BLEACH ―斬界の御厨子―   作:tunagi

94 / 94
ようやく繋がった帰還路。

今度こそ、誰か一人を残すのではなく全員で現世を目指します。



第93話 帰るために

開いた通路の奥から、虚夜宮とは明らかに違う霊子の流れが伝わってくる。

 

まだ不安定ではあるものの、その先には浦原が残した術式の気配があった。

 

朔夜は胸の奥に湧いた安堵を押し込みながら、目の前のウルキオラへ意識を戻す。

 

帰り道が見えたからこそ、ここで焦れば全てが無駄になる。

 

「今度こそ全員で帰ろう」

 

朔夜の言葉に、一護も石田も茶渡も頷いた。

 

井上も怖さを隠そうとはせず、それでも皆のすぐ後ろに立っている。少し前までなら、自分が狙われることで仲間を危険に晒すと思い、一人だけ離れようとしていたかもしれない。

 

今は違った。

 

ここにいる。

 

一緒に帰る。

 

そのことを、自分で選んでいる。

 

ウルキオラが斬魄刀を抜く。

 

「行かせると思うか」

 

一護が斬月を構えながら前へ出た。

 

「思ってねぇよ。だから通るんだ」

 

朔夜は横から一護を見る。

 

「一護、正面お願いできる?」

 

「最初からそのつもりだ」

 

「じゃあ石田は一護の死角を潰して。茶渡は出口側を守ってほしい」

 

茶渡が頷く。

 

「分かった」

 

「井上は――」

 

朔夜が言いかけたところで、井上が先に答えた。

 

「誰かが傷ついたら私が守る。それと、出口もできる限り安定させるね」

 

朔夜は一瞬だけ黙り、それから笑う。

 

「お願い」

 

それ以上は言わなかった。

 

役割を決めることと、相手に何ができるかを決めつけることは違う。

 

それを、ここへ来てから嫌というほど教えられている。

 

一護が最初に踏み込んだ。

 

大きく振り抜いた斬月を、ウルキオラが斬魄刀で受け止める。力がぶつかり合った瞬間、石田の矢がその脇を通り抜け、ウルキオラが響転で逃げられる方向を狭めた。

 

一護は追う。

 

だが、ウルキオラは真っ向から付き合わない。

 

斬月を流しながら身体を沈め、そのまま一護の横を抜けようとする。

 

狙いは出口。

 

「させない」

 

朔夜はウルキオラ本人ではなく、その先の床へ解を走らせた。

 

白い床が斜めに切れ、踏み込みの角度が僅かにずれる。

 

それだけで一護が追いつくには十分だった。

 

「月牙天衝!」

 

青白い斬撃が廊下を奔る。

 

ウルキオラは身体を捻りながらかわしたものの、その先には石田の矢が待っていた。

 

避ける。

 

さらに朔夜の解。

 

三人の攻撃が完全に重なっているわけではない。それでも、一人の判断が次の一手を作ることで、ウルキオラが自由に動ける場所は少しずつ狭まっていった。

 

「……面倒だな」

 

ウルキオラが低く呟く。

 

朔夜は思わず笑う。

 

「また言われた」

 

「喜ぶところかよ!」

 

一護が怒鳴りながら斬月を振り下ろす。

 

その勢いに押され、ウルキオラが一歩退く。

 

その瞬間だった。

 

「今だ!」

 

石田の声に、茶渡が出口側へ動く。

 

まずはネル、ペッシェ、ドンドチャッカを通す。

 

「ネルたち先!」

 

「イツゴのヤツらはどうするっす!?」

 

「すぐ行く!」

 

一護の返事に、ネルは不安そうにこちらを見たが、ドンドチャッカとペッシェに促されて通路へ入った。

 

続いて茶渡が出口の手前へ立ち、周囲の崩れかけた壁を警戒する。

 

井上は帰還路へ向けて意識を集中していた。

 

霊子の流れが揺れる。

 

一度開いた道とはいえ、完全に安定しているわけではない。

 

「井上」

 

石田が振り返る。

 

「維持できますか?」

 

「うん。でも、長くは難しいかも」

 

声に焦りはあった。

 

それでも、以前のように「私のせいで」とは言わない。

 

できることを伝える。

 

それだけで十分だった。

 

「なら急ぎましょう」

 

石田は弓を構えたまま、ゆっくり出口へ下がる。

 

その瞬間、ウルキオラが一護の斬撃を受け流し、左手を上げた。

 

指先へ薄緑色の光が集まる。

 

狙いは出口だった。

 

「セロ!」

 

朔夜が叫ぶより早く、井上が前へ出た。

 

「三天結盾――私は拒絶する!」

 

薄緑色の虚閃と盾が激突する。

 

光が弾け、井上の身体が後ろへ押される。

 

「井上!」

 

一護が振り返りかける。

 

「黒崎くん、前!」

 

井上の声に、一護は動きを止めた。

 

ほんの一瞬。

 

けれど、それでよかった。

 

自分を心配してこちらを見れば、ウルキオラに隙を見せる。

 

それが分かっていたから、井上は自分から叫んだ。

 

「私は大丈夫だから!」

 

盾が軋む。

 

腕も震えている。

 

本当は怖い。

 

このまま破られたらどうしようという考えも消えない。

 

それでも、あの時とは違う。

 

怖いからこそ、仲間のそばにいる。

 

「私も……帰るんだから!」

 

井上が力を込める。

 

薄緑色の光が僅かに押し返された。

 

その瞬間を、朔夜は逃さない。

 

虚閃そのものを斬るのではなく、ウルキオラの腕の横へ解を放つ。

 

白い袖が裂ける。

 

ウルキオラの狙いが僅かに逸れ、虚閃は盾の外側へ抜けて壁を貫いた。

 

井上が大きく息を吐く。

 

朔夜は振り返らずに声を掛けた。

 

「ありがとう、井上」

 

「はい!」

 

その返事を聞きながら、朔夜は少しだけ嬉しくなる。

 

自分が守ったのではない。

 

井上が、自分たちの帰る道を守ってくれた。

 

それが今は、とても自然に思えた。

 

「石田、先に!」

 

朔夜の声に、石田は一瞬ためらった。

 

「あなたたちは?」

 

「すぐ行く。今度は残らないよ」

 

石田は朔夜の顔を見て、それ以上は言わなかった。

 

「分かりました」

 

出口へ入り、茶渡と合流する。

 

残ったのは一護、井上、朔夜。

 

ウルキオラ。

 

そしてまだ安定しきらない帰還路。

 

一護が斬月を肩へ担ぎ直す。

 

「井上、先行け」

 

井上はすぐには動かなかった。

 

「黒崎くんも一緒に」

 

「すぐ行くって」

 

「それ、朔夜さんも何回も言ってた」

 

一護が言葉に詰まる。

 

横で朔夜が吹き出した。

 

「俺のせい?」

 

「たぶん」

 

井上は二人を見て、もう一度はっきりと言う。

 

「一緒に行こう」

 

その言葉に、一護は少しだけ驚いた顔をしてから頷いた。

 

「ああ」

 

朔夜も頷く。

 

「そうしよう」

 

ウルキオラが三人の前へ立つ。

 

「俺を無視して帰れると思うか」

 

「無視はしてないよ」

 

朔夜が御厨子を構える。

 

「でも、君との決着は今日じゃなくていい」

 

「俺はそうは思わない」

 

ウルキオラが響転で消えた。

 

一護が反応する。

 

斬月と斬魄刀がぶつかり、その衝撃で一護の身体が横へ流れる。

 

今までなら、朔夜はすぐに間へ入っていた。

 

今回は入らない。

 

一護は自分で踏みとどまり、斬月を返す。

 

朔夜はその先だけを見る。

 

ウルキオラが避ける方向。

 

そこへ解を放つ。

 

ウルキオラが逆方向へ切り返した。

 

今度は朔夜へ来る。

 

御厨子で受ける。

 

接触。

 

捌を使える。

 

しかし、朔夜は一瞬だけウルキオラの目を見る。

 

相手もそれを待っている。

 

なら。

 

使わない。

 

刀を流し、そのまま身体を横へ抜く。

 

ウルキオラが追おうとした瞬間、一護の斬月が割り込んだ。

 

「よそ見すんな!」

 

「誰に言ってるの、それ」

 

「お前じゃねぇ!」

 

ほんの一瞬。

 

三人の間に、妙な間が生まれた。

 

その隙に井上が叫ぶ。

 

「二人とも、道が!」

 

帰還路の輪郭が揺らいでいる。

 

時間がない。

 

一護と朔夜が同時に表情を変えた。

 

決着より、帰ること。

 

それだけは最初から変わっていない。

 

「一護」

 

「分かってる」

 

二人は同時にウルキオラへ踏み込んだ。

 

一護が真正面から斬月を振り下ろす。

 

ウルキオラが受ける。

 

その瞬間、朔夜は脇から左手を伸ばした。

 

肩へ触れる。

 

「捌」

 

硬皮と霊圧に合わせた斬撃が走る。

 

ウルキオラの肩が裂ける。

 

深い。

 

だが、殺すためではない。

 

痛みで身体が僅かに止まる。

 

それで十分だった。

 

「今!」

 

朔夜が叫ぶ。

 

一護が後ろへ跳ぶ。

 

井上の手を掴む。

 

朔夜も同時に出口へ走った。

 

背後でウルキオラの霊圧が動く。

 

追ってくる。

 

帰還路まであと僅か。

 

井上が先に入る。

 

一護が続く。

 

朔夜も足を踏み入れようとした、その瞬間だった。

 

「御門朔夜」

 

背後から名前を呼ばれる。

 

朔夜は思わず振り返った。

 

ウルキオラが傷ついた肩を押さえながら、こちらを見ている。

 

「何?」

 

「お前は、結局その奥にある力を使わなかった」

 

乾いた熱。

 

入口の向こうにある何か。

 

朔夜は一度だけ胸元へ意識を向け、それから笑った。

 

「必要なかったからね」

 

「次もそうだとは限らん」

 

「そうだね」

 

朔夜は御厨子を鞘へ戻す。

 

「その時は、その時考えるよ」

 

帰還路へ身体を滑り込ませる。

 

視界が歪む。

 

最後に見えたのは、動かずこちらを見つめるウルキオラの姿だった。

 

そして。

 

景色が切り替わる。

 

足元へ確かな地面の感触。

 

聞き慣れた声。

 

「おかえりなさい」

 

朔夜が顔を上げる。

 

帽子を目深に被った浦原喜助が、杖を片手に立っていた。

 

その隣には夜一の姿もある。

 

一護、井上、石田、茶渡。

 

ネルたち。

 

全員いる。

 

数を確認した瞬間、朔夜の身体から一気に力が抜けた。

 

「……帰れた」

 

自分でも驚くほど小さな声だった。

 

その横で井上が笑う。

 

泣きそうな顔で、それでも今度は嬉しそうに。

 

「はい」

 

朔夜も笑った。

 

今度こそ。

 

誰も残さずに帰ってきた。




ウルキオラを倒すのではなく、全員で帰ることを選んだ朔夜たち。

それぞれが役割を果たし、ついに現世への帰還を果たしました。

次回――
第94話「ただいま」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

絶対の先制(作者:幻影の塔)(原作:BLEACH)

護廷十三隊どこにでもいる平隊員、だがその実力は最強格あえて実力を隠し平穏に生きてる。これはしがない平隊員が、絶対の先制をもって敵を葬る物語である


総合評価:295/評価:5.33/連載:110話/更新日時:2026年10月04日(日) 03:40 小説情報

四番隊の一般隊士、実は卍解持ちの激強死神でした(作者:獅子論)(原作:BLEACH)

ほんの思い付きでとりあえず書いてみたものです。▼皆さんの目に少しでも面白いと思ってくれたら幸いです。


総合評価:934/評価:5.12/短編:56話/更新日時:2026年11月02日(月) 08:37 小説情報

BLEACHの世界に転生したけど何故かステータス画面があるんだが(作者:最強主人公2)(原作:BLEACH)

気づいたら『BLEACH』の世界に転生していた主人公。▼しかも、目を開けると何故かステータス画面が表示されていた!▼「ステータスがざこすぎる!」▼原作知識とステータスを頼りに、斬魄刀も持っていない状態から少しずつ強くなっていく。▼果たして朔は、この世界でどこまで強くなれるのか。▼これは、そんな少年の成長物語。


総合評価:850/評価:6.48/連載:18話/更新日時:2026年11月03日(火) 13:59 小説情報

双白の花(作者:心ここにあらず)(原作:BLEACH)

原作では悲しい別れになってしまった松本乱菊と市丸ギン…この2人の中にもう1人幼馴染が居たら…あの時乱菊を助けられたんじゃ…ギンが愛染を相手に1人で立ち向かわなくても良いんじゃないか。▼そう言う思いを書き詰めた作品です。オリ主モノで恋愛描写も有るかもです!苦手な人は回れ右です!またBLEACHの知識で知らないこともあるかと思います。どんどん指摘して無知な私めに…


総合評価:366/評価:9/連載:16話/更新日時:2026年07月30日(木) 07:16 小説情報

天神の加護と共に(作者:キヨシ)(原作:呪術廻戦)

五条悟と先祖を同じくする土師(はじ)の一族。『菅原道真』の先祖の血筋が現代に生まれ多くの呪術師と出会い、見送り、そして自分自身を研ぎ澄して行く。まるで先祖達が放つ稲光の様に。彼は何を得て何を失うのか?その道を読み解いて行く連載小説です。


総合評価:490/評価:7.17/連載:62話/更新日時:2026年10月27日(火) 22:36 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>