※小説家になろうにも同じ物を投稿しています。
私は幼い頃から器用だった。折り紙、粘土、絵――そして料理。なんでも人より少しは優れていた。
そんな私だったけれど、ずば抜けた才能があるという訳でもなかった。ただ、人より少し、何もかもが器用なだけだった。
学校の先生達に言われて、高校は美術系の学校にした。確かに絵や造形は楽しかったし、勉強も好きだ。器用な私は教えられたことをスポンジのように吸収し、応用してみせた。
だからと言って誰かに疎まれるほど不器用ではないため、それなりの人間関係を作りあげていた。
客観的に見れば私は、どこにでもいるごく普通の高校生なのだ。
そんな私だが、一つだけ、誰にも言えない秘密がある。
「あら、――さん、おはよう。今日は学校お休みなの?」
高校の近くに借りたマンション。そこの大家さんと朝の挨拶を交わす。大家さんは私の私服姿を見て、尋ねたようだ。
「はい。弟がいなくなって、もう三日ですからね。流石にのんきに学校になんて行っていられません」
このマンションで、私は同じ高校に通う双子の弟と一緒に暮らしていたのだ。
「そう、よね。――さん、大丈夫? 何かあったら私のところに来てね」
「ありがとうございます」
小さくお辞儀をする。手に持っていた可燃ごみ用のゴミ袋ががさがさと音を鳴らした。
「……あら、それ捨てるの?」
大家さんが、質問を重ねた。それ、とはゴミ袋の中にある弟そっくりの顔のことなのだろう。
「……はい」
「まぁ、確かに縁起悪いものね」
身勝手な納得をしたみたいだが、まぁ、別に構わないだろう。それはそれで利益である。
ゴミを捨て終えた私は部屋に戻る。少し外に行きたい気分だったが、空腹がそれに勝った。
さて、どこまで話しただろうか。……あぁ、そうそう、私の秘密についてだった。
それを語るには少しだけ昔の話をしなければならない。
小学校五年生の頃の話だ。私と弟は、当然ながら別のクラスで、それぞれ子豚を育てて出荷、肉片となって帰って――もとい返ってきたそれらを食べるということを教育で経験している。
その時、私も弟も先生から「これは動物の世界で起きているごく当たり前のことなんだ」と弱肉強食という四字熟語と共に教えてくれた。
今となっては、ライオンが豚を育てて出荷、加工して調理し、食べているのかとツッコミをいれたくなるが、それは別の話。
先生の話を聞いて私は「動物ってことは人間もなのかな」と思い、弟は「食べられるならお姉ちゃんだな」と思ったらしい。
「……頂きます」
ハンバーグを食べる。程よく火が通っているが、あぶらが少なかったかもしれない。不味くもないが絶品という訳でもない。少し器用な人間のハンバーグだ。あまった肉は冷蔵庫に入れて保存しているので今度は別の何かを作ってみよう。
空腹を満たすと、私は創作の作業に入り浸った。気が付けば太陽は沈んで再び昇っていた。
私の誰にも言えない秘密というのは、人を食べると一体どんな味がするのだろうか、という疑問を持ち続けているということだ。
「今日は少し外に行こうかな」
小さく呟いて、外に出る。
「あら、――さん。おはよう」
玄関を開けた先に、大家さんがいた。
「おはようございます。少し散歩に行ってきます」
「そう。気をつけてね。――って、アレ? それ、昨日捨てたんじゃなかったの?」
「そうなんですが、ゴミとして出すのは少し抵抗があったんで、後でこっそり処分しようと思ったんですよ」
私は器用だ。嘘を吐くのも、器用だ。――あぁ、今の会話とは全く関係ないけどね。
「そうなの。……その顔、もとからそんな表情だったっけ?」
「そんな、とは?」
「いえね。前は無表情だったような気がするのだけど」
「そうですか? これは最初からこんな顔ですよ?」
「……そう? まぁ、いいわ。それじゃあ、気をつけてね」
「はい、ありがとうございます」
小さくお辞儀をして、大家さんが視界から消えるのを待つ。
玄関前に飾ってある弟の顔は、実に満足気で、まるで役目を全うしたような顔をしていた。
「ごちそうさまでした」
食物連鎖の中で弱者は強者に食べられることが役目だって、友達の友達の友達が言ってましたよね……?