故郷で教師をしている魔術師、教え子の相談に乗っていたらいつの間にか大賢者と呼ばれていた 作:まじゅつこーし
俺は別に、大層な人物になりたいわけじゃない。
日々の生活に苦労しなければそれでいいのだ。
幸いにも転生先では才能に恵まれ、生きるに困らないだけの力を手に入れることができた。
だからこそ思う、これで十分だろう、と。
何もチートで成り上がりたいなんて思想は俺にはない。
そもそも、転生モノでは多くの転生者が成り上がっていくけれど、オタクはそれに感情移入がしたいだけで自分が同じ立場になりたいわけじゃないだろ?
というか、どう考えてもそんな器じゃないんだよ。
俺なんかがまさにそうだ。
生きていけるなら十分で、不足ないくらい稼げてれば十二分。
そういう性分なのである。
ただ自分自身についてはほどほどでいいが、他人に関してはその限りではないと思う。
何しろ彼らは、俺みたいに生きれるとは限らない。
才能があるかどうかは未知数で、穏やかな生活に満足できるかは人それぞれだ。
そういう人たちが、安心して生きられないというのに俺は少し罪悪感を感じてしまう。
転生によって前世の記憶を持ち、才能を的確に使えたことに対する後ろめたさのようなものがあるのだ。
だから、生きづらそうにしている人をみると放っておけない。
声をかけたくなってしまう。
とはいえ、ただ善意で彼らを助けているわけではない。
人が強くなるところを見守るというのは、結構楽しいものがあるのだ。
それが自分の教えによって
だから俺は、故郷で魔術の教師をしていた。
――んで。
俺の故郷はのどかな場所で、とても平和だ。
そんな場所でのんびり生きてきた俺は、しかし。
どういうわけか、ここ最近大賢者呼ばわりされている。
理由は多分、教え子の相談に乗っているからだと思うんだが。
正直、どうしてそうなったのかは……よくわからん。
○
「魔術というのは、魔力を用いて特別な現象を起こすことだ、というのは前から話してきたと思う」
開けた屋外の修練場。
ギルドに併設されたそこは、時に冒険者が鍛錬を行うために使われ、時に地元の子供達に魔術を教えるために使われる。
どのギルドにも存在する場所なのだが、タスルクの街に存在するギルドではあまり使われることがない。
そもそもこの街のギルドは、所属する冒険者が少なく常に閑古鳥がないているからだ。
近くにダンジョンがあるわけでもなく、魔物が多く発生するわけでもないから仕方ない。
そこで、俺が地元の子供達に魔術を教える場所として、借りているわけ。
「ただ、魔術を魔術として成立させるには他に詠唱が必要になる。詠唱を伴わない身体強化などの技術は、魔術に分類されないんだよ」
「へー」
「ここでちょっとおもしろい話なんだが、世の中には無詠唱魔術ってものが存在する。これって詠唱してないなら魔術じゃないんじゃない? と思うかも知れないが――実際魔術じゃない」
「えっ!?」
子供達は俺の講義を決して真剣というわけではないが、退屈そうにもしていない。
自然体の気楽な様子で、適当に話を聞いている。
俺としても、それくらいのほうが楽で助かるのだ。
「魔術とそうじゃないものの違いって、あくまで俺達が勝手に決めた基準でしか無いんだよ。そしてその基準に当てはめると、無詠唱魔術は厳密には魔術じゃなくなっちゃうんだ」
「あれ、じゃあ俺先生が魔術使ってるところ見たこと無いかも」
「鋭いな、俺は無詠唱で魔術を使うことがほとんどだから、ちゃんとした魔術を人前で披露したことがほとんど無いんだよな」
子供達に魔術を教えるときも、詠唱を教えるだけだしな。
「折角だ、俺が魔術を使ってるところをお見せしよう!」
「おお!」
「――――”その身よ、高らかに”!」
俺が魔術を行使すると、俺の体が光を帯びる。
それだけ? と思うかも知れない地味な魔術だ。
しかし、子供達は俺のこれまでの授業を聞いてたからか、すぐにこれがどういう魔術か思い至ったらしい。
「先生、それ身体強化じゃん!」
「ははは、詠唱をすれば本来なら魔術に分類されない技術でも、魔術に分類できてしまうって話だな!」
「あはは!」
教室が笑いに包まれた。
ともかく、こういうちょっとした小ネタをはさみながら魔術に関する講義を行う。
それが俺の日常だ。
んで、講義が終わった後――
「ん? レベッカ、どうしたんだ?」
俺は、帰っていく生徒の中で、不安そうにしている一人の生徒を見つけた。
気になったので名を呼んで声をかける。
名前に関しては、ちゃんと全員覚えているぞ。
「え、あ……レスタ先生……」
「何か悩んでることでもあるのか?」
「え、えっと……わ、私……先生みたいなすごい魔術師になりたいの」
「俺みたいに? そう言ってくれるのはうれしいけど……いや、いいか。それなら、魔術の制御練習を頑張らないとな」
「う、うん……けどね……」
声をかけた生徒は、おずおずと自分の状況を語ってくれた。
家が裕福ではなく、俺の講義もそのうち受けれなくなるかもしれないということ。
魔術師の夢を諦めて、働きにでろと親が言っていること。
なるほど、普通に考えると難しい問題だ。
「――だったら、働きながら魔術の練習をすればいい」
「えっ?」
「さっき使った身体強化の魔術があるだろ? 要するに、魔術と身体強化は厳密にそこまで違わないんだ。だから、身体強化の制御ができるようになれば、魔術の制御もうまくなる。身体強化を練習するついでに仕事をすればいい」
「あ……」
「――それに、俺はレベッカには才能があると思うんだよな」
そして俺は、講義の中でなんとなく感じていた彼女の”才能”について言及する。
「レベッカは記憶力がいいんだ。詠唱もすぐに覚えられるし、仕事だってすぐ覚えるだろ? だったら、仕事を覚えて効率よく仕事しながら、空いてる時間に魔術の練習をするんだ」
「そ、そっか……」
「それで魔術を使えるようになったら、今度はそれを仕事に活かせばいい。そうすれば更に効率化できるし、魔術の練習にもなる」
「なるほど……!」
俺はレベッカに視線を合わせながら、呼びかけた。
「――レベッカ、君はすごい。才能があって、魔術も一生懸命練習してる。君はきっと、すごい魔術師になるよ」
「…………あ、ありがとう、先生!」
そうして笑いかけると、少しほうけてからレベッカは大きな笑顔を浮かべて、俺に礼を言ってくれた。
うん、ここからレベッカが優秀な魔術師になってくれるとうれしいな。
――さて、講義やら何やらを終えた俺は、ギルドの食堂で昼食を取っていた。
ここの食堂は料理が美味しいと評判で、冒険者ではない地元の人間や旅人がよく利用する。
食堂の売上がギルドの利益の大半を占めていると言う。
タスルクの街は周囲に魔物はいないけど、交通の要衝で人の出入りは多いからな。
おかげで今日もギルドは繁盛しているんだが、そんなギルドに一人の客がやってきた。
――目を引く客だ。
燃えるような赤髪に、自信に溢れた眼差し。
背丈は小柄ながらもスタイルはよく、何と言っても特徴的なのはその長耳。
ローブ姿の赤髪エルフという、なかなか見ない容貌の人物がギルド内を闊歩する。
とはいえ、街の住人は彼女のことをよく知っているのだが。
で、その少女は一目散に俺の元へ向かってきた。
「――先生! 来ましたよ!」
「よう、ルミエラ。今日はどうしたんだ?」
「今日は、先生にお礼をいいに来たんです! 先日先生にご助言いただいた案件が無事解決しまして!」
「あああの魔導亀の。俺が言った通りだっただろ? 順番に属性魔術を行使していくと奴の甲羅が反応して脆くなる……って」
「えへへ、先生は流石のご慧眼です! それもこれも、先生のおかげです!」
気は強いが、懐いた人間にはとことん人懐っこい。
そんなルミエラが笑顔を振りまきながら俺に礼を言ってくる。
なんか、周囲からの視線が痛いな。
嫉妬されても、こっちは別になんもないぞ。
と思っていたら、何やら騒がしくなってきた。
「――ん、赤髪エルフのルミエラって、特級冒険者の!?」
「”閃火”のルミエラ!? 本物!?」
どうやら、彼女のことを伝聞でしか知らなかった旅人達が、正体に気づき始めたらしい。
そう、そうなのだ。
彼女、結構な有名人なのである。
が、問題はここから。
「――――ってことは、彼女に先生と呼ばれてるあの男が”大賢者”レスタ!?」
俺にまで話が飛び始めた。
そうです、俺がレスタです。
しかし、しかしだな。
大賢者ってのは、どうしてそう呼ばれるようになったのか。
俺は別に、ルミエラのように各地で厄介な魔物を討伐して有名になったわけではない。
ただルミエラの相談に乗っただけだ。
「ふふーん♪」
等のルミエラは、俺が褒められたからか何やら上機嫌。
……もしかして、思いっきり吹聴しまくったのか?
ひ、否定できん。
とはいえ、とはいえ……だ。
俺は別に、大賢者と呼ばれるようなことをしているつもりはない。
ただ、故郷のこのタスルクの街で、魔術を教えているだけなんだよ!