いぬのTS貧乳合法ロリアラサーおまわりさん   作:被告人5

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けいさつだから

「あなたほどの能力を持つ獣人が、なぜ、純人間たちに気を遣わなければならないのですか?」

「……」

「彼らは、あなたの力を利用するだけ利用して、その一方で、獣人を対等な存在として扱おうとしない。世間では差別がなくなったように装いながら、都合のいいときだけ、あなたを珍しい存在として持ち上げる」

 

こえが、すこしだけひくくなる。どうしたんだろう、わたしおこらせちゃったのかな。

 

「そんな社会に、これ以上、従う必要があるのでしょうか?」

 

……そう、なのかな。むずかしい、もっとあたまをうごかさないと。ねむたいけど、ちょっと、頑張ろう。

 

あたまの中で、何かがゆっくりとかたむいていく。

 

これまで、私はふかく考えたことがなかった。警察かんになったのだから、仕事をする。困っている人がいたら助ける。犯罪を見つけたら対処する。それが当たり前だと思っていた。

 

けれど、もしも。もしも、自分がずっと、都合よく利用されていただけだったとしたら?

 

私は、何のために頑張っているのだろう。怖い思いをして、嫌なことをされて、それでも笑顔で人を助けなければならないのだろうか。

 

……疲れたな。

 

少しだけ、そう思ってしまった。

 

誰かを助けることが嫌なわけではない。けれど、誰かに傷つけられたときまで、何も感じてはいけないのだろうか。

 

怖かったと言ってはいけないのだろうか。嫌だったと、怒ってはいけないのだろうか。そんな疑問が、頭の中をゆっくりと巡る。

 

教授は、私の様子を見ながら、さらに言葉を重ねた。

 

「今こそ、立ち上がるときです」

 

その声は、まるで耳元で囁かれているようだった。甘く、優しく、私の心に溶けていく。

 

「獣人が、自らの力を認めさせるときです。あなたのような方が声を上げれば、社会は変わる。もう、理不尽に耐える必要などないのです」

 

そして、彼は静かに言った。

 

「復讐のときですよ」

 

……復讐。その言葉が、頭の中に残った。

 

復讐。

 

そうだ。私たちに酷いことをした研究所の人たちは、何もなかったかのように暮らしているのかもしれない。

 

私も、アキ姉貴も、あんなに怖い思いをしたのに。それで、本当にいいのだろうか。

 

……でも。何か、決定的に大事なことを忘れているような気がする。

 

胸の奥に、小さな引っ掛かりがあった。けれど、それが何なのか、うまく考えられない。

 

甘い香りが、ゆっくりと鼻の奥に広がっていく。心地いい。考えるのが面倒になってくる。このまま、何も考えずに、教授の話を聞いていればいいような気がした。

 

「幸いにも、犬井巡査は警察組織の中で大きな影響力を持つようになりました」

「……えい響力?」

「ええ。あなたの言葉には、人を動かす力がある。あなたが声を上げれば、きっと多くの獣人が賛同するでしょう」

 

私は、ぼんやりと彼の話を聞いていた。

 

「まずは、あなたのお姉さんに会いたい」

「……あねき?」

「アキ警部です」

 

アキ姉貴。

 

そうだ。姉貴も、獣人だ。私と一緒に、怖い思いをした。あのとき、姉貴は私を守ってくれた。私も、姉貴も、同じように傷ついたはずだ。

 

だったら、姉貴だって、きっと同じことを考えている。

 

純人間なんて、信用できない。獣人が立ち上がらなければならない。

 

……そうなのかな。

 

頭の中に浮かんだ考えが、まるで自分自身の意見であるかのように、自然に馴染んでいく。不思議だった。ついさっきまで、そんなことを考えたこともなかったのに。

 

「犬井巡査。あなたのお姉さんを、私のところへ連れてきてください」

 

教授は、穏やかな声でそう言った。

 

「アキ警部も、あなたと同じ経験をしている。私は全て知っています。きっと、私たちの考えを理解してくれるでしょう」

 

……姉貴。

 

姉貴も、そう思っているのかな。姉貴はいつも、私のことを心配してくれる。私が嫌な思いをしないように、いろいろと気を回してくれる。私を守ってくれる。

 

だから、きっと。

 

姉貴も、私と同じ気持ちのはずだ。信(・)頼(・)で(・)き(・)る(・)マウスー教授が、そう言っているのだから。

 

……でも。

 

そのとき、胸の奥にあった小さな引っ掛かりが、ほんの少しだけ大きくなった。何か、絶対に違う。

 

私は、ゆっくりと顔を上げた。

 

「……でも」

「はい?」

「わたしと、アキあねきは……」

 

声が、うまく出ない。頭がぼんやりする。何を言おうとしていたのか、分からなくなりそうだった。

 

けれど、言わなければならない気がした。これは、私がちゃんと考えて、答えなければならないことだ。

 

「……けいさつ、だから」

 

教授の笑顔が、ほんのわずかに止まった。

 

「どんなに…」

 

私は、必死に言葉を探す。頭の中が、ふわふわする。それでも、口にしなければならない。

 

「いじめられても……こわくても……」

 

そうだ。私たちは、警察官なのだ。

 

警察官になったのは、誰かを憎むためではない。誰かに復讐するためでもない。

 

たとえ相手が嫌いでも。たとえ相手に酷いことをされたとしても。目の前に、助けを必要としている人がいたら。

 

「……まもらなきゃ」

 

私は、そう言った。

 

「……どんな人でも、わたしたちはまもるから」

 

最後の言葉は、自分でも驚くほど小さな声だった。けれど、確かに言えた。

 

教授は、しばらく黙っていた。先ほどまで浮かべていた笑顔は、まだその顔に残っている。ただ、その目だけが、少しも笑っていなかった。

 

「……ハハッ、そうですか。残念です」

 

やがて、教授は小さく息を吐いた。

 

声色は変わらない。穏やかで、優しく、まるでこちらを気遣うような口調だった。

 

「あなたなら、理解してくれると思っていたのですが」

「……すみ、ません。きょうじゅ」

 

なぜ謝っているのか、自分でもよく分からなかった。

 

ただ、教授を失望させてしまったことが、ひどく申し訳ないような気がした。

 

せっかく、私の話を聞いてくれたのに。せっかく、私の気持ちを理解してくれたのに。

 

……あれ?

 

どうして、私はこんなことを考えているのだろう。この人は、何をしようとしているのだろう。考えようとした瞬間、また、甘い香りが鼻先をくすぐった。

 

教授が、すみっこに置かれたディフューザーへ手を伸ばしていた。

 

「では、少々後遺症が残るかもしれませんが…」

 

カチッ。

 

小さなボタンを押す音がした。機械の作動音が、かすかに響く。霧のようなものが、先ほどよりも多く噴き出したように見えた。

 

ふわり、と。甘い香りが、一段と強くなる。

 

……あ、いい匂い。そう思った。思った、はずだった。

 

次の瞬間。

 

頭の中に、何かが流れ込んでくるような感覚がした。何も考えなくていい。難しいことは、全部、誰かに任せてしまえばいい。

 

この人の言うことをきいていればいい。そうすれば、きっと楽になれる。

 

そんなかんがえが、まるでじぶんのものだったかのように、うかんでくる。

 

……あれ?

 

なにをかんがえていたんだっけ。

 

あねきを、つれてくる?

 

そうだ。

 

それが、いいのかもしれない。あねきも、きっとわかってくれる。だって、わたしたちは――。

 

『あ、あー。ハル先輩、聞こえますゥ?』

「……?」

 

とつ然、耳もとで声がした。少しノイズが混じった、聞き慣れた声。

 

『ハル先輩ィ?おーい、聞こえてますかァ?』

 

……だれ?

 

私は、ぼんやりと顔を上げた。目の前には、マウスー教授がいる。彼は驚いたような顔でこちらを見ている、こんな表情は初めて見た。

 

そうだ、私は研究室にいた。でも、何をしていたんだっけ。

 

頭の中が、ひどく曖昧だった。まるで、気持ちよくお昼寝をしていたところを、無理やり起こされたような感覚。

 

少しだけ頭が重い。もしかして眠っちゃったのだろうか。

 

私は反射的に制服に取り付けていた無線デバイスを手に取った。

 

「す、すみません。こちらいぬい。軽井沢巡査、どうされました?」

『いやァー、随分と帰りが遅いなって思いましてねェ。呂律まわってないじゃないっすかァ。お昼寝もほどほどにしておいてくださいよォ』

「……え?」

 

帰りが遅い?

 

私は、思わず壁の時計を見た。針が示していた時刻を確認して、目を見開く。

 

……えっ。

 

講義が終わってから、もう二時間以上が経過していた。そんなに時間が経っていたのか。

 

確かに、教授に研究室へ招かれた。コーヒーをいただいて、少しお話をしていた。

 

そこまでは覚えている。でも、そのあと、何を話したのだったか。

 

何か、難しい話をしていたような気もする。途中から、頭がぼんやりして……。

 

教授の話が難しすぎて、つい眠くなってしまったのかもしれない。いや、でも、さすがに二時間も寝ていたなんてことはないだろう。ない、と思いたい。

 

『ハル先輩ィ?聞こえてますゥ?』

「あっ、はい!すみません、聞こえています!」

『ならいいんですけどねェ。こっちは、先輩がいつまで経っても戻ってこないから、何かあったのかと思ったんですよォ』

「す、すみません。すぐ戻ります。軽井沢巡査、連絡ありがとうございます」

『いいってことっすよォ。じゃ、俺はパチンコ行ってきますねェ』

「……は?」

 

思わず、間の抜けた声が出た。今、何と言った?パチンコ?勤務中では?

 

『じゃ、失礼しまァーす』

 

プツッ。

 

それっきり、無線からは何も聞こえなくなった。

 

「…………」

 

私は、無線デバイスを見つめた。なんだ、あの猫。

 

いや、まあ、連絡をくれたこと自体はありがたいのだけれど。最後の一言は、どう考えてもおかしいだろう。帰ったら、ちゃんと注意しておこう。

 

……いや、待て。そもそも、私がこんなに長居してしまったのが悪いのだ。

 

交番に戻ったら、まだ仕事が残っている。早く帰らなければ。

 

「……すみません、マウスー教授」

 

私は慌てて立ち上がった。

 

「思ったより長居してしまいました。仕事がありますので、そろそろ失礼します」

「ハハッ。ええ、構いませんよ」

 

教授は、相変わらず穏やかに笑っていた。先ほどまでと、何も変わらない。怒っている様子もなければ、私が長居したことを気にしている様子もない。

 

私は、少しだけ安心した。眠ってしまったのだから、怒られるとばかり。流石に申し訳ないから、今度会うときに菓子折りでも持って行こう。彼はレモンパイが好きだと言っていたはずだ。

 

…なるべく、会いたくはないけど。

 

「今日はありがとうございました。コーヒーも、とてもおいしかったです」

「それは良かった。また、交通安全教室をお願いすることもあるでしょう。その際は、よろしくお願いしますね」

「はい。教授も、何かありましたら、遠慮無く警察を頼ってくださいね」

 

私は頭を下げた。

 

そのとき、ふと、教授がデスクの近くに置かれたディフューザーをいじっているのが目に入った。何か、設定でも変えているのだろうか。機械のボタンを押したり、表示を確認したりしている。

 

……アロマって、いろいろと難しいんだな。私にはよく分からん。

 

そんなことを考えながら、私は研究室の扉へ向かった。

 

「では、失礼します」

「ええ。またお会いしましょう、犬井巡査」

 

最後まで、教授は笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下に出て、研究室の扉が閉まる。私は、ふう、と息を吐いた。

 

……疲れた。

 

いや、講義をしたのだから疲れるのは当然なのだけれど、それにしても、妙な疲れ方だった。体が重いわけではない。頭痛がするわけでもない。ただ、何となく、頭の中に薄い霧がかかったような感覚が残っていた。私は、軽く頭を振った。

 

……まあ、いいか。

 

きっと、疲れているのだろう。昨日はちゃんと寝たはずなのだけれど、最近は広報活動も増えているし、普段とは違う場所で大勢の人を相手にしたのだから、いつも以上に疲れたのかもしれない。

 

それに、教授の話は難しかった。ほぼ覚えていないが、普段の仕事ではあまり考えないような話ばかりだった。途中から、つい眠くなってしまったのだろう。

 

……うん。きっと、そうだ。

 

私は自分に言い聞かせるようにうなずき、廊下を歩き始めた。

 

早く交番に戻らなければ。まだ仕事が残っているし、軽井沢巡査にも一言言ってやらなければならない。まったく、あの猫は。

 

そんな、いつも通りのことを考えながら、私は大学の出口へ向かった。背後の研究室では、今も心地よい甘い香りが漂っているのだろう。けれど、そのことを気に留めることもなく。

 

私は、いつものさくら交番へ帰っていった。








軽井沢潤の好感度50未満で…
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