ダンジョンに強敵を求めるのは間違っているだろうか   作:アイスクリームベリーベリー

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第十三話 二十四階層への誘い

 

 翌朝ロキ・ファミリアの訓練場にて。

 俺とアイズは剣槍を交わしていた。

 

 俺は飛び上がり、アイズに空中からの突きを放つ。

 アイズは僅かに身を逸らして突きをいなし、すれ違いざまに剣を振るう。

 切っ先が俺の頬を掠めた。

 着地する俺を待っていたのは、低く薙ぐような足払いだ。

 

「ちっ」

 

 咄嗟に身を捻り、そのまま地面を転がる。

 勢いを殺さず立ち上がると同時に、アイズの顔を狙って蹴りを放ち――アイズはその一撃を受け止めた。

 

「マジかよ!」

 

 続けて二発、三発と仕掛けるが、読まれていたかのように防がれ、今度は仕返しとばかりに猛攻が返ってきた。

 

「つっ――!」

 

 剣撃を凌ぎきれず、体勢が崩れる。

 

 アイズがその隙を見逃すはずもない。

 一気に懐へ潜り込まれ、一撃が鳩尾へ叩き込まれた。

 

「ぐっ……!」

 

 息が詰まり、そのまま背中から地面へ転がる。

 追撃は来なかった。

 

「はい、そこまでー! アイズの勝ち!」

 

「クソが、めちゃくちゃ強ぇ」

 

「カイも負けちゃったね。やっぱりアイズ、凄く強くなってるよ」

 

「…うん。よかった」

 

 アイズは小さく頷くと、倒れたままの俺の隣へ腰を下ろした。

 先ほどまでの鋭い闘気はもう消えている。

 

 俺たちがやっていたのは、Lv.6へランクアップしたアイズの感覚を確かめるための、魔法なしの模擬戦だ。

 ティオナの提案で始めたものだが、今のところ二人ともアイズに完敗している。

 

「流石に魔法なしじゃ厳しいな」

 

「あたしたち、ほとんど何もできなかったもんね。……よし! こうしちゃいられない! あたしももっと頑張らないと!」

 

 そう言い残すなり、ティオナは勢いよく訓練場を飛び出していった。

 その背中を見送ったアイズが、僅かに目を丸くする。

 

 相変わらず元気な奴だ。

 

「どうだ、アイズ。ランクアップのズレは直せたか?」

 

「……うん。だいぶ、慣れた。ありがとう」

 

「そうか。審判役もいなくなったことだしそろそろお開きにでもするかな」

 

「……うん。あの、カイ」

 

「どうした?」

 

 立ち上がったアイズが、少し言葉を探すように間を置いた。

 

「これから、ダンジョンに行こうと思ってる」

 

「今からか?」

 

「うん。……カイも、一緒に来ない?」

 

「あー、悪い。この後レフィーヤと訓練することになっててな。また誘ってくれ」

 

「え、レフィーヤと……二人で?」

 

「ああ、そうだけど。なんかあったか?」

 

「……ううん。何でもない」

 

「そうか?」

 

「うん。……じゃあ、行ってくる」

 

 アイズは一度だけ俺を見た後、そのまま訓練場を出ていった。

 いつもより少しだけ足取りが重く見えたのは、気のせいだろうか。

 

「……レフィーヤと何かあったのか? ……ま、いいか。俺もそろそろ行かねえとな」

 

 

 

     ◇

 

 

 

 待ち合わせ場所へ行くと既にレフィーヤが待っていた。

 

「よお、待ったか?」

 

「あ、カイさん! いえ、私も今来たところです。早速ですけど、訓練よろしくお願いします!」

 

 昨晩、アイズがLv.6へランクアップした後、レフィーヤが俺のもとを訪ねてきた。

 アイズに追いつけるよう定期的に修行をつけてほしいと乞われた。

 

 普段は俺に頼み事なんてしてこないレフィーヤが、自分から修行を頼みに来るとは。

 よほどアイズに感化されたらしい。

 

「それで、マジで実戦形式でやるわけ?」

 

「はい! 私も、もっと実戦の中で魔法を使えるようになりたいんです。アイズさんに少しでも近づくには、並行詠唱を身につけないと……!」

 

「ふーん。まあ、いいか。そんじゃ早速始めるか」

 

「はい!」

 

 それから二時間ほど訓練を続けたものの、やはりというべきか、並行詠唱どころではなかった。

 俺の攻撃を避けるだけで精一杯らしく、詠唱を始めてもすぐに途切れてしまう。

 

「ぜぇ、はぁ……あ、ありがとうございました……」

 

「おう。……かなり限界っぽいな。まずは、その体力のなさをどうにかしねえとな」

 

「はい、体力ですか……」

 

「ああ。相手の攻撃を余裕持ってかわせるようになりゃ、その分、詠唱に意識を回せるだろ。……多分」

 

「多分って……」

 

「俺、魔導士じゃねえし」

 

「もう……」

 

 レフィーヤが疲れ切った顔で肩を落とす。

 

「まあ、並行詠唱できる奴は大抵その辺も鍛えてるだろ。リヴェリアだってそうだしな。とりあえず当面の目標は、一分間、今くらいの攻撃をかわし続けることだな」

 

「一分間……」

 

「無理そうか?」

 

「い、いえ! やります! よろしくお願いします!」

 

 そんなこんなで、今日の訓練は終わった。

 息を整えているレフィーヤを眺めていると、ふと気になっていたことを思い出した。

 

「そういや、なんで俺に頼んできたんだ? こういうのって、いつもならリヴェリア辺りに頼みそうなもんだけど」

 

「えっ? えーっと……それは、その……」

 

 レフィーヤは少し言いづらそうに視線を泳がせた。

 

「……カイさんって、アイズさんに少し似てるから、ですかね」

 

「は? 俺とアイズのどこが似てんだよ」

 

「えっと……その、鍛錬にすごく真面目なところとか、強くなることに貪欲なところとか……」

 

「ほう」

 

「あと、訓練だと全然容赦してくれないところとか……」

 

「それ褒めてんのか?」

 

「ほ、褒めてますよ!?」

 

 慌てて否定するレフィーヤを見て、思わず苦笑する。

 どうやら、俺が思っていた以上には評価してくれているらしい。

 

「……そうか」

 

「……あれ? もしかして、照れてます?」

 

「照れてねえよ」

 

「えっ!? でも今、ちょっと嬉しそうでしたよ!」

 

「……次の訓練、今回より厳しくするからな」

 

「なんでですかぁ!?」

 

 途端にレフィーヤの肩が落ちた。

 

「で、この後はどうすんだ?」

 

「そうですね……アイズさん、確かダンジョンに行ってるんですよね?」

 

「ああ、多分な」

 

「だったら、私も行ってきます! もしかしたらアイズさんと一緒に戦えるかもしれませんし、それにアイズさんの戦っている姿を間近で――」

 

 何やら一人で盛り上がり始めた。

 

「……お前、アイズが絡むとちょっと気持ち悪くなるよな」

 

「なっ!? き、気持ち悪いってなんですか! 失礼ですよ!」

 

「いや、だって今の顔……」

 

「普通です! アイズさんを見てたらこれくらい普通なんです! むしろカイさんの方がおかしいですよ!」

 

「なんで俺が」

 

「あんなに綺麗で格好いいアイズさんをいつも間近で見てるのに、なんでそんなに平然としていられるんですか!?」

 

「知らねえよ……」

 

 ぽとり。

 言い合っている最中、何かがレフィーヤの頭に落ちてきた。

 

「ひゃっ!?」

 

「なんだ?」

 

 二人揃って頭上を見上げる。

 一羽のフクロウがこちらから離れ、そのまま空へ飛び去っていった。

 

 レフィーヤの頭に落ちたものへ視線を戻す。

 

「……手紙?」

 

「みたいだな」

 

「でも、どうしてフクロウが……?」

 

「さあな。とりあえず中身見てみようぜ」

 

「えっ、勝手に開けていいんでしょうか?」

 

「俺たちに落としてったんだし、いいだろ」

 

「そういう問題でしょうか……」

 

 そう言いながらも、レフィーヤに止める気はないらしい。

 封を開き、中から一枚の紙を取り出す。

 

 飾り気のない、短い文面だった。

 その字には見覚えがある。

 

「……これ、アイズの字じゃねえか?」

 

「アイズさん!?」

 

 その言葉を聞いた途端、レフィーヤが勢いよく横から手紙を覗き込んできた。

 

「ちょ、近いって」

 

「いいから見せてください!」

 

「分かったから押すなって……。えーっと、『冒険者依頼を頼まれたので、二十四階層へ行きます。心配しないでください』……だとさ」

 

「……二十四階層?」

 

 先ほどまで浮かれていたレフィーヤの表情が変わった。

 

「ちょっと待ってください! なんでアイズさんが一人でそんなところに行ってるんですか!? それに冒険者依頼って、いったい誰から――」

 

「落ち着けって。俺に聞かれても分かんねえよ」

 

「でも!」

 

 俺も手紙へ視線を落とす。

 今朝、アイズはただダンジョンへ行くとしか言っていなかった。それがいつの間にか冒険者依頼を受けて、二十四階層へ向かっている。

 

 しかも、わざわざフクロウを使って知らせてきた。

 ただの探索なら、こんな回りくどいことをする必要はない。

 

「とりあえずロキに知らせるぞ。何か知ってるかもしれねえ」

 

「……はい。そうですね。急ぎましょう!」

 

 こうして俺たちはその場を後にし、急いでホームへと戻った。

 

 

     ◇

 

 

 

 ホームの広間へ戻ると、そこにはロキの他に見知らぬ男神と、その眷属らしきエルフの女性がいた。

 何やら話し込んでいたようだが、俺たちが入ってきたことで三人の視線がこちらへ向く。

 

「ロキ!」

 

「ん? レフィーヤとカイやん。珍しい組み合わせやな。どないしたん?」

 

「アイズからの手紙だ。冒険者依頼を受けて、二十四階層に向かうってよ」

 

「……二十四階層?」

 

 ロキの細い目が僅かに開く。

 俺から手紙を受け取ると、素早く中身へ目を通した。

 

「『心配しないでください』って……するっちゅうねん、アイズたんのアホ!」

 

 呆れたように息を吐いたものの、その声から先ほどまでの軽さは消えていた。

 

「レフィーヤ。悪いけど、ベート呼んできてくれへん?」

 

「は、はい! 分かりました!」

 

 レフィーヤはすぐさま広間を飛び出していった。

 その背中を見送ってから、改めて見知らぬ二人へ目を向ける。

 

「……で、この二人は?」

 

「ああ、まだ紹介しとらんかったな。こっちがディオニュソス。ほんで、そっちの子がフィルヴィスや。二人とも、例の花型モンスターについて調べとる」

 

「初めまして。ディオニュソスだ」

 

 男神が穏やかな笑みを浮かべる。

 

「こちらは僕の眷属、フィルヴィス・シャリア。しばらく君たちとは協力することになりそうだ。よろしく頼むよ」

 

「……フィルヴィス・シャリアだ。よろしく頼む」

 

「カイだ。よろしく」

 

「ああ」

 

 随分と愛想のない奴だな。

 

 こっちを警戒しているというより、最初から必要以上に関わる気がないように見える。

 反対に、主神のディオニュソスは随分と人当たりが柔らかい。

 

「そんで、二十四階層とあの花型は何か関係あんのか?」

 

「まだ分からへん。ただ、今までのこと考えたら放っとくわけにもいかんやろ」

 

 ロキが手紙を指先で叩く。

 

「アイズたんが受けた依頼の中身も気になるしな。この時機に二十四階層っちゅうのは、ちょーっと出来すぎや」

 

「そういや、誰からの依頼かは書いてねえな」

 

「せや。二十四階層なら、アイズたん一人でもそうそう危ない場所やない。けど、何が待っとるか分からん以上、念のためや」

 

「僕も同感だよ」

 

 それまで黙っていたディオニュソスが口を挟む。

 

「二十四階層では、今まさに不自然な怪物の大量発生が起きている。例の花型と無関係だと決めつけるには、少々状況が重なりすぎているね」

 

「ってわけや」

 

 そう話していると、広間の外から声が響いてきた。

 

「ロキー! ベートさん、連れてきました!」

 

 振り返れば、レフィーヤがベートを連れて戻ってくるところだった。

 

「おう、ご苦労さん」

 

「あぁ? なんだってんだよ。いきなり呼び出しやがって」

 

「ちょいと面倒なことになってな」

 

 ロキが手にしていた紙をひらひらと振る。

 

「アイズたんが冒険者依頼を受けて、二十四階層に向かったらしい」

 

「あぁ?」

 

 ベートの眉が露骨に寄る。

 さっきまでの面倒そうな態度が明らかに変わった。

 

「……誰からだよ」

 

「それが分からへん。せやから三人で今すぐ二十四階層に向かってくれ。あの子も一緒にな」

 

「三人……って、私もですよね!」

 

「せや。レフィーヤ、あんたも行ってき。アイズ見つけたら、勝手なことせんようしっかり見張っとき」

 

「はい!」

 

「チッ……面倒くせぇ」

 

 そう吐き捨てながらも、ベートに断る様子はない。

 

「それなら――」

 

 ディオニュソスがフィルヴィスへと目を向けた。

 

「フィルヴィス。君も彼らと同行してくれないか」

 

「私が、ですか?」

 

「ああ。今回の異変は僕たちが追っている件とも無関係ではない。それに、二十四階層について調べるいい機会でもある」

 

「しかし、貴方の護衛は……」

 

「僕なら大丈夫だよ。今は彼らに協力してほしい」

 

「……承知しました」

 

 フィルヴィスは僅かに間を置いてから頷いた。

 

「ほな決まりやな。何かあったら無茶せんと戻ってき。アイズたんが厄介事に首突っ込んどったら、引っ張ってでも連れて帰ってきてや」

 

「分かった」

 

 俺も頷き、フィルヴィスへ視線を向ける。

 

「フィルヴィス、だったか。お前も問題ねえんだな?」

 

「ああ。主神の命だ。異論はない」

 

「そっか。なら行くか」

 

 こうして俺たちは、花型モンスターの異変を追う【ディオニュソス・ファミリア】のフィルヴィスを加え、アイズを追って二十四階層へ向かうことになった。

 

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