いぬのTS貧乳合法ロリアラサーおまわりさん   作:被告人5

20 / 20
けいさつだから

「あなたほどの能力を持つ獣人が、なぜ、純人間たちに気を遣わなければならないのですか?」

「……」

「彼らは、あなたの力を利用するだけ利用して、その一方で、獣人を対等な存在として扱おうとしない。世間では差別がなくなったように装いながら、都合のいいときだけ、あなたを珍しい存在として持ち上げる」

 

こえが、すこしだけひくくなる。どうしたんだろう、わたしおこらせちゃったのかな。

 

「そんな社会に、これ以上、従う必要があるのでしょうか?」

 

……そう、なのかな。むずかしい、もっとあたまをうごかさないと。ねむたいけど、ちょっと、頑張ろう。

 

あたまの中で、何かがゆっくりとかたむいていく。

 

これまで、私はふかく考えたことがなかった。警察かんになったのだから、仕事をする。困っている人がいたら助ける。犯罪を見つけたら対処する。それが当たり前だと思っていた。

 

けれど、もしも。もしも、自分がずっと、都合よく利用されていただけだったとしたら?

 

私は、何のために頑張っているのだろう。怖い思いをして、嫌なことをされて、それでも笑顔で人を助けなければならないのだろうか。

 

……疲れたな。

 

少しだけ、そう思ってしまった。

 

誰かを助けることが嫌なわけではない。けれど、誰かに傷つけられたときまで、何も感じてはいけないのだろうか。

 

怖かったと言ってはいけないのだろうか。嫌だったと、怒ってはいけないのだろうか。そんな疑問が、頭の中をゆっくりと巡る。

 

教授は、私の様子を見ながら、さらに言葉を重ねた。

 

「今こそ、立ち上がるときです」

 

その声は、まるで耳元で囁かれているようだった。甘く、優しく、私の心に溶けていく。

 

「獣人が、自らの力を認めさせるときです。あなたのような方が声を上げれば、社会は変わる。もう、理不尽に耐える必要などないのです」

 

そして、彼は静かに言った。

 

「復讐のときですよ」

 

……復讐。その言葉が、頭の中に残った。

 

復讐。

 

そうだ。私たちに酷いことをした研究所の人たちは、何もなかったかのように暮らしているのかもしれない。

 

私も、アキ姉貴も、あんなに怖い思いをしたのに。それで、本当にいいのだろうか。

 

……でも。何か、決定的に大事なことを忘れているような気がする。

 

胸の奥に、小さな引っ掛かりがあった。けれど、それが何なのか、うまく考えられない。

 

甘い香りが、ゆっくりと鼻の奥に広がっていく。心地いい。考えるのが面倒になってくる。このまま、何も考えずに、教授の話を聞いていればいいような気がした。

 

「幸いにも、犬井巡査は警察組織の中で大きな影響力を持つようになりました」

「……えい響力?」

「ええ。あなたの言葉には、人を動かす力がある。あなたが声を上げれば、きっと多くの獣人が賛同するでしょう」

 

私は、ぼんやりと彼の話を聞いていた。

 

「まずは、あなたのお姉さんに会いたい」

「……あねき?」

「アキ警部です」

 

アキ姉貴。

 

そうだ。姉貴も、獣人だ。私と一緒に、怖い思いをした。あのとき、姉貴は私を守ってくれた。私も、姉貴も、同じように傷ついたはずだ。

 

だったら、姉貴だって、きっと同じことを考えている。

 

純人間なんて、信用できない。獣人が立ち上がらなければならない。

 

……そうなのかな。

 

頭の中に浮かんだ考えが、まるで自分自身の意見であるかのように、自然に馴染んでいく。不思議だった。ついさっきまで、そんなことを考えたこともなかったのに。

 

「犬井巡査。あなたのお姉さんを、私のところへ連れてきてください」

 

教授は、穏やかな声でそう言った。

 

「アキ警部も、あなたと同じ経験をしている。私は全て知っています。きっと、私たちの考えを理解してくれるでしょう」

 

……姉貴。

 

姉貴も、そう思っているのかな。姉貴はいつも、私のことを心配してくれる。私が嫌な思いをしないように、いろいろと気を回してくれる。私を守ってくれる。

 

だから、きっと。

 

姉貴も、私と同じ気持ちのはずだ。信(・)頼(・)で(・)き(・)る(・)マウスー教授が、そう言っているのだから。

 

……でも。

 

そのとき、胸の奥にあった小さな引っ掛かりが、ほんの少しだけ大きくなった。何か、絶対に違う。

 

私は、ゆっくりと顔を上げた。

 

「……でも」

「はい?」

「わたしと、アキあねきは……」

 

声が、うまく出ない。頭がぼんやりする。何を言おうとしていたのか、分からなくなりそうだった。

 

けれど、言わなければならない気がした。これは、私がちゃんと考えて、答えなければならないことだ。

 

「……けいさつ、だから」

 

教授の笑顔が、ほんのわずかに止まった。

 

「どんなに…」

 

私は、必死に言葉を探す。頭の中が、ふわふわする。それでも、口にしなければならない。

 

「いじめられても……こわくても……」

 

そうだ。私たちは、警察官なのだ。

 

警察官になったのは、誰かを憎むためではない。誰かに復讐するためでもない。

 

たとえ相手が嫌いでも。たとえ相手に酷いことをされたとしても。目の前に、助けを必要としている人がいたら。

 

「……まもらなきゃ」

 

私は、そう言った。

 

「……どんな人でも、わたしたちはまもるから」

 

最後の言葉は、自分でも驚くほど小さな声だった。けれど、確かに言えた。

 

教授は、しばらく黙っていた。先ほどまで浮かべていた笑顔は、まだその顔に残っている。ただ、その目だけが、少しも笑っていなかった。

 

「……ハハッ、そうですか。残念です」

 

やがて、教授は小さく息を吐いた。

 

声色は変わらない。穏やかで、優しく、まるでこちらを気遣うような口調だった。

 

「あなたなら、理解してくれると思っていたのですが」

「……すみ、ません。きょうじゅ」

 

なぜ謝っているのか、自分でもよく分からなかった。

 

ただ、教授を失望させてしまったことが、ひどく申し訳ないような気がした。

 

せっかく、私の話を聞いてくれたのに。せっかく、私の気持ちを理解してくれたのに。

 

……あれ?

 

どうして、私はこんなことを考えているのだろう。この人は、何をしようとしているのだろう。考えようとした瞬間、また、甘い香りが鼻先をくすぐった。

 

教授が、すみっこに置かれたディフューザーへ手を伸ばしていた。

 

「では、少々後遺症が残るかもしれませんが…」

 

カチッ。

 

小さなボタンを押す音がした。機械の作動音が、かすかに響く。霧のようなものが、先ほどよりも多く噴き出したように見えた。

 

ふわり、と。甘い香りが、一段と強くなる。

 

……あ、いい匂い。そう思った。思った、はずだった。

 

次の瞬間。

 

頭の中に、何かが流れ込んでくるような感覚がした。何も考えなくていい。難しいことは、全部、誰かに任せてしまえばいい。

 

この人の言うことをきいていればいい。そうすれば、きっと楽になれる。

 

そんなかんがえが、まるでじぶんのものだったかのように、うかんでくる。

 

……あれ?

 

なにをかんがえていたんだっけ。

 

あねきを、つれてくる?

 

そうだ。

 

それが、いいのかもしれない。あねきも、きっとわかってくれる。だって、わたしたちは――。

 

『あ、あー。ハル先輩、聞こえますゥ?』

「……?」

 

とつ然、耳もとで声がした。少しノイズが混じった、聞き慣れた声。

 

『ハル先輩ィ?おーい、聞こえてますかァ?』

 

……だれ?

 

私は、ぼんやりと顔を上げた。目の前には、マウスー教授がいる。彼は驚いたような顔でこちらを見ている、こんな表情は初めて見た。

 

そうだ、私は研究室にいた。でも、何をしていたんだっけ。

 

頭の中が、ひどく曖昧だった。まるで、気持ちよくお昼寝をしていたところを、無理やり起こされたような感覚。

 

少しだけ頭が重い。もしかして眠っちゃったのだろうか。

 

私は反射的に制服に取り付けていた無線デバイスを手に取った。

 

「す、すみません。こちらいぬい。軽井沢巡査、どうされました?」

『いやァー、随分と帰りが遅いなって思いましてねェ。呂律まわってないじゃないっすかァ。お昼寝もほどほどにしておいてくださいよォ』

「……え?」

 

帰りが遅い?

 

私は、思わず壁の時計を見た。針が示していた時刻を確認して、目を見開く。

 

……えっ。

 

講義が終わってから、もう二時間以上が経過していた。そんなに時間が経っていたのか。

 

確かに、教授に研究室へ招かれた。コーヒーをいただいて、少しお話をしていた。

 

そこまでは覚えている。でも、そのあと、何を話したのだったか。

 

何か、難しい話をしていたような気もする。途中から、頭がぼんやりして……。

 

教授の話が難しすぎて、つい眠くなってしまったのかもしれない。いや、でも、さすがに二時間も寝ていたなんてことはないだろう。ない、と思いたい。

 

『ハル先輩ィ?聞こえてますゥ?』

「あっ、はい!すみません、聞こえています!」

『ならいいんですけどねェ。こっちは、先輩がいつまで経っても戻ってこないから、何かあったのかと思ったんですよォ』

「す、すみません。すぐ戻ります。軽井沢巡査、連絡ありがとうございます」

『いいってことっすよォ。じゃ、俺はパチンコ行ってきますねェ』

「……は?」

 

思わず、間の抜けた声が出た。今、何と言った?パチンコ?勤務中では?

 

『じゃ、失礼しまァーす』

 

プツッ。

 

それっきり、無線からは何も聞こえなくなった。

 

「…………」

 

私は、無線デバイスを見つめた。なんだ、あの猫。

 

いや、まあ、連絡をくれたこと自体はありがたいのだけれど。最後の一言は、どう考えてもおかしいだろう。帰ったら、ちゃんと注意しておこう。

 

……いや、待て。そもそも、私がこんなに長居してしまったのが悪いのだ。

 

交番に戻ったら、まだ仕事が残っている。早く帰らなければ。

 

「……すみません、マウスー教授」

 

私は慌てて立ち上がった。

 

「思ったより長居してしまいました。仕事がありますので、そろそろ失礼します」

「ハハッ。ええ、構いませんよ」

 

教授は、相変わらず穏やかに笑っていた。先ほどまでと、何も変わらない。怒っている様子もなければ、私が長居したことを気にしている様子もない。

 

私は、少しだけ安心した。眠ってしまったのだから、怒られるとばかり。流石に申し訳ないから、今度会うときに菓子折りでも持って行こう。彼はレモンパイが好きだと言っていたはずだ。

 

…なるべく、会いたくはないけど。

 

「今日はありがとうございました。コーヒーも、とてもおいしかったです」

「それは良かった。また、交通安全教室をお願いすることもあるでしょう。その際は、よろしくお願いしますね」

「はい。教授も、何かありましたら、遠慮無く警察を頼ってくださいね」

 

私は頭を下げた。

 

そのとき、ふと、教授がデスクの近くに置かれたディフューザーをいじっているのが目に入った。何か、設定でも変えているのだろうか。機械のボタンを押したり、表示を確認したりしている。

 

……アロマって、いろいろと難しいんだな。私にはよく分からん。

 

そんなことを考えながら、私は研究室の扉へ向かった。

 

「では、失礼します」

「ええ。またお会いしましょう、犬井巡査」

 

最後まで、教授は笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下に出て、研究室の扉が閉まる。私は、ふう、と息を吐いた。

 

……疲れた。

 

いや、講義をしたのだから疲れるのは当然なのだけれど、それにしても、妙な疲れ方だった。体が重いわけではない。頭痛がするわけでもない。ただ、何となく、頭の中に薄い霧がかかったような感覚が残っていた。私は、軽く頭を振った。

 

……まあ、いいか。

 

きっと、疲れているのだろう。昨日はちゃんと寝たはずなのだけれど、最近は広報活動も増えているし、普段とは違う場所で大勢の人を相手にしたのだから、いつも以上に疲れたのかもしれない。

 

それに、教授の話は難しかった。ほぼ覚えていないが、普段の仕事ではあまり考えないような話ばかりだった。途中から、つい眠くなってしまったのだろう。

 

……うん。きっと、そうだ。

 

私は自分に言い聞かせるようにうなずき、廊下を歩き始めた。

 

早く交番に戻らなければ。まだ仕事が残っているし、軽井沢巡査にも一言言ってやらなければならない。まったく、あの猫は。

 

そんな、いつも通りのことを考えながら、私は大学の出口へ向かった。背後の研究室では、今も心地よい甘い香りが漂っているのだろう。けれど、そのことを気に留めることもなく。

 

私は、いつものさくら交番へ帰っていった。








軽井沢潤の好感度50未満で…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

理想のラスボス系うすほそになったので、完璧を求めて暗躍していたら悪が蹂躙されていた(作者:ほそラス)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

ラスボス系ヒロインが好きなオタクが、ある時理想のラスボス系うすほそになった。▼ただ見た目は理想でも、中身はまだまだ完璧じゃないし、本人はアホだ。▼結果、ラスボスっぽい力を求めて彼女は暗躍することとなった。▼しかしその過程で、助けた少女に心酔されたり、裏側に潜む闇を無自覚に暴くから世界はさぁ大変。▼そして等の本人は、周囲を気にせず仲間にはポンコツを晒しながら、…


総合評価:2709/評価:8.81/連載:4話/更新日時:2026年10月10日(土) 00:05 小説情報

おせいそうすほそ系TSヒーラーは、生きているだけで偉いと思う(作者:うすひら)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

TS転生者のクリスはおせいそうすほそヒーラーだ。▼冒険者としての実力は確かで、他にも色々と特技を持っている。▼しかし本人は冒険者らしいことをほとんどせず、ギルドでだらけたり教師をしたり、運び込まれた急患を治癒したりして過ごしていた。▼全ては彼女の信条が「生きているだけで偉い」の一言に尽きるがために。▼そんな彼女に性癖を破壊されたり、実力に惹かれるものは数しれ…


総合評価:10853/評価:8.78/連載:11話/更新日時:2026年09月26日(土) 18:15 小説情報

TS美少女は怪物を甲子園へ連れていきたい(作者:とほほ報)(オリジナル:現代/スポーツ)

 二度の人生を懸けても届かなかった才能を、なぜお前が持っている。▼ 前世では甲子園準決勝まで進んだ高校球児だった姫宮ほのか。右肘を壊して死んだのち、今度は女の子として生まれ変わった。▼ 今度こそ頂点を掴むと再びスポーツへ挑むも、立ちはだかったのは女の筋力と体格の限界。二度目の夢を諦め、普通の女子高生になるはずだった。▼ あの日、デタラメな手投げで放たれたレー…


総合評価:3120/評価:8.97/連載:10話/更新日時:2026年10月15日(木) 18:36 小説情報

TS上位存在(作者:甘朔八夏)(オリジナル:現代/ノンジャンル)

「全部あなたのせいだ」▼「お前ら苦しみたいのか?俺みたいに」▼「消えろ!!あんたの事なんか認めない!!天使は悪じゃないといけないんだ!!!」▼「あなたに守られたからあなたを傷つけてしまったから、ぼくの人生はめちゃくちゃだ」▼「そんなにやさしく、『近づくな』って言わないでほしいな」▼「……私は1人じゃないといけないから(人間さんエッッッッロ…………)」


総合評価:3768/評価:8.77/短編:9話/更新日時:2026年07月03日(金) 14:51 小説情報

うわぁぁ!!! エルフだ!!??!(作者:葛城)(オリジナル:ファンタジー/日常)

例によって例のごとく、神様のミスで異世界TS転生しただけでなくエルフになった人の話▼なお、異世界ではエルフはお伽噺の住人扱いされるぐらいで、本当にエルフっていたんだって超驚かれる存在である▼※セルフレイティングは、いちおう念のため


総合評価:4433/評価:8.27/連載:14話/更新日時:2026年08月19日(水) 17:01 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>