だった。

 

一護が斬月を構え直す。

 

「やっぱりてめぇか」

 

「俺ではない」

 

「何?」

 

ウルキオラは閉ざされた出口へ視線を向ける。

 

「その道を閉じたのは虚夜宮の機構だ。俺は、お前たちがどこまで行けるのか見ていただけだ」

 

朔夜は一瞬だけ黙った。

 

追ってこなかった理由。

 

ここで止まっていた理由。

 

ようやく繋がった。

 

「最初から、ここで詰まるって知ってたんだ」

 

「そうだ」

 

「だったら随分性格悪いよ」

 

「お前に言われる筋合いはない」

 

一護が割って入る。

 

「そんな話どうでもいい。井上、あとどれくらいだ?」

 

井上は額の汗を拭う暇もなく、光を維持していた。

 

「もう少し……でも、最後のところが戻らない!」

 

石田が叫ぶ。

 

「一護、今です! ただし中央だけ!」

 

「最初からそう言え!」

 

「言ってます!」

 

一護が踏み込む。

 

斬月へ霊圧が集まる。

 

黒ではない。

 

今の一護が使う、通常の月牙天衝。

 

「月牙天衝!」

 

青白い斬撃が一直線に走り、石田が示した中央部だけを叩いた。

 

井上の拒絶によって本来の位置へ戻りかけていた構造へ、一護の力が最後の一押しを加える。

 

轟音と共に固定が外れた。

 

壁が大きく揺れる。

 

茶渡が支えていた石材の重量が抜け、ゆっくりと元の位置へ戻っていく。

 

その直後。

 

消えていた霊子標識の反応が戻った。

 

一つ。

 

さらにもう一つ。

 

そしてその奥から、外部の霊圧が僅かに流れ込んでくる。

 

朔夜の胸が強く鳴った。

 

「繋がった」

 

一護が振り返る。

 

「本当か?」

 

「うん」

 

石田も確認し、頷く。

 

「間違いありません。少なくとも先ほどよりは、外へ続く経路が安定しています」

 

井上の顔が明るくなる。

 

「帰れる……?」

 

今度は、朔夜も少しだけ笑った。

 

「うん。今なら」

 

その言葉を聞いた瞬間、井上の目に涙が浮かんだ。

 

ここまで何度も期待しては、また閉ざされた。

 

だから嬉しいのに、まだ完全には信じきれない。

 

本当に帰れるのか。

 

また何か起きるのではないか。

 

そんな怖さも残っている。

 

それでも、一護がすぐ隣にいる。

 

石田も、茶渡も、朔夜もいる。

 

井上は自分の胸元を押さえ、ゆっくり息を吐いた。

 

「……帰りたい」

 

今度は、誰かに許可を求める言い方ではなかった。

 

自分の意思だった。

 

一護が頷く。

 

「帰ろうぜ」

 

その一言で、井上はようやく笑った。

 

だが、その場を離れる前にウルキオラが一歩進む。

 

空気が再び重くなる。

 

「まだ終わっていない」

 

一護が前へ出ようとする。

 

朔夜も御厨子へ手を掛ける。

 

ただし、今度は誰か一人が残るとは言わなかった。

 

それより先に石田が口を開く。

 

「出口は開きました。なら、全員で抜ければいい」

 

茶渡も静かに頷く。

 

「俺も戦える」

 

井上は少し緊張した表情を浮かべながらも、後ろへ下がるだけではなく、自分から皆の近くへ立った。

 

朔夜はその様子を見て、胸の奥が少しだけ熱くなるのを感じる。

 

乾いた熱とは違う。

 

もっと単純なものだった。

 

嬉しい。

 

それだけだ。

 

「じゃあ」

 

朔夜は御厨子を抜いた。

 

「今度こそ全員で帰ろう」

 

ウルキオラが斬魄刀へ手を掛ける。

 

その背後で、開いた出口の霊子が静かに揺れている。

 

ようやく掴んだ帰還路。

 

今度は、誰にも閉じさせない。




閉ざされた出口を、全員の力で再び繋ぎました。

あとは、この道を守りながら全員で抜けるだけです。

次回――
第93話「帰るために」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

絶対の先制(作者:幻影の塔)(原作:BLEACH)

護廷十三隊どこにでもいる平隊員、だがその実力は最強格あえて実力を隠し平穏に生きてる。これはしがない平隊員が、絶対の先制をもって敵を葬る物語である


総合評価:295/評価:5.33/連載:110話/更新日時:2026年10月04日(日) 03:40 小説情報

四番隊の一般隊士、実は卍解持ちの激強死神でした(作者:獅子論)(原作:BLEACH)

ほんの思い付きでとりあえず書いてみたものです。▼皆さんの目に少しでも面白いと思ってくれたら幸いです。


総合評価:933/評価:5.12/短編:56話/更新日時:2026年11月02日(月) 08:37 小説情報

双白の花(作者:心ここにあらず)(原作:BLEACH)

原作では悲しい別れになってしまった松本乱菊と市丸ギン…この2人の中にもう1人幼馴染が居たら…あの時乱菊を助けられたんじゃ…ギンが愛染を相手に1人で立ち向かわなくても良いんじゃないか。▼そう言う思いを書き詰めた作品です。オリ主モノで恋愛描写も有るかもです!苦手な人は回れ右です!またBLEACHの知識で知らないこともあるかと思います。どんどん指摘して無知な私めに…


総合評価:366/評価:9/連載:16話/更新日時:2026年07月30日(木) 07:16 小説情報

BLEACHの世界に転生したけど何故かステータス画面があるんだが(作者:最強主人公2)(原作:BLEACH)

気づいたら『BLEACH』の世界に転生していた主人公。▼しかも、目を開けると何故かステータス画面が表示されていた!▼「ステータスがざこすぎる!」▼原作知識とステータスを頼りに、斬魄刀も持っていない状態から少しずつ強くなっていく。▼果たして朔は、この世界でどこまで強くなれるのか。▼これは、そんな少年の成長物語。


総合評価:849/評価:6.48/連載:18話/更新日時:2026年11月03日(火) 13:59 小説情報

天神の加護と共に(作者:キヨシ)(原作:呪術廻戦)

五条悟と先祖を同じくする土師(はじ)の一族。『菅原道真』の先祖の血筋が現代に生まれ多くの呪術師と出会い、見送り、そして自分自身を研ぎ澄して行く。まるで先祖達が放つ稲光の様に。彼は何を得て何を失うのか?その道を読み解いて行く連載小説です。


総合評価:490/評価:7.17/連載:62話/更新日時:2026年10月27日(火) 22:36 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>